破壊ノ魔王
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一章
3
ゼロ。大犯罪者であり、魔王と呼ばれる男
悪魔のティナの所有者であり、1億をはるかに超える賞金首
「で。俺は簡単にお前を潰せるわけだけど……どうする?」
「ひ、ひぃ……!」
ゼロは口の端をつり上げて笑う
彼の目は笑わない。ただ、口もとだけが歪む
「こ、ころさ、ないで……」
「あぁ、構わねぇよ?お前ごときの命なんざ何にもならねぇ」
辺りは静かだ。ゼロであることを知っても、ここに恐ろしい大罪人がいるとわかっていても、誰も動けない。悪魔への恐怖のためだ
「条件がある」
「は、は……はい?」
ゼロは怯える男に近づき、小さな声で条件を提示した
男は目をかっと開き、それからおどおどと頷いた
「交渉成立だ」
ゼロの手に闇が帯びる。黒と紫、それから赤を従えたまがまがしい色合いの闇だ。それは一瞬で男を覆い、闇が消えたとき男はピクリとも動かず、そのまま地面に突っ伏した
勝敗は静かに決した。巨大な岩も、荒々しい地割れも、なにも、何も関することなく
「……さて」
ゼロはコートをなびかせ振り向く。背の翼はいつの間にか消え、手首辺りからだろうか。硬化した爪はコキコキと小気味よく音をならして近づく。
向かう先はひとつ。役人の固まるところだ
「う、わわわ !」
「くるな!」
役人たちはバラバラと逃げようとするが、逃げられる前にゼロはひとりの男を取り押さえた。
役人のリーダー。店の客に悪態と暴力をし続けた男だ
「ひぃ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「キィキィ鳴くな、カス。その舌引っこ抜くぞ 」
ゼロは役人を見下ろし、首にその爪を当てる。刺さるか刺さらないかの瀬戸際。
「ご、、ごぺんなざい……どうが、許じで……」
「あ?もうそれかよ。醜い野郎だ」
「は、ばい……おがねなら、払いますから……いくらでも……だがら……どうが……」
「クク……ふざけんなよ」
ゼロの爪が動いた。人差し指だけ素早く動いたと思ったら、役人の首から血が弾けとんだ
「あ"ぁぁぁ!!!ぎゃああああああああ!!!」
指先は首の脈打つところに穴をあけ、そこから噴水のように血がふきだす。役人は痛みと恐怖から手で抑えたまま地面を転げ回った。ゼロはそれを静かに見下ろす
「動脈に穴をあけた。まだ、医者に輸血してもらえば助かる。まぁ、この町にそれをしてくれる奴がいるかはわからないけどな」
「は、は、はぁ!??」
「こうでもならねえと行動の代償がわからねぇだろ?」
ゼロはせせら笑った。それを見て、死ぬ間際の役人は大声で意味のわからない悪態をつき、叫び、許しを請うた。ゼロはそれを見下ろすだけ
「何をわめこうが、俺には力も、金も、権力も通用しない。言っただろ?VIPだって。無駄な命だったな、役人さんよ」
泣いて暴れて、それゆえに役人の死は早まり、青白い顔を涙で濡らしたまま、ゆっくりと息絶えた。ゼロはそれを確認し、タバコを吸いながら、今度は町人の方へ歩いた
「お、お客さん……が、あの、ゼロ……?」
町人が走り去るなかで、店主は逃げたりはしなかった。ただ、できなかったのかもしれないが……震え怯えながらも言葉を発した
「悪かったな、黙ってて。あんまり名乗れる名前じゃねぇからよ」
ゼロは鋭い目を空へ向け、暗い夜をぼんやりと眺めた。
「あの役人は最後までお前らに助けてくれ、とは言わなかったな」
「……あの人らしいよ」
ゼロは揺れる煙を見ながら、風を感じる。そろそろ、発たねばならない。町人か役人の警備兵かが、軍にコンタクトをとるに決まっている。ゼロはため息をついた
「……あの役人は俺の目からみてもクソ野郎だと思う。まぁでも、残念なことにあいつの後任も似たようなやつの可能性が高い。何も良いところがない辺境地に役に立つ人材を仕向けるわけがねぇからな」
「……」
「過去と同じことになるか、ならないかはあんたら次第だが……どうする?」
「どうもこうも……なるようになるさ。役人には逆らえない。我慢して生きていくしかないのさ」
ゼロはクククと笑い、懐から名刺を差し出した。銀色の、飾り気のない一枚の名刺を
「そうだろうな。お前らはそうして苦しみ悶えながら働くだけで一生を終える。そのままだったらな」
「……これは?」
「あるやつの連絡先。そいつははっきり言って黒だ。闇のなかの住人。だから白のままじゃ得られないものをくれる」
店主は連絡先のみが書かれた名刺をまじまじと見つめた。これはあくまのささやき。おそらく、ここに連絡したときから悪になるのだろう
「選べ。白のまま、ただ働いて長く生きる奴隷の人生か。黒になり、リスクを伴いながらも人として早死にする人生か。自分で決めろ」
ゼロは振り向き、その背に悪魔の翼を宿す。月の明かりを受けてなお、その色は黒。黒くかがやくだけだ
「この人に連絡したら……どうなるんだ?具体的に……」
「自由と金は約束されるだろうよ。降りかかるのは破滅のリスク……まぁそいつ、わがままは許さないが聞き分けがねぇやつじゃねぇから。望みを叶える……いや、叶えさせるやつだよ」
「……」
「決めるのはお前だ、店主。自由にすればいいさ」
そう言ってゼロは飛び立った。
後には変わり果てた姿の役人の遺体と座り込んだ店主。彼のいた形跡はかけらもないが、確かに希望と絶望をおいていった
悪魔であり、魔王であり、魔帝
彼の二つ名はどれも魔を表すもの。店主は黙って紙を握りつぶした。
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