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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第五十四話 夜の出来事その十三

「ですから気をつけています」
「そうですか、吸血鬼は九州にもいるんですね」
「と、いいますと」
「いえ、東北にもそんな話がありまして」
「確か貴女は秋田の方でしたね」
「そうです、雪女がそうしたことをするとも言われています」
「雪女がですか」
 雪女が吸血鬼と聞いてだ、裕子さんは意外といった顔になった。そしてそれは僕達話を聞いていた皆もだった。
「人の血を吸うのですか」
「そんな話もあります」
「そうなんですね」
「あくまでそうした話もあるだけですけれど」
「雪女が吸血鬼ですか」
「そうです」
 こう僕達に話してくれた。
「そうしたお話は少ないですが」
「雪女が」
「それは初耳だったな、私も」
 井上さんも意外といった顔だった。
「雪女もか」
「東北でそんなお話も」
「雪女は雪の妖怪でだ」
「人を凍らせたりですね」
「そうした話は聞いて知っているがな」 
 僕も知っている、小泉八雲の小説でもだ。
「しかしだ」
「血を吸うお話は」
「そんなことがあるのだな」
「殆どの地域ではそうでないですけれど」
「そうか、覚えておく」
 井上さんはここまで聞いて言った。
「吸血鬼には気をつけないとな」
「井上さんひょっとして吸血鬼を」
「実在すると思っている」
 僕の問いにはっきりと答えた。
「この世にな」
「やっぱりそうですか」
「人がそうなった場合も含めてな」
「それでそこまで詳しいんですね」
「神聖ローマ皇帝への報告書はかなり信憑性がある」
「軍人さん達の報告だからですか」
「戦果の過大報告ならともかくだ」
 自分の功績を宣伝する為にだ。
「こうしたことでの虚報はまずない」
「吸血鬼がいたっていう調査報告は。
「自分の責任にはならない」
 最初から決まっていることだというのだ。
「ただの調査報告だからな」
「じゃあ余計に信憑性があるお話なんですね」
「軍人は、いや人間は自分に責任のない件について嘘は言わない」
「話を面白くさせたいのなら別ですよね」
「そうだ、しかしこの場合はな」
「そうしたケースじゃないですね」
 話を面白くさせる様なだ、このことは僕もわかった。
「確かに」
「皇帝からの命令、勅命だ」
「それで面白くさせる嘘を言えば」
「ばれたら後が怖いな」
「はい、確かに」
「そうした要素も考えてだ」
 それで、というのだ。
「私には嘘とは思えないのだ」
「吸血鬼は実在しますか」
「おそらくな、こう言うと科学的でないと否定されるが」
 それはともだ、井上さんは僕に話した。
「科学は万能か」
「そう言われますと」
「違うな」
「少なくとも今の時点の科学ですよね」
「科学は進化中の学問だ、つまり未熟でだ」
「わかっていることは全てじゃないですね」
「この世のことでもな。だからな」
 それで、というのだ。
「科学で全てを語れるとは思わないことだ」
「だから科学で吸血鬼が否定されていても」
「それで断定出来るものではない」
 到底、という口調での返事だった。
「吸血鬼についてもな」
「何か吸血鬼は」
 ここで言って来たのは美沙さんだった。 
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