龍が如く‐未来想う者たち‐
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秋山 駿
第一章 崩壊する生活
第八話 襲撃
夜8時を回った頃、秋山はミレニアムタワーの屋上に来ていた。
この場所から見える夜景は他の夜景にも負けない程の絶景だが、今はのんびり景色を楽しむわけにはいかない。
屋上では、手すりにもたれ掛けて待っていた大吾がぼんやりと立っていた。
入り口から声をかけ駆け寄ろうとしたが、その隣に誰か居る事に気付く。
その姿は、忘れられない姿のままだった。
「遥、ちゃん……?」
「お久しぶりです、秋山さん」
後ろでまとめ上げたポニーテール、真っ直ぐ見つめる凛々しい瞳。
澤村遥に、間違いなかった。
驚きのあまりよろよろと足取り悪く近付き、そのまま抱きしめる。
遥は少し驚きはしたものの、嬉しそうな笑みでそのまま受け入れた。
「遥ちゃん……よかった……よかったっ……!!」
「助けようとしてくれてたと、堂島さんから聞きました。ありがとうございます」
「でも、どうしてここへ?」
抱きしめていた手を離し、顔色を伺う。
少しやつれて、以前見た時より華奢になった気がした。
見ただけでも、何かがあったのは明らかである。
「堂島さんが、助けてくれました」
「今日ここに秋山さんを呼んだのは、澤村遥を預かってもらうためでした。本当、私の監督不行き届きでご迷惑を……」
遥は大吾の方を見つめ、首を横に振る。
「堂島さんのせいじゃありません。あの場にいた、私が悪いんです」
「遥ちゃん、何か知ってるんだね」
再び秋山の方へ向き直り、真っ直ぐとした目で訴えかけた。
「桐生のおじさんは、生きてます」
「やっぱり、桐生さんは生きてたのか」
「はい。でも半年前の事件で重症を負ってから、まだ目は覚めてないので喋られる状態では無いですけど」
「そこに、ウチの喜瀬が邪魔をしてきたと」
「幸い桐生のおじさんは別の場所にいたので、あの人には見つかりませんでした。でも……」
無理して繕っていた笑顔が瞬間で消え、見据えていた瞳からは大粒の涙が溢れ始める。
「おじさんの居場所は、田宮さんしか知らなくて……。おじさんに会いたいのに、どこにいるかわからなくて……」
不安を吐露する遥を、再び抱きしめる。
何とかしてあげたいが、今はこうする事しか出来ない。
落ち着かせようと頭を撫でながら、情報を整理する。
桐生は生きており、それを田宮が匿い別の場所で治療を行なっていたが喜瀬の邪魔が入り、田宮が居場所を口外しないまま亡くなった。
恐らく喜瀬が遥を狙った理由が桐生の居所を吐かせるためだったのだろうが、当の本人ですら知らされていない。
たった1人知っていた田宮が死んだ今、桐生の身の安全も保障できないのだ。
不安に駆られている中、大吾が口を開く。
「1度病院にも連れていき、健康状態である事も確認済みです。色々思う所もあると思いますが、今は澤村遥の安全だけでも確保しなければ。喜瀬の奴は、恐らくまだ諦めていません」
そうだ、まだこの問題が終わったわけでは無い。
遥は、まだ狙われる可能性がある。
「秋山さん、喜瀬が本気で関わっているとわかった以上、この依頼は終わりです」
「何ですって?」
「私だけでは、貴方の安全は保証できない。巻き込んだ私にも責任はありますが、ここからは日陰者の出番です」
巻き込んで申し訳ないと何度も繰り返し、頭を下げる大吾の姿。
遥も戻ってきた、引き返すなら今しかない。
そう頭でわかっていても、秋山が溜息の後に飛び出した言葉は、提案とは真反対だった。
「……いやぁ、堂島さん。俺はね、そういう訳にいかなくなったんっすよ」
「えっ?」
その言葉を聞いた大吾の顔が、少し強張る。
次の言葉を察してなのかどうなのかはわからなかったが、明らかに納得のいっていない表情を見せる。
馬鹿な事を言ってるなと、頭の片隅で呆れていた。
「俺はこのまま、桐生さんの足取りを追います」
「何を馬鹿な事を。危険です、ここから先は堅気が踏み入ってはならない」
珍しく声を荒げて話す様子に驚きを隠せなかったが、それでも決意は変わらなかった。
「命の恩人に、桐生一馬という男に俺は惚れたんですよ。時間の猶予が無いかもしれないこんな時に、このまま放っておくなんて真似出来ません」
数年前ミレニアムタワーで起きた、とある爆発事件。
突然夜空を舞った大量のお金、1億円の伝説。
当時ホームレスだった秋山が、それを元手に金貸しへと転身したキッカケとなった。
そこからは必死になって足掻いた結果今があるのだが、元を辿れば全て桐生一馬という男のお陰である。
だからこそ、恩返しがしたい。
微笑みながらも決意の眼差しの秋山を見た大吾は、少しの迷いを見せた後ガックリと肩を落とす。
「仕方ないですね。私の方から、出来るだけサポートはいたします。私も……いやっ俺も、桐生さんを見つけたいですから」
互いの決意を確かめ合い、安堵の空気が広がる。
ただその空気は、パァンッと乾いた音で一瞬で吹き飛んだ。
それが銃声だと気付いた時には、既に大吾の腹部から血が滲んでいた。
「堂島さん!!」
「いたぞ!!6代目だ!!」
その掛け声と同時に、沢山の銃弾が飛んでくる。
秋山はすかさず遥を抱え上げ、大吾を引っ張って走った。
偶然か否か、屋上にそれみよがしに置いてあったコンテナへと慌てて隠れる。
落ち着く間もなく銃弾が雨のようにコンテナへと撃ち込まれ、状況を確認する為に顔を出す事すら叶わなかった。
「遥ちゃん、大丈夫か?」
「私は大丈夫です。でも、堂島さんが……」
大吾が呻きながら、腹部を押さえている。
指の隙間から流れ出る血が、秋山の身体を強張らせた。
意識はあるようだが出血がかなり多く、すぐにでも治療をしなければまずい状況である。
だが未だ銃弾が止む事無く飛来しており、身動き出来ずにいた。
「くそっ!!どうしたら……」
考えを巡らせている最中、一瞬にして銃撃が止み静寂が訪れる。
何が起こったかわからず、おそるおそる物陰から少し顔を覗かせ周囲を窺った。
さっきまで銃を撃っていたであろう男達は床に倒れこみ、別の男が代わりにその場に立っていた。
少し痩せた身体で、年齢も若い男。
しかし額や腕についた傷は、長く戦ってきた証が刻まれていた。
周りを見回していたその男と目が合うと、男は必死に手招きする。
「早くこっちに来い!!今なら逃げられる!!」
大吾を抱えて立ち上がった秋山は、遥と共に男の元に駆け寄る。
男は少し笑いながら、秋山の肩を叩いた。
「あんたは?」
「俺は足立組の幹部、麻田というものだ。6代目、早く運びましょう」
麻田という男は、まだ見ぬ敵の手下だった。
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