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ハンバーガー

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『怜、海斗の元へ』


第二章

「それに大型の肉食獣の事件にしてはあまりにも広範囲です」
「それもそうだな」
「それにです」
 ハリスはまた言ってきた。
「その肉は刃物で削り取られていました」
「刃物でか」
「そうです。かなり奇麗に」
 こう述べるのだった。
「なくなっていました」
「他殺か」
 ホージーはそれを聞いてこう考えだした。
「だとすると」
「その可能性は高いかと。ただ失踪した人間は実に多岐に渡ります」
「そうだな」
 またハリスの言葉に頷いた。
「職業も年齢もバラバラだ」
「はい」
「性別もな。ただ皆そんなに太ってはいないな」
 ここが重要だった。
「この国で太っていない人間を探すのは結構骨が折れるのだがな」
「その通りです」
 アメリカでは長い間国民の肥満が問題になっている。これは肉や菓子の摂り過ぎが原因だと言われて久しいが改善する兆しはない。彼等自身が困っていることに。
「その中で比較的健康で筋肉質の人間が失踪している」
「不思議な話だ」
「手懸かりが本当にありません」
 ハリスはあらためてこう言う。相変わらず困った顔で。
「カルト教団や快楽殺人者ではないかといった話もありますが」
「それが二百人も殺すか?」
「それも考えられないかと」
 すぐにホージーに答えた。
「幾ら何でも。しかも死体は」
「今のところ見つかっていない」
「あくまで殺人事件なら、ですが」
 一応はこう前置きする。心の中に思っていることは伏せて。
「ですが本当に何もありません」
「失踪してから本当に何もないからな」
「このままではこの捜査は」
「まあそれはまだ言わないことにしよう」
 ホージーはそこから先は言わせなかった。
「まだ捜査もはじまったばかりだ」
「ええ」
「丁度いい時間だ」
 自分の言葉に頷いたハリスに対して告げる。
「食事にしないか」
「何にしますか」
「ハンバーガーはどうだ?」
 こう彼女に提案してきた。
「最近この街で評判の店があるんだ。そこに行かないか」
「ハンバーガーですか」
 しかし彼女はここで微妙な顔をするのだった。
「それは今は」
「何だ?今日は駄目な日か」
「申し訳ありません」
 彼女もホージーの今の言葉に応えてこう述べるのであった。
「戒律的な理由ということです」
「そうか。なら仕方ないな」
 ユダヤ教においては肉等を食べない日も存在する。それであった。ユダヤ系の多いアメリカではこのことはよく知られていることである。
「じゃあ他の何かを食べに行こう」
「和食はどうでしょうか」
「和食!?」
 和食と聞いてホージーの目が少し動いた。
「和食か」
「豆腐や野菜を食べるのもいいものですが」
「それもそうだな」
 腕を組んで少し考えてからの言葉であった。
「健康的だしな」
「そうです。健康にはやはり和食です」
 ハリスも言う。
「それで如何でしょうか」
「そうだな。本当は中華料理にするつもりだったが」
「あれは豚肉を多く使いますので」
 今は駄目だと。そう述べるのだった。
「できれば今は遠慮させて頂きます」
「わかった。じゃあ和食にしよう」
 彼は決めた。
「それでいいな」
「ええ。それではそれで」
 あらためてホージーの言葉に頷く。
「御願いします」
「うん。ではな」
 二人は同時に立ち上がってそのまま事務室を出て駐車場に向かう。そこから車に乗りそれで街のジャパニーズレストランに向かうのだった。和風の外観と内装の店に入りやはり和風のテーブルに向かい合って座ってからハリスがホージーに言ってきた。
「そういえば長官は」
「何だ?」
「アジア系の料理をよく食べられますね」
「ああ、確かにな」
 ホージーの方もそれは否定しなかった。目を少ししばたかせながら答えるがこれはたまたま目が乾いていたからに過ぎない。
「大学でアジアの歴史について学んだからな」
「アジアのですか」
「ああ。中国が専門だった」
 こう述べる。
「とはいってもあれだ。料理の歴史だ」
「成程」
「よく言われるだろ」
 ここで顔を顰めさせるホージーだった。
 
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