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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第五十八話 祭りの前その十一

「世の中じゃ中々なのよ」
「出来てる人がいないんだ」
「そういうものなのよ」
「だからまずは、なんだ」
「そのことが評価高いのよ」
「まあ僕もね」
 親父のそのことには感謝している、暴力を振るわず借金もなくて幾ら遊んでも家にお金を入れて育児もしていることは。
「人として普通のことはしてると思うよ」
「育児放棄もしなくて」
「それは絶対にしないね」
 別々に暮らしていてもだ。
「今もお金入れてくれるしね」
「大家さんとしてお給料振り込んでくれてても」
「うん、それでもね」
 実際にとだ、僕は答えた。そしてだった。
 その話をしつつだ、僕は詩織さんが座っている二人用の席を見た。すると詩織さんはこう僕に言って来た。
「座る?」
「座っていいの?」
「いいわよ」
 僕に微笑んで言って来た。
「別にね」
「そうなんだ」
「だって立ったままじゃ疲れるでしょ」 
 だからだというのだ。
「座ったら?」
「それじゃあね」
「お茶もあるから」
「お茶何処にあるの?」
「ここにね」
 言いながら出して来たのはだ、白い陶器のお皿とティーカップだった。そしてお茶が入ったやはり白い陶器のポットだった。
「あるわよ」
「紅茶なんだ」
「ストレートティーよ、お砂糖は入ってないから」
「お砂糖を入れたいなら」
「うん、自分で入れてね」
「飲んだらいいね」
「まあお砂糖はいいかな」
 お砂糖についてはだ、僕は少し考えてから答えた。席に座ってから。
「別にね」
「ノンシュガーでいくのね」
「下手にお砂糖入れるとかえって喉が渇くから」
 糖分のせいでだ。
「だからね」
「それでなのね」
「そう、今はね」
「ノンシュガーね」
「それでいくよ」
「じゃあどうぞ」
 そのお茶をだ、詩織さんは僕に差し出してくれたそのカップの中に注いでくれた。紅のルビーを溶かした様なお茶から湯気が出ていた。
 そのお茶を見てだ、僕はまた言った。
「夏の紅茶っていうと」
「アイスよね」
「大抵はね。けれどね」
「そうでしょ、アイスティーはね」
「他の国じゃそうそう飲まないんだよね」
「他の国から留学生の人達が言ってるわね」
「うん、日本人は冷たい飲みものをやたら飲むってね」
 中国人の水蓮さんにも言われたし他の国の人達からも言われた。僕達にとっては普通でも他の国ではというのだ。
「言ってるね」
「そうよね」
「それでもなんだ」
「うん、今はね」
 詩織さんはそのホットティーを飲みながら僕に話した。
「こっちを飲んでるの」
「気分で?」
「私も最近紅茶はアイスティーばかりだけれど」
 それだけを飲んでいたというのだ。 
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