キル=ユー
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9部分:第九章
第九章
「それじゃあどうしたら」
それが問題だ。どうするべきか。
俺はあれこれ考えながらだるい足取りで買い物に出た。とりあえず腹に何か入れないと命がどうとか以前の話だ。
スーパーに入った。ついでに他の日用品も買うつもりだった。
そこであるものが目に入った。それを見てふと思った。
「これなら」
俺の頭の中で何かが閃いた。そしてそれを実行に移すことにした。
すぐにそれを買って部屋に戻った。そして用意した。
「これでいいな」
そのまま次の日を迎えた。その日は部屋から出ないことにした。シャワーも浴びず、食事とトイレだけだった。そしてその日を過ごすことにした。
本当に何も起きない。そのままずっと過ごした。昼になり夕方になり夜になった。そのまま時間だけが過ぎていく。そう、時間だけが過ぎていく。
「正解だな」
俺は何事も起きないことに満足していた。どうやら成功だったようだ。
そのまま真夜中を迎える。すると何処からか呪詛の声が聞こえた気がした。それで終わりだった。
次の日目が覚めると何も起こってはいなかった。俺は元気なままだった。
そして一昨日寝る前にやったことを解いた。慎重に。この瞬間はかなり緊張した。だがそれで終わりだった。気が付くと俺は体調もよくなっていた。
「よし」
俺は朝のトレーニングに出た。そこであの声が聞こえてきた。
「おい」
「どうしたい?」
どうせ姿は見えない。俺はあえて声がした方に顔を向けずに声だけで応えた。
「何故生きている」
「それを知りたいからわざわざ来たのかい?」
「そうだ」
声は苦渋に満ちたものだった。余程悔しいのがわかる。
「私から逃れた奴は今までいなかった」
声は言った。
「一週間だ。それで死んでいたというのに」
「何、簡単なことさ」
俺は答えてやった。走りながらだ。周りには多分俺が独り言を言いながら走っているように見えているだろう。だがそれには構わなかった。
「簡単なこと」
「御前さんのコロシってのはあの文字にあるんだろ?」
「そうだ」
声は答えた。
「まずは殺すって宣言してから一日に一文字ずつ見せる。そして徐々に体力を奪っていく」
「わかっていたか」
「段々とな。中々焦らせてもらったぜ」
「普通ならそのまま死んでいくのだ」
「しかし俺は今こうして元気にトレーニングに励んでるよな」
「奇怪なことだ」
「それが別に奇怪なことじゃないんだよ」
俺は言ってやった。
「言っとくけどな、俺は別にオカルトなことはしてないぜ」
「では何をした」
「目さ」
俺は自分の目を指指して言ってやった。
「目にな、ちょっと細工をしたんだよ」
「目か」
「結局あれだろ、あんたのコロシは文字を見させて殺していく。違うかい?」
「その通りだ」
「だったら見なかったらいいんだよ」
俺はここでニヤリと笑った。
「見なかったらな。違うかい?」
「それに気付いたのか」
「ああ。そしてな」
俺はわくわくしていた。種明かしがこんなに面白いものだとは思わなかった。だが同時に手品師には向いていないとも思った。種明かしをしては話にならない仕事だからだ。ここは幸い手品師ではなく裏の世界の殺し屋って仕事に珍しく感謝をした。
「縫ったのさ」
「縫った」
「上の瞼と下の瞼をな。絶対に開かないように」
「文字を見ない為にか」
「おかげで昨日は身動きがとれなかったぜ。部屋から一歩も出られなかった」
「盲人になったのか」
「一日だけな。心の中ではそれでも頭の中に見せてくるんじゃないかってヒヤヒヤしてたけどな」
「安心しろ、それはない」
「ないのか」
「私の術は。そうしたものではない」
「それはラッキーだったね」
俺は自分の閃きと幸運にこの時心から感謝した。
「そして一文字でも途切れたら終わりなのだ。つまり」
「俺は助かったってことだな」
「残念なことにな」
「運がいいことにな」
俺は正反対のことを言い返してやった。これも気持ちがいいものだ。
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