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乱世の確率事象改変

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麒麟を封じるイト



 広い屋敷の一部屋。通された先で待っていたのお茶とお菓子。懐かしい味だなとお茶を啜っていた。娘々秘蔵の緑茶を取り寄せているらしく、ほっと安堵するその味に、彼は穏やかに微笑みながら板間に座っていた。
 ちなみに、二人の男達は部屋の外。自分達が入るべきでは無いと弁え、直立不動のまま腕を組んで目を見張っている。

「お茶がうめぇ」
「あんたってほんと緊張感無いわよね」
「関羽の狼狽ぶりを見たら緊張なんざ解けちまったよ」
「それは……」

――そうだけどさ。

 消えた続きは内心に。明らかに狼狽えていた愛紗を見て、感情が高ぶっていた詠であれど僅かな罪悪感が湧いた。
 雛里が持つ完全拒絶には少し足りない。彼への愛情が深くなり過ぎた雛里は罪悪感など微塵も持っていないが、詠はまだ淡い恋に溺れはじめた所なのだ。
 自分が行った結果であれど、やはり真名の返還という本来有り得ない侮辱行為に心が軋むのも詮無きこと。

「……遣り過ぎたかな?」
「いんや、いいんじゃねぇかな。軍師としての判断を忘れなければ。
 クク、中々どうして、本心を混ぜてたっつっても悪役っぷりが板についてたし」

 喉を鳴らして苦笑する彼はいつも通りに茶化して来た。真名の返還に対して、本当に何も感じていないと読み取れる。
 驚きが半分、納得が半分。

 驚愕の理由は、大陸の人間にとっての侮辱行為に心を動かさない彼が、やはり通常の人とは逸脱した所にあると思うが故に。
 納得の理由は、袁家の戦を越えて、真名を世界に捧げさせるという常軌を逸した結果を描いたのは他ならぬ彼と華琳であり、それならば当然、真名の返還程度で心が揺らぐわけが無いと感じるが故に。

「……悪役ってなによ」
「拗ねるな。クク、いいじゃねぇか悪役。どうせ俺も華琳も、みぃんな悪役なんだから」

 ぶすっと唇を尖らせた詠に対しても、彼はゆるい笑みで受け流すだけ。
 よく分からない持論を展開して罪悪感を溶かしに掛かる、いつもの手だった。

「善とか悪とか、あんたの口から出るとは思わなかったわ」
「世の中を良くする為って理由で人殺してる時点で良いも悪いも何処にもない。でも劉備軍の面々と、あいつらに作られた平和の中で暮らす人間達にとっちゃ俺らは悪い奴だ。だから悪役って言い方がしっくり来るだろ?」

 なるほど、と一つ唸った詠は湯飲みの中のお茶を見つめる。
 上機嫌な彼は、また一口お茶を啜って口を開く。

「えーりんなら分かってると思うけど、華琳は無駄に戦を広げる奴じゃねぇよ。戦う以外で従える事が出来るならとっくに行動してる。西涼と益州と揚州に使者を送ったのはその意味もある」
「そりゃ……分かってるわよ」

 また唇を尖らせて、聞かせてくれと目だけで伝える彼を睨んだ。

「西涼が漢の忠臣だっていうのなら帝に従うことを選んでもいい、孫呉が嘗て手に入れた大地を守りたいなら此のまま安寧を求めてもいい、劉備が他者と手を繋ぎたいと願うなら此処で安穏と暮らせばいい……帝という天と、曹孟徳という覇王に頭を垂れて永久の忠誠を誓うという絶対条件の元で、ね」
「正解……一度でも頭を垂れれば、安定した地盤と中央権力、天たる皇帝と民心の革新を手に入れてる俺達の勝ちが決まり、絶対に勝てない政治戦争だけで終わる。暗殺も裏切りも内乱も起こせないよう、あの官渡で逃げ道は封じてあるんだから」

 吊り上った口元でお菓子を一口に頬張った。美味いと零してまた笑う。

「まあ、何より……戦をすればするほど人間って人材が失われるからな。たかが一兵士であろうと、煌く才を持っている可能性だってあるんだよ。心の底から折れて従うってんなら、それもまた良しと敵と見做していたモノに失望しながらも満足するだろう。
 華琳は乱世で自分を試したい欲望よりも、世の中を輝かせる才能の華の方が欲しい。覇王様は煌く才能を持ってる奴等だけじゃなくて、人間って存在が大好きなのさ」

 楽しそうに語る彼は、その瞳に憧憬と信頼を乗せて。
 出会った覇王が“名のある輩を求めるだけの下らない人間”では無くて心底嬉しかった。
 史実通りに、現代で語られている通りに……“貴賤の別無くまだ見ぬ才を求め、愛する人間”であったことが嬉しかった。

――なによ……嬉しそうに話しちゃってさ……

 詠の心に僅かな嫉妬が生まれる。チクリと痛む胸と、不機嫌に寄せられる眉が物語っていた。
 ただ、饒舌に語る彼が珍しくて、話を止めようとは思わなかったが。

「そんでもって“西涼や孫呉や劉備が絶対に抗うと分かってる”からこそ、この乱世が哀しいのに嬉しくて嫌いなのに好きで好きで堪らない。
 自分が全力を出して楽しめる乱世と、才持つ輩を自分の力で手に入れる充足感と、自身に抗う気概を持つ愛しい好敵手を得られるんだから」
「なんか……華琳もあんたと同じくらい変な奴よね」
「変で結構。華琳ならそう言うんじゃねぇ?」

 拗ねた口調のまま言ってみた詠。くつくつと喉を鳴らした彼は詠の頭を軽く撫でる。

「うぁぅっ! 気安くさわんなバカっ!」
「いてっ……す、すまん」

 普段通りに肩を叩かれて、コホンと咳払いを一つ。また話を戻そうと。

「……後の世で失われる命さえ勘定に入れてるから、零れちまう命を分かってる。全てを救うとかほざいちまう傲慢で欲深い王じゃない」
「……欲深い? 欲張りじゃなくて?」

 疑問を一つ。
 言い方一つの問題だが、彼が嫌悪を僅かに浮かべたことが引っ掛かった。

「欲深いって言えば欲張りより強欲の業が深い気がするだろ? 欲張りだったら意地っ張りな華琳にはお似合いだし」
「まあ、なんとなく分かるけど……」

 思い返せば確かに華琳と言えば欲が深いというよりは欲が張ってる感じだと思った。
 なんとなくしっくりきたことで詠の心にもストンと落ちる。納得した彼女を見て、尚も彼は続けて行った。

「全てを救えるってのはさ、欲深い考えだと俺は思う。近くに居る奴等が大事なだけの人間にしか口に出来ない言葉だ。
 だって乱世なんかしちゃあ、“あいつが望む全て”を救うなんざ出来っこねぇ。
 あいつが欲しいもんは“只の人間”にさえ宿ってる。自分が命じて殺す兵士にも、自分が命じて命を捨てさせる兵士にも、攻め入る街にも、攻められる街にも」
「あ……」

 呆然と詠が一息零した隙にと、彼はまたお茶を一口啜る。

「あいつが救いたいのは“全て”だけど、あいつは“全て”を救えないって分かってる。
 華開くことなく失われるのが哀しくて、でも華開かせようと抗う姿が愛おしくて……故にあいつは救いたいと願う“全て”に、誇り持ち強く在れと願い先導する。
 大事な奴に対して“死ね”って命じられる覇王だから、その言葉に重みと想いが宿るのさ。誰かの命を使ってでも手に入れたい平穏がある……“国の幸せ”を考えるってのはそういうこった。
 切り捨てられる誰かにとっちゃ悪役で、救われる奴等にとっちゃぁ救世の英雄。冷たい選択を決断し実行できるもんは世界に一番必要で、貧乏くじを全部自分のモノにするような悪役だ。
 そんな誇り高い悪役と同じなら、別に俺は悪役でも構わねぇって思うがね」

 合わされた瞳が伝えるのは真っ直ぐな信頼。
 嘗て劉備軍に所属していた黒麒麟が、絶対に主に持たなかったモノ。
 幻想に対する信仰に近しい捻子曲がった信頼を向けていた彼とは全くの別感情。

 詠の胸に湧く感情は安堵と切なさであった。

――ホント……あんたって最初に華琳と出会ってたら救われてたんでしょうね。

 出来れば月と出会って欲しかったが、とは口が裂けても言えない。
 今ある関係が全てだから。仲良くなってしまった今では、華琳達と戦うことなど考えたくも無かった。

 そんな彼女の内心を知るよしも無く、詠がふるふると首を振ったと同時に……穏やかに微笑んだ秋斗は詠にとって思いもよらない言の葉を零した。

「だから安心しとけ、えーりん。
 “同じ悪役を全うしようとしてた”黒麒麟は、絶対に華琳と共に戦えるんだからよ」
「え……」

 お茶を啜りつつ瞼を閉じた秋斗はそれ以上言うつもりが無いと態度で示す。
 取り込むには一瞬過ぎて理解が追いつかず、詠は慌てて聞き返し――

「ちょ、ちょっと、今あんたなんて言った――――」
「お待たせしましたっ」

 がらりと開けられた引き戸からの声によって、問い詰めを中断せざるを得なくなった。
 今はいい。後で絶対に聞き出してやると心に決めて、詠はイヌミミフードを揺らして振り返る。

 其処には錚々たる面々が居並んでいた。
 美髪公と謳われる軍神は先ほどの狼狽ぶりからは打って変わって引き締まった表情を浮かべ。
 艶やかな青い髪を棚引かせる昇龍は飄々と微笑みながらも気を抜くことはなく。
 紫髪たおやかで母性の象徴を揺らす妙齢の女は、なるほど武人と言わざるを得ない気配を放ち。
 銀色の髪と切れ長の目を持つ美女は、実に楽しそうに敵と思われる黒をじっと見据え。
 離れた位置には先程のオレンジメッシュの女も、何か言われたらしくしゃんと背筋を伸ばして控えている。
 詠よりも少しばかり背の高い藍色の髪の乙女にあるは知性の鋭さ、随分と見慣れた水鏡塾の衣服を着こなす姿は智者の証明。

 その中心。その真ん中には……桃色の、柔らかい覇気を纏った王がゆったりと立っていた。
 豪華な人員での対処に少しばかり驚きつつも、詠が気圧されることは無い。

――……前よりは随分とマシになった。

 緊張しているのは分かる。瞳の奥底に怯えも見受けられる。それでも纏う覇気は王以外の何物でもなくて、他の者なら圧倒されていただろうなと思った。

――でも、魏の五大将と六軍師が並んだだけの方が威圧感あるわね、これじゃ。

 しかれども、王が中心に立っていても感じられない“格”があった。
 経験と信頼、自信と自負によって磨き上げられてきた“格”が。

 何も言葉を発さず、詠は立ち上がってお辞儀を一つ。座ってからが本番だと無言で示した。
 反して、彼は立ち上がることすらしなかった。振り向くことすらしなかった。礼を失した行いなのは明らかであるのに、である。
 あぐらを掻いたまま何も言わず動かない。詠は咎めようと口を開きかけるも……一つの影が動いたことで噤むしかなかった。

「おっかえりーなのだ!」
「うぉっ」

 駆ける速度は並の人間では出せぬ程。小さな体躯に赤髪を揺らして、その少女――鈴々は黒の背中に思いっ切り抱きついた。

「……お兄ちゃん、久しぶり!」
「……ちょっとは場を弁えろ」
「知ったことかぁなのだ!」

 首を回して見てみれば、顔と顔が触れ合う程の距離で笑顔の華を咲かせる鈴々。
 咎めるもニコニコと上機嫌に返し、全く離れるそぶりさえ見せない。
 仲のいい兄妹とも思える二人の様子に、微笑ましく頬を綻ばせたのは桃香と紫苑。ずっと何処か影があった鈴々に昔のような笑顔が戻った、桃香にはそれが嬉しかった。
 紫苑については、初めて見る甘えた姿に驚きつつも、自分の娘と身長が変わらない鈴々の見た目相応な様子に、子を見守る母の視線を向けている。

「ちゃんとした場を組んだというのに……今は我慢しろ、鈴々」
「や! なのだ!」
「おやおや……相変わらず幼子を誑かすのが上手いことで」

 苦い吐息を吐き出した愛紗が言っても鈴々は舌を出す。星に至っては彼をからかう事にしたらしい。
 新参の藍々、焔耶、厳顔は三者三様にその様子を見守るだけ。藍々は油断ならないと厳しく伺い、焔耶は受け入れられているその男を睨みつけ、厳顔は苦笑しながら彼と鈴々のやり取りを興味深く観察していた。
 緩い空気が流れていた。いつでも、劉備軍を包んでしまう緩い空気が。

 不純物が混ざっていても、誰も違和感を覚えない。たった一人、詠以外は。

――バカね……其処に居るのは確かに秋斗だけど、あんた達が知ってる黒麒麟じゃないってのに。

 聴こえないように毒づいて、心の中で拳を握る。憐れで滑稽な道化師が決めた、ギリギリの選択を露見させない為に。
 嘘を吐いて、嘘で固めて、嘘で彩り、嘘で確立する。
 偽ることを嫌う彼が取った選択肢。目が覚めてから続けてきた、彼にしか出来ない演目を。
 些細な違和感を与えようとも、それが明確な答えを与えることは無い。
 曖昧に、誤魔化し、ぼかし切る。いつも通りに、なんのことやあらん、と。

 日常で暮らす普段の笑みを浮かべる姿は、劉備軍でも曹操軍でも変わらなかった。だから分からない。

――わざわざ敵に情報を与えてやる義理は無い。

 黒麒麟をずっと支えてきたのは雛里だけで、自責の罪過から守ってきたのは雛里と月と詠だけ。だから彼女達は気付かない。

――完全な敵では無く敵か味方か分からない状態の方が、俺の目的成就には都合がいい。

 詠でさえ彼の本当の狙いなど知らない。
 早回しのように進んで行くこの乱世で、彼が唯一恐れている事態が何かなど……知る由も無い。

――“あの場所”で戦をしなけりゃ曹操軍に負けは無く……乱世は迅速に収束する。

 どれだけ早回してもその都度修正されるかのように大きな戦が歴史通り動くこの世界で、絶対に起こしたくない戦があった。

――黒麒麟が狙っているのはあの戦。俺なら絶対にその戦で覇王を倒す。劉備軍に所属して益州まで来ちまったなら、そうするしかないはずだ。

 黒麒麟とは真逆の思考。覇王の敗北を回避する為に彼はいつでも思考を回してきたのだ。
 裏を返せば……“もし自分が黒麒麟なら”、その戦で必ず“世界を変える”と計画するに違いない。ならば万が一、不可測の事態で自身が黒麒麟に戻り、今の自分が消えてしまったとして……せめてその戦だけは起こさないように準備しておかなければならない。

 数学の証明の如く答えに至る道筋を出していたのなら……同じ答えに行き着く別の道筋も積み上げられる。

 三国志の中核を担うその戦は……未来を大きく左右した、この時代で最も大きな確率収束点。

――お前が華琳を倒す為の……“赤壁の戦い”なんざ絶対に起こさせねぇから、お前は大人しくあの子と幸せになってろ……黒麒麟。

 逆に赤壁で曹操を勝たせればいいだろう、と彼は考えない。
 記憶の問題がある以上、僅かな可能性であれど排除し、華琳が黒麒麟を留めて置ける環境を作り上げることこそが最善。
 事前準備の段階から手を抜かない。抜くはずがない。
 あの子が笑顔である為に。あの子に幸せを与える為に。それだけが彼の行動理由なのだから。

 自分が黒麒麟のままであると思わせることが出来れば、それだけで策の幅が広がるというモノ。
 ただ、演じるのは骨が折れる。なんせ、彼女達に絶対にバレてはならないのだ。その為には詠の協力が不可欠。

 纏わりつく鈴々をひょいと抱き上げて視線を逸らし頭を撫でながら、困ったような顔を浮かべた彼は詠を見やった。
 二人だけが緩い空気に呑まれていない。溶け込んでいるように見えても、瞳の奥の冷たさだけはそのままだった。

「鈴々、そろそろ離れてくれない? ボクも秋斗も暇じゃないのよ」
「いやなのだ……あ、誰かと思ったら詠だったのか。久しぶりなのだ!」
「うん、久しぶり。でも失礼ね。ちょっと服が変わっただけじゃない」

 助け舟を出そうと語り掛け、敢えて鈴々の真名を呼び、彼女が真名を呼んでも咎めない。
 愛紗や桃香の目に疑念と哀しみが浮かぶ。義姉妹三人を同じ扱いにはしない詠の線引きを、彼女達二人も読み取っていた。
 聡く気付いたモノは鈴々以外。詠の対応と桃香達の反応を、秋斗に後ろから抱えられるカタチの鈴々以外はおぼろげながらも理解する。
 これで劉備軍独特の空気は打ち砕いた。あとは徐々に話を変えればいいだけ。

「そんな帽子の服着てるからくるくるのお姉ちゃんとこのネコミミのお姉ちゃんかと思って……」
「ふふ、冗談よ、気にしてないわ。それよりちゃんとあんたの場所に行きなさいね? このままで居るんだったらボク達仕事出来ないし帰るしかなくなっちゃう」
「むぅ……それも嫌なのだ」
「ちゃんとしてたら後で時間取れるかもよ?」
「なら戻るのだ! お兄ちゃん、またあとで!」

 ててっと駆けて行く鈴々。それに倣って、劉備軍の面々も漸く動き出した。
 こういった誘導はいつもなら得意なはずの彼だが、どうやらまだ黒麒麟になり切れないらしく。目礼一つで感謝を伝える秋斗に、貸し一つよと詠は鼻を鳴らした。

 桃香が上座に座ると同時、両隣には愛紗と鈴々を、次に星と藍々、紫苑に厳顔、最後に焔耶が立ち並ぶ。

「では……」

 声を出したのは彼だった。やっと彼女達をちゃんと見た彼の顔には、不敵な笑みだけがあった。

「お初の方々は初めまして、旧知の方々は久方ぶりです。知らぬ方が居られると思いますので自己紹介をば。姓を徐、名を晃、字を公明と申します」

 大きな戦を越えて完成されたパズルを元に、偽りの自分を演じて行く。
 願いを共にした旧来の友と、兄のように慕う少女と、肩を並べて戦ってきた同僚と……捻子曲がった信頼を持って妄信していた主の前で。

――嘘を付こう。演じてみせよう。歴史をなぞらず、世に俺達が望む平穏を作り出そう。

 川の流れは大きくなれば変えられない。だから、彼は湧水が川を作り出す前に手を打つことにした。
 いつも通りに、彼の想いの行く先はたった一つ。
 大きくなった濁流が、一人の少女を押し流すことのないように、と。自分が作り出した清流に乗って、愛しいモノの元に行けるように、と。

――あの子の為に、俺の為に。

 渦巻く黒の瞳の奥底で、彼女の笑顔が浮かんでいた。
 また、彼が演じる黒の演目が幕を開ける。

 
 

 
後書き
読んで頂きありがとうございます。

黒の思惑、仕掛けるイトのお話。
華琳様は曹操なので、たかが有名な将如きでは満足しません。
唯、才を求める。をちょっと広域に曲解したモノが、この世界の華琳様のお考えです。

彼は赤壁を回避したいようです。

次は「話し合い」本番。
近いうちに上げます。

ではまた 
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