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7thDragoN 2020 ~AnotheR StoryS~

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CapteR:0 目醒めの刻
序章:a
  -新宿地下街-2020-April-3-15:04-

「あともう少し、もう少しだから我慢して歩こ、ね?」
もう随分、歩いた気がする。携帯で次官を確認しようにも、咄嗟にテーブルの下に潜ったお蔭で、落っことして壊れてしまったようだ。
「やだ・・・。疲れた、もう一歩も、歩きたくない。」
そう言って雪絵は地面に座り込んでしまう。天井が崩れ落ちてたり、床が抜け落ちてたりした所を避けて歩いたからだろう。想像以上に疲れが溜まっているようだ。
「そうだね、少し休もっか。」
思えば今まで、折れずに歩けてた方が、不思議といえば不思議なのだ。正直、何人もの姿態を見たのか、なんて忘れてしまった。結局、道中に誰とも会うことなく出口近くまで到達した。
「私さ、ちょっとトイレ行ってきてもいいかな・・・。落ち着いたらちょっと・・・。」
雪絵はのろのろと立ち上がりながら、非常灯脇の女子マークを指して言う。
「オッケ、ただ何があるか、分からないから鍵とかは開けときなよ。出口は見張ってるから。」
ありがとー。急に緩んだ表情になって、雪絵は感謝の言葉を呟く。
「早く行ってこないと、恥ずかしい人になっちゃうよ?」
そう言って、雪絵を急かしつつ、私はその場にしゃがみ込む。
この状況で思考するのをやめたら。それこそ発狂しかねない・・・。
これはきっと地震、なのだろう・・・。
だとしたら救助隊が来てもいい筈・・・。
いや、もしかしたら地上の方が酷くて地下まで見ることが出来ない、とか・・・?
地上に連絡を取る事も考えたが、生憎、携帯は壊れてしまっているし、公衆電話は全部が全部壊れてしまっていた。
だとすると、やはり自力で地上に出ることが最善の解決策、なんだろうか・・・。

雪絵がトイレに入ってから何分くらいが経っただろうか。流石に10分ぐらいは経っているだろう。
遅すぎる。
私は立ち上がり、制服の裾を叩き、埃を払ってトイレの中に入る。
一番奥の個室の天井が崩落して、地上が覗き見る事が出来る。地上が見えるという事は、やはり地上近くまで来ていたのだ、という自信を持つことが出来た。
奥から二番目の個室からゴソゴソと、音がしている。多分、雪絵が入った個室だろう。現に血で染まった雪絵の制服が無造作に投げてあった。
「全くさ、ちょっと怪我して服が血まみれになったくらいで着替えなくたって良いじゃない。」
そう言いながら、雪絵の部屋もこんな感じで色んなものが散らばってたっけ、なんて思い出しながら笑みをこぼす。

本当は違和感に気づいて立ち去るべきだったのだ。

例えば、地上を覗いた時に咲いていた大量の花は何故、あんなにも紅かったのか。

例えば、手しか怪我をしてない雪絵の制服が何故、血まみれなのか。

例えば、トイレに入った時よりも鉄っぽい臭いが何故、増しているのか。

例えば、奥から二番目の個室あたりに赤い水溜りが何故、出来ているのだろうか。

例えば、着替えるだけなのに

―――ガリッ           ガリガリッ――
          ――バキンッ
                       ベチャッ――
何故、
     こ ん な に も 不 快 な
                 音 ガ ス ル ノ カ 。
―――ベチャッ
               ベチャッ――
                            バキンッ――
         ベチャッ――

いや、私は気付いていた。ただ足が何故か、止まらなかった。足は震えて立つことすらままならないのに、いう事を利かない。奥歯の付け根が噛み合わないほど、私の体は震えている。

――パシャッ――

靴が水溜りに浸かる。

――パシャッ  パシャッ――

いや、水溜りじゃない。

――パシャパシャ パシャン――

これは血溜まりなんだ。

――パシャッ パシャ――

見たくない。しかし私の考えとは裏腹に体は尚も、歩みを進める。
遂に奥から二番目の個室の入り口に来てしまった。
そこには雪絵の変わり果てた姿、なんて物は無く、代わりにソレは居た。
ソレは姿かたちこそ、犬や狼の様な獣だったが大きさが異常だ。巨大な体躯に相応しい口を持っていて、綺麗に生え揃った牙は全てが赤く染まっていた。
ソレは咀嚼するのをやめ、こちらを値踏みするように睨め回した。
私は気付いた時には、落ちていた鉄筋を握りしめていた。
しかし手が震え、足が震え、思うように一歩目が踏み出せない。

――グァルルルッ――

地の底から響くような低い唸り共に、ソレはいきなり飛び掛かってきた。ほんの一瞬の出来事だった。その一瞬で距離を詰められ、のしかかられる。ソレとタイルに挟まれ、身動きが取れなくなる。ソレの鉄臭さと生臭さが混じった息が顔に掛かる。
爪が制服を裂き、皮膚に食い込む。食い込むと同時に、赤い液体が幾筋も流れ出る。目の前に、血染めの牙を剥き出しにした口が近づいてくる。

そうか、私は友人の一人も助けられず、あっさりと死ぬんだな。
そう呟き、目を閉じる。
臭いが一層近づいてくる。

しかし待てど暮せど、その瞬間は来ない。
「おいおい、しっかりしてくれよ。それでもS級エリートなのか?お話にならねぇぞ。」
聞き慣れぬ男の声がする。臭いが遠のく。
「S級が一人、避難が確認できないからよろしく。なんって話だったがこれじゃ、この先もたねぇぞ?」
恐る恐る目を開くと、そこには紫の布と腕章を身に着けた、軍服の男がいた。
そして驚くべきことにその男は、素手でソレと戦っていたのだ。男は大柄に見えるが、せいぜい180㎝程だろう。それに比べて一回りも二回りも大きいソレをいとも容易く抑え付けていたのだ。
「おい、嬢ちゃん。死にたいのか?」
私は千切れんばかりに首を振る。
「なら俺と来い。多分、勘違いだろうから言っておくとこれは災害なんかじゃねぇ。災厄だ。」
男は片手でソレを抑え付け、腰に提げてあった大振りのナイフに手をかける。
「俺はムラクモ機関所属の10班、ガトウだ。死にたくなければついて来い。」
言うと同時に、抑え付けていた下顎に突き刺し、脳天を目がけて振り上げた。
「で、返事はどうなんだ。不知火流直系の次期当主、河上美沙ちゃんよぉ。」
私はその場にへたり込んでしまった。それと同時に記憶の糸がぷっつりと切れた。
 
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