クロスゲーム アナザー
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第五話キャベツ焼き?
大阪天満宮
大阪府大阪市北区に鎮座する神社。別名、天満天神・浪華菅廟・中島天満宮と呼ばれる。大阪市民からは「天満の天神さん」と呼ばれ親しまれている。
天満宮の建立には藤原道真も関わっており、天満宮のすぐ近くには日本一長い商店街と呼ばれる南北2.6㎞にも及ぶ天神橋筋商店街がある。
そんな長い商店街の歩道を俺達は歩いていた。
「たこ焼き屋に、うどん屋、おっ!あっちには大阪カツを売ってる店まであるぞー」
初めての関西に来て、ワクワクな気持ちを落ち着かせることができずについついはしゃいでしまう俺。
そんな俺の隣を歩くこいつは呆れた顔をしながらも俺の手を取り、その手を握ったまま話しかけてきた。
「落ち着きなさいよ。お店ならこんなにたくさんあるんだから逃げはしないわよ」
隣を歩く青葉はそう言いつつ、店先に並ぶ商品を覗いていく。
「わぁー。あの靴下250円で売ってるー。バッティングセンターの景品に良いかも……あっ、こっちの靴は全部1000円だー。
安い〜」
「おい、あそこのうどん屋は今日半額みたいだぞ!」
とあるうどん屋の前で立ち止まると店先の看板に本日の素うどん半額と書かれていた。
「どれどれ……あっ、5が付く日半額ですって。
今日は5が付く日じゃない。
入ってみましょう」
青葉が言った通り、よくよく見れば毎月5の付く日は半額と書かれていた。
店内はどこぞの某うどんチェーンに似た作りをしていたが店名は違った。
亀ではなく鶴だ。
関東ではあまり見かけない店名だが客の反応を見る限り繁盛している店で、他にも支店があるようだ。
カウンターで注文し、品物を受け取り代金を払って席に着くとさっそく食べ始めた。
うどんの丼に入った汁を見ると関東の昆布で出汁を取り、醤油を使って作る黒色に見える濃い汁ではなく、関西では当たり前の鰹節から採った黄金色の薄い汁だった。
汁に浸かったうどんを箸で啜るようにして食べていく。
アッサリとした汁で食べやすいが普段濃い関東の味に慣れているせいか、若干薄く感じてしまう。
青葉も同じような反応をした。
「……薄いわね」
「……ああ、薄いな」
話に聞いていたよりも薄く感じてしまった為、濃い味付けの物が欲しくなった。
何かないかとテーブルの上にある調味料を見てみると。
テーブルに置かれた調味料の中に特性醤油と書かれていた容器があったのでそれを手に取りかけてみた。
「……おっ、今度はイケる」
「ちょっとアンタ。汁が黒くな……でも美味しそう」
店からしたら大変失礼な行為かもしれないが薄味で物足りない味がした為、やってしまった。
お店の方、すみません。
と心の中で謝りながらもうどんを啜っていった。
青葉も醤油をかけて食べ始めた。
やっぱり濃い味付けの方が好むみたいだ。
「それにしても意外ね……」
「何がだ?」
うどんを食べ終わった時、青葉がそう話しかけてきた。
「アンタからデートに誘ってきたことよ」
「そうか?」
「そうよ」
「息抜きしたかったからな……」
「ふーん。私と出かけると息抜きになるんだー。そっかそっか」
嬉しそうに呟いた青葉。
あの青葉がデレたよ。
ああ、可愛いなー。
普段は素直じゃない青葉だけどこいつが素直になった時の表情がまた可愛いんだよな。
本人に直接言う気はないけどデレ青葉を見れただけでも連れてきてよかったな。
「アンタの事だからてっきりまたキャッチボールの相手をさせられると思ったわ」
昔、まだプレハブ組に入れられていた頃。初めての一軍との壮行試合で投げることになりその試合の前日に青葉を今回誘ったのと似たような言葉で誘ったけなー。あの時一軍相手に投げる自信なかったから青葉にボール受けてもらって確かめたかったんだよな。
俺の球が一軍相手に通じるかどうか、を。
「はっは。当たり前だろ。あの頃の俺じゃねえんだからもう自信がないとか言わねえよ」
「嘘ね……不安なんだ」
「……」
「アンタの事だからどうせ夢の中でメタ打ちにでもされたんでしょう。
そのせいで次の試合、ビビってるんじゃない?」
昔から俺のことをよく知ってる幼馴染みのこいつにはやっぱりわかっちまうか。
「……ああ」
「ふーん。で、気をまぎわらそうと私を誘ったんだ?」
「……ああ」
「はぁ〜。
若ちゃんが見た夢。
その舞台ってどこだったけ?」
え?
何でそんな事を聞いてきたんだ。
そんなの言わなくてもわかってるよな、青葉も。
「ど・こ・だっ・た・け?」
……これ、答えないといけないのか?
「舞台は超満員の甲子園」
「そうよ。
わかってるじゃない。
例えどこまで勝ち上がろうとも、負けようとも……超満員にすればいいのよ!」
「……え?」
青葉のとんでもない発言を聞いて、しばらく声が出なかった。
「若ちゃんが見た夢は超満員の甲子園で投げてるアンタや他の皆の姿なのよ。
決勝に行こうが、行けまいが若ちゃんの夢はすでに叶ってるのよ!」
「いや、でも……超満員って言ったら決勝だろ?」
「若ちゃんは一言も夢の舞台が決勝戦なんて言ってなかったわ。
若ちゃんが言っていたのは超満員の甲子園でピッチャーをやってるアンタとキャッチャーをやってる赤石先輩、サードを守る中西先輩、それと……」
「それと?」
「……何でもないわよ。
絶対にありえない事だし」
一体若葉は青葉に何を言っていたんだ?
気になるがこれ以上、青葉に聞いてもはぐらかされそうだな。
「いい、だからアンタ一人で抱え込む必要はないのよ!
誰もアンタ一人に若ちゃんの夢を背負わせたりしないんだから……」
「そうだな……悪い。
背負いすぎていたのかもな」
俺は若葉の夢を叶える、ずっとその為だけに野球を続けてきた。
若葉がいなくなるまで野球なんか、キャチボールすらまともにやったこともなかった。
若葉がいなくなってからもずっとこそこそ続けてきたのは全て若葉が見た夢の舞台に立つ為だ。
だから俺は絶対に負けてはいけない、そう思って練習してきた。
だけど……もう、いいのか?
若葉の為だけにやる野球、そういう理由でやらなくてもいいのかな?
「にいちゃん、彼女と喧嘩か〜?」
「さっさと謝った方がええで〜」
「女はどこでも強いからな、ホンマ」
考え事をしていた俺に見知らぬオッちゃん達が声をかけてきた。
店内の他のお客さんに会話を聞かれていたらしく、オッちゃん達から非難の目を向けられた。
店内で大声を出していたことに気がついた俺達は気まずくなり、そそくさと店内を後にした。
「すぐに考えが変わるわけないからよく考えなさいよ。
アンタが野球をやる理由を」
俺が野球をやる理由?
「アンタが若ちゃんの為だけに野球をやる必要なんてもうないのよ。
若ちゃんの夢はもうほとんど叶ってるんだから」
叶ってる?
「アンタがよく考えて、悩んで、その結果が若ちゃんの夢を叶える。
それなら私は納得するわよ。
でも今はそうじゃない。
アンタは自分のことを考えてない。
もう一度よく考えてみれば違う夢や目標、未来を夢を見ることだってあるかもしれない。
甲子園で決勝に進めたとしたらその先に何があるのか、本当に若ちゃんの夢だけの為に勝ちたいのか。
自分自身のこともよく考えなさいよ」
青葉はそう言い、商店街の中を先に歩いて行ってしまった。
「自分自身のこと……か」
大阪天満宮の境内でお参りした後、再び商店街に戻るとちょうど昼過ぎだったので軽く食べることにした。
いろいろな店先を見ながら、どの店に入るか悩んでいると……。
「キャベツ焼き?」
青葉が突然立ち止まり、聞きなれない食べ物の名を口にした。
「キャベツ焼き?」
青葉の視線の先には大きな鉄板で焼かれているお好み焼きのような食べ物があった。
一枚140円とかなりリーズナブルの値段で売られていたそれは熱い鉄板の上でジュー、ジューと香ばしい香りを漂わせながら焼かれている。
店の隣、そこには数席の椅子が置かれており買った焼き立てのキャベツ焼きをその場で食べれるようになっていた。
「食うか?」
隣に並ぶ青葉に声をかけると「うん」と頷いた。
お好み焼きと何か違うのだろうか?
二枚注文してみた。
ここでキャベツ焼きの説明をしたいと思う。
キャベツ焼き(キャベツやき)は諸説によりそれぞれ違うが、水に溶いた小麦粉を鉄板で焼き、キャベツ、天かす、玉子などの具を入れて焼いた料理。関西地区で1990年代後半より流行りだした。発祥は各説あり定かではない。関西のある主婦が始めた説と大阪市東成区今里新道筋商店街を発祥とする説もある。
一銭洋食の一種であり、その総称としても使われる。キャベツを主とする事が多い。昔の一銭洋食時代の名称と同じだが、ダシを使うなど別の料理に変化している店もある。関西の名物料理であり、大阪市阿倍野区の店「◯銭屋」で一銭焼きとして販売している。
「美味いな」
「うん、アッサリしてて美味しい!」
値段の割に食べ応えもあり、かなり美味しかった。
お好み焼きとはまた違う鉄板料理でアッサリとしているので食べやすい。
「関東と違うな」
「当たり前でしょ!」
食べた感想を言うと青葉に突っ込まれたが関東にはないものだから仕方ない……と思う。
その後は、いつものようにお互いに言い合いをしながら俺達は商店街の中を駅に向かって歩きだした。
宿に戻ると千田にしつこく絡まれたが、中西にお土産でキャベツ焼きを渡したおかげか千田を引き離してくれた。困った時には食べ物で中西神にお供え物を!
……なんて、な。
そんなこんなで甲子園での日常を送り……。
______俺達は順調に準決勝まで勝ち進んだ。
勝てば決勝だ。
決勝に進めば若葉の夢は叶うのだろうか?
何かが変わるのだろうか?
俺が野球をやる理由は若葉意外にもあるのだろうか?
まもなく、準決勝が始まる。
対戦相手は栃木代表。
名門の学校だ。
対戦校のデータを見てわかったが……準決勝の先発選手に俺達と因縁があるアイツがいることを俺達は知ることになった。
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