八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第五十話 商店街その四
「私は噛むけれど」
「それは完全に東京だけだよ」
「関西じゃ噛んでもいいのね」
「コシも楽しむからね、それにね」
「それに?」
「おつゆの味も楽しむから、親父が言ってたけれど」
ここでもあの親父の名前が自然と出た。自分でも不思議に思う位親父の話が出て来る。迷惑千万な親父だというのに。
「東京のお蕎麦は大根醤油がおつゆで」
「大根?」
「大根をすったお汁をお醤油で味付けした」
「それがおつゆだったからなの」
「それか鰹だしで」
やっぱりここでも昆布は入れない。
「辛いからね」
「それで噛まずになの」
「辛いのを避ける為とか親父言ってたよ」
「辛さがお口の中に残って」
「風味を殺さない様にね」
実際にだ、親父は僕にざるそばを食べさせながら僕に言って来た。これから行くそのお店でのお蕎麦を。
「一気に食べる為に」
「おつゆの風味が辛さで駄目になる前に」
「それでお蕎麦もね」
「噛まずになのね」
「喉越しだけを味わっていたらしいんだ」
「そうだったのね」
「だから東京じゃお蕎麦は噛まないらしんだ」
親父曰くだ。
「あっちの方じゃね」
「江戸のお蕎麦ね」
「お蕎麦はあっちの方が有名だよ」
何といってもだ、関西が大阪に代表される様にうどんなのに対して。
「それでそうした食べ方にもね」
「五月蝿いのね」
「通もいて」
「蕎麦通多いらしいわね、東京」
「今でもね」
「じゃあ向こうでお蕎麦噛んだりそば湯以外飲んだら」
「怒る人いると思うよ」
実際にそうした場面を見たことがないから詳しくは言えないがだ。
「あそこだとね」
「蕎麦痛のお年寄りとか」
「うん、まだそういう人がいてね」
「厄介な場所ね」
「こっちじゃお店の悪い評判は尾ひれがついて一気に広まるけれど」
おばさん達が広める、女の人は怖いというけれど関西のおばさん達特に大阪のおばさん達は敵に回したら生きていられない。
「そうした人は少ないね」
「食べ方にああだこうだ言う人は」
「お寿司屋さんも腰低いし」
「東京じゃ威張ってるお寿司屋さんいるってね」
「いうよね」
「ええ、鶏すきのお店でもね」
美沙さんが言うにはそうしたお店でもというのだ。
「あるのよ」
「そうしたお店が」
「そう聞いたわ」
「そういうお店は行きたくないね」
僕は顔を曇らせて美沙さんに答えた、そして。
ここで僕達は立ち止まった、横断歩道が赤になったからだ。
それで目の前を行き交う車達を見つつだ、僕は美沙さんに言った。
「あまりね」
「そうよね、そうしたお店はね」
「行って気持ちよくないから」
「東京だとね」
「そうしたお店あるんだね」
「威張ったお寿司屋さんとかね」
「お蕎麦屋さんもそうかな」
僕はこれから行くお店についても言った。
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