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Re;FAIRY TAIL 星と影と……

作者:天根
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原作開始前
  EP.4 模擬戦 VS 妖精の尻尾


 ワタル達が妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加入した翌日の朝。
 場所はギルド前、ワタルは屈伸をしながらグレイと相対していた。
 昨日約束した通り、今日はグレイと模擬戦を行う日。周りにはギルドの面々が立っており、双方に野次を飛ばしていた。

 ワタルの耳に入ってきた中では勝敗の結果を対象とした賭け事も行われているようだが、それが酒の一杯や昼食代程度の金額でも金を賭ければ盛り上がるというのが健常な集団というもの。彼はさほど気にしていなかった。

「エルザ以外と戦うのは久しぶりだな……」

 肩を回して関節をほぐしているワタルに対して、あからさまな敵意を向ける者は昨日と比べればめっきり減っていた。
 もとより星族がフィオーレ王国内で活動していた訳でもないために家族や知り合いを殺されたものがいる訳でもなく、ギルドの大人たちがワタルに向けていた視線は嫌悪というより警戒のそれだった。
 ギルドの仲間は家族であるという強固な絆で結ばれている彼らは親であるマカロフの言葉を疑わず、ワタルに対する警戒を解いたという訳だ。

 信用は自分で勝ち取ると決意したばかりだというのに、なんだかなあ、と思いながら、野次の中に聞き慣れた声が混じっていることに気が付いたワタルはそちらに目をやる。

「負けるなワタル、そんな変態伸してしまえ!」
「変態言うな! ったく、あいつお前の連れだろ? 何とかしてくれよ」
「……服脱ぐ癖治した方がいいと思うぞ、俺も」

 軽口を叩き、ガクッと凹むグレイを見ながら、ワタルは準備運動を終え、軽く頭を振って緩んだ思考を引き締めた。

「(エルザ(あいつ)が見てるんだ。格好悪いところを見せる訳にはいかないな)」
「よし、じゃあ始めるぞ、新人!」
「いつでも」
「両者とも準備はよいな? では……始めぃ!」

 グレイも立ち直ったようで、審判であるマカロフの号令とほぼ同時に腕を水平に上げて、上に向けた掌に拳を当てて魔力を練り上げた。
 その魔力を感じ取ったワタルは、いつ走り出してもいいように足に魔力を集中させる。

「(来るか……前方、数4!)」
「まずは小手調べ……アイスメイク――“槍騎兵(ランス)”!」

 迫りくる氷の槍。数は予想通り4。軌道も想定の範囲内。ならば恐れる必要はない。
 ワタルは足に集めた魔力を爆発させて一気に駆け出して、最小限に身体を捻って躱す。

「速い!?」
「『新人』じゃない……」

 氷の槍の間をすり抜けるように駆け抜けたワタルはグレイの顔めがけ、拳を勢いよく繰り出す。

「『ワタル』、だ!」
「グッ……!」

 挨拶代わりの拳をグレイは手で防御したが、スピードの乗った拳の衝撃を完全には殺せず、少し後ろに飛ばされることになった。
 たたらを踏んで少し痺れる腕を我慢しながら、グレイは賞賛を口にする。

「く……やるじゃん、新人……いや、ワタル!」
「今のは挨拶代わりだ。今度はこっちから行くぞ!」
「ハッ、来いよ!」

 口角を上げて挑発するグレイに、ワタルは換装空間から鎖鎌を出すと片方を投げる。

「フンッ、行け!」
「武器か……なら、アイスメイク“(シールド)”!」

 それに対してグレイは氷の盾を生成し、防御。鎌を阻んだ。
 鎖を魔力で操作する暇も無く現れた盾。その生成スピードに内心舌を巻きつつ、ワタルは鎖鎌から忍者刀に換装すると氷の盾の前まで走った。

 そして次の瞬間、忍者刀の効果で上がった身体能力に任せて力強く地を蹴り、跳ぶ。

「な、どこに……!?」

 グレイには盾にぶつからんばかりの勢いで迫ってきたワタルが突然消えたように見え、驚いて周りを見る。

「(右、いない! 左もいない! なら……)上か!? アイスメイ――ぐあっ!」
「いい反応だが、遅い!」

 ワタルが氷の盾の上を跳んだ事に気付いたグレイ。
 魔法を使おうとしたが少し遅く、ワタルの踵落としが肩に入って怯んでしまった。

「まだだ!」

 膝を折って着地の衝撃を殺したワタルはその隙を見逃さず、立ち上がる勢いでグレイの腹を足の裏で蹴って吹き飛ばす。

「ぐ……なかなかやるな」
「いやいや。造形魔導士と()ったのは初めてだが、なかなか素速いじゃないか」
「ハッ、そりゃどうも……それと『お前』じゃない。『グレイ』だ」
「……そうだな、グレイ」

 少しよろめきながらも不敵な笑みのグレイ。対するワタルも、そうでなくてはと思わず好戦的な笑みを浮かべる。
 そして、さきほどと似たような掛け合いに、両者ともその笑みを深めた。

 そして……

「ハァアアアアアアアア!!」
「シッ!」

 グレイは叫び、ワタルは短く息を吐きながら……合図をした訳では無いが同時に地を駆け、拳を合わせて互いの魔力をぶつけあった。






「(いつまで手を抜いているつもりなんだ、ワタルは……)」

 一方、観客席のエルザは不満を抱いていた。
 何度かワタルと模擬戦をしていたエルザは、グレイと殴り合いを演じている彼が本気でない事に、とっくに気づいていたのだ。

「なかなかやるな、あの新人」
「ああ、グレイはウチの期待のルーキーだ。それと互角なら……」

 観客の真っただ中にいたエルザは、その声に反応し、苛立ちから声を張り上げた。

「互角なものか――こらワタル! いつまで手を抜いているつもりだ、本気でやれ!!」






 観衆から響いたエルザの声に、ワタルは頭を掻く。

「あーあ、ばれちゃった」
「お前、本気じゃなかったのか!?」

 当然グレイは、手を抜いて戦っていたというワタルに対して怒りの声を挙げた。
 それに対して、ワタルは拳をバキバキと鳴らしながら答える。

「本気じゃない、というよりはグレイの力を図っていた、というのが正確だな」
「俺の力?」

 未知の相手と戦う時、重要なのはより早く相手の情報を得る事だとワタルは考えている。
 それは相手の魔力の大きさや魔法の特徴、弱点だけではない。魔力のパターン、呼吸のリズム、視線はどこに向いているか、足の運び方に拳の握り方――そんな僅かな癖を見切る事で、相手の一歩先を行けるのだ、と。

「まあ、準備運動はこんなものでいいだろ。体も温まって来たし……ここからは本気、だ!」
「なに……ッ!?」

 瞬間、その場の空気がガラリと変わった。
 どこか遊びがあった視線は貪欲な猛禽が獲物に襲い掛かるようなものに、発する魔力は鋭く尖ったものをグレイと観衆に感じさせた。
 ギルダーツやマカロフのように山を思わせる圧力を感じている訳ではない。寧ろ、大きさは彼らに比べれば雲泥の差だ。
 だが、身体の芯に、心に、そして魂に刻み込む黒い刃(・・・)を幻視したグレイは背筋を凍りつかせた。

「(氷の魔導士が背筋を凍らせる? 何の冗談だそれは……!)」

 雰囲気に吞まれかけたグレイが少し息を吐き出したその刹那、ワタルは既にグレイの懐にいた。
 最初にやった時より多くの魔力を足に込め、その魔力を爆発させたかのように放出し、呼吸のリズムの虚をつくタイミングでグレイに迫ったのだ。

 ワタルに対し怒っていたグレイだったが、その速さに驚いても冷静さを失わなかった。
 ワタルの手に魔力が溜まっているのを感じ取ったグレイは直感的に次の攻撃を喰らったらアウトだと判断し、咄嗟に後ろに跳んびつつ拳を掌に叩きつけた。

「“槍騎兵(ランス)”!」

 十分な魔力を練り込む暇が無かったためか、生成されたのはたった一本の氷の槍。
 だが、その造形速度は今までで一番早いものだった。
 至近距離のワタルに外す事はあり得ないと、グレイは確信してそれを放った。






 自分のトップスピードに反応して後ろに跳び、カウンターの造形魔法すら放って見せたグレイに、ワタルは目を見開いた。

「(此処だ!)」

 それは驚愕でもあるが、半分以上は自分への気合だった。グレイが自分に反応して見せたなら、自分はさらに先へ行くのだと奮い立たせるものだ。

 短く息を吐いて一歩踏み込み、極限に高まった集中力が一瞬を何倍にも引き伸ばす。

「(ここを踏み越えれば……!)」

 魔力感知能力が高いワタルは魔法が発動する直前に、魔導士の体内の魔力が高まるのを感知してその軌跡をある程度予測する事が出来る。
 今からワタルが行おうとしているのはその先だ。

 人体なら急所、建物なら大黒柱といったように構造的な弱点というものはどんなものにも存在する。それは魔法も同じ事。
 感知した魔法に込められた魔力をエーテルナノレベルで解析する事でその魔法の構造的な弱所を見切る事ができれば、“魂威”による魔力で干渉し、構造を崩す事で魔法解除(ディスペル)する事は理論上ではあるが可能だ。

「(俺はもっと先へ行ける!)」

 例えるなら、魔法として具現化されたエーテルナノ構造を積木のパズルに見立てて、一つだけ積木を抜き取る事で崩すというもの。より強い力で強引に崩す事に比べて少ない魔力で魔法を打ち消す事ができるのだが、当然デメリットも存在する。

 根本的な問題であるのだが、魔法の構造を解析する優れた感知能力と、その弱所を見切って魔力を流し込む――そんな事を放たれた魔法が着弾する前に行うなど、要求される精密さは針の穴を通すというレベルではない。
 少なくとも、初見の魔法にそれができると思えるほどワタルは傲慢ではないつもりだし、挑戦した事も無い。

「魔力パターンは見切った」

 だが、一度見た技なら話は別だ。
 今グレイが放ったのはこの勝負の最初に放った氷の槍と同じもので、ワタルはそれを既に感知して構造もある程度把握している。一段階目はスキップしているも同然だ。
 ならば、後は弱所を見切り、掌の魔力を撃ち込むのみ。

 この、ごく短い瞬間の攻防で、己の限界を乗り越える……!

「ここだ!!」

 前進スピードを緩めず、自分の魔力感を信じて、ワタルは真正面から槍の切っ先に魔力を込めた掌をぶつけた。

「な……!?」

 無謀ともいえるその行為に、ワタルの手に穴が開くとグレイも観衆も息を飲んだ。
 が、その予想を裏切って、槍はワタルの掌の皮を少し破っただけで、まるでガラスのように粉々になってしまった。片手の造形は不安定というが、グレイが行ったのは両手による造形。体に染み込むまで繰り返した師の教えを間違うはずがない。
 咄嗟とはいえ完璧に造った魔法が正面から破られ、グレイは驚愕を通り越して呆気にとられてしまった。

「“魂威(こんい)”!!」
「が、は……!?」

 その隙を見逃すワタルではない。
 魔法解除(ディスペル)した方とは逆の手で、魔力を直接放出させる“魂威”が鋭い音と共にグレイの腹に炸裂、そのまま腕を振り抜いた。
 苦悶の声と共に5mほど吹き飛んだグレイは手を地面に当ててもがいていたが、起き上がれずに仰向けになった。

「ぐ……イッテェ……。クソ、ホントに本気じゃなかったんだな」
「まあな……どうする? 続けるか?」
「……いや、やめとく。動けそうにない……参った、降参だ」
「勝者、ワタル!」

 苦しそうな呼吸のグレイが降参し、マカロフが声を張り上げると、観客は騒ぎ出す。
 期待のルーキーであったグレイが敗れた事に驚きを表す者、勝者ワタルに拍手で賞賛を送る者、賭けに勝ったことを喜んだり、逆に負けて落ち込む者――観客の反応は様々だった。

 エルザも観客から飛び出し、ワタルに向かって走る。

「流石だな。でも手抜きはないだろう、手抜きは」
「様子見と言え。――ホラよ、立てるか?」

 ワタルはエルザの言葉を受け流しながら、グレイの前まで歩いて手を差し出した。

「あ、ああ、サンキュ」

 グレイはその手を取り、ふらつきながらも立ち上がった。

「おいおい、大丈夫かよ……」
「やった本人がそれを言うか……?」
「それもそうか」

 ワタルが笑って言うと、グレイも少し笑って、好戦的に言った。

「ふー、お前強いな……でも覚えとけ、次は勝つ!」
「ああ、楽しみにしてる――とっ!?」
「なっ!?」

 ワタルはグレイと右手で握手したままで、感じた魔力と悪寒に左手を横にかざして“魂威”を撃ち……飛んできた雷撃(・・)を逸らした。
 感知できなかった二人は驚きの声を上げながら、ワタルと共に雷撃が飛んできた方向を睨む。
 威力的には大した事の無い電撃だったが、不意打ちされた事そのものが癇に障ったのだ。

「へえ、今のを防ぐか。本気じゃなかったっていうのは本当みたいだな」
「……まだグレイがここにいるのに攻撃を仕掛けたのは、不意打ちじゃないと攻撃を当てられないからか、先輩?」
「ほお……言うじゃねえか、新人が」

 観客から出てきたのは、ヘッドホンをした、金髪で右目に傷を持つ15,6歳と思われる少年だった。
 ワタルの挑発に対し笑ってはいるがとても友好的な笑みではない。だがそんな事はワタルにとって些事だった。
 他者を威圧し、誰よりも強くありたいと獣のように爛々とした目はワタルの背筋を緊張させると同時に、気付けば自然と口の端が上がり笑みが浮かんでいたのだ。

 この男は強い、と。

「ラクサス! 危ねえじゃねえか!」
「ラクサス……」
 
 グレイの怒鳴り声で、ワタルは少年の名を知り、そしてその少年、ラクサスが見下すように言い返す。
 
「避けられない方が悪いんだよ。……そうだ、ラクサス・ドレアー。それが俺の名だ、新人」
「知ってると思うけど一応……ワタル・ヤツボシ。で、その新人に何の用?」
「言わなくても分かると思うがな」
「連戦なんだが……」
「よく言う。口元が歪んでるぜ」

 ラクサスの指摘通り、ワタルは無意識に好戦的な笑みを顔に貼り付けていた。
 旅の中ではこんなに多くの魔導士に会う事などなく、しかも歳の近い魔導士で自分とそう変わらない力量を持っている者がいるなど、想像もしていなかったのだ。
 これで燃えなきゃ男じゃないと、ワタルは静かに高揚していた。

「……グレイ、エルザ、下がってろ」
「そうこなくちゃ」

 マカロフを見ると、辟易とした表情をしていた。
 それを見るまでも無く、ラクサスが戦闘狂(そういう奴)であることは大体分かっていたが……自分も似たようなものかとワタルは内心苦笑した。
 流石に誰彼かまわず勝負を吹っ掛けたりするほどではないが。

 ラクサスの挑戦を受けたワタルの言葉に、グレイが頷いて観客に紛れると、同時に観客も少し下がったのが分かった。

「(なるほど、それだけコイツの魔法の威力が凄まじいって事か)」

 さっきの電撃の威力は当てにならないな、とワタルは考えて、戦術の構築を始めたが……分からない事が多すぎたため、すぐに放棄。
 ぶっつけ本番でなんとかすることにした。

「おい、ジジィ! 審判頼むぞ!」
「ハア……分かった分かった。ワタル、すまんが頼むわい」
「了解……ほら、エルザも下がれ」
「あ、ああ……でも負けるなよ。あいつ強いぞ」
「ああ、分かってるよ」

 エルザの言葉に笑って返すと、彼女はグレイを追って観客の方に下がった。

「女の相手とは、ずいぶん余裕だな、新人」
「『ワタル』だ。名前、知ってるだろ? せ・ん・ぱ・い」
「フン……認めさせてみろ。話はそれからだ」
「はいはい……」

 ラクサスはヘッドホンを外し、ワタルは気を引き締め直す。
 闘気が充満し、誰かの飲んだ唾の音さえ明瞭に聞き取れるぐらいの沈黙が訪れる。
 そして……

「では……始めぃ!!」

 マカロフの号令が響き、ワタルは走りだした。






「ハアッ!」
「フンッ!」

 ワタルの拳をラクサスは掌で防御し、カウンターの要領で雷を纏った拳を繰り出す。
 ワタルは電撃を掌の“魂威”で相殺して受け止めると、そのままラクサスの拳を捕まえた。

「力比べか、面白ェ!」
「ぐ……」

 互いが互いの拳を思い切り握りしめると、ワタルは自分の拳が悲鳴を上げるのを感じ取った。

『力勝負は不利』

 その判断にそう時間は掛からず、ワタルはラクサスの腹に魔力を集中させた蹴りを入れて距離を取る。

「ガッ!」
「痛てて……なんて力だ、まったく」
「力には自信があるんでな……行くぞ!!」

 ワタルは拳に戦闘に支障はない程度だが痛みを感じ、ラクサスの力に驚いた。
 対してラクサスは、雷を体に纏いながら距離を詰め、ワタルの脇腹目掛けて蹴りを放つ。

「オラァ!!」
「ッ! “魂威”!」

 地を這うように屈んで蹴りを躱したワタルは掌に魔力を集中させると、全身の筋肉を発条のようにして起き上がる勢いも利用しながら、ラクサス目掛けて掌底を放つ。

「何!?」

 しかし、ワタルの“魂威”はラクサスが身体を雷に変えて回避したことで外れ、周囲に炸裂音のみを響かせる。

 だが、ワタルの優れた魔力探知能力は視界から消えたラクサスを逃していなかった。

「ッ、後ろ!」
「なっ!?」

 死角となった上から後頭部への膝蹴りを、身体を捻ることで紙一重で回避。
 雷を上乗せしたラクサスの膝蹴りの勢いは恐ろしく、かすめた前髪が何本か散っていく。

 死角からの一撃を避けられたラクサスは驚いたのか隙を見せ、そして――

「セイッ!」

 カウンターで左手の“魂威”を、振り向く回転を利用してラクサスの腹に当てた。

「グッ! ……見えてるってのか!?」
「逃がすかっ――そら、受け取れッ!」

 ほんの触れただけなのに身体に走った痛みと衝撃に顔を顰めて距離を取ったラクサスに対し、ワタルは巨大な手裏剣を出して投擲。
 手裏剣は激しく回転しながら、空を裂き弧を描いて後退するラクサスにせまる。

「テメエがなっ!」

 ラクサスはこれに反応、電撃で手裏剣を弾く。
 その上電撃の勢いは弱まらず、そのままワタルを襲った。

「何!? ぐあッ!」

 ワタルは、慌てて電撃を掌の“魂威”で防御しようとしたが、収束が足りずに完全には防御できず、後ろに吹き飛ばされる。

 空中で体勢を整え、何とか着地したワタルは今までの戦闘の感触から分析し、考えた。

「(パワーはやつの方が上。スピードも雷になれる以上、瞬間的な速さも負けてる。勝ってるのは……瞬発力ぐらい、か。……一発大きいのを当てるには小技が必要だな)」

 幸い手札はある。地力で負けているため長引けば負けは必至。勝つには短期決戦だろう。

 そう考えたワタルは換装空間から鎖鎌を取り出した。

「どうした、そんなもんか!?」
「……」

 ラクサスの挑発に応えることなく、ワタルは静かに振りかぶり、左の鎌を投げた。

「喰らうかよ!」

 雷を纏った拳で鎌を弾いたラクサスは再び距離を詰め、ワタルの左脇腹に再び中段蹴りを放つ。

 今度は躱さずに、ワタルは左腕を盾にして防いだ。

「ぐ、ぅ……」
「ふん……ッ!?」

 想像以上に重い蹴りを受けた左腕がミシリと軋み、ワタルは顔を苦悶に歪める。
 確かな手応えにラクサスは笑みを浮かべたが……直後に悪寒を感じ、勘に任せて飛び退いた。

「避けられたか……」

 その直後、今までラクサスが立っていた場所を背後から鎌が襲った。
 種は簡単。弾かれた鎌を右手の鎌の鎖で操って後ろから襲わせただけだ。

「それ、魔力でも操れるのか……だが、そんな小細工が通用するかよ!」
「……みたいだな。一発切の隠し芸みたいなもんだし」

 そう言ってワタルは鎌の鎖に魔力を通すと、ギルドマークを描いて見せる。

「だが本当に通用しないかどうか――試してみるか?」
「面白ェ……やって見せろ!」

 ワタルの挑発に乗ったラクサスは獰猛な笑みを浮かべた。

「じゃあ、お構いなく……っと!」

 ワタルの右手から放たれた鎌は複雑な軌道を描いてラクサスに襲いかかる。

「もう一つ!」

 左手からも一拍遅れて鎌が放たれ、ワタルは両手で鎖を後ろ手に持つことで鎌を操った。
 ラクサスはそれを二つとも……躱さなかった。

 鎌は2つともラクサスの左右にはずれたのだ。

「ハッ、どうした、外れた……ぞ……ッ!?」

 そこでワタルの方を見た瞬間、ラクサスはハッと気づき、背筋を凍らせた。
 鎌から延びる鎖が自分とワタルを囲む、一本道を型取っていることに……。

「遅い! “二掌魂威――」

 鎖を手放し姿勢を低くして、両手を地面スレスレに這わせながら一本道を一気に駆けるワタル。
 しかし……

「一歩足りなかったな!」

 虚を突かれながらもラクサスはこれに対処。制御もそこそこに全方位に雷を放った。両手がラクサスに届く直前、ワタルは雷に飲まれてしまう。
 ワタルを襲った電撃はラクサスが急いで出した分制御が甘く、余波で砂煙が辺りを覆った。

 先のグレイとの戦いで見せた魔法解除(ディスペル)もされた様子は無い。確実に決まったとラクサスは確信していた。

「!? いない、だと?」

 しかし、砂煙が晴れた時、電撃をまともに浴びて倒れている筈のワタルの姿は無かった。

 まさか電撃が強すぎて消し飛んだのか? いや、加減はできなかったがそんな威力ではなかった。ではなぜ……?

 困惑からラクサスの頭の中でめまぐるしく疑問が渦巻く。
 一歩分だけ背後に微かな足音が聞こえたのはそんな自問自答の最中だった。

「な」
「“双槍”!!」
「ガハアッ!!」

 優れた聴覚がワタルの微かな足音を広い反応する事は出来た。
 しかし対処できず、両掌によるワタル渾身の一撃を背中に受けてラクサスは派手に吹き飛んだ。

 電撃に飲み込まれたのは二つの鎌でラクサスの注意を逸らした際にワタルが魔力で生成した変わり身(ダミー)。実体は無く、身体の表面だけを空間に映し出す幻影魔法の一種だ。
 本物のワタルはラクサスが雷を打った瞬間に跳躍して頭上を飛び越え、魔力のみで造られた変わり身は雷で掻き消えていた。咄嗟に撃った強力な電撃の閃光でそれが見えなかったラクサスは背後に回ったワタルに気付く事ができず、不意を突かれた、という訳だ。

「いっつつ……。これで、どうだ?」

 ラクサスの様子を確認しようと、ワタル左腕を抑えながら、観客と共に目を凝らして土煙の中を探った。
 鎖のコースライン、変わり身と慣れない小細工を凝らしたはいいが左腕に受けた蹴りのダメージが重かったため、これ以上続けるのは厳しいが、さてどうか……。

 そして土煙が晴れ……ラクサスは立っていた。

「っ! マジかよ……タフだな、アンタ」
「ゼェ、ゼェ……そんなもんかよ……?」

 獰猛な笑みを浮かべて挑発してはいるが、荒い息と口の端から覗く赤い筋は隠せていない。大ダメージで震える足で立っているラクサスのやせ我慢を見破るのは難しくなかった。

 だからといって自分の状況が好転する訳ではない。全力の一撃を耐えられた事にワタルは苦いものを感じた。

「ク。フフフ……」

 にもかかわらず、左腕に力が入らなかった分、威力が落ちていたと冷静に分析しつつも、ワタルは湧き上がる高揚感に口元が歪むのを止める事が出来なかった。いや、それに留まらず笑いが漏れてくる。
 妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来るまでの旅の中でまともに戦った事は数えるほどしかない。襲ってきた盗賊の撃退に力を振るっていた程度で、その時だって全力を出すことなどなかった。

「ははは」

 年単位ぶりに全力を振るい、己と互角以上に渡り合える者と戦える――その事が愉快でたまらなかったのだ。






 これがワタルの本当の本気か。
 観衆に混じって彼とラクサスの決闘を、エルザは固唾を飲んで見ていた。

 自分に魔法と魔法剣の扱い方を教え、修練相手として手合わせをしていた。山賊と演じて見せた殺陣という名の一方的な戦いぶりも見た事がある。
 その時に感じた透明な圧力――ワタルの清廉な魔力はエルザの心に目標として刻みこまれている。

 だがそのいずれも、ワタルは真剣ではあったが本気ではなかったと認めざるを得ない。
 左腕に激痛を感じているだろうワタルの顔に浮かんでいたのは痛みの苦悶などではなく、それを覆い尽くして余りあるほどの心底楽しげな喜びだったのだから。

「……」

 少し悔しかった。ワタルが今まで自分に見せた事の無い表情を浮かばせたのが自分ではなかった事に。
 自分の未熟さは自覚しているが、それと感情の問題は別だ。

 だから――エルザは改めて、奇しくもその髪に似た色の想いを、炎のような誓いを強く心に刻んだ。



 いつか必ず、お前の隣で戦える程に強くなって見せる、と。






 もう切れる手札も打てる小細工も無い。
 ならば持てる力の全てを真正面からぶつけるのみ。
 もともとそちらの方が性に合っているのだから、望むところだ。

 心躍る時間の終わりを予感して少し名残惜しみながら、ワタルは残った魔力を右手に集中させる。
 最後の一撃を迎え撃つため、立っているのがやっとのラクサスも右手に魔力を集めて電撃を纏わせる。

 留めきれなかった余剰魔力がワタルの右手から火花か静電気のような現象となって漏れ出す。
 ワタルを一撃で葬るのに十分な威力を秘めたラクサスの電撃も空気を震わせている。

 20に満たない年齢の魔導士のものとは思えないほど強力な魔力がこの場を包み、野次を飛ばしていた観衆たちは静まりかえって年若い魔導士を見守り、そして口に出さずとも誰もが確信していた。
 この2人は将来、ギルドを背負って立つ存在になるだろう、と。



 そして魔力と闘気が充満した空間の中、ワタルは姿勢を低く、地面を抉る勢いで駆け出した。全身を発条の様にしならせて踏み込み、掌底を撃ち込む。
 迎え撃つラクサスはそれに合わせて電撃を纏った拳を振りかぶり、叩きつける。

「ああああああああああああああああああああっ!!」
「ぜやああああああああああああああああああっ!!」

 ワタルの掌底とラクサスの拳がぶつかり合い、2人の呼気と共に魔力が空間を揺さぶる。
 空気中のエーテルナノが激しく振動して、魔導士達の感覚にビリビリと突き刺さる。
 電撃と魔力が干渉し合って放電のような現象が起き、激突の衝撃で砂塵が舞う。

「(これで!)」
「(仕留める!)」

 もはや2人にはこれが模擬戦だという考えは無く、ただ相手を打ち倒すのだという気概、最後に立っているのは自分だという意地のぶつかり合いだった。
 2人にはこのせめぎ合いが永遠にも等しい時間感じられたが、実際は1秒にも満たず、当然終わりは来る。

 ワタルは突進の勢いのままラクサスの横を滑るように通り抜け、制動。息を大きく吐いて残身をとった。


「うぐっ!?」


 瞬間、ズキリと右手首が軋み、だが左手で押さえる事も出来ず、膝をつきそうになる。パワーファイターのラクサスと正面からぶつかった際に痛めでもしたのか、今すぐ転げまわりたいほどの痛みに膝をついて転げまわりたくなるが、ぐっと我慢。


 そのまま焼けた鉄棒でも押し付けられたかのような痛みに耐えていると、背後で重いものが落ちたかのような音をワタルは聞いた。
 振り返ると、ラクサスがうつぶせに倒れていた。影になってよく見えないが、血が滲んでいる口元には笑みが浮かんでいる。



「……勝者、ワタル!」



 ラクサスが倒れ、ワタルが立っている。
 どちらが勝者なのかなど、誰が見ても明らかだった。

 マカロフのコールに、これが模擬戦なのだと思い出したワタルは決着に沸き立つ周囲に構わず気が抜けて座り込んでしまう。
 ラクサスもうつ伏せから仰向けになり、苦しげに呼吸している。

「ったく、勝者が締まらねぇな」
「う、るさい、この馬鹿力が。いっつつ……」

 手首の様子を見るに、どうやら軽い捻挫で済み、折れてはいないようだった。
 ラクサスに言い返しながらその事に安堵していると呻き声が聞こえたため、再びそちらに意識を向けると姿勢が少し変わっていた。
 どうやら起き上がろうとして失敗したようだ。

 勝敗を分けたのは手数の差だろう、とワタルは考えたのだが、それでも“魂威”を3発も――しかもそのうち2発は渾身の一撃を――喰らって口を開けるのだから、ラクサスのタフネスには呆れるしかなかった。

「……ああ、クソ……正直効いたぜ、ワタル(・・・)
「名前、覚えてたんだ」
「……次は負けねえ」
「そうか……俺もだ。次も勝てるかどうかは正直分からん」
「ハッ、ぬかしやがる……」

 再戦の約束と、相手への賞賛を済ましたワタルが観客の方を向いた瞬間……

「ワタルー!」

 見覚えのある赤い塊にタックルされた……左側から。

「あ」

 ラクサスの重い蹴りをガードし、その上 “二掌魂威”にも使ったワタルの左腕の骨には……主観だがヒビが入っていた。
 そこに、心配か、或いは興奮したエルザに勢いよく抱きつかれて……


 ピシッ!


 ……嫌な音を立てて、完全に折れた(イった)

「ッ、ウギャアアアアアア!!」
「え!? お、おい、大丈夫か!?」

 左腕の骨折、全治一ヶ月。
 家賃の事を考えると相当厳しいものになりそうだと、微妙なものを見るような目で見ているラクサスをよそに、激痛の中で他人事のように思った(現実逃避とも言う)ワタルであった。

 
 

 
後書き
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