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剣術

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第一章

                  剣術
 魔界で一番の剣の達人は誰か、誰もが言った。
「やっぱりベール様だな」
「ああ、あの方が何といってもだ」
「魔界で一番の剣術の達人だ」
「まさに剣聖だよ」
「ベール殿がか」 
 その話を聞いて驚いたのは日本の地獄から来た鬼の木久蔵である。見れば鬼の格好ではなく浪人の様な格好で足は下駄だ。長い髪を後ろで束ねる様な髷にしていて頭の斜めのところに小さな角が一対である。 
 顔は面長で黒い、目は糸の様に細く口には草があり先に葉がある。
 その木久蔵は欧州の魔界に来てだ、悪魔達に問うたのだ。
 魔界は山も谷も草原も川もあるがどれもが極彩色で色々な色が混ざっている。阿鼻叫喚の声は聞こえないがだ。
 混沌としている、彼はその魔界に十王達から暇を貰って武者修行に来たのだ。その腰には愛刀紅雪がある。世界の魔物や妖怪の世界を巡っているのだ。
 この魔界に来て一番の達人は誰か、魔界の居酒屋でこう言われたのだ。
「あの方だね」
「やっぱりあの方が一番凄いよ」
「もう何ていうかね」
「電光石火」
「誰も勝てないよ」
「ほう」
 その話を聞いてだ、木久蔵はその糸の様な目を光らせた。
 そのうえでだ、こう言ったのだった。
「それは興味深い。ただ」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「ベール殿のことはお姿のことを聞いたことがある」
 木久蔵は魔界の紅の酒と肉の干したものを口にしつつ言った。
「蜘蛛のお身体に人と猫、蛙のお姿でござるな」
「うん、そうだよ」
「それがベール様のお姿だよ」
「格好いいよね」
 悪魔達は木久蔵に陽気に話した。
「魔力も凄くて」
「こちらでも魔界で屈指の方だよ」
「紳士でね」
「素晴らしい方だよ」
「蜘蛛のお身体で剣が使えるでござるか」
 木久蔵が思うのはこのことだった。
「果たして」
「出来るよ」
「それもちゃんとね」
「まああんたにはまだわからないだろうけれど」
「その格好だとね」
「僕達より人間に近い姿だからね」
 悪魔達は背中に蝙蝠の翼があり頭には曲がった角が二つある。そして先が三角に尖った尻尾がある。その姿で木久蔵を見て言ったのだ。
「日本から来た鬼だったね」
「鬼の姿だとね」
「そこはわからないよ」
「それは仕方ないよ」
「ふむ」
 木久蔵は悪魔達の言葉を聞いてだった、そのうえで。
 考える顔になってだ、こう言ったのだった。
「蜘蛛のお身体でどう剣を使うのか見たい」
「まあそのことはね」
「一度ベール様にお会いすればいいよ」
「そうしたらわかるから」
「実際にね」
「百聞は一見に然ず」
 こうも言った木久蔵だった。
「では拙者ベール殿のところに参上するでござる」
「こっちの東の方に広いご領地を持っているよ」
「魔界の魔神の中でも相当に広いご領地を持っておられてね」
「お城も凄いんだ」
「地上のどの宮殿よりも凄いんだよ」
「わかった、では東に行くでござる」
 木久蔵は東と聞いて言った。
「そしてベール殿を実際にお会いするでござる」
「そうするんだね」
「じゃあ東まで行ってね」
「それでベール様の剣術を見てね」
「その目で」
「教えて頂きかたじけない」
 瞑目する様な顔でだ、木久蔵は悪魔達に礼も言った。 
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