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ウイングマン バルーンプラス編

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3 脱出

1.
敵は去った。
しかし、3人のピンチが終わったわけではなかった。
ステージ上に取り残されたアオイ、美紅、桃子を見つめるギャラリーが山ほどいるのだ。
今のこの恰好のまま、衆人監守の状況をどうやって逃れるのか。
一刻も早く抜け出したいところだが、3人は恥ずかしさのあまり何も考えることができない状況で少しの時間が過ぎた。

この場から逃げなければいけない。服をなんとかしなければいけない。それに、その次をどうするかも考えなければならなかった。
とにかくなんとかしなければいけないことが山積みだった。
ここは街のデパート屋上だ。
そして、目の前にはギャラリーが100人はいる。
どこかに行くにしてもギャラリーたちの見守る花道を抜けていかなければならない。
それにこの場から逃げ出したところでどこに行けばいいのかすらわからない。
ただ、このままではただ裸を見られているだけだ。こんな状態で落ち着いて考えることなんてできないが、なんとかしないといけないことは間違いなかった。

美紅は顔を真っ赤にしながらも、自分のできる可能性を必死で考えた。
花道を通るのは仕方ないとして、とりあえず身を隠すことができる場所は……

エレベータホールの横の階段から降りた踊場に女子トイレがあったことを思い出した。
トイレだったら身を隠すことはできるはずだ。そこなら常識的に考えて、男性が入ってくる可能性は低い。ギャラリーは別に誰かに操られているわけではない。自分たちをいやらしい目で見ているかもしれないが、とにかく、モラルのある一般人のはずなのだ。
それなら女子トイレに堂々と入ってくる、なんてことはしないはずだ。

しかし、トイレに籠ることができたとしても、自分たちが全裸であることには変わりない。
トイレでどうにか……
デパートには服だって売っている。しかし、それに手を付けたら泥棒だ。
いまは裸一貫、支払うお金など持ち合わせてはいない。
正義のために戦っているのに、犯罪を犯してしまったら本末転倒だ。
いくら恥ずかしいからと言っても、それはやってはいけないことだ。
「そうだ!」
美紅はひとつのアイデアを閃いた。
トイレットペーパーを活用するのだ。

「アオイさん、桃子ちゃん、私についてきて!」
美紅はそう言うと、ガバッと立ち上がった。
どこも隠してはいない。あの恥ずかしがり屋の美紅が自らの意志で立ち上がったのだ。
「美紅ちゃん!?」
アオイと桃子は驚いた。
美紅はときに大胆に、行動的になることがあった。
唖然としている2人をよそ眼に、美紅は花道に降りて走り出した。
どこも隠していないあられもない姿。その代り全力疾走だ。
目の前のギャラリーには、もうすでに何度も裸は見られてしまっている。
それなら、もう一度くらい見られても……
もうこのアイデアしか今の状況から脱する方法はない。
美紅の行動はそう考えたからの結論だった。

慌てて、アオイも桃子もそれに続いた。
「美紅ちゃんに何か考えがあるんだわ。それにかけましょう!」
もう恥ずかしいなんて言っていられなかった。
何もアイデアの想いつかなかった2人は藁をもつかむ思いだ。
「はい!」
美紅の全力疾走に続くには、恥ずかしがってなんていられない、
アオイも桃子も、胸も下半身も隠さずに飛び出した。
女の子3人が全裸で全力疾走で駆け抜けていく光景に、ギャラリーもあっけにとられた。そして、声もなくただ茫然と、立ち尽くしたままその姿を見送った。

屋上のエレベータホールに出た美紅たちは、その横にあった非常階段をダッシュで降り、その中段にある踊場の女子トイレに一直線に駆け込んだ。
幸いにもそのトイレには誰もいなかった。
ギャラリーたちも後を追いかけてくる可能性もある。そんなにゆっくりもしてられない。
トイレには個室が4つあった。
「とにかく、中に入って!」
美紅は一番奥の個室トイレに入ると、桃子がその横に、アオイは手前から2番目の個室に入った。
「トイレットペーパーを使えば隠すことができると思うの!」
その言葉を聞いてアオイと桃子も美紅の考えを理解した。
3人は自分の入った個室のトイレットペーパーを見た。
アオイのところのトイレットペーパーはほとんど使われていない状態だった。
しかし、美紅と桃子の入ったところはいくらかロールが少なくなっていた。半分くらいは使われてしまっていた。周りをみると予備のトイレットペーパーは見当たらなかった。
これで足りるのか?
2人の心に不安がよぎった。
別の個室に移動することも考えたが、追いかけてきたであろうギャラリーの声が気になった。とにかく、時間がない。
それに残る個室は1つ。そこにここ以上にトイレットペーパーがある保証はなかった。
もう迷っている場合ではなかった。


美紅と桃子はとりあえずあるトイレットペーパーで自分の胸と下を隠すためにカラカラとロールを引っ張り始めた。
美紅はある程度の長さを引っ張り出すとそれを使ってふんどしを作ることにした。自分のイメージできたトイレットペーパーを使って作れる下着がそれだった。
ロールの量から考えても失敗はできない。もちろん、美紅自身、ふんどしなんてしめたことはない。実際、どれくらい必要なのか検討もつかなかった。
しかしやるしかない。
慎重にふんどしをイメージをしながらカラカラとロールからトイレットペーパーを引っ張り出し、ある程度の長さになると折り返し、何重にもすることである程度強度のある布のようにな丁寧に折り返した。

一方、桃子は感覚的だった。
とりあえず、トイレットペーパーを引っ張り出すといきなり胸から巻きはじめた。
トイレットペーパーを片手で押さえて体を回転させた。
とにかく急がなければという気持ちで先走って、あまり深くは考えなかった。
くるくる回ると少し目が回ったが、さらしのようにすれば胸を隠してくれる。
桃子はまず、自分のチャームポイントを隠したかった。
自分の胸が標準より大きく、人から、特に男子から注目されているのはなんとなくわかっていた。でも、だからこそ人には奇異の目では見られたくなかった。
そんな思いで、念入りに巻いていると、気づいたときには残りのロールの量がもうわずかになっていた。
「あ!?」
桃子は慌てて回るのをやめた。
残りの量を考えると、額から汗が垂れてきた。
そして、汗でトイレットペーパーがベタついた。
水で溶ける!?
焦ったけど、冷静に考えれば当たり前だった。トイレットペーパーが水に溶けなければ水洗トイレは大変なことになってしまう。
「だ、大丈夫かな?」
そう思った瞬間、急に慎重になって胸にトイレットペーパーを巻き終えた。
その一方で外が騒がしさが気になってきた。3人を探しているギャラリーたちの声が聞こえてくる。
「あ~ん、焦るよ~」
上を巻き終えると、慌てて下半身に取りかかろうとした。
しかし、トイレットペーパーを見るとロールはかなり薄くなっていた。
「使いすぎちゃったよね……」
冷静に考えるとこれはヤバイ事態だ。
足りないということは、下半身をちゃんと隠せないということになるのだ。 !
とにかく、下半身を丸出しというわけにはいかない。
ただ、もちろんこのままでも丸出しだ。
考える時間がなかったが、その中での最良の方法を決め、取りかかった。
桃子は慎重にトイレットペーパーを引っ張りながら下半身に巻き始めた。
さらしの要領だ。とにかくあるだけ巻くことにした。
こうやって腰にぐるぐる巻けば、いつものコスチュームのようなタイトスカートに見える。
ただ、それだけでトイレットペーパーが切れてしまう。
つまりノーパン状態だ。
しかし、スノープラスとの戦いでノーパンは経験済みだ。どう動けばいいかは理解はしているつもりだ。
なんとかなるだろう。桃子はそう考えることにした。

アオイも美紅と同じく下半身から巻き始めていた。
しかし、ふんどしなんて知らないので、太ももあたりから始めた。
太ももを巻いて腰回りを巻いて、そして股間辺りをなんとか隠すように織り込んだ。
残ったトイレットペーパーを使い胸を隠した。
乳首が目立たないように胸辺りは何重にもしながら、へそ辺りまでぐるぐる巻きだ。
これなら今までよりは恥ずかしくない。
アオイはほっと一息ついて、モデルのようなポーズをとってみた。
「なかなかうまくできたんじゃないかしら」

アオイがポーズをとっていた頃には、外も騒がしくなっていた。
屋上にいたギャラリーたちが、自分たちを探しているのはもれ聞こえる声からわかった。
「ねえ、美紅ちゃん、こっからどうするの?」
アオイは個室の中から、外を気にして少しトーンを落としながら、声をかけた。

美紅は器用にトイレットペーパーでふんどしを作り上げた。そして、残り少なくなったトイレットペーパーをさらしのように胸を巻いているところだった。
残りが少なくて乳首は浮き出てしまっているが、もうトイレットペーパーは切れてしまった。こんな恰好、恥ずかしくないわけがなかった。
それでも今までの格好よりはずいぶんとマシだ。胸なら手で隠すことだってできるのだ。
ただ、この恰好で街に出るのは、さすがに避けたいところだった。
それなのに……

いいアイデアはなかった。
「ごめんなさい。考えてない……」
美紅の声は申し訳なさそうで、完全に困惑していた。
アオイと桃子は驚いた。
「えっ!?」



2.
アオイも桃子も美紅の性格から考えて、次の手くらいは考えているだろうと思っていた。
しかし、美紅としてもあの状況から逃れるまでしか考えられていなかったのだ。
あれだけの人に裸を見られている状態だ。先のことまで考えれるような状況でなかったことは2人にもよくわかった。
それに、さっきまでの状況を考えればずいぶんマシだ。
当然、美紅を責める気にはなれない。それよりも思わず出てしまった驚きの声が美紅を責めているように思われたのではないかと桃子は気になった。
なんとか美紅をフォローするためにも、いいアイデアはないかと考えを巡らせた。
しかし、そんなに簡単にグッドアイデアが浮かぶわけはない。
「アオイさん、ディメンションパワーで何かできないですか?」
桃子が泣きそうな声で言った。
追いかけてきたギャラリーがすぐそこまで迫ってっきている気配が更に焦らせた。
「閃いた!」
桃子の言葉でアオイはとひとつアイデアが浮かんだのだ。
アオイは両手を上げ、頭上でクロスした。そして、叫んだ。
「ポドリアルスペース!」

するとアオイたちの周りの天地が逆転して、時間が止まった。
「え? どういうこと?」
周りの風景の異変に美紅と桃子は驚いた。
そして、思わず個室から飛び出てしまった。
「どう?」
2人をアオイが出迎えた。
「びっくりした?」
得意げな顔をしている。
2人は挙動不審者のように、キョロキョロと辺りを見回した。
水道も個室トイレも逆さになっている。
自分たち3人以外はすべて天地が逆になっているのだ。
「これはポドリアルスペースと言って、私が作り出した異次元空間なの」
そう言ってアオイはポドリアルスペースについてかいつまんで説明をした。
「それならこの姿を人には見られないんですね!」
美紅は明るい声で質問した。
「そうだけど……」
ただ、そこには注釈がある、ということを伝えようと改めて美紅の方を見た。
「あら、美紅ちゃん、すごい恰好……」
美紅はトイレットペーパーで作ったふんどしに、上はさらしのようにトイレットペーパーを巻いて隠してはいたが、巻き数が少ないためにうっすらと乳首も見えていた。
「え!? いやん!」
美紅は思わず胸を隠して顔を赤らめた。
「だってトイレットペーパーが少なくて……」
美紅は言い訳しようとした。
桃子はその言葉にドキリとして、思わず股間を押さえた。
トイレットペーパーを駆使したスタイルだったが、胸も下半身もそれなりに隠されていた。ただ、下から見れば完全に無防備だったのだ。それを気づかれないようにすぐ平静を装った。
アオイは美紅の格好の言い訳を遮って話を続けた。
「そんなにゆっくりしている場合じゃなかったんだ!」
そう言うと、速足でトイレの入り口に向かった。
「とりあえずここから出ましょう!」
桃子と美紅もその後を追った。
「ちょっと待ってください、アオイさん!」

トイレの外も逆さまになっていた。
しかもトイレの前には人だかりができていた。しかし、完全に止まっていた。
止まっている人たちは自分の姿が見えていないということはアオイの説明でわかっていた。
それにさっきまでの全裸で戦っていた状況と比べてもずいぶんマシな恰好だということも自覚していた。
この恰好は、やはり猛烈に恥ずかしいのだ。
しかし、そんなことは言ってる場合ではない。
「急がないと! このスペースは永遠ってわけじゃないのよ」
アオイは速足になりながら2人にそう伝えた。

アオイの作り出したポドリアルスペースは案外もろかったのだ。
コウモリプラスによって壊されたこともあった。それにアオイの体力によっても維持できる時間が限られていた。
アオイには自分の体力がどれくらいかだいたい想像がついていた。すでにプラス怪人と戦って、体力を消耗しているのだ。万全とはとても言える状態ではなかった。
それは美紅にも桃子にも容易に想像ができた。

そして、ポドリアルスペースが解消してしまえば、この恰好が人前に晒されてしまう。
それはヤバイ。
美紅と桃子は顔を見合わせた。
こんな恰好を人前にさらすわけにはいかない。
慌ててアオイの後を追いかけた。
しかし、全力疾走すれば汗をかく。
人間とすれば当然のことだったが、トイレットペーパーの衣装は汗でべたついてきた。
トイレットペーパーは水溶性だから溶けてしまう可能性がある。
それはつまり、そのリミットも考えなければならなくなった。
「急がなきゃ!」
美紅はアオイの顔を見た。

「タイムリミットは10分よ!」
アオイは自分のディメンションパワーの効力を伝えた。
恐らく今の自分の力ではそれほど長くはもたないと考え、2人に時間を意識させた。
「え~っ!?」
桃子は思わず声を上げた。
10分でどこまでいけるかを考えてみると、手ごろな場所が思いつかなかった。
先頭を走るアオイに美紅は疑問をぶつけた。
さっきは先の行動を考えずに動き出した自分だったが、やはり人の行動に追随するならその先の考えを知りたかった。
「これからどうするんですか? 10分だったら行けるところなんて……」
美紅にもその先をどうすべきかは想像がつかなかった。
アオイの家はこここらどんなに急いでも30分はかかる。
美紅の家も同じくらいの距離だった。
一番近いのは桃子の家。それでも15分はかかってしまう。
「そんなに短かったら、私ん家にもつかないよ~」
桃子はそう思ったが、2人の後を必死で追いかけた。

とにかく人目につくところはまずい。
デパートの中などもってのほかだ。
だからこそアオイはダッシュをしたのだ。
しかし、そこから先は、アオイもノーアイデアだった。
ただ、一刻も早く安全な場所にたどり着かなければいけないことだけはわかっていた。
それを考えれば桃子の家に逃げ込むのがベストな選択だ。
「とりあえず桃子ちゃんの家を目指そう!」
アオイは2人そう伝えた。
「私ん家だったら、どんなに頑張っても10分じゃ着かないですよ~」
桃子はアオイが自分の家の距離を見誤っているのだと思った。
「あ、途中で一旦休憩するから!」
アオイは当然、そのことは織り込み済みだった。
一度、中間地点で休みを取らないとまずいことになってしまう。
ただ、そのとき、タイムリミット以外にも危険が潜んでいることは2人には伝えなかった。
そのことを知れば、2人の動き迷いが出る。それは簡単に想像ができた。
とにかくデパートから脱出が先決だ!
一目散でデパートの下まで駆け下り、出口から飛び出すとアオイは少し速度を落とした。
「え? どうしたんですか?」
桃子はその動きに疑問を感じた。
今の状況から一刻も早く抜け出すには、全力疾走あるのみ!
そう考えていたからだ。
今の自分はトイレットペーパー製のタイトスカートの下はノーパン状態。別にアオイと美紅に見られることには抵抗はないが、やはり、今の状態は落ち着かなかった。
だからこそ、なるべく早く自分の家にたどり着きたいという気持ちも強かった。
「ポドリアルスペースは敵に解除されてしまう可能性もあるのよ」
街を速足で駆け抜けながら、アオイは桃子の疑問に答えた。
隠すつもりもないし、2人には知ってもらっていた方が何かと都合もよかった。
しかし、予想通り美紅と桃子は激しく動揺していた。
タイムリミット内に桃子の家に届かないというだけでも動揺していたのに、今の発言は一瞬、2人の思考を停止させた。
「え? それって……」
美紅は最悪のシナリオを口に出すのが怖くなって、言いよどんだ。
ポドリアルスペースがいきなり解除されてしまえば、つまりは、いきなり町中でこの姿が晒されるということだ。
桃子も同じことを想像した。そして、その最悪の事態を避けるにはできることは決まっていた。
「急がなきゃ! 一刻も早く私の家へ!」
ゆっくりしている余裕なんかないのだ。
「でも、焦っちゃダメ」
アオイは一旦2人に気持ちを制した。
状況を見極めないと、また恥ずかしい姿を人目に晒してしまう可能性がある。
「隠れれる場所を探しながら、慎重に先を急ぎましょう」
美紅と桃子も深くうなずいた。



3.
気持ちは焦っていた。
でも、全力疾走ではなかった。
速足ながら、探偵が尾行をするように、周りの状況を逐一気にしながら3人は先を急いでいた。
1分1秒がとてつもなく長い時間に感じられたが、実際にはそれほど時間は経っていない。

しばらくは何事もなく順調に桃子の家に近づいた。
しかし、同時にタイムリミットも近づいてきた。
「アオイさん、そろそろですよね?」
美紅は状況が気になってアオイに尋ねた。
アオイの作ったポドリアルスペースが一旦、解除されてしまう時間がもうすぐなのだ。
人目につかない場所に避難して、アオイの体力回復を待って、もう一度ポドリアルスペースを作り、その間に歩を進める作戦だ。
敵の攻撃がなかったおかげで、思ったよりは進んだと思うが、まだ桃子の家まで半分を過ぎたくらいだ。
「そうね。どこかで休みたいところだけど……」
そう言いながら前を歩く2人に、桃子は立ち止まって声をかけた。
桃子が立ち止まったのは交差点で、右の方角を指差せいていた。
「アオイさん、こっちから行きましょう」
桃子の家に向かうにはまっすぐ進むのが一番の近道のはずだ。
それは桃子が一番よく知っているはずだった。それなのに違うルートを示した。
「この近くにだったら、たぶん身を隠せる場所があります」
その声を聞いて、アオイと美紅は方向転換し、桃子の後に続いた。
さすがにこの周辺にもっとも詳しいのは桃子だ。
それなら桃子の言うことに従うのが一番の得策だ。
「確かにこっちは人通りが多いし……急ぎましょ」

少し進んだところで、桃子は新築の高層マンションに入った。
建物の中には電子ロックで入れないが、地下1階が駐車場になっている。そこなら鍵がなくとも入ることができる。
新築でまだ入居者も少なく、人の出入りもまだ少ないのだ。
ここなら人目にもつきにくいと桃子は考えた。
アオイと美紅もそれに続いた。

2人が地下駐車場に入った頃に、どこからともなくキュインキュインという異様な音が聞こえてきた。
「何? この音は?」
桃子と美紅はその音が気になって、キョロキョロと辺りを見渡した。
「ポドリアルスペースが消滅する音よ。この音が聞こえたらすぐに身を隠す場所を探して」
アオイの言った言葉通り、数秒後には天地の風景が逆転した。
そして、時間が動き出した。
3人に緊張感が走った。
地下の駐車場で静かな場所だが、今までが3人の音しか聞こえていなかった世界にいたので、外から漏れ聞こえてくる音が少しうるさく、多少過敏になっていた。
地下駐車場には桃子の思惑通り人影はなかった。
しかし、いつ、誰がやってくるとも限らない。特に入り口付近は危険だ。
奥なら人目につきにくいし、人が入ってくれば気づくこともできる。
比較的な安全な場所だと桃子は考えていたのだ。
夕方と言えど、駐車場のまだ入り口付近は日が差し込んできていた。
しかし、その辺りを除けば昼間でも日の光は入ってこなかった。
そのため蛍光灯が点いている。
十分に周りを見ることはできる明るさではあったが、省エネなのか薄暗かった。
コンクリートに囲まれているので、少しの物音でも案外響くが、気配をなるべく消せば、簡単には人に気づかれないだろう。
3人はなるべく物音をたてないようにそろりそろりと慎重に歩を進めた。

冷静になればばるほど、気になることがあった。
体がベタベタするのだ。
3人はかなりの急ぎ足でここまでやってきた。
落ち着いたとはいえ、今でもハアハアと肩で息を切らすくらいだ。
運動量に緊張もあって、汗だくだった。
駐車場の一番奥で、ようやく落ちつけた3人は、お互いに自分たちの姿を見て驚いた。
着ていたトイレットペーパーのコスチュームが汗でベチャベチャだ。
完全に透け始めていた。
特に美紅の胸に巻いたとトイレットペーパーが薄かった分、完全に溶け始めていて、胸にゲル状の何かを塗っただけのように見えた。
「いや~ん、何、コレ!?」
これは美紅も想定をしていなかった。
とりあえず、早く、身を隠せるものは何かを考えた末に思いついたのがこの案だった。
水に流せるのだから冷静に考えれば、この結果は当然だ。
桃子も胸にべったりと張り付いて乳首が完全に透けていた。
下はもっと悲惨だった。タイトスカートだったはずが、完全に体に張り付いててお尻はもとより前もくっきりわかるような状態になっていた。うっすらゲル状のものに覆われていることはわかるが焼け石に水だ。何も隠せてないのとかわらなかった。
桃子は思わず股間を手で隠した。

 
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