魔法少女リリカルなのはVivid ~己が最強を目指して~
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プロローグ
前書き
魔法少女リリカルなのはVivid ~己が最強を目指して~始まります。
ふと目が覚めると、僕は雲の上にある小さな遺跡のような場所に立っていた。
ここがどこなのかさっぱり分からない。ただ……分かることもある。それは、ここが先ほどまで僕が存在していた世界ではないということだ。
現在居る場所について考察を始めようとした矢先、不意に背後に気配を感じた。すぐさま振り返ると、そこには小柄だがどこか妖艶さのある少女が浮遊していた。
「おやおや、足音は立ててないはずなんだけどねー」
「……気配には敏感な方でね」
平静を装いつつ返事はしたものの、僕の内心は不安や疑問で溢れかえってしまっている。
この子はいったい何者なんだ? 背伸びをしようとすると自分の体重が僕の知る世界と同じように足に掛かることからして重力がないわけじゃないはず。となればワイヤーとかを使っている可能性を……いや、頭上に広がっているのは空だけだ。この可能性はないだろう。
「少年、そう警戒しなさんな。うちは君の敵とかじゃないから」
「そう……それはありがたい」
どうしてかは分からないけど、少女の言葉は嘘ではないように感じられる。
とはいえ、出会って間もない相手……それも宙に浮ける人間を易々と信じるのは危険だ。あまり他人を疑いたいわけじゃないけど、この子は僕の敵じゃないと言っただけ。敵じゃない=僕の味方という保障はどこにもない。誰かに相談したい状況ではあるけど、この場に居るのは僕と彼女だけだし、頼れるのは自分だけだ。パニックだけは起こさないようにしないと……。
「少年はあれこれ考えるねー。大人しそうな顔をして怖い怖い」
「……え?」
「あはは、今も『まさか僕の心を……』とか考えてる。まあもったいぶることでもないし、教えてあげる。君の思ってるとおり、うちは心が読めるよ。読もうとしなければ読めないし、あまり警戒されすぎると面倒だからここからは読まないであげるー」
少女は無邪気に笑うけど、僕の顔には苦笑いさえ浮かんでこない。
本当に心が読めるとしたら彼女の思惑通りに物事が進む可能性が高い。もしこの先に待ち受けていることが僕にとって嫌なものだとすれば、素直に受け入れたくはない。けれど……これ以上は読まないと言ったけど、実際のところは僕には判断できない。
手も足も出ない、という状況は今のような状態を言うのかもしれない。……だったら僕がすべきことは、その場その場で僕なりの言動を取ることだけだろう。
「話を進めるけどー、少年は《転生》って分かるかな? ちなみに仏教的な意味合いじゃなくて創作でよく使われる方ね」
「それなりになら……」
僕が居た世界では、異世界に転生した主人公が無双するなんて内容のライトノベルが流行っていたし、僕もアニメやゲーム、漫画にライトノベルといったものは好きだった。二次創作の類も読んでいた時期はあるし、この子が言いたい転生の意味は理解できる。……ということは
「もしかして……君は神様だったりするのかな?」
「お、話が早くて助かるね。けど神様だとは言えないかなー、人によっては悪魔にだって映る存在だろうし。少年にはうちはどちらかといえば悪魔に見えてそうだしねー」
「…………」
「うわぁ、そこで無言だなんて肯定してるようなものじゃん」
今のところで何かしら言っていたとしても、心を読まれてしまえば嘘を付いたことが明白になる。かといって素直に肯定する気にもなれない以上、無言で返す以外の選択肢なんて僕にはなかったと言える。そのことを分かっていながら、あえて今のような発言をするだけにこの少女は性質が悪い。
「まあどうでもいいけど」
「……いいんだ」
「そりゃーそんな小さなこと気にしてたら神とか悪魔って呼ばれる存在としてダメでしょ。というわけで話を進めるぞ。少年、君には《魔法少女リリカルなのは》の世界に転生してもらうぜ!」
急にテンションが上がってるけど……そこには触れないでおくことにしよう。
それにしても、魔法少女リリカルなのはの世界か……とあるカードゲームではこの作品のデッキを組んでいたし、少し前に劇場版のDVDを借りて見たような気がする。
だから……うん、漠然とは覚えている、漠然とは。
簡単に言ってしまえば、《魔法》に関わると危ない目に遭いそうな作品だったはずだよね。見るべきポイントというか、こういう考え方をすべき作品ではないんだろうけど。でもやっぱり自分がその世界に行くとなると色々と考えるわけで……。
「他の世界にしてほしいなんて言っても聞いてあげないからな。うちの今の気分は《魔法少女リリカルなのは》一択、それ以外はありえない!」
「うん、構わないよ。元々言うつもりもなかったけど」
冷静に思い返してみたけど、僕はここに来る前は高熱を出して床に伏せっていた。合併症も引き起こしていたのかかなり衰弱していたし……一人暮らしをしていたから多分そのまま命を落としてしまったんだろう。
創作物では……今僕の立場に居るのは、神様がミスをしてしまって運命が変わって死んだ人だ。でもおそらく僕は普通に死んでしまった人間だろう。施設育ちで学もあまりなかったし、手に職もなかったから毎日必死でバイトの掛け持ちして生活していたし。
何で僕が転生の対象になったのかは分からないけど、何であれもう一度僕として生きることが出来るのなら礼を言うならともかく、文句を言うのは間違いだろう。ならば彼女が悪魔という認識は消すべきか。
「……何かそこまですんなりと受け入れられると萎えるなぁ。普通は転生の話の前に自分は何で死んだんだよ!? とか、転生出来るなんてテンション上がる! みたいな反応があるもんだぞ」
「じゃあ聞くけど、僕はよくあるように何かしらの手違いで死んだのかな?」
「うんにゃ、少年に限っては何のミスもしてない。今回の転生に限っては……まあ神の気まぐれってやつだね」
なら今挙がったようなやりとりは必要ないはずだよね、と視線で尋ねると少女は高らかに笑い声を上げる。
「あっはっは、そうだな、そのとおりだ。いやー適当に選んだけど少年は当たりの部類だなー。よし、ならばどんどん話を進めようじゃないか。次は転生の定番、特典を決めるぞ! あっ、言い忘れてたがリリカルなのははリリカルなのはでも少年が転生するのはVividだからそこんところよろしく。ちなみに特典の数は3つだ!」
……うん、そっかVividなんだ。リリカルなのはにVivid編があるのは知ってたけど、正直に言うと内容はあまり知らない。主人公がなのはって子じゃなくてヴィヴィオって子になってることとか、魔法というよりは格闘系でその大会を勝ち上がる感じみたいなことは知ってるけど。
「さあさあ特典は何にする? 化け物じみた魔力か? それとも超優秀なデバイスか? はたまた銀髪オッドアイのイケメンになりたいか?」
「うーん……ちなみにだけど、何も特典がない状態の僕って魔力とかはどれくらい?」
「そうだなー……魔力とかはあまりないし、生粋の《魔導師》としては大成しないだろうな」
なるほど……まあ僕らしいといえば僕らしいか。
そういえば、少し前に読んだライトノベルに魔力の量は生まれた時に決まっていて上下することはない。また魔力の多い人間はそれに等しい重い運命を背負っている、みたいなことを書かれていたっけ。それは案外合っているのかも知れないな。
リリカルなのはの世界では魔力量とかがどうなるか知らないけど、少なくとも僕のような人間に主人公が背負うような運命があるとは思えない。となれば
「ほらほらーどうする少年? 最初はあまり特典とか与えるつもりなかったけど、話してるうちに気に入ったから凄い能力だって与えてやるぞ。最強の魔導師だってなれちゃうぞ」
「そうだね……せっかく魔法のある世界に行けるのなら魔法は使ってみたい。……でも、特典をもらわなくても何かしら魔法が使えるのなら僕は特典は要らない」
上機嫌ではしゃいでいた少女が凍ったように止まる。徐々に動かされた表情には困惑が強めだが期待も混じっているかのような複雑な色が現れた。このような顔をするということは、宣言どおり読心は行っていないようだ。
「本気で言ってるのか? 特典がなければ少年は凡人……いや魔導師としての才能で考えれば弱者の部類に入るのだぞ。それなのに最強になれるチャンスを手放すというのか?」
「そうなるね」
「理由を聞いてもよいか?」
理由か……まあ隠すことでもないし、隠したところでこの子が本気になればバレることか。
「理由はいくつかある。まず最初に転生する世界がVividだからかな。僕が知る限り、確かVividはリリカルなのはの中でも命懸けって感じじゃなかったから」
「まあそうじゃな。だが可能性はゼロではないのだぞ。力があって困ることはなかろうて」
「確かにそうだね。でも人はそれぞれ能力が違う。だからこそ、同じ《最強》という言葉でも人によって形は異なると思うんだ」
神のような存在であるこの子からすれば、最強の魔導師としての力も最強ではないのかもしれない。無論、今の僕にとっては想像を絶する力なんだろうけど……でも。
「だから僕としては自分なりの《最強》を手に入れたい。原作に介入するにしても、自分だけの力でやったほうが実感があるしね。それに大会に参加して勝利を収めたとしても、努力もせずに手に入れた……それも他人からもらった力で勝ったとしても僕は嬉しいとは思えない。……でも衣食住とかに関しては手助けしてもらえるとありがたいかな」
「……あは、うはははは! カッコいいこと言ったくせに最後情けねぇ。そこは全部自分ひとりでどうにかしろよな!」
「いやー……そうしたいんだけど、そこまでこれから行く世界に詳しいわけじゃないし。ひとりでどうにかしてるとまたバイトのし過ぎで死んじゃうかもしれないから」
素直に言うと少女はこれまで以上に大きな声で笑う。いや、笑い転がっていると言った方が正しいかもしれない。空中だけでなく地面にまで移動範囲が及んでいるので見ていて鬱陶しくあるほどに。
「オッケー、オッケー、少年の考えは大いに理解したよ。こちらの都合で多少弄る部分もあるかもしれないが、可能な限り君の要望どおりにしよう。話に出てなかったデバイスに関しても、君の身の丈に合ったものをプレゼントさせてもらうよ」
「ありがとう、助かるよ」
「おいおい、まだきちんと転生出来たわけじゃないのに礼は早くないか。転生してみたら要求どおりになってない可能性だってあるんだぜ?」
「それは否定できないけど、どちらにせよ転生した先で君に何か言うことはできないだろ」
まあこの子の耳には届く可能性があるけど……癪に触るようなことを言って裁かれるのはご免だ。
「言うことは可能だと思うがね……もう少し話していたい気持ちもあるが、あまり時間を掛けすぎるのもあれだし、このへんでお別れとしよう」
そう言うと少女は上空に腕を掲げて気持ちの良い音を指を使って鳴らす。このような時に定番なのは落下なので、視線を上に向けるフェイントかとも考えた。が、体を光が包み始めているあたりどうやら違うらしい。
「ちゃんと送り出してくれるんだね」
「うちは他の連中とは違うからな。ま、少年がクソ生意気なガキだったら地獄の底まで叩き落とす勢いで送り出しただろうがな」
「ははは……クソ呼ばれされないように今後も気を付けるよ」
「うむ。……では少年、せいぜい黒峰桐也ではなくキリヤ・クロミネとしての人生を楽しむがいい。そのほうがうちも楽しめるだろうからな」
そこで私情を入れるんだ、と思い苦笑いを浮かべた直後、周囲の光が一段と強まって僕の体を完全に包みこむ。これとほぼ同時に僕の意識はなくなったのだった。
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