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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico37竜の矜持~The 0th task force : Dragon Heart~

†††Sideルシリオン†††

ついに“ケリオンローフェティタ”が顕現した。全長14km、全幅5kmという超巨大な転移門。現代の次元世界にその偉容を見せつけている。
初見は幼少の頃だった。フノスがカノンを“アンスール”へとスカウトし、それを承諾したカノンを迎えに行った時だ。その巨大さに、フノスに同行した俺やイヴ義姉様、3人そろって度肝を抜かれたものだ。そんな転移門がとうとう・・・。

(フィレス二尉からの報告ではアールヴヘイムへ繋げることが出来る状態なのだということは判っている。あの巨大さだ。少し開いて出来た隙間だけで、こちらの次元とアールヴヘイムの在る次元を行き来できるだろう)

ガアプ課長のスキル・強制聴取によってリンドヴルム兵から引き出された情報によれば、リンドヴルム本拠地であるここ天空城レンアオムの下層には次元航行艦やらロストロギア艦など数隻が停泊するドックがあるという。
そして今、そのドックより艦が2隻出港したと聞いた俺は、はやて達からひとり離れてその艦を追うことにした。手にする“エヴェストルム”の神秘カートリッジを2発ロード。穂に刻まれたルーン文字がその神秘に反応して発動し、ただのデバイスが神器へと昇華される。それと同時に、その影響で俺の魔力炉(システム)の稼働率が上昇し、俺自身も魔導師から魔術師へと昇華する。

『ルシル! アリシアだけど! フェイト達がハート2の結界に閉じ込められちゃったんだけど!』

レンアオムの下層へ向かうために飛んでいる最中、ジャスミンで留守番しているアリシアから念話が入った。ハート2への戦力は十分とは言えないが、真っ向から戦って一方的に倒されるような戦力じゃないと思っている。だから『大丈夫だ、信じろ!』それだけを言ってやる。確かに気にはなるが、それ以上にシュヴァリエル達を止めなければ、という気持ちが強いため俺は引き返さない。

『そんな・・・、ルシル!』

『アリシア。特戦班総出に加えてフィレス二尉が居るんだ。大丈夫、大丈夫だ、信じろ。っと、切るぞ。そろそろ戦艦と接敵するからな』

『ちょっ、それ、つめた――』

半ば強引だったが念話を切る。そして、全体的に灰色をした三日月状の戦艦2隻を目視した。形状からしてロストロギア艦なのだろう。意識を集中させ、シュヴァリエルに付着させた魔力――イシュリエルの神秘を探り、シュヴァリエルがどちらの艦に乗っているのかを当てる。

「・・・っ! 見つけたぞ、シュヴァリエル!」

当たり前と言うかなんと言うか、先頭を往く戦艦から反応が返って来た。相手はロストロギア。管理局員としては認知されていないロストロギアを独断で破壊するわけにはいかないんだが・・・。

「緊急事態につき申し訳ありません!」

機動一課が回収した神器全てから魔力と神秘を吸収し、そして結晶化させた魔石を魔力炉(システム)に同化させて使用魔力量を無理やり増加させてやる。本来はジュエルシードで行う予定だったことだが、神器というジュエルシード以上の魔力を有するドーピング材を手に入れたため、今回はジュエルシードの役目は無し、だ。俺としては大助かりだ。出来るだけ温存しておきたいからな。

「そこに居るんだろッ、シュヴァリエルッ!!」

その艦に向かってそう叫ぶと、艦全体の至るところに六角形の青い光が生まれ、それより青い光線が何十本と一斉射出されてきた。光線の軌道は3つ。真っすぐの直線、曲線を描くモノ、直角を描くモノ。直線や曲線はまぁ、そういう軌道をする砲撃を俺も使うから気にはならないが、残り1つの砲撃は直角に、しかも連続で曲がりながらも俺へと襲いかかって来たからビックリだ。

「シュヴァリエル、出て来い! 逃げるのか!」

――舞い振るは(コード)汝の麗雪(シャルギエル)――

光線を躱しながら氷の槍シャルギエルを「ジャッジメント!」40本と一斉射出。魔術と化している今の俺の魔術に、単なる古いだけの骨董品風情の攻撃などどうってことない、そう思っていた。だが、全弾が光線の弾幕によって迎撃されてしまった。思わず「は?」とあんぐりだ。あの艦にも何かしらの細工が施されているようだな。

(またレーゼフェアの悪ふざけか・・・?)

今の艦の状態はまるでハリネズミ。砲台という概念が無いため艦の360度から光線は放たれ、艦体そのものが砲台と化している。しかも、もう1隻からも何十発という砲撃の集中砲火が。

「(俺と戦わずに艦砲だけで済まそうというのか・・・?)上等だ、この前哨戦、準備運動としてやろう!!」

†††Sideルシリオン⇒イリス†††

ケリオンの正体、転移門“ケリオンローフェティタ”がその偉容を露わにした。てっぺんや底が見えそうにない程にとんでもなく大きな黄金の門で、太陽光に照らされて、ここレンアオム全体が黄金の光の幕に覆われてる。
その“ケリオン”へと向かおうとしてる艦が、レンアオムの下層に有るっていうドックから2隻と出港したってジャスミンからの報告を聴いたルシルは大慌てで飛び去って行った。目的はその2隻の艦。“ケリオン”、ひいてはアールヴヘイムへ向かうということは、十中八九リンドヴルムの首領や、右腕たるシュヴァリエルも一緒だと思う。

(だからルシルはあんなに慌てて・・・)

わたし達も急いでルシルを追おうとしたんだけど、本城と庭全体を覆うように発生した半透明な膜――結界が張られたことで足止め。瞬時に理解できるその神秘の高さ。そして、この結界を張ってわたし達の邪魔をしてくれた術者を視認する。本城の中央にそびえ立つ塔の屋上に立つ1人の男・・・って、言っていいか判らないけど。
頭上には虹色に光り輝く環があり、背中からは純白の翼が4枚、衣類1枚と身に纏っていない彫刻のような真っ白な体。その正体は、人工的に造られた生命体・ホムンクルス。ルシルやシュヴァリエルら“エグリゴリ”以上の神秘を有するっていう、伝承だけでしか知らない天使を宿す為だけの器・・・。

(ん? 神器の書、ヒドゥンカリグラフィを持ってない・・・?)

ハート2の手には天使を召還するための魔導書が無かった。これじゃ神器封印の札を貼り付けることが出来ない。最悪なんだけどぉ~・・・。

「邪魔をしないで! スノーホワイトッ!!」

――パワーブースト・ガンファイアフォース――

「リフレクティブミラー! フローズンバレット・リバウディングシフト!」

すずかがハート2の周囲に反射鏡を数枚と展開。そこに冷気弾を8発と連射すると、冷気弾は反射鏡内部で24発に分裂・高速反射した後、ハート2の前後左右・頭上からと連続着弾。ボフッと冷気爆発が起きて、ハート2の姿が真っ白な冷気に呑み込まれた。

「すずかちゃん・・・」「すずか・・・」

ガチギレしてるっぽいすずかの全力攻撃をまともに受けたハート2だったけど、薄れていく冷気の煙の中から余裕の佇まいをわたし達に見せつけてくれた。すずかは「早く結界を解いてッ!」続けて冷気砲撃・バスターラッシュを放った。ここまで敵意と攻撃を与えればハート2だって反撃するはず。だけど、「ん・・・?」ハート2は何もしないで直撃を許した。

「スノーホワイト! 次の魔法を! みんなも早く! ハート2を倒さないと! ルシル君が行っちゃう! ケリオン君を助けないと! 早く!」

「お、落ち着いて、すずかちゃん!」

「猪突猛進なんてらしくないわよ、すずか!」

「すずか、冷静になって!」

なのはとアリサとフェイトが、すずかを押さえに掛かった。すずかは「離してよ、なのはちゃん、アリサちゃん、フェイトちゃん!」3人を振り払おうと暴れる。わたしはフィレスとセレスとベッキーに目配せ。すずかを冷静にさせるには、わたし達も参加しないといけない。

『シャルロッテ様! よろしくお願いします!』

『了~解。少しの間の筋肉痛は勘弁してね!』

シャルロッテ様と人格交代を行う。わたしの意識は深く沈んで、代わりにシャルロッテ様が浮き上がって行く。そうしてわたしはシャルロッテ様の視界から外界を把握することになった。ユニゾンデバイスのリインに訊いてみたけど、はやて達とのユニゾン中も今のわたしのような感じなんだって。

「みんな。やる事は変わらない。ハート2を墜とす。いいね? シャルロッテ・フライハイト。イリスに代わり、いざ参る!」

シャルロッテ様はそう言って、“キルシュブリューテ”(急ピッチでドクターに直してもらった)のシリンダーに装填された神秘カートリッジを2発とロード。

「フィレス・カローラ、参る!」

右腕と同化してる大剣、左腕と同化してる楕円形の盾、それらを繋ぐように胸部と背中に纏わりつく氷の装甲――“デュック・グラス”を装備してるフィレスが先行突撃。

「セレス・カローラ、参ります!」

セレスは片刃剣型デバイス・“シュリュッセル”の神秘カートリッジをロードしたうえで左手に持つもう1本の、全てが氷で出来た剣――“氷結剣クロセル”(ルシルの複製神器だ)を“シュリュッセル”と重ね合わせた。すると“クロセル”は一度溶けて“シュリュッセル”に纏わりつき再固形化して、両刃の長剣となった。

「えっと、ベッキー・ペイロード、五精霊が一、雷精グローム・・・、往きます!」

ベッキーも神楽鈴型デバイス・“ドゥーフ・ヴィーゾヴ”をシャランと鳴らすと、光で出来た巨大狐が一匹と顕現した。

「八神シグナム、参るぞ!」

“レヴァンティン”の神秘カートリッジをロードしてボーゲンフォルムへと変形させた。

「おっし! 八神ヴィータ、行くぜッ!」

神秘カートリッジをロードしたヴィータは“グラーフアイゼン”をギガントフォルムへ変形させた。そして、フィレス以外のシャルロッテ様たちはそれぞれが持つ中遠距離魔法を一斉発射。フィレスの脇を通ってわたしやセレスの斬撃砲、シグナムのシュトゥルムファルケン、ヴィータのコメートフリーゲンがハート2へ殺到。

『ハート2が今、どんな天使を取り込んでいるのかは判らないけど、これだけの神秘を一斉に受ければアイツの神秘の盾も多少はグラつくはず! そこにフィレスの全力一撃で・・・首を飛ばす!』

初めからハート2を殺す作戦だ。人型をしていても所詮は人形だというホムンクルスって話。ちょっと、ううん、かなり抵抗はあるけどハート2は危険すぎる。生かしておいて後々に天使を以って暴れられたりでもしたら管理局、最悪次元世界が滅びかねない。だから・・・

(ここで絶対に決着をつける!)

――マゲンプリツァー――

攻撃の数と同数のシールドがハート2の周囲に展開されて、攻撃を迎撃するためか射出された。そしてシャルロッテ様たちの攻撃は放たれて来た盾の弾丸に着弾して行って迎撃され始める。そこになのはの「バスタァァァァッ!」ディバインバスター・エクステンション、フェイトの「はぁぁぁぁぁッ」ジェットザンバー、アリサの「うりゃぁぁぁぁッ!」ヴォルカニックスカッシャー、3人の大魔法がシールドの合間を縫ってハート2に着弾。発生した魔力爆発で本城が崩壊、あと爆風で「ちょっとぉぉーーーっ!?」フィレスが吹っ飛んだ。

「「「あ」」」

あ、じゃないよ3人とも。やるなら射撃魔法による爆撃・・・もダメか。体勢を立て直したフィレスに「ごめんなさい!」謝る3人に、「次は気を付けて!」フィレスは魔力爆発の中へ突撃。そしてすぐにガキィンっていう甲高い音が聞こえて、直後に発生した衝撃波が噴煙を吹っ飛ばした。

「ここで新手!?」

ハート2を護るかのように佇んでる1人の女性。その女性の格好を見て真っ先に騎士だって判った。動きやすさ重視の為か綺麗な赤髪はベリーショートヘア。トップスはノースリーブのジャケット、ボトムスはタイツ、オーバースカート、胸当てや手甲・脚甲を装着していて、腰には2本の剣の鞘が有る。あと、背中からはオレンジ色の光の翼が一対あって、両腕にも光の翼が同化してる。明らかに神器によるもの。

「私は、第0小隊ドラゴンハート、ハート3。ここから先は、私が剣として、ハート2を盾として、あなた達の相手を務めさせていただきます」

「ああもう、冗談じゃない! ここに来て第88位の神造兵装!? しかも腰の2振りの剣や防具も神器じゃん! 神器フル武装って馬鹿じゃないの!?」

シャルロッテ様が喚く。どうやら新手のハート3はとんでもない人らしい。フィレスがわたし達のところまで一度後退して、「騎士シャルロッテ、どうすれば!?」そう訊ねた。シャルロッテ様が応じる前に「そんなの決まってます!」すずかが太腿に付けたホルダーから札を取り出して、ハート3に向かって投げた。

「神器封じの札だというのは既知です」

――ゾハルコテヴ――

ハート3の前面に発生した綺麗なオーロラ。すずかの投げた札9枚がそのオーロラに触れると一瞬で燃え散った。ハート3は直立したまま光翼が同化した右腕をこちらに向けると、「散開! 全力回避!」シャルロッテ様が大声でそう指示を出した。

――カドゥールオール――

光翼先端から放たれるのは光の羽根の弾丸。その速度はギリギリ目に留まるほどのモノで、シャルロッテ様の指示におかげでみんなは無事に回避することが出来た。もし指示が無かったら・・・全滅してた。

「シュヴァリエルさんからはあなた達を出来るだけ傷つけないよう仰せつかっています。ですが、こちらはあなた達のおかげで随分と家族を喪ってしまいました。命の恩人であるシュヴァリエルさんからの大事な命令。厳命することこそが私の使命。だけど・・・」

ハート3がそこで一度区切って大きく息を吸って・・・

「許せない、お前たちがッ! 私たちの家族を奪ったお前たちがッ!」

そう吐き捨てた。前にも居たなぁ、こんな奴。家族を、仲間を大切に思うのは良いよ。当然の感情だ。でも、「ふざけないでッ!」アリサがクレイモアフォームの“フレイムアイズ”を突き付けて怒鳴り返した。

「そうだよ・・・! あなた達の所為で一体どれだけの一般の人たちが亡くなったって思っているんですか!」

「その怒りはこちらも同じだわッ!」

なのはやフィレス、それに他のみんなも一様に怒鳴り返していく。リンドヴルムとのロストロギアを巡る戦いはかれこれ何十年となる。先月のクラナガンの悪夢だけでも3ケタの死者を出した。これまでの争いの中で出てしまった被害者の数を合わせれば軽く4ケタは行くと思う。決して許されない。犯罪者に成り下がっている以上、仲間を奪われた、なんて文句は通用しない。

「チーム分けをする! 私、なのは、フェイト、アリサ、フィレスは、ハート3! すずか、はやて、アルフ、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、セレス、ルミナ、ベッキーは、ハート2! 一切の手加減なしで・・・撃破せよッ!」

シャルロッテ様によるチーム分けにみんなが頷き返す。シャルロッテ様が一度だけ明後日の方をチラッと見た。視線の先、ずっとずっと遠い先、竜巻が発生してた。ルシルとシュヴァリエルの闘いが・・・始まった。

『ルシルの心配は後ね。ま、今日は勝つだろうけど』

シャルロッテ様がそう言って小さく笑った。そう、ルシルがシュヴァリエルに確実に勝つためのファクターがここレンアオムに揃ってる。ルシル。シュヴァリエルとの決着は、今日ここでつけないとダメだよ。

†††Sideイリス⇒すずか†††

シャルロッテさんからハート3の撃破を任された私とはやてちゃん、アルフ、シグナムさん、ヴィータちゃん、シャマル先生、ザフィーラ、セレスちゃん、ルミナちゃん、ベッキーちゃん。

「すずかちゃん。大丈夫?」

「はい、シャマル先生。・・・もう、大丈夫、です」

深呼吸を繰り返す。ケリオン君が本来の“ケリオンローフェティタ”として出現しちゃって、私はもう気が気じゃない。だから半ば暴走してしまった。アリサちゃんの言ってた通り猪突猛進で勝てるような相手じゃない。冷静にならないと。

「さて、どうする。ルシリオンから貰った神器封じの札を貼り付けようにも奴の手には神器が無いぞ」

「気になることはもう1つあるぜ。こうやって対峙してても全っ然襲ってこねぇ。こっちと違って、シャルロッテ達とハート3は派手にやり合い始めてんぞ」

私たちが戦うべきハート2は、瓦礫と化してる本城の直上に浮遊してる。私たちがあれだけ攻撃を加えても迎撃はするけど反撃はしてこない。シャルロッテさんを筆頭になのはちゃん達が、ハート2と魔法を撃ち合いながら私たちのところから離れてく。お互いの攻撃で同士撃ちをしないために。

(結界が大きくなった・・・? どうやっても私たちを逃がさないつもりなんだ・・・!)

「じゃあさ、放っておいて良いんじゃないかい? 害が無いならさ」

そう言ったアルフさんに私は「ダメです!」そう声を荒げた。ビクッとさせちゃったアルフさんにはごめんなさいだけど、ハート2をどうにかしないとこの結界は解除されない。

「アルフさん。すずかさんの言う通りです。ルシルさんもハート1・シュヴァリエルとの戦闘を開始したようです。となれば、リンドヴルム首領の乗っているであろうあの艦は今、何の制限も無く転移門へ行けます」

「神器が数多く眠る次元に、リンドヴルムが行くようなことがなったらまた、こんな神器での争いが・・・」

ベッキーちゃんとセレスちゃんの言うように、首領の乗ってる艦はフリーになってる。それを食い止めるためにも、“ケリオンローフェティタ”――ケリオン君を救い出すためにも、ハート2は絶対に倒さないといけないんだ。

「うむ。現在レンアオムはルシリオンにとって有利な戦場になっているとは言え、シュヴァリエルはあまりにも強い。撃破するにも時間は掛かるだろう」

「そう。故にこそハート2の撃破は急務、だ。とにかく奴を無力化する。行くぞッ」

「スノーホワイト! みんなにブーストを!」

私以外のメンバーにブースト魔法を掛ける。時間帯が夜なら良いんだけど、生憎と今は午後3時(この世界でのだね)だから、私のブースト――レガリアは使えない。あぁ、でも、アリサちゃんのブーストは使えるね。それはともかくとして、さっきみたいに前線に出るような真似は控えて、魔力が尽きるまで私は補助に徹しないと。それが一番なんだから。

――紫電一閃――

「うっしゃぁ! アイゼン、ラケーテンフォルム!」

――ラケーテンハンマー――

「よーしっ! 女神の鉄拳(ディオサ・プーニョ)!からの・・・っ!」

――氷閃刃(イエロ・コラソン)――

セレスちゃんの魔術が先制。ハート2の足元から勢いよく突き出て来た氷の拳が、ハート2を殴り飛ばした・・・ように見えたけど、殴ったのは足元に展開されたシールドで、ハート2はシールドごと吹き飛ばされただけで直撃じゃなかった。

「「はぁぁぁぁぁぁッ!」」「うらぁぁぁぁぁぁッ!」

宙を舞うハート2へとデバイスを振り降ろしたシグナムさん達。3人の一撃がハート2の張ったシールドに当たった。ヒビ1つと入らないシールドだけど、同方向からの同時攻撃の衝撃でハート2は瓦礫へ向かって急落下して・・・瓦礫や粉塵を撒き散らせながら突っ込んだ。

「ザフィーラ!」

「承知! 穿て、鉄杭!」

――破城の戦杭――

ハート2の落下地点直上に現れたのは長く巨大な杭。ソレが勢いよく落下して、ズドンッ! 空に居る私たちに届くほどの衝撃波と轟音が響き渡って、瓦礫や粉塵が周囲に吹き飛ばす。その中で見えたのは杭の一撃をシールドで食い止めながらも地面に体が半分埋まってるハート2の姿。

「リイン!」

『はいですっ!』

「『遠き地にて、闇に沈め! デアボリック・エミッション!!』」

そこにさらに追撃。はやてちゃんとリインの広域空間攻撃が爆ぜた。そして次に、アルフとルミナちゃん、ベッキーちゃんの雷の精霊グローム、そしてザフィーラが、デアボリック・エミッションの消失と一緒に姿を見せたハート2へ向かって突撃。それでもハート2は攻勢に出ようとしない。

「シュトゥースヴェレ!」

真正面からのルミナちゃん、右斜め後ろからのアルフ、左斜め後ろからのザフィーラ、頭上からのグローム。ハート2はしっかりシールドを張って対処に移った。最初はルミナちゃんの一撃がシールドに当たる。シールドは壊れることはなかったけど、ハート2は大きく前屈みになって後ろに弾き飛ばされた。

(ルミナちゃんの魔法、確かシールドやバリアを無視する衝撃波を相手に打ち込むっていう・・・)

ルミナちゃんがさらに左のパンチをシールドに打ち込むと、ハート2は大きく反り返った。そこに追撃として「ブリッツフィストッ!」アルフが電撃を纏うパンチを繰り出す。それに対処するようにアルフ側に張られていたシールドが、アルフの真正面に移動しようとしたけど「おっと、邪魔すんじゃないよ!」左手でシールドを鷲掴んで移動を阻害したアルフはそのまま右拳をハート2の顔に打ち込んだ。

――鋼の軛――

アルフに殴り飛ばされたハート2を、全方位から拘束杭で貫いて拘束したザフィーラ。

「うおおおおおおおおッ!!」

――鉄破震砕打――

繰り出した拳は張られたシールドを当たったけど、ザフィーラは「ならばッ!」そのシールドを殴り押しながらハート2に一撃入れた。そして、すぐさま後退。

「グローム! ピーカ・モールニヤ!」

鋼の軛に拘束されたままハート2の直上から巨大な雷の槍になったグロームが急降下。ハート2はすぐさまシールドを張ったけど、グロームは直角に曲がってシールドを回り込んでハート2に直撃した。ハート2がとんでもな雷撃の爆発に呑まれた。

†††Sideすずか⇒なのは†††

リンドヴルムの本拠地・天空城レンアオムへとやって来た私たち機動一課と特別技能捜査課。そして今、私とフェイトちゃんとアリサちゃん、シャルちゃんの前世の人格なシャルロッテさんとフィレス二尉で、ハート3っていう神器完全武装な女性と戦闘中。

「シャルロッテ! ハート3の神器の詳細教えて!」

スリーズ・サンズレガリアっていうブーストを使って身体能力や魔力・出力を強化してるアリサちゃんが、ハート3の両腕に同化したり背中から展開されたりしてるオレンジ色の光の翼について訊ねた。

――カドゥールオール――

両腕の光翼から羽根型の弾丸を数十発とばら撒いてくるハート3。その速度はこれまで見てきた魔法のどれよりも速い。私たちの中で最速の射砲撃を持ってるルシルもかなりのものだけど、あの光翼はたぶんそれ以上。

「光の翼は、神造兵装第88位、光翼ルミナス・プリズミラ! これまで遭遇した神器より強力よ! 直撃は即死! 掠っても瀕死くらいのダメージが入るから要注意!
防具は、アフドゥ・ハーミン! 装着時に誓約を決め、それを果たしている間は身体能力や魔力を強化できる! 反面誓約が破られた時のリバウンドはシャレにならない!
腰の剣は、1つはアゾート! 効果は神秘中毒の抑制や魔力量増加! もう1つは・・・連中に奪還されたキャルタンクリーヴ! 身に付けている間は一切のダメージを負わない!」

シャルロッテさんの話に絶句。これまでにも直撃は危ないものばかりだったけど、掠ってもアウトな神器はそうなかった。他にも強化系やダメージ無効の神器、あと神秘中毒っていうのは判らないけど、名前の響きからして神秘の持ち過ぎによる害を押さえるっていうこと・・・だと思う。

「つまりは光翼の攻撃には当たらなければ良いということですね!」

――氷星の大賛歌(カンシオン・デ・コンヘラシオン)――

フィレス二尉が右腕と同化してる氷の大剣を大きく振るうと剣先から吹雪の砲撃が放たれた。魔術と神器両方の魔力と神秘を有したとんでもない砲撃だ。

――プリツァアソンテヴァ――

ハート3は回避することなく両腕と背中の光翼を大きく広げて真っ向から突進。フィレス二尉の砲撃を拡散させながら、ハート3はそのままフィレス二尉に突っ込もうとした。当然それを黙って見てるわけがない私たちなんだけど、ターゲッティングするよりも早くフィレス二尉の掲げた左腕と同化してる盾と衝突した。

「こちらの神器の方が神秘のランクが高いそうですよ・・・!」

「きゃぁぁぁぁーーーーッ!!」

氷の盾が砕けて、騎士服が破れたことで左腕の素肌を見せたフィレス二尉が近くにそびえ立つ塔頂上の鐘楼へ弾き飛ばされて、ゴォーンと鐘を鳴らした。フィレス二尉はぶつかった鐘と一緒に地上へ向けて落下し始めた。助けに行こうにも・・・

「子供とて容赦はしない!」

――カドゥールオール――

光の羽根の弾幕を張ってくるハート3がさせてくれない。ちょっとした苛立ちを覚えた時、『私は大丈夫だから、あなた達は自分の仕事をしなさい!』フィレス二尉から無事を知らせる念話があった。

「よしっ。みんな、カートリッジを温存しながらで攻撃開始! せぇぇぇぇいッ!」

シャルロッテさんがひとりハート3と近接戦を繰り広げ始めた。この中で一番の戦闘経験値が高いシャルロッテさんは、私たちがあたふたしちゃう必殺の一撃を見切って、掠らない程度の間合いで躱しながら“キルシュブリューテ”を振ったり、ルミナちゃんやベッキーちゃんから受け取っておいた神器封じのお札を張ろうとしたりするけど、「甘いですね。剣神!」って、どれも光翼で燃え散らされちゃう。

(お札には限りがある。シャルロッテさんとフィレス二尉が近接でお札を張るって作戦もずっと続けられない。どうすれば、あの光翼を攻略できるんだろう・・・!)

『こちらフィレス! 散弾砲、発射します!』

『なのは、アリサ、フェイト! いつでも大魔法を撃てるように準備!』

『『『はいっ!』』』

私とアリサちゃんとフェイトちゃんは、近接戦を繰りひろげ続けるシャルロッテさんやハート3の居る高度から急いで離れる。私とフェイトちゃんは上昇、アリサちゃんは降下。直後、フィレスさんの居る地点から上空へ向かってアクアブルーに輝く魔力球が光の尾を引いて打ち上げられた。魔力球はゆっくりと曲線を描きながらシャルロッテさんとハート3の頭上へ向かって落ちて来た。

――次元跳躍散弾砲撃(ペカド・カスティガル)――

直径3m近い魔力球が直径50cmほどの8つの魔力球へと分裂して周囲に散らばった瞬間、8つの魔力球が大爆発。シャルロッテさんとハート3の2人が魔力爆発に呑み込まれた。ハート3がどうなったのかは判らないけど、『あっぶな! 死ぬかと思ったぁ!』シャルロッテさんの無事は確認できた。爆発直前、シャルロッテさんは展開したシールドを足場に閃駆を使ったように見えたし。

「このまま一気に全力全開攻撃ッ!」

「なのは!」

「フェイトちゃん!」

はやてちゃんとアインスさんをナハトヴァールから助け出すために使った2人の連携魔法をここにもう一度発動させる。私とフェイトちゃんはそれぞれ魔力スフィアを10発ずつの計20発を展開。そして・・・・

「「ブラストカラミティ・・・! ファイアァァァァーーーーーッッ!」」

私は集束砲ディバインバスター・エクステンションを、フェイトちゃんは砲撃プラズマザンバーを、さらに展開してたアクセルシューターとプラズマバレットを一斉発射。そこにフィレス二尉の魔術、何十頭っていう氷で出来た狼の群れが治まりかけてた魔力爆発の中から姿を見せたばかりのハート3に殺到。

「この・・・!」

氷の狼たちが光翼の迎撃に自ら受けに行く特攻をしてくれたおかげでハート3はその場に留まることになって、私とフェイトちゃんのブラストカラミティの迎撃や回避が出来ずに直撃を受けた。

「フレイムアイズ!」

≪不浄の闇を断ち払うのは太陽の現身。輝ける炎の聖剣!≫

≪「ガラティーン・・・ブレイカァァァァーーーーーッッ!」≫

魔力と雷撃の複合爆発に呑まれたハート2に追撃するアリサちゃん。直下からの炎熱の集束砲ガラティーンブレイカーは、なお続いてる魔力と雷撃の爆発を呑み込むようにして着弾。全てを吹き飛ばすような大爆発が起きた。

「キャルタンクリーヴによる効果でハート3は傷つかない。それをこちらのチャンスとして、光翼を除く神器を破壊する。それが、私たちの作戦よ」

シャルロッテ様が“キルシュブリューテ”を振り上げて・・・

「飛刃・翔舞十閃ッ!」

縦一線に振り下ろした。

 
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