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ウイングマン バルーンプラス編

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5 休息

1.
ガラッ!
いきなり風呂場の引き戸が開いた。
桃子、アオイ、美紅は完全に虚を突かれた。
というか、3人とも今、どういうことか起きているか理解ができていなかった。
夢うつつというか、湯船に浸かって何も考えずにボーっとしていたタイミングだったのだ。
確かに桃子の家には誰もいなかったはずだ。
だからこそ、風呂場で気兼ねなくのんびりと時間を過ごしていたのだ。
ぼーっとし過ぎて、どのくらい時間が経ったのはわからなかった。

開いた扉の向こうに立っていたのは桃子の兄だった。
風呂に入るつもりで扉を開けたのだから桃子の兄も当然、無防備だ。
素っ裸だ。タオルも持っていない。完全に手ぶら状態だった。
「ゲッ!」
驚いたのは桃子の兄の方だった。
虚を突かれたのは兄の方だったかもしれない。
先客がいるなんて考えてもみなかった。
脱衣所には着替えも何も用意されていなかった。
それに、3人が無言でぼーっとしていたがために脱衣所からはその存在感が完全に消えていたのだ。
誰もいないかのように感じたのも当然だった。
「なんで桃子!?」
いきなりの裸の妹に困惑して、思わず声を出してしまった。
しかも、桃子だけでなく、他になかなかかわいい女の子が2人もいるのだ。
自分の恥部を隠すことも忘れ、完全にパニクってしまっていた。
本来なら悲鳴を上げてもおかしくないはずの3人は、完全に気が抜けて、今、何がおこっているのか認識できず、ぼーっとしたままだった。
少しの沈黙があったのち――
「お、お兄ちゃん……?」
桃子は驚いているというより不思議だという感じの声を出した。
無防備な兄の格好もちゃんと認識ができない。完全に腑抜け状態だ。
美紅もアオイも完全に状況を理解していない。
「ハハハ、まさかお前が先に入ってるとは気づかなかったなぁ。友だちも一緒かぁ~ゆっくりしてくださいね~ハハハ」
兄は今、どういうことをするのが正解なのかわからなかった。
しかし、この場から逃げるのが一番だと本能的に感じていた。
ひきつり笑いを浮かべながら後ずさりをしてすぐに扉を閉めた。
バタン。
その音で3人は今、何が起こったのを認識した。
一瞬沈黙があった後に、そこでようやく3人は悲鳴を上げた。
「きゃあああああああああっ!!?」
兄は慌てて、服を着替えるのもそこそこに、慌てて脱衣所を飛び出した。


この展開をアオイはまったく予想していなかった。
桃子に兄がいるなんて知らなかったし、まさか風呂場に入ってくるなんて想定していなかった。しかも、桃子の兄はアオイにとっても同世代だ。
まさか同世代の人間に入浴シーンを生で見られるなんて……
こんなことは初めてだった。健太に裸を見られたことはあるが年下だ。おじさんたちにも見られたことがあるが、年代が離れすぎて現実感がない。
しかし、同世代ともなれば話は別だ。戸惑いと共に、とても恥ずかしさがにじみ出てきた。
そして、手遅れではあったが反射的にお湯の中に体を沈めて手で胸と股間を隠した。

美紅の悲鳴はアオイのそれとは違った。
恥ずかしさの前に混乱をしていたのだ。
その混乱を引き起こしたのは今日の戦いの疲労と、桃子の兄のイチモツを見てしまったという衝撃だった。
美紅には男兄弟がいない。それに元来の控えめな性格から、男性に対しては気後れするところが少なからずあった。
今でこそ健太と近しい関係にはなっているが、他の男性に対してはまだ距離を持って接している部分も少なくなかった。当然、男性の性器に対しても免疫は持っていなかった。
美紅は顔を真っ赤にして口元まで湯船につけて身を隠した。

桃子は、兄に裸を見られること自体はさほど気にしてはいなかった。
ただ2人の手前もあり、それなりに恥ずかしがってみせた。
「もう! お兄ちゃんったらエッチなんだから!」
そう言うとガバッと風呂桶から飛び出した
「私、着替えをとってくるから2人はゆっくりしてて」



2.
アオイ、美紅、桃子の3人は、桃子の部屋にいた。
アオイと美紅は桃子が自分の部屋から持ってきてくれた服に着替えて、桃子の部屋に静かに上がった。桃子の兄と顔を合わせるのは避けたかった。
桃子の服はアオイには少し小さかった。
借りたTシャツからはおへそが出てしまっている。下はジャージだったが、こちらも七分丈のように足元が見えていた。
美紅はちょうどいい大きさだった。身長は美紅の方が高いが胸は美紅の方が小さいのでその分余裕があった。

窓の外はもう暗くなっていた。
そのせいというわけでもなかったが、女の子3人が集っているのにお世辞にもかしましい雰囲気とは言えなかった。それどころか、暗いと言った方がいいかもしれない。

沈黙――

風呂に入って疲れはとれたものの、やはり、精神的に受けたダメージは強烈だった。
見知らぬ人ばかりとは言え、多くの人に裸を見られながら敵と戦った。
戦いに勝ったはいいが、戦いの後もギャラリーの目に晒され続けた。
美紅の機転と、アオイがポドリアルスペースを作ったおかげで、その状況からなんとか抜け出すことができたが、ポドリアルスペースが消滅する恐怖を感じながらの帰途。
さらには桃子の家でも、桃子の兄にイチモツを見せられ、裸を見られてしまった。
これだけエッチなハプニングがてんこ盛りで襲ってきたのだ。
とても話す気分になれなくても、それは仕方のないことだった。
沈黙の間に、3人の頭には今日の恥ずかしかった記憶が渦巻いていた。
そして、3人は思った。こんな戦いは2度としたくないと。

しかし、この戦いをやめるわけにはいかなかった。
自分たちの手に、地球の運命がかかっているのだから。

でも、問題があった。
「なんでいやらしいヤツばっかりなのよ!」
この重苦しい沈黙を破ったのはアオイだった。バッと立ち上がりそう言ったのだ。

あまりにいきなりすぎて一瞬、2人には何のことかわからなかった。
最初にピンときたのは桃子だった。
「ですよね~、コウモリプラス、スノープラス……まったく、どれだけ恥ずかしい目に遭ったか……」
桃子も今日の戦いのことを考えていたところだっただけに、すぐに同意した。
「なんとかしないと……」
桃子の発言に美紅も強く、ゆっくりとうなずいたがその顔は真っ赤だった。
そして、小さな声で呟いた。
「今日みたいな戦いはちょっと……」
その気持ちは3人とも一緒だった。
また今日のことを思い出して桃子も立ち上がった。
「そうだ! 対抗策を考えましょう!」



桃子の提案に、アオイも美紅も大賛成だ。
今まで重かった空気に光が差し込んできた。
すぐに美紅はその提案にアイデアを出した。
「例えば、裸にされても、大事な部分を隠してくれるガードシステムが発動するとか
……」
今日の戦いは、美紅としては耐えられないくらいに恥ずかしい戦いだった。
レオタード姿を男子に見られることすら嫌だったのだ。
それが人前で全裸を晒しながら戦うことを強いられた。
誰が悪いわけではないし、地球の平和のためなのだ。恥ずかしいなんて言ってられないのかもしれない。
けれど、やはり何とかしたいという思いは強かった。
「それいい!」
アオイもそのアイデアに乗っかった。
3次元人の生活に慣れて、アオイも完全に羞恥心は3次元人とシンクロしていた。
だからこそいやらしいプラス怪人の攻撃に腹を立てていたのだ。
しかし、そのことへの対抗策を考えたことすらなかったのだ。
「そうよね! 何もせずに敵のやりたいようにさせてるなんて、まったくバカげてるわ」
アオイは相槌を打った。
「はいっ!」
美紅も立ち上がった。
「私たちにはドリムノートがあるんだから、できますよね!」
アオイも強くうなづいた。
「もちろん!」



3.
これで厄介ごとから解放されると3人は喜んだ。
しかし、美紅ははたと気づいた。
「でも、ということは広野君に書いてもらうってことですよね……」
探りながらそう呟くと、3人は顔を見合わせた。
今日の戦いのことは健太は知らない。もちろん、3人はこんな恥ずかしい目にあったなんてことを健太には知られたくなかった。
しかし、健太を通じてドリムノーㇳにこのガードシステムを追加してもらうには、今日の戦いを話す必要が出てくる可能性が頭をよぎった。
「どうしよう……」
不安な表情になって3人は顔を見合わせた。
それを避けたいという思いは共通だった。
しかし、このままではいけない。
もしかしたら次の敵との戦いで、また今日の二の舞になってしまうかもしれないのだ。
「健坊には知られないように、ドリムノーㇳを書き加えるしかないわね」
アオイは立ち上がって宣言した。拳をギュっと握りしめていた。



「でも、どうやって?」
そこが問題だ。桃子は単純な疑問を口にした。
ドリムノーㇳは基本的に健太が肌身離さず持っているのだ。
それはアオイが一番よく知っていた。
ということは……
「何か策があるんですね?」
美紅はアオイに聞いた。
「まあ、私が貸してって言えば貸してはくれると思うけど……」
その言葉に美紅と桃子は一瞬固まった。
確かにそうかもしれないが、それでいいのだろうか?
アオイは空を仰いだ。
「でも、何をどう描くかってことが一番の問題よねえ」
その発言の意図は美紅も桃子もわからなかった。
「どういうことですか?」
アオイは少しはにかんだ笑いを見せた。
「いや、別に案があるわけじゃないけど、そのガードシステムをどんなものにするかも考えないとダメでしょ」
その通りだ。
健太にばれずにドリムノートに書き込む作戦を考えたところで、描く内容が決まっていなければ、当然だが描くことはできないのだ。
ということで、3人それぞれでガ―ディングシステムを考えることにした。

とにかく人前で全裸を晒されることを避ける。
これはマストだ。しかし、それさえ適えていれば、このアイテムは用をなしている。
つまり、全裸になった時に大事な部分を隠してくれるアイテムだ。
最初は各自でそんなアイテムをデザインしてみることにした。
桃子は机に向かいながら、アオイはベッドに寝転びながら、美紅はそのベッドを机にしてデザインを考えた。

しばらくして、3人はそれぞれにデザインを完成させた。
桃子とアオイは満足げな表情を浮かべたが、美紅は自信がなかった。
美紅は美術が苦手だったのだ。
「せーので見せっこね!」
アオイの美紅の気も知らないでマイペースに提案をした。
「え~っ!?」
その提案に美紅は困った表情を見せた。
美紅としてはデザインを描くには描いてはたが、2人に見せるつもりはなかった。
誰かいいデザインをしてくれた人のアイデアに乗っかろうと思っていたのだ。
「見~せ~て!」
慌ててスケッチブックを隠そうとしたが、アオイがすかさず奪いとった。
無理やり取り上げたデザインを桃子と一緒に見たアオイは美紅のデザインに驚いた。
というより意表を突かれた、ちょっと笑いそうになっていた。
正直言えば、美紅の絵は稚拙だった。
勉強の成績は良かったし見かけや性格によらず運動神経も抜群だった美紅をアオイは何でも優秀にできると思っていたのだった。
桃子は美紅が絵が不得手なことを知っていたので、少し目を伏せた。
「でも、これはダメね」
美紅の絵は自分の衣装と変わらないようなデザインだった。
絵の出来不出来はおいておいて、簡単に却下されてしまった。
「美紅ちゃん、それはダメだよ、だって私のコスチュームより大きい服になるのは無理があるじゃん」
その通りだった。
美紅自身の衣装ならいいかもしれない。しかし、桃子のコスチュームでもそうだったが、アオイの場合は完全におかしい。つじつまが合わない。

その一方で桃子のデザインは大胆ではあったが、かなり上手に描かれていた。
桃子が描いた絵は下着とヌーブラの中間のようなイラストだった。
「え? それはちょっと……」
美紅にはそのデザインの衣装を着るのはちょっとためらわれた。
しかし、アオイは違った。
そのデザインをかなり気に入った。
「いいよ! 桃子ちゃん、このデザイン、私、気に入っちゃったな」
そう言って桃子のデザイン画を手にした。
「ちょっと大胆かな、とは思ったんだけど……」
アオイに褒められて、桃子は照れ臭そうに頭を掻いた。
「これなら大事なところは隠せるし、動きやすいと思うの」
ノリノリの2人の姿を見ると、美紅には反対意見を出すことができなかった。
確かに恥ずかしい恰好ではあったが、全裸で戦うよりは全然マシだ。そのことに関しては美紅も異論はなかった。

「よし! デザインはこれで決定!!」
美紅から反対意見も出てこなかったので、アオイはそう宣言した。
そして、桃子のアイデアに強引にノリで決めたことで、美紅へのフォローも忘れなかった。
「美紅ちゃんのアイデアだったら衣装と変わらないから、同じ効力で消滅されちゃうかもしれないじゃない?」
確かにアオイの言う通り、視点を変えないとセーフティーネットにはなりえない。
「そうですね……」
渋々というわけではないが、恥ずかしながら美紅も同意した。
「じゃあ、私が借りてくるから」
そして、この日は解散となった。
散々な一日だったが、3人はこれからの戦いに新たな希望を見出すことができた。





 
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