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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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精神の奥底
  51 Dark Side Of The City 〜中編〜

 
前書き
また少し間隔が開いてしまいましたm(__)m

今回は中編です。
まだまだ夜は終わりません(笑) 

 
「……」
『オイ、スバル…出やがったぜ』
「ん?んんん…」

デンサンシティの安ホテルの一室で眠っていたスバルをウォーロックは起こした。

「何が…ってまだ3時じゃないか…朝食は6時半から8時半まで…2階のダイニングで…」
『それどころじゃねぇ!出やがったんだよ!奴が!!』
「奴?...まさか…」
『あぁ!その「まさか」だ』

ウォーロックはスターダストの気配を感じ取ったのだ。
自分たちに近い存在、それがウォーロックに姿を見せること無く気配だけで恐怖に襲い掛かっていたのだ。
スバルは久々にウォーロックが本当に恐れを抱いているように見えた。
これはただごとではないのは、まだ出会ってから1年も経っていない程の付き合いのスバルにもすぐに分かる。
勢い良くベッドから飛び出し、窓に張り付いた。

「何処!?」
『クッソ…気配は感じるのに正確な位置が掴めねぇ』
「気配は感じるのに?」
『分からなくはねぇが、はっきりとしねぇ…殺気だけ放っといて、追跡させねぇ魂胆か!?畜生!出てきやがれ!!オレはここだ!!』

明らかにウォーロックは恐れている。
それだけでスバルは相手が何にせよ只者ではないことを悟る。
そんな時、スバルの視界に異変が現れた。

『オイ、スバル!ビジライザーかけてみろ』
「分かってる」

ホテル6階の窓から見える美しくも儚いデンサンシティの夜景の一部が一瞬だが雷が落ちたように激しく光ったのだ。
ビジライザーを通してみれば、そこでは明らかに電波空間で何かが争った後のノイズが溢れている。
すぐさまスバルは机の上に広げた地図を見た。

「あそこは…電気街の辺りだ」
『電気街だと?』
「うん、デンサンシティでは一番の家電や電子機器の店が揃ってるエリアだよ。イベントホールやショッピングモールもある」
『確かにあの辺りから強く気配は感じる…だがはっきりし…あぁ!!もう、消えやがった!!』
「消えた?」

ウォーロックは自分のたてがみを掻きむしり、幽霊のように実態がはっきりしないスターダストの気配に苛立ちを露わにした。

「移動したってこと?」
『かもな!気配はまだ感じるが、少なくとも、もう電気街にはいない。それにはっきりしなさ過ぎて電気街だったのかも怪しい』
「落ち着いてよ、ウォーロック。でも今ので僕も確信したよ」
『何を?』
「君の言う存在は実在するらしいってことが。仮に電気街にいたなら、その足跡はちゃんと目で見ることができた」

スバルは椅子を引いて腰掛けると机の上に並べた資料を眺める。

「中学生殺人事件の現場、プライムタウン、そして今の電気街を含めると、間違いなく君の感じている何かはこの街にいる」
『今のところの手がかりはコイツとコイツか…中々に絵心あるじゃねぇか?え?』
「そんなこと無いよ、天体図に比べたら楽なもんさ」

机の上には地図の他、今までのウォーロックから得られた情報、そして昨日の喫茶店で「ロックマン」という単語を漏らした2人の男の似顔絵が並べられていた。

『こいつらの勤め先のビルはガチガチのセキュリティだったし、はっきりしねぇ気配追うより、こいつら締めあげて吐かせるのが一番だな。だが居場所が分からねぇことには…』

「大丈夫、僕に考えがある」

『お!?何時になく頼れるじゃねぇか?』
「まぁ、正確には委員長を頼ったんだけどね」
『ハァ!?あのドリル女にか!?』

スバルは先程、コンビニでこの似顔絵は自らのクラスの委員長こと、白金ルナに送っていた。
いつもなら写真で撮ってメールやSNSアプリで一瞬なのだが、インターネットがダウンした今となっては少し古いファクシミリ等の機材があるコンビニや商店からいわゆるアナログ伝送で送る必要があった。
いわゆるIP電話回線でもなく、インターネットFAXでもなく、ISDNでもなく、数世代前の音声回線、それ故に見つけるのも、送るのも相当時間は掛かったが。

「僕からのお願いじゃなく、ロックマン様からのお願いって言えば、聞いてくれることもあるってようやく学んだよ」
『…大人になったら、なんていうの?ヒモって奴になりそうだな、お前』
「そんなこと無いよ!!」

スバルがルナを頼ろうと思ったのは、防犯カメラを見た時だ。
少なくとも自分が確認できた防犯カメラの多くはルナの父が経営するヤシブタウンに本店を構える大百貨店・103デパートを中心としたグループの傘下で白金セキュリティのものだった。
セキュリティ産業に参入したのは比較的記憶に新しいが、その導入コストやサポート体制が人気を博して急速にあらゆる企業や自治体が採用しているのだ。
正直なところ、スバル自身もニホン有数の大財閥の一人娘とクラスメイトだったというのは未だに驚くべきことだった。
実感する度に現実味が無くて頬をつねってみたくなる。
本当なら小学校低学年からずっと同じクラスだったはずだが、父の一件で心を閉ざしたスバルは不登校になり、その事実を知ったのはつい3ヶ月前のことだった。

「それより、どう?何か感じる?」
『いいや…遠ざかってることは分かる。ほとんど感じられないレベルになってきた』
「電気街を離れて…下町…秋原町の方かな?どう思う?」
『さぁな』
「ロッポンドーヒルズの方?それとも…臨海地区?湾岸病院とか」
『もう見当もつかねぇよ。分かるのは、少なくともこのホテルからはそう近くないってことくらいだ』
「ここからかなり離れたコダマタウンにいながらデンサンシティだって居場所まで感じ取れたのに、何で分からいのさ?デンサンシティまで来たんだから、はっきりと居場所が分かってもおかしくないのに」
『前回と前々回は多分、力が制御しきれてなかったんだろう。だから不本意ながら離れててもすぐに分かるくらいの力を開放しちまって、オレに気づかれたんだ』
「今は力を抑えてるってこと?」
『多分、それもあるが、同時に気配も感じさせないようにしてる。暗闇の中で獲物を狙う肉食動物さながらにな。多分、同じような周波数のオレでなきゃ、まるで感じ取ることもできないだろうさ』
「……一体何者なんだ…」
『さっきから気になってたんだが…ベッドの方で何か鳴ってるぞ?』
「え?あっ、電話」

スバルは枕元のAQUOSが鳴っているのに気づき、手に取った。

「こんな時間に誰だろう?知らない番号…母さんと委員長しか僕の番号知らないはずなのに…」

トランサーの電話機能が使えなくなり、2日前に買ったばかりで、電話帳にも2人分の番号しか入っていない。
間違い電話の確率が果てしなく高いが、どこかで見たような数字が混じっており、心当たりが浮かんできた。

「もしもし、ミソラちゃんかな?」

『あっ!スバルくん?ごめんね、こんな時間に』

末尾の番号が「0802」、これは誕生日だ。
8月2日、それは響ミソラの誕生日だった。
どうやらミソラは前もって旧電話回線を使える携帯電話を用意していたスバルの母、あかねの番号を知っていたため、そこから聞いたらしい。

『消灯時間まで待ってこっそり掛けようと思ったんだけどさ、待ってるうちに、ついついウトウトしちゃって』
「消灯時間?今、何処にいるの?」
『えっとね、デンサンシティのデンサン中央病院…湾岸病院っていうのが一般的らしいけど』
「病院!?怪我でもしたの!?っていうより、僕も今、デンサンシティにいるんだけど」
『えっ、ホント?ビックリ…』
「ミソラちゃんこそ、どうしてデンサンシティに?それに病院って…」
『あっ!実はね……』

ミソラはここ数日間の出来事を全て話した。
才葉シティの学校であった人質籠城事件、そしてそこで起こっていたニホンであることを忘れるような非現実的な現象、そして地下で遭遇したスバルの変身したシューティングスター・ロックマンと似たシルエットを持った謎の電波体、スターダストのことを。

「才葉シティで…?」
『うん、やっぱりスバルくんじゃないんだよね?』

スバルは手がかりの2人の似顔絵を見ながら、2人の会話の中で才葉シティが出てきていたのを思い出した。
彼らがこの事件に関わっていたのは、推測の域を出ないが、そうだとすると納得がいく。
スターダストを恐れるあの態度、すなわち彼らはスターダストの敵であり、彼らの目論見を阻止しようと数日前にデンサンシティで争い、それがウォーロックに捉えられてしまった。
そして才葉シティに触手を伸ばしたが、その結果、スターダストもついてきてしまい、そこでも再び争いが起こった。
これがミソラの言う昨日の出来事の真相で、そして昨日は才葉シティで大規模な妨害電波が発生していた。
恐らく敵が通信を断つために用意したもので、ウォーロックが今回ばかりは気配を感じることができなかったのは、そのせいと考えれば、一応の筋は通った。

「うん、僕はずっとデンサンシティにいた。才葉シティなんて行ってないよ。それより怪我は?」
『お腹に蹴りを一発』
「大丈夫だったの!?」
『うん、大したことない。まぁ、いきなり襲いかかった私が悪いんだけどね。多分、人質を助けに来ただけで、私と戦うつもりは毛頭なかったみたい。それに内蔵とかには影響が出ないように、手加減してくれたみたいだし、気絶した私に回復カードを残していってくれた』
「…敵じゃないのか…」
『分からない。でももし敵なら、私たちに勝ち目は無いと思う。スゴく強かった…きっとスターフォースを使ったスバルくんと同じか、それ以上だと思う』
「…いずれにしてももっと詳しく話が聞きたいな。明日…っていうか今日、会える?」
『うん。一応、明日の10時に退院する予定』
「オッケー、分かった。迎えに行くよ」

スバルは湾岸病院の位置を確認する。
このホテルからだと最寄りの地下鉄駅からざっと20分程度だ。
ルートも単純でまず迷わないだろうということを確認する。

「ねぇ?人の声がするんだけど、誰か一緒なの?」
『えっ?いや、同じ病室の友達は寝てるし…あぁ、外が少し騒がしいかな』
「外?」
『うん、多分、救急の患者さんか…でもサイレンの音しなかったし…トラックが停まってる。何か医療器具とかの輸送かな?荷降ろししてる』
「こんな時間に?…まぁ、いいや。おやすみ、ゆっくり休んで」
『あっ、うん。おやすみ』

スバルは首を傾げながら、電話を切った。

『オイ、何だって?』
「昨日、才葉シティに出たって。多分、妨害電波でウォーロックは気づかなかったみたいだけど」
『ミソラとハープが出くわしたってのか!?』
「そうらしいんだ。話を聞く限り、敵なのか、味方なのかは、はっきりしない」
『クッソ、ホントに何なんだよ、コイツは!』
「でも何か目的があって動いているのは間違いないよ」

スバルは部屋に備え付けの小型冷蔵庫の中のペットボトルで水を飲んで、喉を潤すとクローゼットを開ける。

「少し電気街に行ってみよう」
『今か?』
「朝になったら電気街は山足線以外にも色んな電車やバスが行き来して人の通りが激しくなると思う。その前に何か手がかりがあるなら探しておかないと」
『…それもそうだな』

スバルは手早く着替えると、カードキーを手に取って部屋を出た。























「……」

三崎七海は夜のデンサンシティを歩いていた。
寝ても覚めても気持ちがまるで安らぐことはないのだ。
もとからこんな時間に街を彷徨く悪癖があったわけではない。
しかも親からは数日前の殺人事件の犯人が捕まっていない現状から不用意に出歩くなと口が酸っぱくなる程に言われている。
しかし、ついこんな時間に眠る両親に気づかれないように家から出てしまうのだった。

「…何してるんだろう、私」

身体は嫌でも休養を必要とし、最終的には眠りに落ちる。
だが身体がある程度、休まると悪夢で目を覚ます。
それを繰り返し続けて、もう1週間以上が経つ。
全ては高垣ミヤが自分のせいで命を落としかけたあの日から始まった。
不良たちに脅されて、彼女を騙して呼び出してしまった。
自分の身を守るために友達を売ったのだ。
もし立場が逆ならば、ミヤは絶対に自分を売ったりはしかっただろう。
あの日から自分を攻め続け、精神をすり減らし続けた結果、何も手に付かない。
趣味の読書もまるで内容が頭に入ってこず、裁縫も針に糸が通せず、何を食べても味を覚えていられない。
トドメが食事を終える度にトイレに直行して全て吐き出してしまう始末だ。
身体の疲れはともかく精神面での疲労に追い込まれ、正直なところ、意識は朦朧としている。
ここ2日間に関しては夢なのか現実なのかの区別すらつかない。

「オイ!!テメェ!どこ見て歩いてんだよ!?」
「……」
「オイ…待てよ!」
「……」
「チッ」

舌、鼻、耳にピアスを空け、未成年のような容姿でありながら酒の匂いを纏った不良とすれ違いざまにぶつかった。
しかし周囲の人間がキレる不良の剣幕に驚いているというのに、七海の耳には入ってすらいない。
何事も無かったかのように歩き続け、その生気の抜けたような気味の悪い雰囲気に不良も諦めて去っていく。

「…全部夢だったら良かったのに」

そんなことを呟く七海の意識は夢に傾いていた。
現に先程、デンサンタワーから光が次々と街中に飛び散っているのを目撃した。
そして更にはそのうちの一発が自分の目の前に降ってきて、そこにいた黒服のセールスマンのような風貌の男と脂臭い浮浪者の老人を弾き飛ばした。
こんなことが現実で起きるはずがない。
仮に現実でも夢と思い込んだ方が、楽になれる気がした。
フラフラとしたまま、足を進める。
ふと顔を上げると、24時間最新の情報を発信し続ける街頭の巨大モニターに晴れのち雨という今日の天気が映る。
臨海地区の自宅マンションから海沿いの道を放浪し、ビーチストリートを経由してデンサン中央病院までの決して近くはないが、電車を使わずとも徒歩で行こうと思えば行ける距離だ。
臨海地区はいわゆる埋立地で今では中央街同様にビルが立ち並んでいる。
両親の仕事で引っ越してきてから、3年間見続けてきた光景だ。
夜だというのにそれを忘れさせる人工的な明るさと人々の悪意が絡み合うニホン有数の魔都・デンサンシティの特徴を色濃く受け継いだ散歩コースだった。
気づけば、どうしても好きになれない病院が見えてきていた。
人工栽培されたハイビスカスを始め、美しい花々で彩られた庭を横切り、正面からではなく、裏口から泥棒のように院内に忍び込む。

「……」

足音を忍ばせ、階段を登る。
病院とは生者と死者が共存する珍しい場所だ。
少なくとも病院に来るということは、大半が怪我や病気になってしまった場合だ。
妊娠や出産といっためでたい例外もあるが、それすらも100%が嬉しい話題というわけでもない。
3階の病室のドアを開く。

「ミヤ…」

カーテンの閉められた個室でベッドは窓の近くに1つだけ。
ベッドで眠り続ける彼女の身体には何本ものチューブが着けられ、顔色もかなり悪い。
一命は取り留め、集中治療室からは出られたものの、まだ余談は許せない状況にある。
執刀した若い外国人の女性の先生が言うには、ミヤは年齢と平均を超える長身の割に心肺機能がまだ未発達でこのような大怪我による長時間に渡った大手術は無理だったらしい。
そのため病院に運ばれてすぐに行った手術では一命を取り留める程度に抑え、数日間の休養を挟み、今日の夕方から夜に掛けてもう一度手術を行うという2回に分ける手法を取らざるを得なかった。

「……」

ミヤは勉強ができるだけでなく、運動も得意だったはずだが、今思い返すと長距離やバスケットボールといった持久力を必要とするものは時々休んで見学していた。
病院側で所持していた健康保険証から過去の病歴を調べたところ、以前にも暴行を受けて運び込まれた事があり、その際も手術が難航したらしい。
暴行の相手は当時のクラスメイトたちで、彼女は自分と出会う直前までの1年間、車いすで過ごしていたらしい。
手術というのはドラマや漫画のように怪我をする度に何度も何度もできるというわけではない。
身体に相当な負担が掛かり、場合によっては手術をすることによって障害を背負って生きていくことになるリスクと隣り合わせな行為だ。
13歳という年齢にしてこれまで2度も生死に関わる大怪我をして手術をしてきたミヤの身体は普段の振る舞いからは想像もできない程に弱りきっていた。
もちろん若く回復も高いが、これだけの怪我の大きさや手術の規模だけに日常生活が送れるようになってからも完全な回復には長い時間が掛かる。

「……ッ」

眠っている様子を見るだけで、生きているのが奇跡に思えた。
もしこのコンセントを抜いてしまえば、今のミヤの命は僅か数分で燃え尽きる。
何か予期せぬ出来事が起こっただけで、消えてしまう風前の灯なのだ。
呼吸器を取り付けられた顔を見ても、いつも絶やすことのなかった笑顔を思い出すことができない。
七海の中では思い出すだけで自分で自分を苦しめる。
こんな状況を引き起こした不良と街の全て、そして自分自身を激しく憎んだ。
思わず強く唇を噛み過ぎて、血が垂れる。

「ごめん…ごめんね…本当は私がそこで寝ているはずだった」

七海は下を向いて目を閉じた。
視覚を止めたことにより、触覚と聴覚が研ぎ澄まれされていく。
聴こえてくるのは、ミヤを生かし続ける機器が動作する音と中身は空なのに冷やし続ける冷蔵庫の音。
だが不思議と前に来た時には聞こえなかった音が混じっていた。

「ん?」

言い争いと喧嘩、悲鳴、普段学校や街で聞いているはずなのに、何度聞いても聞き慣れることはない音だ。
病院の外から聞こえてくる。

「…外?...あれは…!?」

カーテンを僅かにめくった七海は一気に現実に引き戻された。
窓の外、裏口から忍び込んだ七海にはまるで分からなかったが、正面玄関の近くで争いが起こっている。
しかも気味の悪い異形の怪人の群れと灰色の怪人が戦っているのだ。
到底、現実とも思えない夢の世界の中だと思いたいが、夢で喧嘩があんなにも生々しく仁義の欠片もないも無いものとして描かれたことは今まで無かった。
4人掛かりで1人の灰色の怪人に挑み、互いに手加減など無く、ヒーロー番組のように敵が倒れても立ち上がるまで待つというお約束も無い。
正真正銘の殺し合いだった。

「警察…」

ポケットの中のPHSを取り出そうとするが、この街の警察はあてにならない。
七海はしゃがみ、身を隠しながらその光景を見ているしかなかった。
しかし不思議と心奪われた。
仁義無き殺し合いだというのに、たった1人で4人を相手にする灰色の怪人・スターダストが戦う様が力強く、儚く見えた。

「チクショウ!!」
「ハッ!ヤァァ!!」

スターダストはジャミンガーの放った拳を受け流して急接近すると拳の変わりと言わんばかりに肘で顔面を砕いた。
すぐに後ろから迫る敵には振り返ること無く、蹴りを加えると顔面を砕いたジャミンガーを上から背負い投げて潰す。

「ハッ!」

僅かに助走して左足で飛び上がり、空中で体をひねり、右足で蹴りつける。
アクロバティックでスピーディー、そして幾つかの格闘術を断片的に感じる戦闘術、だが受け流す、身代わりにするということをしても、根本的に交わす、避けるというダメージを回避することをしていない。
そんな自分の身を顧みない戦い方は初めてスターダストを見る者であっても哀愁を誘う。
重量感溢れる武器を全身に身につけ、接近戦を圧倒する。
しかしスターダストは自身というものを理解し始めていた。
本来、このように大量の武器を身につけた者が接近戦に向いているはずがない。
スターダストの真価が見られるのは、遠距離戦だということを。

「ッ!!」

スターダストは前方に向かって飛び出し、地面に手をつくと飛び上がって、ジャミンガーたちから距離を取った。
振り返り、右腕のガントレットのボタンを押すと、機関銃へと変形する。

Gatling Mode, Noise Force Bigbang!!

「Have a Good Night.<おやすみ>」

次の瞬間、赤と青の閃光が雨のようにジャミンガーたちに襲い掛かる。
その一発一発は重く、全身を貫き、彼らの重厚な鎧を吹き飛ばし、後にはボロ雑巾と化したブランドスーツの男たちがひれ伏していた。

「うっ…あぁぁ…痛い…痛い…」
「助け…て…くれ…」

「心配せずとも、ここから救急外来までたった100メートル、歩いて1分も掛からない。別に止めない、行け。その足で歩けるならな」

スターダストはドスの聞いた声で吐き捨てると、足を進めた。
彼らはスターダストの攻撃で足を重点的に撃ち砕かれ、捻れており、立つことすらもままならない状態だった。

「…最後はお前だ」

スターダストが向かった先にはValkyrieの客がいた。
入院着を着て、車いすに乗った10歳、11歳程度の少年だ。
大きめの瞳に前髪が鼻の下まで垂れ下がり、顔や肌が見える部分は少なからずアザや切り傷が見受けられる。
その容貌だけで、長期間、この病院に入院している人間だと分かる。
スターダストが近づくに連れ、睨みつけるような視線を向け、ユナイトカードを両手で強く握り締めた。

「カードを捨てろ」
「…嫌だ…絶対に嫌だ!」
「捨てろ」
「これがあれば…できるんだ」
「…早く捨てろ。腕ごと吹っ飛ばされたくなければ」

スターダストはガトリングを装備した右腕をカードを握る少年の手に向けた。

「これがあれば…もう一度、立てる!もう一度、歩ける!あいつらみたいな連中に仕返しだってできるんだ!!」

「仕返し?」
「そうさ…半年前、オレは同じクラスの連中に階段から落とされた!それでこのザマさ!!」
「身体中のアザは?」
「それまでも殴られたり、蹴られたりしてた!でもやり返すことはできなかった!力の差や頭数だけじゃない!!もし内申や経歴に傷がついたら…」
「家族か」
「そうだ!!もし連中に階段から落とされなければ、陸上の特待生で学費免除で中高一貫の学校に進学できるはずだったんだ!!母ちゃんと妹に楽をさせてやれるはずだった!!でも怪我のせいで進学はダメになって、入院費を払うために母ちゃんは必死に働いて…」
「……」

少年は涙を流し始めた。
スターダストにも少年の辛い気持ちは痛い程に伝わってくる。
1対1の環境でシンクロは少年の心を丸裸にする。
スターダストは左の拳を握った。

「あいつらはオレの未来も!母ちゃんの笑顔も奪ったんだ!!必死にリハビリしても、退院まであと半年は掛かる…まともに歩けるようになるまで更に2年は掛かる…この治安の悪い今のデンサンシティの普通の公立校を卒業したんじゃ、まともな就職なんてできない。就職できても母ちゃんと妹に楽なんてさせてやれない!」
「カードを使っても、手に入るのは力だけだ。幸せな生活は手に入らない。連中に復讐してもその後はどうする?」
「…戦うさ…アンタみたいに」
「何?」
「アンタなんだろ?港の工場で不良の集団を殺したの」
「……」

沈黙が流れた。
少年は目の前にいる灰色の鎧と仮面の男が人殺しだと確信しながら、まるで恐れずに澄んだ瞳で見つめている。
そしてスターダスト=彩斗はあの夜の事を克明に思い出していく。

「あいつらが殺されたって聞いた時、不思議と希望が湧いてきた。力さえあれば、アンタみたいに街のゴミを叩き潰せる…!オレみたいな思いをする人たちを助けられる…もう…オレの人生なんか…」

少年の考えていることはスターダスト=彩斗の考えていることに近かった。
少年は既に自分の人生を諦めていたのだ。
その上でまだ救えるかもしれない人の人生を守ろうと純粋に思っている。
確かにユナイトカードの力を使いこなせるならば、それはできるだろう。
しかしスターダストは気づけば、右腕のガトリングを解除して、少年の頬を叩いていた。

「え…?」

「「もうオレの人生なんか」だと…?努力もしてないくせに、走れなくなったから、自分の人生そのものを諦めるだと!?甘ったれんじゃない!!!生きたくても生きられない人間の気持ちを考えたことがあるか!?」

スターダストは裏声も出すことも忘れ、その高くはっきりとした声で少年を叱咤した。
少年とスターダスト=彩斗の違い、それは先の運命、そしてこれまでやってきたことだ。
少年は走れなくなっても、病気になったり、事故に遭わない限り、あと70年は生きられる。
自分の努力次第でいい学校に入ることも、幸せを手にすることもできるのだ。
しかし彩斗は違う。
どんなに努力しても、近いうちにその生命自体が燃え尽きてしまう。

「もしかしてアンタ…病気なのか…?」
「復讐、人助け、理由は何であれ暴力を奮うことの痛みの辛さを知ってるか!?口ではあいつを殺してやりたい、あいつに痛い目を見せてやりたい、言うのは簡単だ!だが殴られる側の痛みを誰よりも知っているお前にその道を選ぶ覚悟があるのか!?怒りに任せて、暴力を奮って、殺して、その感覚を背負ったまま生きられるのか!?」」

そして少年は全く想像もつかないであろう、人を殺すという感覚を彩斗は知ってしまった。
確かに殺してやりたい程に憎い連中だったし、死んで当然だと思っている。

「お前の言うことも理解はできる。僕も復讐心から力に手を出し、人殺しの感覚を知った」
「…どうだった?」
「恐怖に怯える獲物を甚振るように、だが容赦は無く。今までの自分の行いを後悔しながら、マヌケな声を上げて死んでいく様子に達成感を覚えて…次の瞬間には全身の血が凍りついていく感覚がこみ上げてくる」
「後悔してるの?」
「してない。でも…それがどんなに憎くて殺してやりたくて、死んで当然だと思うような相手であっても、その事実自体が後戻りをできなくさせてしまうんだ」

少年は目の前の冷血のはずの人殺しは、誰よりも温かい血が通い、自分の苦悩がちっぽけに思えてしまう程に悩み、苦しんでいることを悟った。
スターダストは少年の未来のほぼ体現に近い。
しかし少年には未来があり、彩斗には無く、後戻りもできない。
だからこそ、自分の未来が無いのなら、自分と同じ苦しみを背負う誰かの未来をと、踏み切ることができた。

「ここで踏み止まることができなければ、僕と同じ苦痛を味わう。もうすぐ朽ち果てる僕と違って未来のあるお前がわざわざ未来を捨てる必要なんて無い。早くカードを捨てるんだ!」
「でも…」
「いいか!?カードを使えば、間違いなくお前は道を踏み外す!自分は力に溺れない、正しく使えると思ってるかもしれない!だがそのカードは力の代償に人間性を壊すんだ!」
「……」
「実際にカードを使って、そこで這いつくばってる連中が今の戦いで僕を殴ることに痛みを覚えていたと思うか!?人を傷つける痛みすらも忘れさせてしまうんだぞ…!」
「ッ…!?」

「まだ分からないか!?人を傷つける、暴力を奮うことの痛みと辛さを忘れてしまったら、お前を傷つけてきた連中と同じだ!今からお前が復讐しようとしている連中と何も変わらないんだ!」

彩斗としての怒号に少年は我に返ったように怯え始めた。
今まで自分が抱いてきた憎しみで可能性ある未来を全て捨てようとしていたことに気づいたのだ。
しかし同時に浮かんできたどうしようもない不安が口から漏れた。

「オレ…今からでもやり直せるかな…?」
「あの病室が見えるか?」

スターダストは3階の病室を指差した。
七海は慌てて身を隠す。

「あの病室の患者は一度、今のお前と同じようにクラスメイトから暴行を受けて入院したことがある。瀕死の重体で手術は難航したらしい。足に至っては両足が骨折、筋肉に損傷があったらしい。だが彼女は生き抜き、必死のリハビリで僅か1年で歩けるようになった」
「……」
「しかし彼女は自分を暴行した相手が憎かったはずなのに、法の裁きに全てを委ねて、自分は少しでもいい未来を手にしようと必死に勉強して、自分と同じような目に遭っている人に寄り添って力になり続けた」

「…ミヤの話…?」

七海はスターダストの語る話に心当たりがあった。
そしてその同時に、何処かで聞いたことがあると思っていたこの声の主の顔がぼんやりと頭に浮かんでくる。

「まさか…」

「今のお前のようにカードに頼ることもなく、傷ついた人の心の支えになる。それがどんな復讐よりもその人の助けになると彼女は知っている。それがお前との違いだよ」
「そんな綺麗事…」
「お前が彼女の生き方をどう思うかは勝手だ。だが、これだけは覚えておくんだ。僕のように復讐に走ってから後悔したくなかったら」
「……」
「確かにやられた側は相手を憎む、復讐してやりたいと思う。だが本当に望んでいるのは、側にいて親身になって話を聞いて、支えてくれることなんだ。お前が誰よりも分かってるはずだ」
「……」
「それでもお前がカードを使って、自分ため、同じように苦しむ人たちのために復讐をするって言うんだったらもう止めないさ。だが…」

少年は自分の両手で握り締めたカードを見た。
そしてスターダストは再び声を裏声に戻し、最後の一言を口にする。

「もしお前がカードの力に飲まれたらオレの敵だ。その時が来たら、命は無いと思え」

「ッ!?」

スターダストは背筋が凍りつくような威圧感を持った剣幕で言い放った。
少年はさながら蛇に睨まれた蛙だ。
スターダストが背を向けて去っていく様子を見ながら、不思議な安堵感と悩みが生まれ、再びカードを強く握り締めて悩んだ。。

「オレは…どうすれば…」

スターダストは病院の裏手の方に向かった。
ちょうど七海が入ってきたのと同じの方向だ。
七海はすぐさま病室を飛び出して、階段を駆け下る。

「ハァ…ハァ…」

裏口から飛び出し、柱の裏に隠れて息を潜めた。
ゆっくりとスターダストはやってくる。
何か手に持っている。
先端が、ちょうど何かの鍵のような形状をしているもののスイッチを押した。

「ッ…」

次の瞬間、裏口の花壇の前に閃光が走り、純白に青の美しい幻影が現れた。
CBR1000RRのアグレッシブな外見を引き継ぎつつ、ベースを遥かに越えたスペックを誇るスター・イリュージョンだ。
スターダストはオプティカルカムフラージュ、すなわち光学迷彩を使ってイリュージョンをその名の通りの幻影さながらに隠していた。
重い足を上げて、跨るとキー使って始動する。
しかしその時、スターダストはその持ち前のシンクロで自分を見ているものの存在を感じ取った。

「誰だ!?」

反射的に右腕をブラスターを変えて銃口を向ける。
七海は背筋が凍ると同時に、あのブラスターの引き金を引かれれば、自分の身はこの柱もろとも軽く貫かれてしまうと悟った。
このまま隠れている方が危険と考え、両手を上げたまま、ゆっくりとスターダストの前に姿を現した。

「お前は…」
「沢城くん…」

スターダストは七海の顔を見るやいなや、銃を下げた。
七海は心に安堵が生まれ、ふと深呼吸して、口を開こうとする。
スターダストには聞きたいことが山のようにあったのだ。
しかしスターダストはクラッチを握って、シフトペダルを踏み込むと、虹ともオーロラとも見分けがつかないものに包まれて姿を消した。

「待って!!」

七海は前進するが、電波空間に入り込んだ存在は常人の目には見えない。
頭がこんがらがり、少年のようにその場に立ち尽くす。
理解できないことがこの数分の間に起こりすぎて思考回路が止まる。
悪意の渦巻く街の一角で、七海は再び夢の世界に引き戻された。




 
 

 
後書き
すごく久しぶりにスバルにスポットが当たりました。
スバルはスバルで裏で動いていました。

夜の街では一晩の間に色んなことが起こりまくってます(笑)
しかしミヤの過去だったり、今まであまり描いてこなかった街の風景や人の方にも手が出せて個人的にはすっきりした感じです。

ちなみに電気街は秋葉原、臨海区はお台場、港区近辺をイメージしています。
 
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