八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第五十話 商店街その九
「こだわらないよ」
「そうなのね」
「別にこだわりはないよ」
僕はこう美沙さんに答えた。
「あとお蕎麦も噛んでいいしね」
「そっちのこだわりもなくて」
「このことさっき言ったけれどね、それとね」
「それと?」
「お茶も飲んでいいから」
このこともだ、僕は話した。ここでまた。
「気兼ねしなくていいから」
「東京だけがそう言うのね」
「何でか東京ってこだわり多い様な」
僕はここでこうも思った、徐々にだけれど目の前にそのお蕎麦屋さんが見えてきた。看板を観るだけで唾液が出そうになった。
「お風呂にしても」
「そういえばそうよね」
「それを言えば京都もだけれど」
「あそこはそうよね」
「あそこはお蕎麦とかお風呂には五月蝿くないけれど」
「それでもよね」
「こだわりというかしがらみが多いよ」
あそこはまた特別だ、とにかくそうした話が異常に多くてだ。
「もう因習っていうかね」
「古都だから?」
「そんな話が多いよ。料亭とかなんてね」
「一見さんお断りよね」
「そう、そうしたお店が本当にあるから」
「東京にもそういうお店があるけれど」
「京都は絶対に東京より多いよ」
そうした僕から見れば気取ったお店がだ。
「古いお店とかね」
「一見さんお断りね」
「東京にもあるけれどね」
「京都はそうしたお店がもっと多いのね」
「あそこは特別だから」
僕みたいな神戸に生まれ育った人間から見ればだ。
けれどだ、その京都について僕はこうも言った。
「ただ、八条家は公卿出身だから」
「お公家さんっていうと京都よね」
「そう、だから八条家のルーツはね」
「京都にあるのね」
「そうなんだ」
美沙さんにこのことも話した。
「元々はあそこにルーツがあるんだ」
「そういえば京都っていうと留美よね」
「あの人もだよね」
「留美なら京都に詳しいかしら」
「絶対詳しいよ、あの人京都で生まれ育ってるから」
ルーツは京都にあっても八条家は明治の頃から神戸に住んでいる。だからそこは違う。
「僕よりもずっとね」
「そうなのね」
「まあ京都はともかく」
僕はまた言った。
「神戸はそんなにこだわりないから」
「お蕎麦もお風呂も」
「気楽に食べて入っていいよ」
「じゃあお湯をお水で薄めるのは」
「別にいいよ」
お風呂屋さんでのことだ、江戸っ子は何でもお風呂屋さんのお湯を水で薄めると怒るらしい。熱いお風呂が好きだかららしい。
「それも」
「そうなのね」
「うん、けれど美沙さんは」
「私はしないわいよ」
お風呂屋さんのお湯をお水で薄める様なことはというのだ。
「さっき言ったけれど熱いのが好きだから」
「それでだよね」
「そうしたことはしないから」
こう僕に話した。
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