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2部分:第二章
第二章
表が出た。
十円玉が机の上に落ちる。出たのは表だった。
「よし」
卓也はそれを見て頷く。表ならば行くのは。
「合気道か」
実は彼は助っ人を頼まれていたのだ。彼は空手部にいて柔道も黒帯だ。その為何かあると助っ人を頼まれるのだ。今回は合気道部と剣道部の両方から助っ人を頼まれていた。しかしその試合は同じ日だったのだ。それでどちらにするか迷っていたのである。
「よし。それなら」
何はともあれ合気道部への助っ人に決まった。後は携帯で連絡を取って正式に決める。後は試合の日まで練習をするだけだった。そうしてその試合の日になった。
場所は卓也の学校の道場だ。合気道部の面々と一緒に道着に着替えて試合前の打ち合わせをしている。ところがここで。
「あれ、今日は試合じゃないのか」
「試合っておい」
合気道部員の一人が呆れた顔で彼に言ってきた。
「合気道だぜ」
「ああ」
それはわかっている。受ける時にもうそれを聞いていたのだ。
「それで何で練習なんだよ」
「あれ、でも相手を投げるんだよな」
実は合気道の練習はしていても肝心のルールはあまりどころか全然調べていなかったのだ。柔道と同じようなものだと考えていたのだ。
「それはそうだけれど」
「組み合うんじゃないぞ」
「そうなのか」
はじめてそれを聞いて目を丸くさせる卓也であった。そのうえであらためて自分の格好を見る。上着は白で下は黒い袴だ。少なくとも空手や柔道とは全く格好が違う。
「型なんだよ、合気道は」
「型か」
「そうだよ。絶対にこっちからは仕掛けないんだ」
それこそが合気道である。かなり独特なものなのだ。
「仕掛けるのはあれだよ。韓国のハプキドー」
「ハプキドー!?ああ、ブルース=リーの映画で出て来たあれか」
これについては卓也も知っている。といっても名前だけだが。
「そう、あれとはまた違うから」
「そうか」
「おい、大丈夫なのか!?」
「本当に相手を自分から投げるなよ」
「わかったよ」
部員達の言葉に頷いて応える。しかし目がいささか泳いでいる。
「それじゃあ。ただ型だけだな」
「型はわかるよな」
「それはな」
知らない筈がない。それは空手でも柔道でもあるからだ。
「まあ任せてくれよ」
「というか任せるしかないしな」
「こっちも頼み込んだ側だしな」
それも無理を言ってた。彼等も必死だったのだ。
「まあ宜しく頼むな」
「わかってるさ。じゃあ」
こうして型に入る。しかし実際にやってみるとどうしても仕掛けたくなる。それでうずうずして仕方がなかったのだ。
「ああ、困った」
やっているうちにそれを我慢できなくなる。
「何かこっちから仕掛けて投げたくなるぜ」
「止めろよ」
しかしそれは周りに止められるのだった。
「そんなことされたら洒落にならないからな」
「頼むぞ」
「わかってるって。しかし」
それでも我慢できない。それでも何とか堪えながら型が終わるのを待っていた。そうしてやっとといった感じで終わる。終わって彼が最初にしたことは。
「ちょっと行って来る」
「何処に行くんだ?」
「柔道部の部室だよ」
彼が行くのはそこであった。
「そこでな。ちょっと」
「投げるのか?」
「ああ、練習台でな」
せめてそれで仕掛けて投げずにはいられなかったのだ。そうしないと欲求不満で爆発しそうだったのだ。これが彼の性分であった。
「投げなくってくる」
「合気道は性に合わないか」
「どうにもな」
首を捻って部員達に答える。
「やっぱり俺は投げまくる方がな」
「そうか。何か悪かったな」
「ああ、いいよ」
申し訳なさそうにする彼等に対して彼もバツの悪い顔になる。
「それはな。気にするなよ」
「そうか」
そんな話をするがそれでもバツが悪いのは変わらない。どうにも最後まで今一つ乗れず消化不良な感じが残ってしまうのであった。
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