| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ハンバーガー

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

6部分:第六章


第六章

「最初はまさかと思いましたが」
「だが分析結果は事実だな。間違いないな」
「信じたくはなかったですが」
 答えはハリスのものと同じだった。
「その通りです」
「やはりな。あの店は人肉をハンバーガーの素材にしていたのだ」
 これで証拠は揃った。証拠は、である。
「さて。後は逮捕するだけだな」
「ですが主任」
 ハリスは蒼ざめた顔でまたホージーに尋ねた。
「何だ?」
「どうしてわかったのですか」
 彼女が不思議に思うのはそれであった。
「どうしてかか」
「はい。普通はわかるものではありません」
 彼女は言う。
「肉のルートは企業秘密である場合が多いですしそれに食べてしまえば証拠にはなりにくいです」
「その通りだ」
 食べれば後は排泄されるだけだ。だから証拠にはなりにくいのだ。過去にこれで犯罪が隠されていたこともある。所謂食人殺人鬼である。
「ですが何故それがわかったのですか。それはどうして」
「目だ」
 彼は一言で答えてきた。
「目ですか」
「そうだ」
 ハリスに対して頷いてみせてきた。
「目でわかったのだ」
「どういうことですか?」
「俺が学生時代中国について勉強してきたのは言ったな」
「はい」
 それはもう聞いていた。だから頷くことができた。
「それは既に」
「それだ」
 彼はそこだと言ってみせた。
「それなのだ。問題は」
「といいますと」
「中国の言い伝えにあるんだよ」
 今度は言い伝えの話になった。
「中国では人を食った場合は」
「食べた場合は」
「目が赤くなるんだよ」
「目がですか」
「そうさ」
 にこりと笑って二人に告げた。
「あの時な」
「店の前を通った時ですね」
 ハリスはその時のことだとすぐに察しをつけた。
「ああ、あの時並んでいた客が目の赤いのが多かったからな。それでわかったんだよ」
「そうだったのですか」
「言い換えればそれを見ないとわからなかったな」
 自分でもその実感はあった。だからあえて言うのだった。
「とてもな」
「左様ですか」
「ああ。それでだ」
 彼はまた言葉を述べる。
「本格的な捜査に行くぞ。早速な」
「わかりました。ところで主任」
 ハリスは立ち上がろうとするホージーに対してここで声をかけた。ホージーもそれに応えて浮かせようとした腰をまた下ろして彼女の話を聞くことにした。
「何だ?」
「目が赤いということですが」
「ああ」
 彼女が問うのはそこであった。
「どうしてそうなるのでしょうか」
「何でも中国では悪霊の目は赤いそうだ」
「悪霊の目は、ですか」
「そうだ。それで人を食うのは言うまでもなく罪だな」
「はい」
 これはどの国でもどの場所でも同じことだ。人が人を食うというのがこれ以上はない程の大罪であるというのは何処でも同じなのだ。もっともそれでもこうした話は各地に残っているのだが。
「罪を犯した人間は悪霊と変わらないということだな」
「それを知らなくともですか」
「少なくとも法律的には罪はないさ」
 客に関しては、という意味だった。肉を食ったその客達は。
「信仰でもな。彼等は騙された側だ」
「ええ」
 アメリカでは思いの他信仰心について五月蝿い。それでホージーも信仰についても言及したのである。
「けれど。食べたということには変わりがないからな」
「そういう罪ですか」
「そういうことだな。罪は罪だ」
 彼は言う。
「例えそれが知らないで何も道義的には責任がなくてもな」
 そこまで言うと今度こそ本当に席を立ち捜査に向かうのだった。それから暫くオマハはこのおぞましい事件で世界を騒がせるがそれはまた別の話だ。だが赤い目によって一連の失踪事件が解決したのは紛れもない事実だった。その罪により。


ハンバーガー   完


                  2008・3・8
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧