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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その22

木の葉の里の九尾襲来。
それは、任務を終えて帰里したカカシにとって、耳を疑う青天の霹靂に等しい出来事も含んでいた。

天才と名高く、若くして、実力を見込まれ、木の葉隠れの里長を襲名し、常に未熟なカカシを見守り、導き、カカシに先を示してくれていた恩師。
四代目火影波風ミナトの戦死を告げられた。

更には妻の、クシナすら、ミナトと共に散ったという。

それこそ信じられなかった。
何故なら、クシナはちょうど臨月を迎えていた筈だからだ。

カカシも恩師夫妻の子が産まれるのを心待ちにしていた。
クシナにも、ミナトにも、自分達の子が忍になるのなら、カカシこそが師となり導いてくれないかとも願われていた。
そう願われる度に、面映ゆい気持ちになりつつ、巡り合わせがあうのなら、とまんざらでもない気持ちを抱いていた。

きっと、クシナとミナトの子は、どちらに似ても忍の才能には恵まれているに違いない。
ならば自分は、師に教えられた物をその子に伝えよう。
そして、オビトに教えられた事も。
そうして、行く行くはその子が火影となり、木の葉を守ればいい。
師、ミナトのように。

いつしか、そんな仄かな夢を、カカシは知らず知らずのうちに胸に抱いていた。
それなのに。

「三代目、すみません。もう一度、仰って頂けませんか?先生が、何ですって……?」
「カカシ」

痛ましげに顔を歪めた三代目火影、猿飛ヒルゼンが沈痛な面持ちで繰り返した。

「ミナトは、四代目火影は、九尾と戦い命を落とした。ミナトの妻、クシナもじゃ」

繰り返された事が、何故かどこか作り物めいて遠く感じる。
三代目の言う事を、カカシは理解しているはずなのに。

だからきっと、カカシは理解出来ないのではなく、理解したくないのだ。

それはそうだ。
オビトを亡くし、リンを守れず、師すら失ってしまったのなら、一体カカシは何を信じればいい。
何を指標にすればいいのだ。

師が志半ばに散ったなどと、信じられる訳がない。
ましてや、クシナまで。

ふ、と、カカシは強張っていた表情筋から力を抜いて、笑みを見せた。

「またまた~。三代目、こんな時に冗談は止して下さいよ」
「カカシ……」

三代目の沈痛な表情が、酷く癪に触る。
そんな真剣な顔をされては、事実として受け入れ難い物を受け入れてしまう。
そんな事は認められない。

「冗談ですよね?三代目」

冗談だと、言ってくれ。

必死に笑顔を取り繕い、行き場の無い激情で震える拳を握り締める。

それでも救いは何処にもなかった。

「カカシ……。お前の気持ちは良く分かる。お前の言うとおり、冗談であればどんなにか良かった事か!だが、だが残念ながらミナトはもう……。クシナ共々、九尾の爪に貫かれ、帰らぬ者に名を連ねてしまったのだ」

沈痛な表情と声音に、取り繕えない激情を込めながら、三代目火影であったヒルゼンは『事実』を口にした。
その正しさに、言いようの無い不快感を覚え、カカシは反論した。

「嘘だ!」

激情がそのまま口から飛び出はしたが、カカシはそれが嘘などではない事を知っている。
そもそも先代火影が、上忍に成り立てのカカシに、こんな酷い嘘を吐いてカカシを嵌める理由など存在しない。

そして、『火影』はそんな事を里人にしないとカカシは肌で知っていた。
この、火影の執務室で、沈痛な表情で腰を落ち着けていた三代目の姿に、つい先日のミナトの影を見出し、カカシはそれを、思い出していた。
そうして、思い出して行く毎に、手足に枷を付けられ、動き辛くなって行く心地がする。
胸が重く、抉られるような痛みが走る。

だが、認めねばならぬらしい。
認められずとも、仮定のままで、支障なく話を進める事もできる。

元々の素養もあったかも知れないが、カカシは忍として生きるうちに、仮面を被るように自らの感情に蓋をする事が出来るようになっていた。
そうして、そうせねばならない懸念が、四代目火影夫妻のごく間近にいたカカシにはあったのだ。

「……仮に」
「うん?」

カカシが渾身の力を込めた否定を叩き付けた後、沈黙を守り、カカシの二の句を待ち続けてくれた三代目が、言葉を促す。
その促しに乗って、血を吐くような遠い痛みと共に、漸くカカシはある懸念を口にした。

「仮にそれが本当だとして。クシナさんから抜け出た九尾は、今、何処に?」

もしも師が九尾を封印出来なかったのであれば、カカシがその任を引き継がねばならぬだろう。
それが、オビトから譲りうけたうちはの写輪眼を持つカカシの責任だ。
その気持ちでしか、その時は無かった。

短い熟考の果てに、三代目はカカシの問に答えを返した。

「ミナトは命と引き換えに、九尾の次の人柱力を選び、里を救った。火影としてな」

その言葉を聞いたカカシは、酷い安堵を感じ、深い、深い溜め息を吐いた。
やはり師は、優れた忍であったのだ、と。
どこか誇らしく、この救いの無い嘘と現実に救いを齎された心地がした。

「そうですか」

万感の思いを込めて、そう返す。
今のカカシには、それ以上のこと考える事など、とてもできらしなかった。
それを察してくれたらしい三代目が、深い、深い溜め息を吐いた。
そうして、ゆっくりと切り出してきた。

「はたけカカシ。任務から帰って来たばかりのお主には悪いが、今は里の危急の時。通例通り、休暇を挟ませる訳には行かん。明日より、暗部の一員として、次代人柱力の監視と護衛の任に付いてもらう」
「わかりました」

否を許さぬ三代目の口調に、カカシは素直に承諾した。
信じられぬ事実はともかく、里が大変な事になっているのは、此処に来るまでに良く分かっている。
幾つもの建物が崩壊し、血の匂いと煙が里全体を覆っている。
ミナトが守っていた木の葉では考えられない事態だった。

だからこそ、カカシは三代目の決定には抗わず、受け入れた。
そうして、漸く僅かばかり三代目は笑みを漏らした。
酷く疲れ果て、色濃い疲労を滲ませた物だったが。

「何にせよ、今日1日はゆっくり過ごし、疲れを取るよう尽力せよ。明日からは里が落ち着くまで、苦労をかける事になろう。すまんな、カカシ。だが、里の為、今はこの決定に堪えてくれ」

そのらしくもなく力無い笑みに、ふと、ミナトは三代目にとっても掛け替えの無い存在だった事に気付く。

引退を考え始める程、ヒルゼンは老いた。
そうしてミナトに跡をまかせ、ヒルゼンは隠居したのだ。
そのヒルゼンが火影として再び采配を振るっている事こそ、ヒルゼンの齎した悪夢のような事が事実であると実感してきた。

どっと疲労が肩にのしかかる。
そうして、三代目の言葉に、荒れた里の姿が思い浮かんだカカシは、無言で頭を下げ、三代目の前を辞した。
休める筈も無いが、三代目の言葉に従う為に。

次代人柱力。

それが一体如何なる者か。
四代目の傍近くに居たカカシには、考えずともわかる筈だったのに、今この時、カカシにはそれを考える余裕もなく、運命の過酷さに打ちのめされる日々が幕を開けようとしている事に気付くこともできなかった。
そして、これが、カカシにとってのもう一つの始まりだったのだ。 
 

 
後書き
ちょっと触発されて書いていた物です。
時系列等詳しく調べなおす前に、記憶だけでがーっと書き上げたので、リンさん死亡時期と九尾襲来時期が合ってるかどうか正直疑問です。
間違ってたらどうしよう。

……ま、いっか☆ 
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