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Re;FAIRY TAIL 星と影と……

作者:天根
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原作開始前
  EP.2 ワタルの魔法

 
前書き
遅くなりましたが、リメイク版第二話です。よろしくお願いします。
4/4一部改訂 

 

「なあ、そういえば、ワタルはどんな魔法を使うんだ?」

 大陸を放浪する少年魔導士・ワタルと、彼に拾われる形で共に旅をする事になったエルザ。旅を始めてから少しの間、二人の間には少し距離があった。

 エルザからしてみれば、頼まれもしないのに怪我の治療だけでなく旅の付き添いまでするワタルは猜疑の対象なのだが、同時に恩人である彼を疑っている自分を嫌悪していた。
 ワタルにしてもそんなエルザの内心を察した訳では無いが、無理に刺激する事も無いだろうと積極的に話しかける事は無かった。
 もっとも、複雑な事情を抱える彼女への接し方が分からなかった、という対人経験の乏しさからなる事情もあったのだが。

 そんな理由があって2人には少し距離があったのだが、同じ道を歩き、同じものを食べ、同じ場所で寝るという共同生活を続けていくうちに、話す分には戸惑いが無い程にはその距離は近くなっていた。
 そして、旅をして数週間ほど過ぎていたある日、山道を歩いていたエルザはワタルが魔導士である事を思い出し、そう尋ねたのだ。

「そうだな……いや、見た方が早そうだ」

 答えようとしたワタルだったが、手でエルザに止まるように示すと、彼女を庇うように前に出た。

「どうしたんだ、いきなり? ……あ」

 急に警戒しだしたワタルにエルザは尋ねて肩越しに前を見ると、すぐに疑問は氷解した。

「坊ちゃん、嬢ちゃん……た、助けてくれ……山賊に、襲われて……」

 服のお腹の部分を真っ赤に染めた一人の男がおぼつかない足取りで現れ、助けを請い始めたのだ。

「おい、大丈夫……ワタル?」

 明らかに重症である男の様子に慌てたエルザはワタルの背後から飛び出して男に駆け寄ろうとしたが、それは叶わなかった。
 そのワタルが手でエルザを抑えていたからだ。

「た、頼むよ……。これでも私は商人なんだ。礼なら幾らでもする! だから、頼む、助けてくれ……!」
「……」
「どうしたんだ、ワタル? 今ならまだ……」

 不審そうに見るエルザをよそに、ワタルは数秒だけ赤い片手で腹を抑えながら、とうとう両膝をついて身体を丸めてしまった男の様子を観察すると、ゆっくりと呻き声を上げる男に近付き始めた。

 一歩、二歩――と歩き、男までの距離が3メートルを切ったその瞬間。


「ヘッ、かかったな、ガキ!」


 血まみれの男が突然起き上がり、隠し持っていたナイフを手にワタル目掛けて突進してきた。

 大怪我をした商人を装っての不意討ち。
 少年は殺して荷物を奪い、少女は奴隷にして売りつける。少女の方はまだ幼いが顔立ちは可愛らしい。その手の趣味の富豪なら高く買い取ってくれるだろう。
 少年の向こうに見える、突然の事に何が起こったのか分かっていない少女の顔を見て、男はそう算段を立てていた。


 しかし、だ。


「下手な演技だ」

 ワタルからすれば、それは取らぬ狸の皮算用でしかなかった。

「な……ガッ!?」

 ナイフを持つ男の右手首の内側を左手を添わせるように取ると、切っ先を身体の外へ逸らしつつ、突進の勢いを殺さぬまま、踏み出された男の左足を左足で強く払ったのだ。
 掴まれた右手を軸に男は宙を一回転。何をされたのかも分からぬまま、背中から地面に激突した。

「ぐ……このガキ、ッ!?」

 だが悲しいかな、その程度で子供が大人の男の意識を奪えるはずもない。
 投げ飛ばされた男は激昂して暴れ出そうとしたが……目を開け、視界に映ったのは自分を投げ飛ばした少年の小さな靴の底だった。

「一丁上がり、と。……雑な手入れだな、このナイフ」

 男の顔面を踏みつけたワタルは鼻柱を折られた男が意識を失ったのを確認し、投げ飛ばした際に奪ったナイフを調べ始めた。

「……ッ、大丈夫か、ワタル!?」
「そう叫ぶな。それより、お出ましだ」
「何を……?」

 ほんの数秒の事に呆気にとられていたエルザだったが我に返り、ナイフを弄っているワタルに慌てて駆け寄ってきた。そんな様子とは対照的に落ち着いているワタルの返事に、エルザは聞き返そうとしたが、両者ともそれ以上口にする事は無かった。

「これは……!?」
「ひい、ふう、みい――20か。結構多いな」

 前方から大量の山賊が現れたのだ。
 いや、前方だけではない。広いとは言えない山道の脇の林からも、さらには後方からも剣や棍棒を手にした山賊が現れ、ワタルとエルザは完全に囲まれてしまった。

 そんな中で、先の不意打ちで手っ取り早く済まそうと考えていたのか、ワタルの身長よりも大きな両手剣を手にした大柄の男が不機嫌そうな表情で前に出るとワタルに声を掛けた。

「何故わかった?」
「よくある手だ。それに殺気がダダ漏れだった。あれじゃあウサギだって逃げるさ。まあ……」

 そこで言葉を切ると、ワタルは口元を歪めて言い放った。

「アンタらにしても同じ事だが。つーか、なに? 子供二人に騙し討ちしなくちゃいけない程、おたくらは腰抜けな訳?」
「ンだとォ!?」

 エルザを後ろに庇いつつ、依然としてナイフを弄びながらのワタルの返事に、山賊たちは得物を振り上げて怒りを露わにした。頭と思われる大柄な男も、青筋を浮かべて頬をひくつかせている。

「煽ってどうするんだよ……」
「いいから任せとけ」

 包囲されただけでも危機的であるのに、その上煽るような真似をするワタルにエルザは不安になったが、当のワタルはどこ吹く風。怯えどころか動じた様子も見せない。
 それどころか、涼しげな笑みすら浮かべている。

「威勢のいいことだな、小僧。幾らか場慣れしているようだが相手が悪かったな……周りをよく見ろ! 1人や2人ならあしらえるかもしれんが、まさか20人も相手にして無事で済むとは思ってないよなぁ!?」

 歪んだ笑みを見せるリーダー格の男の言葉に同調してか、周囲の山賊たちも囃し立てたり各々の得物で地面を叩くなどしてワタル達を脅しにかかる。
 ワタルの馬鹿にしたかのような言葉に怒りの表情をしていた者もいたが、今は全員が数の差も解せない愚かな子供への嗤いをその顔に浮かべていた。

「(どうするんだ、この状況……)」

 エルザには奴隷としての強制労働で鍛えられた身体能力と反乱を起こして得た戦闘経験があったが、圧倒的とも言える数の差に不安を濃くしていた。
 そんな彼女とは対照的に、ワタルは余裕を崩すことなく依然としてナイフを弄んでいる。
 そして……何を思ったか、笑みを深めた。

「へぇ……で? それが何か問題?」

 360度から向けられる敵意と殺意など意にも介さず、山賊たちを嘲笑ってみせたのだ。

「分かったら退けウスノロども。こっちはお前ら木偶に構ってられるほど暇じゃないんだ」

 ナイフを弄り回すのをやめて切っ先をリーダー格に突き付ける。
 予想もしていないワタルの嘲笑に一瞬呆気にとられた彼らだったが、すぐに全員が憤怒に顔を歪め、怒声を上げ始める。


 心中穏やかではないのはエルザも同じだった。
 彼女たちが楽園の塔で反乱を成功させたのは、

『失敗すれば未来は無い。だが成功すれば自由を掴める』

 という背水の陣から士気が高かった事と、数的有利がこちら側に会った事が大きかったと言っていい。
 手元に武器か何かがあれば打開のしようもあったが、残念ながら武装しているのは山賊のみ。
 そんな理由があって、この状況を切り抜けるのは絶望的に思えたのだ。

「心配するな、エルザ。言っただろ、魔法を見せてやるって」

 そんなエルザの不安を見透かしたのか、あるいはただの偶然か、ワタルは振り返ることなく、あくまで余裕を崩さず、しかし力強く言ってのけた。

「こんな小物、三分もあれば終わる」



 ワタル・ヤツボシにとって、こんなもの危地の内に入らないだ、と。



 当然ながら、子供にそこまで舐められて黙っている山賊ではない。

「散々虚仮にしやがって……もういい、嬲り殺しだ! 俺たちを舐めやがって、楽に死ねると思うなよ!!」

 むしろよく我慢した方だろう。

 ワタルはそう思いながら、千切れんばかりに青筋を立てて吠える頭領の怒声を聞き流し、奪ったナイフに魔力を込めはじめる。
 そして周りからの襲撃を視覚と気配で察し、あえてナイフを前方に投擲した。

 子供の力で投げられたナイフが、荒くれ者の山賊に通用する訳がない。

 それが山賊たちと、そしてエルザの共通認識だった。
 馬鹿なガキだと嘲笑いながら、射線上にいた男がナイフを避けようとしたその瞬間……

「爆」

 ワタルの掛け声と共に、ナイフが風船のように破裂した。
 刃の鉄と柄の木が細かな破片となって、前方からワタル達に襲い掛かろうとした山賊たちに襲い掛かる。

「魔力の伝導率が低い唯のナイフならこんなもんか」

 しかし、ナイフに込めた魔力が微量だったため、爆発の規模は癇癪玉程度のもの。精々が大きな音を立てる程度で、直接破片を浴びた者も小さな切り傷ができただけだった。

 これが使用者の魔力を攻撃力に変換できる魔法剣の類ならば、もっと多くの魔力を込める事でより規模の大きな爆発を起こす事が出来たのだが、今回使ったのは何の変哲もない鉄製のナイフ。魔力を注ぐ器の小ささとワタルの未熟さゆえに不意打ち代わりに驚かせることで怯ませ、足を止めるくらいしかできない。

 だが、その程度の時間があればワタルには十分だった。

「換装」

 自然体のまま静かに口にすると、その手の周囲が光り……鎖の両端に手持ちサイズの鎌が付いた、二丁鎖鎌と呼ばれる暗器が現れた。

 “換装”とは別空間にストックしておいた道具を取り出して持ちかえる魔法だ。
 珍しい魔法ではなく、むしろポピュラーな部類に属する魔法だが、それゆえに奥深い。スピーディーな高速換装には高い練度だけではなく扱う武器に関する深い理解も必要とされるのだ。
 また、特別な武具を使うのでなければ魔力の消費が少ないのも特徴といえる。

 ナイフの爆発で出鼻を挫かれた山賊たちは更に足を止めてしまう。通常の鎖鎌は一方が鎌でもう一方には分銅が付いているのだが、もちろんそれに驚いた訳では無い。

「魔法!? こいつ魔導士か!?」

 魔導士の割合はアースランドの人口の10分の1といっていい。
 まさかこんな子供が魔法を使えるとは予想もしていなかった山賊たちは、怒り心頭だった表情を驚愕に変えて足を止めてしまう。
 だがそれは前方に限った話。ワタルとエルザの陰になってその現象が見えていない後方の山賊たちの足は止まっていない。

「屈め!」

 振り向きながら、エルザが慌ててしゃがむのを回転しながら確認し、遠心力も合わせて鎌を片方投擲する。

「な……ガハッ!?」
「何だ!?」
「魔法!?」

 風を切って飛んで行った鎌は後ろに陣取っていた山賊の一人に命中し、ワタルの魔法をようやく認識した残りの山賊を驚愕させた。

 山賊たちの驚愕はそこで留まらなかった。

「そォらよッ!」

 鎌を投げた手でしなる鎖を掴み、魔力を込めて操作。後方にいた山賊たちを一気に薙ぎ払ったのだ。
 明らかに見た目以上の長さになって襲い掛かった鎖に対応できず、山賊たちは悲鳴と共に山道の脇の林へと吹き飛ばされた。

 これは“換装”の応用。
 普段の鎖の長さは振るうのに邪魔にならないほどに留めているのだが、投擲の際は換装空間に保管している余剰分の鎖を鎖鎌へ付け足す事によって見た目以上のリーチの攻撃を可能にしているのだ。
 付け足すのが可能ならその逆の分離も然り。鎖の魔力操作で薙ぎ払った山賊を手近な樹木に縛り付けて無力化し、それに使った分だけ鎖を分離して鎌を手元に引き寄せた。

「これで5人」

 前方は足止めが成功し、まだ距離がある。後ろは拘束した。残りは左右。

 ワタルは両の鎌に魔力を込めながら眼球の動きで左右から山賊が3人ずつ迫っているのを確認すると、右足を軸に身体を捻りながら両手を振り抜いた。

「“魂威・三日月”!」

 鎌は空を切ったが、それを嗤う者は居ない。
 鎖鎌によって増幅された魔力は三日月の形になって放たれ、左右から一斉に襲い掛かろうとしていた山賊たちに直撃、その意識を飛ばしたのだから。

「11」

 気絶した山賊たちを一瞥することなく山賊に向き直ったワタルには、先程まで浮かべていた笑みは無い。

 狩られるのはお前たちだ。

 油断なく、残りの9人へ向ける視線は油断や慢心など微塵も無く、好戦的に歪められた口元がそう冷たく語っていた。






「……ッ!? クソ、なら数だ! 一気に囲んで魔法を使わせるな!!」

 あっという間に半分以上の仲間を戦闘不能にされた事に呆然としていた山賊のリーダーだったが、すぐに我に返ると命令を出した。

 頭領と同じように呆気にとられていた残りの8人が迫るが、まるで動じないワタルの背中を、その姿を目に焼き付けるようにエルザは見ていた。

「これが、ワタルの魔法、魔力……」

 エルザがこれまで見てきた魔法は、楽園の塔の魔法兵が使う攻撃魔法とゼレフに憑りつかれたジェラールの狂的とすら言えるほどどす黒い暴力だった。
 目の前には、囲まれながらも鎖で山賊の得物をいなし、或いは小柄な体躯を利用して懐に潜りながら両手の鎌を振るうワタルの殺陣。

 両者とも『相手を圧倒する力』という点では共通している。
 しかし、魔力に目覚めたばかりで魔導士としてはまだまだ未熟なエルザではあるが、ワタルからは楽園の塔で感じた魔力とは全く違う、湧水のような淀みない清廉な魔力を感じていた。

「(私もなれるだろうか?  あんな風に、強く……!)」

 山賊の一人の足首に鎖を巻きつけて、魔力による身体強化と鎖の操作で即席のチェーンハンマーとしたワタルが、巻き込みで3人ほど戦闘不能にしたのを見ながら、エルザは己の胸が静かに高揚するのを感じていた。
 豪快に、それでいてしなやかに戦うワタルの武の舞に憧れを抱いたのだ。

 そうやって見惚れていたせいだろう。さらに3分の1の戦力を失い浮き足立つ山賊の中で一人、辛うじて冷静さを保っていた者が自分の後ろに回っていた事に、エルザは気付かなかった。

「このっ!」
「キャッ! く、この……」 

 そしてエルザは山賊に捕まり、うつぶせに倒されてしまう。自分の迂闊さを呪って何とか拘束から抜け出そうとするが、短剣を喉元に突き付けられては抵抗もできない。

「へへへ、おい! 動くんじゃ、な……い……?」

 エルザを組み伏せた山賊は人質を取ったことを宣言しようとしたが、視界に嵐のごとく暴れ回り、仲間を蹴散らしていたワタルの姿が無い事に動揺して慌てて探すが……


「……そりゃこっちのセリフだ、馬鹿野郎」


 ワタルは既に、後ろにいたはずのエルザを拘束する山賊の、さらに後ろに回り込んでいた。
 状況を認識できていない山賊に構わず、魔力を十分に溜めた手をその背中に当てる。

「“魂威(こんい)”!!」

 瞬間、山賊は魔力を打ち込まれて電撃のような炸裂音とカメラのフラッシュのような閃光と共に吹っ飛び、何が起きたのかも分からないうちに気絶した。

「大丈夫か、エルザ?」
「え、……ワ、ワタル!? いつの間に……」

 ワタルの手にあるのは先ほどまでの鎖鎌ではなく、忍者刀のような鍔の無い短刀。
 そのことにも驚いたのだが、エルザの驚愕はもっと別のところにあった。

 一体どうやって、瞬間移動でもしたかのように後ろに回っていたのか、だ。

「これは特殊な魔武器でな。忍者刀(こいつ)は使用者の魔力に応じて身体能力が強化される効果がある」

 その効果で、山賊が声を出すより早く後ろに回ったという訳だ、とワタルは説明した。

「すぐに終わる。じっとしていろ」
「う、うん」

 見れば、リーダーを別にすれば山賊の残りはあと4人になっていた。
 ワタルはその中をエルザがかろうじて視認できるぐらいのスピードで縦横無尽に駆ける。

 先程までの鎖鎌の撹乱は技と身体捌きによるものだったが、今度は純粋な速さで駆け回って山賊を翻弄していく。
 忍者刀で切りつけたり、先程の強い閃光が走る度に立っている山賊の数が減っていき、リーダー格の男を残して全員が気絶、あるいは呻き声を挙げて地に伏す状況を作り出すのに、さほど時間は掛からなかった。

「さて、アンタで最後だな」
「クソが……ったくとんだ計算外だ、クソッタレ……」

 手下の山賊を全員倒し、残るはリーダー一人。
 ゆっくりと向き直るワタルに青筋をこれ以上浮かべたら切れるのではないかと心配になるほどに浮かべて、山賊の頭領は150センチはあろうかという大剣を手に、恐ろしい形相でワタルを睨む。

「とっとと観念……む」

 もう結果は見えてると言わんばかりに降伏を促そうとしたワタルだったが、リーダーが持つ大剣を見て足と言葉を止める。

「ああ、ホント計算外だ……ガキ相手にこれを使う羽目になるとはなァ!!」

 それを隙と見たのか、リーダーは両手で大剣を振りかぶり、ワタルの脳天目掛けて振り下ろした。
 怒りで必要以上に力んだ一撃は必要以上に重かったため、身体を捻れば楽に回避できる一撃だ。

「これは……チッ!」

 しかし、ワタルは余裕を持ってこれを回避。
 舌打ちと共に大きく飛び退くと、大剣が叩きつけられた地面が爆発、周囲に爆炎を撒き散らした。
 肌をなめる熱にエルザは驚き思わず声を挙げる。

「炎!? これは魔法、なのか……?」
「滅多にある物ではないが、魔法剣の中には魔水晶(ラクリマ)を埋め込む事で属性を追加したり威力を上げたりすることができる物もある。あれもその一種だ」

 軽い解説を交えたワタルの回答に、エルザはある疑問を覚えた。
 なぜ山賊がそんな代物を持っているのか、という疑問だ。

「大方、討伐依頼を受けた魔法剣士を返り討ちにでもして奪ったんだろ」
「魔導士を、山賊が?」

 楽園の塔で反乱を起こした際に鎮圧部隊として出張ってきた魔法兵を思い出したエルザは信じられない様子を見せた。あの時はショックで魔力に目覚めたから切り抜けられたが、魔法の強大な力を目の当たりにしているエルザには、魔法の使えないただの山賊が魔導士を倒せるとは思えなかったのだ。

「魔法剣は普通の剣としても使えるけど、その真価は使用者が魔力を込める事で重さ、つまり威力を調節できる点にある」

 これは魔法剣共通の性質だ、と鎖鎌を換装しながら続け、ワタルは爆発で巻き上がった砂塵と火の粉の向こうに揺らめく山賊のリーダーの影を睨みながら構える。

「分かるか? 魔力を持たない者が使うならまだしも、ああいう魔水晶(ラクリマ)でブーストする魔法剣を魔導士が使うって事は、『自分は魔力の還元も碌にできない未熟者です』って言ってるようなものなんだ」

 それを逆手にとって油断を誘う、という利点が無いではないが、そんな知恵が回るなら山賊の討伐など容易なものだろう、というのがワタルの見解だった。
 第一、懐事情に明るいとは思えない山賊稼業では、魔水晶(ラクリマ)のストックだって十分な数は用意できるはずもない。生活に使う程度のものなら安く取引されているが、戦闘での使用に耐えうる魔水晶(ラクリマ)は値が張るのだ。

「このクソガキがあああああああァ!!」

 それゆえの切り札、虎の子だったのだが、あっさり躱されてしまい、驚愕と怒りで山賊のリーダーの心境はとてもではないが穏やかとは呼べないものになっていた。

 まさか見切られたのか。ありえない、予想などできるはずがない。何故あんなガキにいいようにやられているのだ。

 怒りで支離滅裂になっている思考のまま、男は砂塵を突っ切って突撃。鎖鎌を構えるワタルに再び剣を振り下ろす。
 今度は躱せるはずがない。躱したら女に爆炎が当たる距離だ。

 男の予想した通り、ワタルは躱さなかった。

「は……?」

 思わず間抜けな声が漏れる。
 男にとって、目の前の光景はそれだけ理解しがたいものだったのだ。

 振り下ろした剣は大量に集中した魔力で淡い光を放つ鎌で防がれたが、爆発はしっかり発生した。が、その爆炎はワタルにも、後ろのエルザにも何の影響も与える事は無かったのだ。

「解析完了。逆流開始」

 動作不良かと、悪夢にも等しい光景に現実逃避する暇も無い。
 鎖で剣を固定したワタルが剣の腹に手を当てると電撃のような光が刀身に、鍔に、柄に走り、まるでひきつけを起こしたかのように剣が振動し始めたのだ。

「な、何をして……!?」
「過ぎた玩具を壊してやるだけさ」

 抵抗しようにも、いつのまにか剣は鎖でグルグル巻きにされてしまい、何が起こっているのか分からないまま、剣は……いや、柄に埋め込んだ魔水晶(ラクリマ)は爆発した。
 幸運だったとはいえ、以前自分たちを討伐に来た魔法剣士が未熟だったがゆえに返り討ちにして奪う事が出来た魔法剣をあっさりとお釈迦にされてしまい、男には呆然と重い鉄の塊と化した大剣を眺める事しかできない。

 もちろんそれを許すワタルではない。
 次の瞬間、ワタルはリーダー格の男の懐にいた。

「“魂威”!!」
「ガ、フ……!」

 男の鳩尾に手を当てて魔力を打ち込むと、男は倒れ、白目を剥いて気を失った。

「ま、相手が悪かったな。……聞いてないか」

 カモだと思っていた子供一人に全滅させられたのだ、山賊にとっては厄日以外の何物でもないだろう。
 だからと言って同情する訳ではないが、一言だけそう言うと、ワタルは男の魔法大剣を取るとエルザの方に振り返った。

「エルザ、もう大丈夫だぞ」
「う、うん……」
「……怖かったか?」
「そ、そんなことない!」
「そうか、なら良かった」

 そう言って笑ったワタルは先ほどまでの鋭い雰囲気ではなく、エルザが知るいつも通りのワタルだった。
 そのことに安心したエルザは、山賊たちをどうするのか尋ねた。

「とりあえず拘束して……近くに大きめの街があったから、そこに駐留している軍隊にでも引き渡す。話はそれから、だな」
「なんか、手慣れてないか?」
「そうか?」

 怪我を治療してくれた時も思ったが、とエルザは内心で溜息をついた。

 最初の騙し討ちの看破に始まり、先程までの戦いぶりに加え、今は気絶した山賊たちを予備の鎖で木に拘束しているワタル。
 反乱を指揮したという事もあって『戦い慣れている』という自負があったエルザだったが、彼の前では経験の厚みの差を痛感せざるを得ず、少し疎外感を抱いたのだ。

 だがそれでいい。そうでなくてはならない。

 目を閉じた時、浮かび上がるのは彼の戦う姿と清廉な魔力。戦い――いや、蹂躙と言った方がふさわしい程に圧倒的な力と、エルザが見てきた魔法とは似ても似つかない、透明な魔力。

 それは傷だらけの心に灯る道標か、それともただの幻影か…………ただ確かな事は、

『今この瞬間、ワタル・ヤツボシはエルザ・スカーレットの目標となり、憧れの対象になった』

 という事だけだろう。



    =  =  =



 山賊たちを拘束し終え、近隣の街に駐留する軍隊に連絡した二人は、久しぶりに宿に泊まっていた。
 あの山賊たちは街の悩みの種になっていたらしく、報奨金が出たのだ。

 清潔なシーツの上に寝転がりながら、エルザは尋ねる。

「それにしても、あのバシッって鳴るやつ――“魂威”、だったか? 私にも使えないのか?」
「無理だ。“魂威”は集中した魔力をそのまま放出させる技だからな」
「放出?」

 首を傾げるエルザに、ワタルは少し考えると口を開く。

「そうだな……魔力を拳に集中させるだけなら魔導士だったら誰でもできるけど、そのまま放出となると、もう努力と経験でどうにかできる物じゃなくて体質も絡んでくる。今じゃあ、使えるのは俺だけだろうさ」

 魔導士は自分の魔力を能力(アビリティー)系なら何らかの現象――炎や雷、氷などとして――具現させて、所持(ホルダー)系なら物に纏わせて魔法を使う。
 “魂威”は魔力そのものを、変換なしに純粋なままで打ち出す技のため、ある特別な体質と精密な魔力コントロールを必要とする。

 特別な体質とはすなわち、ずば抜けて高い魔力感知能力を指す。
 魔力を感知する能力は、魔導士なら大なり小なり誰でも身に着けている。それは五感の全てであると同時にどれにも当てはまらない感覚――いうなれば魔導士が持つ第六感。
 “魂威”はこの感覚で自分の内側の魔力を隅々まで感知する、言い換えれば誰よりも自分を理解し支配下に置くことが前提条件だ。
 だが魔力というものはとにかく繊細で、良し悪しを問わず感情や精神に大きく影響する。そのため、精神的に不安定な状態で無理に撃とうとすれば不発ないし暴発の危険性をはらんでいる技なのだ。

 だが、“魂威”には、そのデメリットに見合うだけのメリットがある。
 威力は高い事はもちろん、打ち出した魔力を操る事が出来れば、さらに応用力の高い技に昇華できるのだ。

「むー」
「ハハハ、むくれるなって。“換装”はお前とは相性が良いと思うし、教えてやるさ」

 魔力を空気中に軽く魔力を炸裂させて実演して見せたワタルの説明にエルザはむくれて落ち込んでしまう。が、換装は自分でも使える、さらに相性が良い、と知ると目を輝かせてワタルに詰め寄った。

「本当か!? なら教えてくれ!」
「ああ、分かった分かった。でも今日は遅いし、また明日、な」
「む、分かった。約束だぞ」
「ああ、約束だ」

 すぐに始めようとしたエルザだったが、ワタルに諭されたため、約束をすると布団に入ると、山賊との予期せぬ遭遇で疲れたのか、すぐに寝入ってしまった。






「(エルザの奴、今日はやけに機嫌が良かったな。まあ、布団付きの宿に泊まれたのは久しぶりだしな)」

 相方を起こす訳にもいかず、静かに寝息を立てるエルザの後頭部を一瞥して寝返りを打ったワタルは心の中でそう納得すると目を閉じ睡魔に身を委ねようとする。
 しかし……

「……行かな……ロブおじ……ジェラ……」

 眠りに入るその直前、か細い声が聞こえたワタルは体を起こした。
 睡眠を邪魔されたが不機嫌な様子は見られない。これまでにも何度かあった事であるし、なによりも過酷な体験をしたばかりの少女なら、悪夢に魘されるのは当たり前だと、むしろ心配していた。

 しかし、自分に何ができるというのだ。奥深く踏み込む事が、こいつのためになるのか。自分から話してくれるのを待つべきではないのか。

 そう迷いながらも自分を納得させると、自分も横になろうとしたのだが……

「――――ワタル」
「!」

 突然自分の名を呼ばれ、ハッとエルザの寝顔を見てしまう。
 悲しい夢を見ているのだろう。眼帯に覆われていない左目からは涙が滲み、片手をヨロヨロと伸ばしていた。

 おそるおそる、彼女を起こさないようにそっとその手を取ると、できるだけ穏やかに声を掛ける。

「大丈夫だ、俺はどこにも行かない。俺は……俺は此処にいるから」

 無意識に握られた彼女の手を恐る恐る握り返し、自分にも言い聞かせるように囁く。
 しばらくすると寝言は止み、心なしか彼女の顔も和らいだ。
 それに安堵すると共に急に気恥しくなったワタルは手を離すと自分の布団に入り、そして思案にふける。

「(また明日、か……。いつぶりだろう、そんなことを言うのは)」

 ずっと独りだった。この広い世界を、たった一人で、少なくとも2年生きてきた。
 大衆から疎まれ、恐れられ、そして憎まれてきたという一族出身である自分には、心を許せる者も頼れる者もできるはずも無かったのに――

「(ああ、でも……なんか安心するな)」

 そんな自分が、明日を約束できる人に、明日を望んでくれる人に会えた事が、ワタルには嬉しかった。

「おやすみ、エルザ」

 普段より穏やかな気持ちで、眠りに入ったワタル。

 そんな胸中とは裏腹に、深い眠りの中で見た夢は、赤く染まった床と、狂ったように嗤う、白髪を血に染めた男の夢だった。

 それが誰なのか、いったい何をしているのか――そんな疑問だけでなく、夢を見た事そのものも、翌日目覚めたワタルの意識に浮かぶ事は無かった。






「……!」

 翌朝、エルザは頬を赤くして目覚めた。

 幾分か余裕が出たからか、心の隙を突かれたエルザは昨晩悪夢を見た。
 その夢は最近の、楽園の塔の夢。
 傷ついた仲間たち、倒れて動かなくなったロブ、そして狂ってしまったジェラール。

 その次に見たのは……ワタルの夢だ。
 生きる指標として決めた彼も、彼らと同じようにどこか遠い、自分の届かない場所行ってしまうんじゃないか――そう思うとどうしようもなく不安になって手を伸ばすと、ワタルはその手を取って優しく笑ってくれた。

 口元が動いたような気がするが、何を言っているのかは分からなかったが、それでも何故かたまらなく嬉しく、安心した。
 目覚めた今、心に残るのは最後に夢に出たワタルの笑顔。
 自分を安心させるその笑顔に心が高鳴るのを感じたエルザが胸に手をやると、心臓の鼓動が煩い程に音を立てていた。

「ワタル……」
「なに?」
「ひゃ、ひゃい!?」

 思わず、といった風に口にしてしまった呟きに答えた者がいて、声が裏返る。見ると目の前に件の人物、ワタルその人がいてエルザはさらに慌ててしまう。

「どうしたんだ、寝ぼけてるなら……」
「な、何でもない!」
「顔が赤いぞ。熱でも――」
「何でもないったら何でもない!!」
「……分かったよ、きついようなら言ってくれよ」

「(起きてるなら言ってくれればいいのに……うう、絶対顔真っ赤だ)」

 エルザの顔を覗きこみ、心配そうな声を出すワタル。
 近い顔を押し退け、これ以上上げたらどうにかなってしまうんじゃないかと思う程に、エルザは心拍数を上げてしまう。

「朝ご飯は旅館で用意してくれたから……エルザー、聞いてるかー?」
「な、なんだ!?」
「……ホントに大丈夫?」
「平気だと言ってるだろう、しつこいな!」
「ああ、悪かった悪かった。……朝ご飯用意してくれたみたいだから食べようか」
「ああ、分かったよ……」

 顔を真っ赤に染めて否定するエルザを、ワタルは心配したが……頑固なエルザに、ワタルは何とか了解するのだった。



    =  =  =



 山賊から奪った魔法剣をエルザに与え、制御方法や魔力の運用方法などを教え、軽い修行のようなものをしながら旅を続け……1週間ほど経っただろうか。

「ここが……」
「そうみたいだな」


「「妖精の尻尾(フェアリーテイル)!」」


 一ヶ月の旅の末、“FAIRY TAIL”と書かれた看板の大きな建物の前に、二人は立っていた。
 やっと着いたという感慨と、これからどうなるかという不安を胸に秘めながら。


 
 

 
後書き
リメイク前に比べて文字数が約2倍に・・・(汗) 
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