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パニ

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第一章

                 パニ 
 ロシアは寒い、このことは世界の誰もが知っていることだ。
 特に北極圏の寒さは格別だ、だがその北極圏にも人は住んでいる。
 しかしそこに好んで行く人は少ない、それはロシア海軍大尉であるミハエル=フルシコフにしても同じである。
 ヤマロネネツ自治管区への転勤を命じられてた、彼は上司に思わず言った。
「あんな寒いところにですか」
「嫌か」
「はい」
 正直に言うのだった。
「実際に」
「顔に出ているな」
「ここも確かに寒いです」
 彼は今はサンクトペテルブルグの軍港において船に乗っている、この街にしても北極圏にありかなりの寒さだ。
 しかしだ、その自治管区はというのだ。
「ここ以上ですね」
「君の転属先はな」
「北極海ですから」
「言うなら北極海の監視だよ」
 それが彼の新しい任務だというのだ。
「レーダーやソナーの観測所にいてな」
「北極海に面したですね」
「そうだよ、ではわかったね」
「はい」
 項垂れながらも答えた彼だった。
「それでは」
「確かに寒いが施設の中は暖房が充実している」
 上司はこのことは保障した。
「そして食べるものも安定して供給されていてだ」
「ウォッカもですね」
「好きなだけ飲める」
 ロシア人の命であるこれもというのだ。
「そして基本的に暇だ」
「ただレーダーやソナーを見るだけですか」
「それだけだよ」
 基本的にというのだ。
「言うなら灯台守だ」
「ただ見ているだけですか」
「ロシア以外の軍艦や航空機が通ったら報告する」
「本当にそれだけですね」
「暖かい部屋でウォッカを飲んで過ごしてい給え」
 実際にこう言った上司だった。
「それだけだ」
「そうですか」
「ではな」
「はい、それでは」
 フルシコフも頷いてだ、そしてだった。
 彼はそのヤマロネネツ自治管区の基地、レーダーやソナーのある観測所に入った。そこに入るとだった。
 確かに暇でだ、通る軍艦や航空機も殆どなく。
 彼は日々ウォッカを飲み暖かい部屋で過ごしていた、そして基地にいる同僚や下士官、兵士達とのどかな時間を過ごしていた。
「こんな場所もあるんだな」
「はい、そうなんですよ」
 徴兵されてこの観測所に来たイワン=ボロゾフスキー二等兵が応える。今実際に二人でウォッカを飲んでいる。1
「大尉は軍港におられたんですよね」
「船にな」
 こうボロゾフスキーに答える。
「あの時は実際に今よりも忙しかった」
「そうらしいですね、艦船勤務は」
「海軍だからな」
 このことから言うフルシコフだった。
「やっぱりな」
「そっちになると忙しいですね」
「ああ、本当にね」
「俺は新兵の教育が終わってです」
「すぐにここか」
「そうなりましたから」
「艦船のことは知らないか」
 その青い目でボロゾフスキーを見つつだ、フルシコフは言った。フルシコフは青い目で薄いブロンドの髪で長身かつ逞しい身体をしているがボロゾフスキーはその彼よりさらに大きい。巨人の様だがその顔はあどけなく黒い目は素朴で黒髪は短い。 
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