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7thDragoN 2020 ~AnotheR StoryS~

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CapteR:0 目醒めの刻
序章:a
  -新宿地下街-2020-April-3-13:28-

「ねー。美沙ー。この服、美沙に似合うと思うんだけどっ。」
そう言って、裾にフリフリが沢山ついたワンピースを持って、こっちを振り返った。友人の雪絵だ。
「いや、ワンピースもフリフリも正直無いよ。」
「えー、どうしてよー。もしかして``また``機動性が落ちるとかゆー、訳の分からない理由なのー?」
いや、純粋にワンピース、というかスカートとか下がスースーして落ち着かないだけなんだが・・・。しかし雪絵には分かってもらえず、挙句「身長高いんだから脚見せよう!」なんて提案する始末である。私は身長が高いのがコンプレックスだ、とあれほど言っているのに、だ。
「雪絵、私はそこまでオシャレしなくとも生きていけるから私の為に服なんて選ばなくていいよ。」
「そうかそうか、私は身長高いからオシャレしなくても男共が寄ってくるとでも言いたいのかっ。チクショー!」
・・・うーん。なんで私は雪絵と友達なんだろう、と常々思う。大体私は剣道一筋で生きてきて、青春も剣道に捧げる、なんてなんて考えで高校も全国常連校に隣の席に座っていた少女に誘われ、茶道部に入っていたのだった。まぁ、その少女が雪絵だった訳で。学校がない日は流石に、お稽古の為に祖父の道場に通っているけど放課後はこうして雪絵や雪絵の友人達とショッピングする事が多くなった気がする。
「ねーっ。ねぇってば!!」
「あぁ、ごめん。考え事してた。」
「もー、美沙はあれでしょ。時間があれば剣道の事、考えてるんでしょー。」
でもこうして雪絵の膨れ顔を見るのはなんというか、愉快な気持ちになるから好きだ。
「ごめんごめんって。私が奢るからカフェでも入ろう。」
「やったー!最近気になってるおいしいケーキのお店がこの地下街にあるんだって!そこにしよっ!」
多分、この小動物めいた強引さが心地いいだろうな。

「・・・だからっ!絶対軽音部の部長は美沙の事、意識してるって!」
力説するのはいいのだけれど、そのキャラメルナントかフラペチーノとか言うやたら名前の長い飲み物を啜りながらしゃべるのは辞めてくれないか。何言ってるのか分からない。
「取りあえず飲むか。話すかにしようか。」
「じゃあ、飲む。」
ジュー、ズズズッ
「で、話の続きだけどさっ。うん?何の話してたんだっけ?」
「多分、籠手胴と貫き胴の有用性について、とか?」
「絶対違う!」
もー、話題変えるのヘタクソ過ぎるよー、なんて言いながらお目当てのケーキを器用に片手で一口大に切っている。
「はい、一口あげるから美沙のケーキも一口ちょーだいっ」
アーンしようとしてくる雪絵のフォークを受け取り、自分の口に入れる。ラズベリーとストロベリーのムースが口の中に広がり、

―――ドーン――

突然の地鳴りと共に、カフェの伝統の明かりがくるった様に揺れ動く。否、電灯だけでない。その場にあるものが上下左右に動き、撥ね回る。私達は咄嗟にテーブルの下に潜り込み、テーブルの足に必死にしがみついた。床と足が固定されているテーブルであったが、それでも足がしなっていた。人々の悲鳴が地下街を木霊している。私達はあまりの恐怖に口すら利けず、ただ揺れが収まるのを待った。2,3分経っただろうか。辺りの様子を確認する余裕が出来た。
「何、これ・・・。」
この言葉を口にしたのが私だったのか、雪絵だったのかは分からない。ただ一つ分かる事があるとすれば、このカフェの中で私達以外にこの言葉を聞いていたのは私達以外に誰も居ないという事だろう。
洒落たカップや飾りのついたスプーンやフォークは辺り一面に散乱し、観葉植物が植えてあった鉢は中の土をぶちまけて力尽きたように倒れていた。
私達にケーキを運んできてくれたお姉さんは、運悪く何処かに頭を打ち付けたらしく、血を流して横たわっていた。
テーブルで仕事の打ち合わせをしていたサラリーマン達が、居た場所には屋根が崩れ落ちていて、彼らの姿を確認することは出来ない。
このカフェのマスターは多分、厨房で横たわっている大きな銀色の冷蔵庫の下だろう。確認する気にもなれない。
「どうしたの・・・。ねぇ、何があったの・・・。」
雪絵はテーブルの下からまだ出てきておらず、床を叩いてすすり泣いている。
「雪絵、床、叩くのやめよ。硝子が・・・ガラスが散らばってるから、怪我するよ・・・。」
テーブルの下から雪絵の手を引っ張り、立ち上がらせる。引っ張り上げた手には、生温い、ぬめった感触があった。
案の定、雪絵の右手はサックリと硝子で裂けていた。さっき雪絵が買った服をビニールから取り出し、細長く破る。それを雪絵の右手に巻き付けて、それを強く縛り上げる。
「ねぇ・・・。私達死んじゃうのかな・・・。」
雪絵は、私が服を巻き付けた右手を眺めながら呟いた。
「・・・。馬鹿な事言わないでよ。私はともかく雪絵が、地震ごときで死ぬなんて思えないわ。」
「もうっ・・・。何それっ、まるで私はっ、か弱い系女子なんだからっ・・・。」
そう言い、彼女は俯いて肩を震わせた。
―――私だってか弱いんだよ
       ずるいじゃないか―――
そんな事、思っても口には出さない。
「とりあえずさ、地上に出ようよ。出るまでに他にいる人に合流できるだろうし。」
そう言って雪絵の肩をさすりながら、私達はカフェの扉だった木の枠をくぐり抜ける。
 
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