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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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精神の奥底
  52 Dark Side Of The City 〜後編〜

 
前書き
今回でようやく長い夜が終わります。
3話に渡ったDark Side Of The Cityでしたが、一晩の話だけでここまで長引くとは...
一応、流星シリーズは原作ゲームのオックス・ファイア戦の後でルナに対して自己紹介するところを始め、やはり夜だったり夜空がバックだったりという部分が印象的なのでメインの舞台を夜にしています。
ちなみに今までのバトルも最初の廃工場、次の廃ビル、学校、高速道路など全て夜でした。

そして今回、原作からあの方がゲストでいらっしゃいます(笑)
誰でしょう?
ぜひ最後までお付き合い下さい。 

 
スバルは電気街の方へ走っていた。
この時間帯でタクシーも拾えず、始発まで1時間程あるため、足を使う他無かったのだ。
面倒くさがりのウォーロックは電波変換を使えと言ったが、スバルは拒否した。
スバルにとって電波変換とは、早く移動するための手段ではない。
変身しなければ、分かり合えない相手と対等に向き合うための手段だった。

「この辺だよね?」
『あぁ…間違いなさそうだ』

深夜でも営業しているカフェやカラオケ、まんが喫茶街を通り抜けた先にあった電気街の一角、UXプラザ。
電気街を訪れる者なら誰でも知っている巨大モニターがあり、そこで毎日大量の宣伝CMを流し続けている他、イベントホールやショールーム会場にも早変わりする電気街を象徴的する場所だ。
深夜でも駅から直通の通路としての役割もあるので、施設の中でには入れずとも通り抜けができるようになっている。
エスカレーターは止まっているため、スバルは階段で登る。

「…あれは?」
『オイ!行くぞ!』

途中でプラザの側の道路端に停車していた黒のNISSAN・ティアナが2台程急発進して去っていく。
何かから逃げるようにして去っていく様子に不信感を感じたものの、スバルはウォーロックに急かされて階段を一気に駆け上る。

『スバル、ビジライザー掛けてみろ…』
「え?分かった」

一見、何も無かったかのような駅からの連絡口ホールだが、ビジライザー越しにみると全く別の世界だった。
ウォーロックはトランサーから飛び出した。

「すごいノイズだ…」
「全くだ。だがここで争ったなら、やった奴はともかく、やられた奴は何処にいる…?」
「…まさかさっきの車!...ッ、もう遅いか」

スバルは振り返るが、既にもう遅かった。
さっきの車に乗っていた者だったなら、逃げるようにして去っていった理由も納得がいく。

「とにかく始発の時間が来て人混みが来たら手に負えない。早く手がかりになりそうなものを探そう」
「しかし…派手にやってくれたみてぇだな」

赤黒いノイズが濃い部分をビジライザーを外して見ると、柱に何かがめり込んだ跡があったり、タイルが砕けてヒビが入っていていたり、凄まじい戦闘が行われた形跡がある。
それにプラスチックのような赤い何かの欠片が所々に飛び散っていた。

「何だろ、コレ。何かの欠片みたいだけど」
「ノイズが漏れてやがる…何だこりゃ…」
「何かが砕けたのか…」
「ん?オイ!スバル!!」
「どうしたの!?何かあった!?」
「人間が倒れてやがる!」

柱の後ろには倒れている20歳前後の女性が倒れていた。
スバルは慌てて駆け寄った。

「大丈夫ですか!?酷い怪我だ…救急車…」
「うぅ……痛い…」
「何があったんですか!?」

スバルはポケットからAQUOSを取り出す。
しかしノイズが酷く、アンテナピクトに☓が表示され、発信ができない。
女性は左の腕の骨が折れているようで、他には鼻から大量の血が流れ、右の頬に巨大な青アザができていた。

「灰色の…奴がいきなり襲い掛かってきて…売人とカードを…」
「灰色の奴?ウォーロック、それが…」
「うぅぅ…」
「ところで売人とカードっていうのは?」
「ってぇ…くっそ…痛いよ…」
「大丈夫ですか!?すぐに警察と救急車を呼びますから!」
「…警察?ふざけんな…」
「え?」
「どいてよ!!」

女性はスバルを跳ね飛ばし、おぼつかない足取りで去っていた。
とっさの出来事でスバルは反応が遅れた。

「待ってください!」
「うるっせぇ!!救急車?警察?呼んだらタダじゃすまさ…クッ…」

しかし女性は50メートル程歩いたところで力尽きた。
意気がっていても、体の方は限界だった。
それは彼女を見れば、誰であろうと精神も肉体もまともな状態ではない。

「ったく、言わんこっちゃねぇな」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ…左腕と鼻の骨は折れてるし…」
「呼ぶなってんだから、呼ばなくていいんじゃねぇか?本人が言ってんだし」
「そうかもしれないけど…ん?」

勝手に現場を去ろうとした女性を遠目に見ながら、ウォーロックは呆れ顔で本音をこぼした。
半年前までのスバルなら賛同する上、今でもそう思っている部分はある。
しかし今は数少ない手がかりだ。
仕方なく、ゆっくりと近づこうとした時、何かを踏んだ。

「何だろ、コレ?」

拾い上げたのは、乾きかかった血のような赤色に不気味な渦か炎のような模様の入ったカードだった。
先程の欠片の正体はこれだった。
このカードもヒビが入り、ところどころが砕けており、カードとしての原型を殆ど留めていない。
ちょうどトランサーに使うバトルカードやサブカードといったデータストレージキーと同じ形状をしていたようだが、市販されているものとは何処か違う。

「これってあの欠片の…これがあの人が言ってたカードなのかな?」
「みたいだな」
「ここでこのカードを売り買いしていた?このカードは一体…」
「間違っても、トランサーで使うな。何が起こるか分かんねぇ」
「うん。でも損傷が激しくて、使いたくても使えなさそうだ」
「何か書いてあるな。FM星人のオレには地球の言葉は読めねぇが、お前なら読めるだろ?」
「読めるかな…」
「お前、地球人だろ!?」
「僕は地球生まれの地球育ちだよ!でも地球には国や地域によって色んな言語が…」

まだ日が登る前で薄暗く、街灯の光もあまり入ってこず、スバルは目を細めた。
しかしすぐに諦め、トランサーを開いて、その液晶のバックライトを明かりにする。

「良かった、英語だ。えっと…ユニ…ウニ…」
「何だよ、読めねぇのか?」
「うるさいな!中学1年生の英語力なんて…ユナイト…かな?砕けてはっきりと読めない」
「どういう意味だ?」
「融合とか…結合とか…いや、これは何かの略称みたい…」
「…」
「意味が大まか過ぎて…僕にもサッパリ…ん?ビジライザー越しに見ると…ここにも書いてある」

そこには紫色で刻印されていた。

「2nd Generation…第2世代?」
「第1世代もあるのか?」
「分からない、でも…ここで何かがあって、この人が襲われた原因はこれ、それだけは間違いなさそうだね」
「あぁ」

スバルは砕けたカードを捨て、その場に立ち尽くした。
このカードは何か危険なものだ。
そしてウォーロックの恐れる何かは、このカードを売買しているところに乱入して、売人と客もろとも倒していった。
港での大量殺人、インターネットのダウン、ミソラから聞いた学校での一件を含めれば、この街を中心に自分たちに手に負えない強大な2つの力がぶつかっている。

「一体、何者なんだ」

スバルは自分がとんでもないことに首を突っ込もうとしている予感を感じ始めていた。





















「……パーフェクト」

UXプラザから約200メートル、とあるビルにある24時間営業のオープンテラスのカフェで銀髪の少年はトランサーの画面を見ていた。
高精細のIPSディスプレイには、先程UXプラザで起こった惨劇の一部始終とその解析データが映されている。

「ジャ、私ホテル帰るネ」
「サンキュー、お疲れ。あぁ、いいよ。ここは出しとくから」
「デモ…チップ」
「この国にはチップの文化は無いの」

アボガドを贅沢にサンドしたハンバーガーを平らげ、財布を出そうとした女性に少年は言う。
少年は今見ている映像とデータをこのそばかすが特徴的な女性から受け取った。

「このデータと映像を見る限り、もうスターダストは成熟しているみたいだ」
「成熟?」
「あぁ、ウィザードは使う人間の能力や思考を無意識に取り込んでいき、使う人間はそのウィザードの特徴、自分の身体に掛かる負荷や力の扱いに慣れていく。つまり双方が同時に成長していくんだ」
「ヘェ」
「それがユナイトカードやそれに類する技術を使う電波人間よりも成長が早いと言われる理由さ。カードを使う人間は成長するが、カード自身はソフトのアップデート無しでは進化しない。成長するためには、使う人間が一方的に成長していくか、カードのソフトそのもののアップデート版が出てくるのを待つしか無い」
「…… 」

女性は分かったふりをするが、少年はすぐに分かっていないことを見抜く。
少しため息をついて、運ばれてきたコーヒーにミルクと砂糖を入れた。

「ネェ、Zucker<砂糖>入レ過ギ…病気ナッちゃうヨ?」
「そうなんだけどな…どうも頭の回転が冴えなくて」

少年は気づけば、砂ティースプーンで10杯以上、コーヒーに砂糖を入れていた。

「スミマセ~ン、コノ人にバナバ茶」
「え…ナニソレ?」
「フィリピンティー。インスリンタップリ」
「最近のファーストフード店はそんな意味不明のお茶まで…こんなの頼む奴いるのか…?」
「見テ、ドリンクランキング3位」
「野菜ライフとどくだみ茶がコーラとメロンソーダより人気あるってのがイマイチ納得できない…ポテトMセットと一緒に頼むか?」
「健康ブームでショ?」
「健康ねぇ…ん?」

少年は自分に向けられた気配に気づいた。

「ドウした?」
「しつこいな、アイツも」

少年の視線は隣のビルの屋上に向けられていた。
確かに誰かがいる。
少年と同じく長い銀髪を靡かせているのが、女性からも見えた。

「バナバ茶になります」
「あぁ、注文は以上で」
「ダレ?オトモダチ?」
「お前はホテルに戻れ、オレの客だ」
「兄弟ゲンカ?」
「バカ言っちゃいけない。髪の色以外、共通点無いだろ。あと会計よろしく」
「ハイハイ、オヤスミ」

少年は窓の外を見ながら、運ばれてきたバナバ茶を一気に飲み干すと、女性が一瞬、窓の外を見た隙に消えていた。

「アレ?ドコイッタ?」

気づけば、伝票の隣に金が置かれていた。
お釣りが出ないぴったりの金額で、少女はため息をついてから、伝票とともにレジへと持っていく。

「おっす、久しぶり~2ヶ月ぶりくらいかな?ソロ」

「……」

少年は隣のビルの屋上に移動していた。
ソロと呼ばれた少年は振り返る。
身長は160センチ前後、背中まで伸びた銀髪と整った顔立ちだが、睨みつけるようなツリ目が特徴的だ。
民族着のようにも見えるし、最新のファッションのようにも見える独創的な衣服を身に纏い、指には幾つかの指輪と耳には大きめのピアスを着けている。

「何か用?」
「分かっているはずだ。キサマは我らムーの力を弄ぶ極悪人だ、野放しにしておくわけにはいかない」

ソロは少年を睨みつける。
普通の人間なら、押しつぶされてしまいそうな程の威圧感を放っている。
しかし少年はまるで態度を変えない。

「ん~オレも君を怒らせようと思って、弄んでるわけじゃないんだけどなぁ」
「キサマが思っていようと、事実は変わらん。キサマはムーの力を持ち、己が欲望の為に使っている」
「じゃあ、教えてよ。どうしたらオレは君のストーカー行為から解放されるのか」
「キサマの罪の代償を受けてもらう」
「そうじゃなくてさ…どうやったらオレがまともな人間に戻れるのかって聞いたつもりだったけど?それに止めた方がいいと思うけどなぁ」
「何?」

少年はポケットから黒曜石のように妖しく折りたたみ式の刃物とハンドガンの特徴をひとまとめにしたような物体を取り出す。
そこら辺のサバイバルショップで手に入るようなものではなく、その手の趣味を持つ人間からしても見たことが無いような形状の武器だ。

「この間、オレにやられた怪我が治ってないんだろ?右肩が前より下がってるし、左に比べて妙に分厚い。包帯でも巻いてるんじゃないの?」
「それがどうした…?」
「いくらやっても結果は同じじゃない?ソロ、今の君はオレには勝てない」
「……」

少年は顔色を殆ど変えていないはずのソロが少し動揺したのを感じ取り、思わずニヤリと笑みを浮かべた。

「ねぇ、もう止めない?この時代、捨てたもんじゃないよ?いつまでも自分の先祖たちの残した負の遺産に取り憑かれてるってバカバカしくない?」
「……負の遺産だと…?」
「だってそうだろ?今の人類、皆多かれ少なかれ、ムーの遺伝子を受け継いでるんだ。アトランティスだかレムリアだってそうだ。これだけ数の人たちがいる社会だ。その資質を色濃く受け継いでいる者が現れるのは必然。本当なら同族の仲間であるはず人たちの存在も認めず、更には追いかける役割を君に押し付けて、可能性ある君の人生までも食い潰す。負の遺産以外の何物でもないじゃない?別に望んで手に入れた力でもないっていうのに、追われる側もいい迷惑だ」
「……」
「君は自分の先祖を誇りに思ってるかもしれないけど、自分たちの技術力で生み出したものに滅ぼされた。その上、そのせいで一度は世界を危機に貶めた連中だよ?どっちが愚か者かよく考えてみるといいさ」

『ラプラス!!!』

「!?」

少年の言い分にソロは激怒し、左手を伸ばすと何かを少年に向かって放り投げた。
一瞬でソロの手に黒く鋭い刃先の何かが現れたのだ。
それは少年に向かって一直線に回転しながら襲い掛かる。
しかし少年は慌てること無く、左手を前にかざした。

「ふぅ…危なかった」

突如として現れた鮮やかな紫色の壁がソロの放ったものを弾き、少年を守った。

「クッ…電波障壁」
「完全には防ぎきれなかったけどね」

少年は悔しそうな顔を浮かべ、後ろを振り返った。
視線の先には屋上の鉄柵に引っ掛かったOCEANUSがあった。
少年が左腕に装着してた時計だったが、チタンベルトが切れて吹き飛ばされてしまったのだ。
それに少し血が出ている。

「お気に入りだったのに」
「……」
「少し侮ってたよ。あれから多少は鍛え倒したんだ」
「……キサマには関係ない」
「純血だからって混血より優れてるかっていうとそうとも限らないって学んだみたいで何よりだ。前回は可哀想なくらいオレの圧勝だったからね」
「キサマ…」
「悪いけど、そろそろ時間なんだ。もし次会うことがあったら、よく考えおくといいよ。欲しかったわけでもないものを受け継いでしまった人間の気持ちってやつを」

少年はそう言い残して去っていった。





















猛スピードで走ってきたGT-Rから降りた安食は、やや早足で建物に入った。
というのも、嫌な予感がしたからだ。
先程、中央街を移動している時、空から無数の雷の弾丸のようなものが飛び交うという異様な光景を目にした。
その多くが、ちょうど自分たちが取引をしているエリアに向かって放たれていると気づき、上空、もしくは高い建物から何らかの攻撃を仕掛けられたのではないかという仮説が脳裏によぎったのだ。

「……やはり…」

奥には既に戻ってきているValkyrieのメンバーがいた。
しかし先程よりは明らかに少ない。

「…何があった?」
「取引の最中に…狙撃に遭って…」
「弾丸は?」
「プラズマか何かのエネルギーで…カードもダークチップももろともやられました」
「私たちはUXプラザで取引をしている最中、暗闇に乗じて何者か乱入して…電波変換して対抗しましたが、歯がたたず…」
「他は?」
「私たちも…同じような状況で…」

「スターダストだ…暗闇から忍者の真似事して仕掛けてくるのは奴の得意技だ」

スターダストが敵だと考えれば全て納得がいく。
プライムタウンでの一件で身を以て、スターダストのやり口を思い知った。
仮に間違っていたとしても、相当な高さから街中のあらゆる場所をほぼ同時に狙い撃つという離れ業、只者ではない。
間違いなく電波人間だ。

「誰かスターダストに捕まった者は?」
「今のところ確認されていません。我々以外は死んだか、口のきける状態ではありません」
「…ならば…こちらから仕掛ける必要はない」
「何故です!?」
「この様子だと、スターダストはオレたちの計画は失敗し、それでも今もなお懲りずに取引を続けているのは、デンサンシティの治安悪化の悪化がニホンの悪化に直結すると考えていると踏んでいるだろう」
「しかし…気づかれていたら」
「もし気づいているなら、狙うのはオレたちじゃない。”アレ”を直接潰すはずだ。スターダストはお前たちが思っている程、マヌケじゃない。現にプライムタウンの倉庫も勘付かれ、学校でもジョーカープログラムと人質もろとも持っていかれた」

安食は声のトーンそのものは落ち着いているものの、徐々に苛々が募っているとこの場にいる商人たちは皆気づいていた。

「分からないか?常に先手を打たれているんだ。それに敵の根城も分からない状況では、どうしようもないし、下手に動けば、計画が勘付かれるかもしれない」
「ですが…」
「もしお前たちの誰かが捕まって、拷問を受けたりした場合、口を割らないという保証は無い。他の連中は死んだか口がきけないなら吐かせられる心配はないがね。各自、朝までここで待機、よく休むことだ」

安食はポケットから例の薬を取り出して、ミネラルウォーターで飲み干す。
正直、少し焦っていた。
もし自分の計画を知っている者が捕まっていたら、スターダストに拷問を受けて吐かされていただろう。
今回の襲撃でValkyrieのメンバーには多くの欠員が出た。
それに関しては、ユナイトカードに備わったマインドコントロール機能で使った人間を操ってコマにすればいい。
それ以上にスターダストが自分の攻撃を受けたというのに、未だに立ち塞がっていることが問題だ。
しかも学校での一件も考えれば、攻撃によるダメージを引きずっているどころか、ピンピンしている上に力を高めている。
安食は自分の腹部に触れた。

「ッ…」

反面、こちらには前回戦った時のダメージがまだ残っている。
もちろん既に痛みは無いし、激しく動いても問題は無いが、もし重点的に攻められれば、足を引っ張らないという保証は無い。
ポケットからカードを取り出した。

「これを使う局面にはならないといいが…」

一見今までの客用のカードとは変わらないが最新型のカードでまだ試した人間は少なく、効果があったという報告も無い代物だ。
安食は深呼吸して一度気を落ち着けるとポケットにしまった。














彩斗は家に戻ってきた。
まだ日は登り始めてはいないが、もう朝になったのではないかと思う程に時間が経っているように感じた夜の街の冒険だった。

「ハァ…」

ガレージから持ち出したものを元の位置に戻し、PCの履歴も全て削除した。
これでハートレスにもバレることはない。
しかし夜の街の裏側は彩斗には想像を超えるものだった。
プライムタウンのような最初から浮浪者や犯罪者だらけの場所と分かりきっているところではない。
普段見慣れた街が夜になって裏の顔を見せたのを見せたのだ。

「…ん…帰ってこれた」

たかが小1時間程度だったが、それは濃密過ぎる時間だった。
もう10時間近く夜の街を出歩いていたのではないかと錯覚する程だ。
少し目を閉じ、出来事を振り返る。
その度に身体と心に痛みがじわじわと沸き上がってくる。
案の定、身体は攻撃を避けるという動作を意識しなければ行わず、僅かにダメージを受けているのは否めない。
しかし意識するのとしないのでは大きな違いだ。
昨日の学校での戦闘に比べて、身体に受けているダメージの量が雲泥の差と言っていいくらい少ない。
これなら少し休めば、すぐに回復するだろう。

「……」

自分の身体のこともそうだが、一番思い出されるのは、病院で出会ったValkyrieの客の少年だ。
自分より幼く、自分と同じような辛い経験をしてきた彼とのやり取りが数秒前の出来事のように思い出せる。
会話とシンクロで感じられたことからすると、少年も彩斗同様に暴力が大嫌いなのは間違いない。
青春ドラマやヒーロー番組では、青春の象徴であったり、かっこ良さの一部だったり、あたかも正義の象徴のように美化されていることも多い。
しかし本当は違う。
彩斗にとって暴力は所詮、相手を傷つける手段であり、相手に望まないことを強いる手段であり、そして自分の心を殺していくもの以外の何物でもないのだ。
暴力を奮われれば、当然痛む、そして心にも傷がつく。
それが不条理な理由で奮われたものだとすれば、尚更痛む。
奮った方がふざけ半分ですぐに忘れてしまったとしても、受けた方は痛み、苦しみ、忘れることができない上、記憶という形になって長い間、心に居座り続ける。
人間は他の動物と違って、言葉でお互いを分かり合える魅力を持ちながら、暴力でしか分かり合えないのが、彩斗にはどうしても納得できなかった。
殴り合うだけなら、もっと知能の低い動物でもできる。
やってることのレベルとしては低レベルなものだというのに、河原で夕日をバックに殴り合って、笑顔で友情を深めるようなことが美化させるのが理解できないのだ。
そんな物語をテレビや書店で見かける度に反吐が出た。

「…ッ」

暴力を遊びに捉えて、殴られる痛みも知らない一方的に殴る側の人間には分からない、「暴力を奮う側の痛み」というものを彩斗は少年に伝えたつもりだった。
自分が傷つけられれば、相手を憎み、懲らしめてやりたいと思うのは人間である以上、当然だ。
笑顔で許すという人間の方がどうかしているだろう。
しかし実際に、暴力を奮われればここまで苦しいのだと知りながら、それを相手に与えられるか?ということだ。
確かに相手への怒りは晴れるかもれない。
しかし、同時に相手がどんなに極悪非道の者であろうと、無条件で心が痛むのだ。
全身の血が引いていき、凍りつく感覚が沸き起こり、息が苦しくなっていく。
そして締め付けられた心から、虚しさと悲しさが絞り出される。
彩斗もバイザーを着けている間は冷血でただひたすら悪を潰す機械のように振舞っているが、本当は今にも泣きそうで、心の中ではもう泣きっぱなしだ。
彩斗の見た限り、少年は悪い人間ではないし、優しさと強さを持った人間だ。
そして先程の説得できっと考え直してくれる。
もし考えを変えなければ、きっと彩斗と同じこの苦しみを味わうことになるだろう。
だが彩斗のように暴力を奮う痛みに耐えて戦うことができても、本当はこの痛みに耐えられるようになる、慣れるということはあってはならないのだ。

「……」

彩斗は頭を振って、頭の中を白紙にした。
もう少年のことを考えるのをやめたのだ。
少年がどの道を選ぼうと、最終的には本人の意志を尊重するべきだろうと思い至った。
気持ちに区切りをつけた途端、不思議とガレージに戻ってきたばかりの緊張感が湧き上がる。
まだ戻ってきたという実感がイマイチ無い上、戻ってくる時に何度も確認したはずなのに追手がいるのではないか?、後ろから狙われているのではないか?と不安になる。
もう一度、後ろを振り返って誰もいないのを確認してからトランサーを外して、エレベーターに乗って部屋に戻る。

「ふぅ…さっきと変わらない」

部屋には先程とほぼ体勢でメリーは眠っており、変わったところは見受けられない。
しかしそれは、寝返りをうつことも無い程に短い時間だったことを彩斗に実感させる。
ゆっくりとメリーと同じベッドに入ろうとした。

「ん…兄さん?」
「あっ、起こしちゃった?」
「いいえ…何分か前からウトウトはしてたんですけど…兄さんがいなくなっって」
「あぁ…少し外の空気を吸ってたんだ」
「そうですか。良かった、私と寝るのが嫌になったんだとばかり…」
「そんなことないよ…メリーと一緒だと、久しぶりに落ち着いて寝られる」
「あっ…私も」

彩斗はメリーと同じ掛け布団の中に入ると、甘えた猫のようにメリーにくっついた。

「…悪い子ですね、兄さん?」
「何が?」
「いつも女の子をこんな風に勘違いさせてるんですか?」
「少し過保護かな?君を嫁に送り出すまで誰にも手を出させたくなくてね」
「こんなに過保護じゃ…嫁に行く相手も寄って来ませんよ。その時は責任とってもらってくださいね」
「心配しなくても大丈夫だよ。君は可愛いからね、放っておいても本当に好きな相手なら僕がいても寄ってくるさ」
「兄さんも…何処の馬の骨か分からない人連れてこないでくださいね?」
「妹が姑にならないように気をつけるよ」

昔から彩斗はメリーを実の妹のように可愛がっていた。
今でもそれは変わらず、それが時々、兄妹を通り越して親のように過保護になってしまう。
そしてメリーも彩斗のネットナビであり、妹として頼れるはずなのに時折1人で無茶をしてしまう危なっかしい面を持った彩斗に対して過保護になってしまうのだった。

「……あれ?兄さん、ここに白髪が…」
「え?イテッ!」
「ホラ」
「ホントだ…」
「若白髪ですか?ストレス?やっぱり疲れてるんですね」
「……」

彩斗はまだ自分の寿命のことを知って1時間しか経っていないというのに、早くも受け入れ始めていた。
メリーが引き抜いた白髪を見て、一瞬だけため息が出た。
諦めがついた瞬間、身体は一気に年をとってしまったようだった。
間違いなくメリーがもらわれていく頃には、この世にはいない。
だがせめて生きている間だけは、誰にも手を出させたくなかった。
しかし密着している間に感じる肌との感触が愛おしくなり、まだ死にたくないという気持ちが生まれて踏み止まる。
身体は既に事実を受け入れ、心も何処かで受け入れているというのに、間違いなく未練があるのだ。
気づけばメリーにくっつくだけでなく、抱きしめていた。
メリーからではなく、彩斗からというのはかなり珍しく、メリーも一瞬驚いていた。

「…何かあったんですか?」
「あまり妹にはこんな弱々しいところ見せたくないんだけど…悪い夢だと思って忘れてくれ」
「…いいんですよ?たまには甘えてくれても」
「ありがとう」
「私たち、親の顔も覚えてませんし、特に兄さんは昔から甘えられる相手がいなかったですもんね」
「疲れてるのかな?何だかすごくモヤモヤして…うまく言葉にできなくて…」
「何でも1人で抱え込むのは、本当に昔から悪い癖ですよ?一度に1人で何でもやろうとするから、そうなるんです」
「君の悪い癖でもあるけどね。兄妹だから仕方ないか」
「困った時は頼っていいんですよ?私も…困った時、頼りますから」
「フッ」
「どうしたんです?」
「さっきアイリスにも同じようなことを言われた」
「……」
「大きくなったね、メリー。知らないうちに身体も心も、すごく成長した」
「…普通なら今のうちだけですよ?」
「え?」
「こんなふうに直接、妹と一緒のベッドで寝て成長を確かめられるの。私はいくつになってもオッケーですけど」
「フッ、可愛い奴め」
「あんっ…」

彩斗は左腕のシーマスターを外して枕元に置くと、メリーの頭を撫でた。
メリーも彩斗も負けじと、彩斗の顔に自分の顔をすりつけてくる。
まだ幼く柔らかい互いの肌の感触を感じ合いながら、再び沸き起こってくる眠気に再び身を委ねた。
その兄妹の微笑ましい様子は、まるでじゃれ合うのに疲れて眠る子猫の兄妹のようだった。



2人が眠りに落ちた数分後、少しずつ外は明るくなり始めた。
既に始発は発車し、街も本格的に動き始める。
長く濃密なデンサンシティの夜はようやく終わりを迎え、朝がやってきた。
新しい1日が始まったのだった。

 
 

 
後書き
なんとソロさんがゲストでした(笑)
そして今後、ソロさんが本編に関わることはありません...残念!

長い夜が終わって、遂に朝がやってきます。
熱斗は捕らえられ、Valkyrieもまだ何か企んでいる、なのに彩斗たちもWAXAも、Valkyrieの計画は失敗したと思い込んでいる状態でどうなるんでしょう?
そして夜の街の冒険から帰ってきて、この時間帯から寝る彩斗は朝起きられるんでしょうか(笑)?

ちなみに次回もゲスト、来ます!



P.S.
いつも感想ありがとうございます! 
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