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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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料理

 
前書き
ゼミが再開して執筆時間が少なくなったので、更新ペースが遅くなります。ご了承ください。

やっと書けたほのぼの回。 

 
~~Side of シャロン~~

私の朝は昔からの習慣もあって少し早めで、大体6~7時ぐらいには起床している。まぁ、単に早起きなだけだから、生活習慣が良いと言えるのかもしれない。それで目を覚ました私の眼に最初に入るのは、一緒のベッドですやすや眠っているマキナの寝顔である。言っておくけど、これには理由がある。実は私達の頭数7人と比べてベッドの数が3つと明らかに足りていないため、ベッド一つにつき2人は一緒に入る必要があるのだ。以前は6人だったから一応全員ベッドを使えたけど、先日ユーリが合流した事で場所を譲ったサバタさんは一人、リビングのソファで夜を越している。あのソファも結構良い素材で出来ているから寝心地は悪くないと思うけど、身体を休めるにはやっぱりちゃんと横になった方が良いはず……。何となく私達は、何もかも苦労を受け入れてしまう彼の姿勢が気がかりだった。

とりあえずそれは後で何とかするとして、皆の分も朝食の準備をしようとしたら、私以外に早起きであるもう一人もやって来た。

「あ、おはようディアーチェ。なんか目覚めスッキリしてるみたいだけど、いい夢でも見れたの?」

「いい夢か……おかげさまでな。ユーリの解放はかねてからの願望だったゆえ、こうして共に暮らせる事が喜ばしく思えるのだ」

「うん、その気持ちはわかるよ。私もマキナ達と一緒にいると、一人じゃないって気がするからね」

「永遠にも等しかった悪夢は教主殿の協力もあって終わりを告げた、今度は我らが恩を返す番だ。この世界をいつか我らが支配するためにも、そしてうぬらの平穏のためにも、必ずファーヴニルを止めて見せよう」

そうやってもふもふした帽子をかぶったパジャマ姿のままで胸を張る王様の姿は、尊大な態度とは裏腹に結構可愛く見えた。こんな仲間想いで可愛げのある王様なら、いっそ世界が支配されても良いと思える気がする。というか得体のしれない管理局なんかより圧倒的に信頼できそう。もし……管理局が統治する世界と、ディアーチェ達が統治する世界、どちらに住みたいかと訊かれたら、私は迷わずディアーチェ達の世界と即答するだろう。

などと考えていると、ディアーチェの後ろからひょこっとシュテルが顔を出してきた。

「おはようございます、ディアーチェ、シャロン。それと……教主はまだ眠りの中のようですね」

「完全に疲れ切っていたからね……と、おはようシュテル。ところで、サバタさんが実は朝が弱いのは知ってるけど、この熟睡度から見て、起きるまではもう少しかかりそうかな」

「今日ぐらいはゆっくり休ませても罰は当たらんだろう、先日の件で教主殿には大きな負担をかけてしまったのでな……。それと、短期間での語学習得はさすがの我らでも大変だ。ましてやそれを教える教主殿には、我らが理解しやすく教えるための試行錯誤も脳内でしておるに違いない」

「クオリティと密度、発音のネイティブさも追求する必要がありますからね。実質、相手が相手ですし、あまり妥協はしない方が良いのでしょう。それらの要素を考慮すると、私達もその期待に応えないといけない気になりますが……今は教主の体力が回復するまで傍で支えていたいです」

「献身的なのは良いが……シュテル、我らのやるべき事を忘れてはならぬぞ?」

「言葉の勉強ぐらい、例え二宮金次郎のような状況でもやり遂げて見せますよ」

えっへん、とドヤ顔を浮かべるシュテル。確かに彼女は忍耐強いだろうから、多分薪とか背負ったままでも教科書を読むぐらい平然とできそう。
……おっと、話してたら朝食を作るのを忘れる所だった。リビングの様子が見れるようになってる備え付けの台所スペースに入り、私は炊飯器にといだお米を入れて炊いて、冷蔵庫からシャケの切り身を取り出してオーブンで焼き、同時に油を敷いた大きめのフライパンをIHクッキングヒーターに置いて中火で熱する。油が温まるまでの間、ボウルに卵を6個、砂糖を大さじ2杯、白ダシ大さじ2杯、マヨネーズ小さじ2杯、油を適量入れ、箸で切るようなイメージでよくかき混ぜる。フライパンが十分熱した頃には卵も適度にかき混ざったため、弱火にしたフライパンの底を覆えるだけの量をそそいで、全体に行き渡らせる。フライパンを動かしながら卵を平均的に行き渡るようにし、表面が焼けてきたら手前から巻いていく。

「さて、後はこれの繰り返しだ」

そうやって大体半分の量を消費したら十分な大きさの卵焼きになったため、丁寧に巻いて皿に置く。卵焼きを食べやすい大きさに切ったり、オーブンのシャケを取り出してサラダと一緒に盛り付けるのは後ろで見学していたディアーチェに任せ、私は人数分の朝食をせっせと調理していった。最後にさっとソーセージを炒めて、レパートリーを増やしておく。
そうしている内に料理中の良い匂いにつられて、レヴィとユーリも目をこすりながら起きてきた。サバタさんとマキナは二人が来る前に自然と目を覚ましていたので、この中のお寝坊さんはレヴィとユーリになった訳だ。和やかでうららかな空気が漂う中、皆が囲んだテーブルには私とディアーチェが作った朝食……シャケの塩焼き、サラダ盛り合わせ、卵焼き、白米のごはん、一般的な朝食のメニューが出そろった。

「食事の前にはしっかり挨拶をするのだぞ。いただきます」

ディアーチェの号令で皆も手を合わせて、食べ物に対するありがたみを忘れないように挨拶をする。それから食べ始めた皆の口から美味しいという言葉が聞こえると、作った側として温かい気持ちになってくる。誰かに喜ばれる事で嬉しいと思う心もまた、一人では絶対に味わえない充足感だろう。

『すっごく美味しいや、シャロン。もう毎日食べたいぐらい!』

「せっかくの腕だ、いっそ料理を極めてみようとは思わないか?」

「そんな大層な物じゃないよ、マキナもサバタさんも。別に特別な事はしてないし、普通に作ってるだけだもの。私ぐらいの技量ならディアーチェもすぐ身に付けられるよ」

「確かにディアーチェも覚えたら美味しい手料理を作ってくれると思いますが、やはりすぐ覚えるには美味く作れる人から教わった方が無難でしょう」

「ちょうどここに2人も適役がいるもんね。というわけでぇ……試食係はボクに任せて!」

「使える味見役だな。皆の期待もある事だし、我も本格的に学んでみようか」

「手料理教室でも開きます? サバタさんとシャロンの料理は美味しいですから、そんな二人から教わりたいと思う人も多いと思いますよ~」

「とても興味深い意見だな、ユーリ。ついでに新しいレーションの開発も兼ねてみてはどうだろう、教主殿? そうすれば一石二鳥だと思うのだが」

「なるほど……確かに合理的な考えだ、そこまで言うならやってみるか。(…………にしてもこういう勤勉な姿勢を見ていると、目を離した隙に料理を魔改造するシャマルや美由希とは大違いだな……)」

一瞬だけ物憂げな表情を浮かべたものの、サバタさんは乗り気になった様子。その結果、今日の午前中は料理教室を開く事が決定した。その前に私、やるとは一言も言ってないんだけど……まあいいか。別に嫌な訳じゃないし、慣れれば料理は楽しいものだからね。

それでウェアウルフ社の食堂を借りて……というかこの会社に来る時に会った女性が実はウェアウルフ社の代表取締役だったらしく、社員の要望でレーションの味の改善を求められて悩んでいた所に私達がこの話を持ち込んだから、向こうにとっても渡りに船で気前よく貸してくれた。それで……レヴィ以外に味の審査員が後で参加する事になった。だからサバタさんはどんな料理を作るのか、興味があった。

「認可もされたし、心置きなく作れるな。ひとまず俺はレーションにできる料理を作るから、ディアーチェはとりあえず好きな料理に挑んでみろ」

「ぬぅ……我の好きな料理か……いきなり言われても決めかねるな……」

「ねぇディアーチェ、わざわざ考え込んでまで一番好きな料理を決めなくても大丈夫だよ。最初は誰でも手軽に作れるようなレベルで、作りたい料理を選ぶところから始めよう?」

そう伝えたらディアーチェは簡単だけど料理と言えるものを考え出した。すると……ちょっと面白い回答を出してきた。

「海苔巻きはどうだ? やり方を覚えれば、応用範囲も広かろう?」

「ははっ、結構良い着眼点をしてるね。ディアーチェがそれで良いなら、海苔巻きから始めていこっか」

という訳でディアーチェが主導、私はサポートという役割で海苔巻きを作る事になった。ひとまず中に巻く具をどうするかな……キュウリだけでも成立はするけど、具が一つだけだとディアーチェは納得しないだろう。それならキュウリに加えてニンジン、キャベツ、カニカマ、卵で一般的なサラダ巻きにしよう。バリエーションを増やすためにツナとか入れても良いんだけど、今は“ちゃんと作る”事を覚える所から始めるべきだと思う。

作り方を一通り教えた後、初めてという事もあって手慣れない感じで料理を始めるディアーチェを微笑ましく見守りながら、一方でサバタさんが何を作っているのか、チラッと目を向けてみる。

「光るキノコ……? ってこれ、オロシャヒカリダケじゃないか! 何でこんな物があるんだ……」

「普通に考えれば食材としてでしょうけど……食べて大丈夫なものなんですか?」

『平気なんじゃない? 一応ここに置いてある訳だし、多分誰かが一度は食べた事があるんだと思うよ。だから少なくとも毒キノコじゃないはずだけど、実際に食べるのは遠慮したいや』

「本気でコレを食べようと思った人の顔が見てみたいです……もしかしてバッテリーが回復する~、なんて考えて食べてたりするんじゃ?」

「まっさか~! 流石のボクもそこまで単純には考えないって! あはは!」

……なんか皆して笑ってるけど、妙に汗が出ている気がする。深く考えてはいけないものでも見たのかもしれない。何はともあれ、あっちはあっちで大丈夫そうだね。

視線を戻して小さな王様の様子を見ると、海苔の上に白米を敷いて具を置き、これから巻こうとしている所だった。せっせと私がさっき教えた通りに巻いていき、ひとまず無事に海苔巻きを完成させた彼女だったが……隣の皿にある私が作った綺麗な丸い形状の海苔巻きと見比べて、自分のふにゃっと崩れた海苔巻きに納得がいかなそうな顔をしていた。そりゃあ11年間自炊してきた身として、海苔巻きを綺麗に丸く作るコツぐらい知ってるけど……初心者のディアーチェが巻く途中で海苔を破ったりしなかっただけでも、十分上手だと思ってる。王様だけど、将来有望な料理人の卵だね。

一方でサバタさんの方も一通り調理が終わったため、私達のも持って行って早速成果を見せあった。ディアーチェの海苔巻きは初心者が作ったにしてははるかに上手なため、食べてくれたサバタさんやシュテル達も称賛してくれた。一斉に褒められた事でついそっぽを向いたディアーチェだけど、照れて顔が赤くなっている。やっぱりこの王様、なんか可愛いな。あ、私のは昼食の時にいただくから、今は置いてある。

ただ……言及すべきものが目の前に君臨している事に、いい加減目を背け続ける訳にはいかなかった。サバタさんが作った料理……新しい携帯食料にもなる事を想定して作ったはずのソレは、さっきから私達の警戒心をとにかく刺激していた。だってさ……、

「み、見た目が……異常なまでに真っ赤だよ。まるでマグマのようだ……」

「むぅ……いくら教主殿が作った物でも、これを食うのは少し抵抗感があるな……」

「眼もさっきからヒリヒリして痛いし……これって何なのサバタさん?」

「物凄く辛い麻婆豆腐。中華料理店“泰山”のレシピを俺なりにアレンジしたものだ」

こ、これが……麻婆豆腐!? いやいやいや!? これ麻婆豆腐という名前だけの実質兵器だと思うよ! だってこれ明らかに食べたら味覚が崩壊しそうな色合いだし、匂いだけでもその辛さが何となく伝わって来て喉が渇いてくるよ!? それに試食係のレヴィもこれを食べなければならない事を想像して涙目になってるし、むしろ哀れに思えてきたよ!

「やはりこの刺激的な色には抵抗感があるか。ま、騙されたと思って試食してみるといい」

サバタさんはそうやって激辛麻婆豆腐が注がれた皿をぐいぐいと私達に勧めてきた。恐る恐る受け取った私達だが、あまりの赤から発せられる威圧感を前に、誰も口に運ぼうとはしなかった。だが……驚いた事に私達の中から一人、この赤い悪魔に挑む人間が現れる。サバタさんが作ったんだから、激辛でも美味しいはずだと信じて彼女は……マキナは意を決した表情のままレンゲで麻婆豆腐をすくい、目をつむって一気に口の中に入れた。そして次の瞬間………カッと覚醒したように目を見開いた。

『愉悦が……ここにあった……! マジで美味いッ!!』

その後、まるで使命に駆られるかのようにマキナは麻婆豆腐を凄い勢いでがっつき始める。あの真っ赤な食べ物が少女の口の中に入っていくのを、私達が呆然と見守る中、作り主のサバタさんはフッといつものように笑って言う。

「様子から察するに、マキナの味覚はザジと同様に辛党だったらしいな。とりあえず見た目こそ刺激的ではあるが、ちゃんと食えるレベルの辛さだから大丈夫だぞ」

ま、まぁそこまで勧めるんなら一口ぐらいは……。それにマキナは平気で食べてるんだし、多分相当辛いのは確かだけど、流石に気絶する程ではないだろう。そうやって意を決した私達は一斉に麻婆豆腐を食して…………口からレールガンが発射された。

しかし……驚くほど美味しかった。口が水を求めているのに、自ずと手がレンゲを動かして次の一口を入れてくる。もっと、もっと! と、本能が次の一口を求めてくる! 辛さの中にあるうま味が舌を虜にしてくる! 食べれば食べる程力が湧き上がって来て、汗が滝のように流れ出てきた! さっきからマキナががっついている理由がよくわかる、この麻婆豆腐は至高の一品だ! だけど……元々辛党じゃない私は、一皿分食べきった頃には辛さで舌が痺れてしまい、しばらくの間言葉が言葉にならなくなった。

「らめら……うはふはられらい……!(だめだ……うまくはなせない……!)」

「料理一つに……これほどの灼熱と業火、そしてパワーを秘められるなんて……! 身体の奥底から溢れんばかりの凄まじい力が湧き上がってきます! まさにマキシマム!! ただ少し疑問があります。確かに味自体は本当に美味ではありますし、戦意高揚の副次的効果もありそうですが……」

「ルール的にどうなのだ、この麻婆豆腐は。今まで食べた事が無い辛さだが、当初の目的である携帯食料にしても大丈夫なのか? そこで気絶してるレヴィや会話になってないシャロンのように激辛が駄目な者もおるだろう?」

「レーションに加工する予定ではこの辛口の他に、一応誰でも食べられる甘口も用意するつもりだ。まぁ、辛口でもやり過ぎだと判断するなら、次からはもう少し控えめにしておく。結局味をどうするかは審査員に任せよう。あと補足として言っておくが、香辛料たっぷりなこの麻婆豆腐は長期保存も出来るぞ」

『ロングライフ飯としての能力は、わざわざ加工しなくても既に持ってる訳なんだね。ところで審査員は誰なの?』

「わかりませんけど、判断するのはそれなりに発言力がある立場の人間ではないんですか? もしかしたら社長が直々に食べるかもしれませんね」

「を……ぅ……ボク、は……も……ダメ……。……後は……任せた……」

ユーリが変わった冗談を言ってる隣で、こっちの審査員はギブアップ宣言をしていた。ある意味一番とばっちりを受けたのはレヴィだろう。お口直しに後でデザートでも作ってあげよう。余談だけどサバタさんはデザートを作れないらしい。理由を尋ねた時には“太陽の果実”を食べると腹痛がどうの、と言ってた。事情はともかく、デザート作りは私が料理で彼に勝っていると宣言できる分野であった。







そして料理を終えた私達が食堂を出た後、黒いサングラスをかけて黒い背広を着た一人の老人がひっそりとやって来て、サバタさんが作った麻婆豆腐を食べて感想を漏らす。

「ん、想像以上に美味い。試しに私兵部隊に配給してみて、評価が良ければ正式に採用してみるか」

後日、『ピュ―ブル・アルメマン』、『プレイング・マンティス』、『レイブン・ソード』、『ウェアウルフ』、『アツェロタヴァヤ・ヴァトカ』の各PMCの兵士の間で、とあるレーションを食べた直後は異常にパワーアップするという噂が流れたらしい……。

 
 

 
後書き
麻婆豆腐:目が死んでる某教会神父も、天使なあの子も大好きな激辛料理。ソリッドがレーションで回復するように、マテ娘もこれでLIFE回復……というよりパワーアップします。ちなみにユーリは辛口もいけますが、レヴィと一緒に甘口にしています。

これまでLIQUID EASYなあなたも、これを食べれば一気にTHE BOSS EXTREME! 新作、激辛麻婆レーション! ご注文はアウターヘブン社へ。


恐らくお気づきでしょうが、今回の話は会話文を『あいうえお作文』にしています。書いてて強引な話の持って行き方があったと思うので、次からはもう少しうまくやれるようにしたいです。 
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