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龍が如く‐未来想う者たち‐

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秋山 駿
第一章 崩壊する生活
  第七話 情報

スカイファイナンスに転がりこむように入った秋山と谷村は、いつの間にか帰ってきていた花ちゃんに散々怒られ、その後散々泣かれた。
泣きながら手当をされた2人は、反論する余地もなく深々と反省する。


「社長も谷村さんも、無茶しすぎです!!」
「そ、そうっすね秋山さん」
「……すみません」


治療を終えた2人は、花ちゃんが淹れてくれたお茶をすすりながらソファーに向かい合わせに座る。
少しほっと安堵していた秋山に対し、谷村は上着のポケットから3枚の写真を取り出した。


「今の東城会の幹部の中で、7代目の座に近い男3人です」


机に広げられた写真を覗き込むと、それぞれ毛色の違う男が1人ずつ写っていた。
緑のバンダナをつけた異色の極道、さっき会った男でもある喜瀬。
その他に眼鏡をかけた身なりの整った男と、ホストクラブにいそうなチャラい男の姿があった。


「堂島大吾という男がいる限り、7代目の座が誰にも渡らないでしょう。しかし、7代目の座を狙っている奴が多いのも事実」
「堂島さんを殺してでも、無理矢理トップから引きずり下ろす輩がいるってことか」
「その輩の筆頭格、この3人だという事です。まぁ、目論んでる人は他にも多数いますが、今は1番力のあるこの人たちだけ注目してます」


写真に指をさしながら、かいつまんで説明を始める。


「バンダナの男は、さっき俺らと会った直系喜瀬組組長・喜瀬(きせ)晃司(こうじ)。力任せの馬鹿ですけど、その力だけで直系までのし上がった昔ながらのよく居る極道です」
「確かに強かった。だけど堅気にまで簡単に手をあげて、普通は破門されてもおかしくない」
「うまく立ち回ってんっすよ。堂島さんも、喜瀬の動きを全て把握していません。ま、でも今回の1件はやり過ぎですね」
「堅気で、更には元政治界の重鎮だからね。流石に堂島さんも目を瞑れないだろう」


次に、真ん中の写真を指さす。
眼鏡をかけた男の写真だ。
だがその男の左胸には、金色に輝く代紋がキチンとついている。
喜瀬とは対極であろうその温和そうな表情からは、とても極道には見えない。


「この男は、今の東城会の金庫番。足立組組長、足立(あだち)信哉(しんや)です。元IT系の会社員だったそうですが、何故かこの極道世界にいます」
「頭はキレそうだが、そこまで強そうに見えないぞ」
「油断しないでください、秋山さん。喜瀬には劣りますが、腕っぷしは確かです。現にいくつかの組を1人で潰してます」


そうでも無ければ、幹部になどなれる訳がない。
内心では嫌な予感はしていたが、出来れば相対したくない相手だと強く思った。
さらに谷村は、その隣の写真を指さす。
足立より到底ヤクザには見えない、ホスト系の男。
金髪に少し焼けた肌だが、その男にも代紋はついている。


「最後はこの男、宮藤(くどう)宏明(ひろあき)
「本当にヤクザなのか?」
「最初は、俺も疑いましたよ。だけど奴の足取りを追っていると、喜瀬や足立よりは力も頭も上だと知らされました」
「他の2人より、上?」


想定外の発言に、余計頭が混乱する。
人は見かけによらないとは言うが、これは今の時代に合った極道なのか桐生のような極道はもう古いのか。
堅気の人間ではあるが、時代の変化に少しだけ寂しく感じた。


「ホストクラブを数店経営してる為、経済力は足立よりは上です。さらに喜瀬を軽く叩きのめす程の力もあります。今の7代目最有力候補は、この宮藤かと」


再びざっと写真を眺め、秋山は癖で煙草を取り出す。
火を点けた直後、じっと見る谷村の視線を感じた。


「煙草、大丈夫?」
「火点けといて、今更何言ってるんですか。どうぞ」


秋山は無理矢理笑顔を作るが、だがどうしても心の奥で引っかかっていた。
このまま、喜瀬を追っても良いのだろうか?
遥を助け出したいが、飛んでくる喜瀬の拳がフラッシュバックする。
それと同時に、あの時の光景も瞬間的に思い出した。
女性が凶弾に撃たれ、そのまま絶命していく姿を。

リリ。
かつて客として迎え、いつしか愛するようになり、そして守りきれず死んだ。
もう、あんな思いをしたくない。
だけど、かつての友の死を受け入れたくもない。
遥のことも、見捨てたくはない。

数々の思いを巡らせながら吐く煙をぼーっと眺め、ふと時計を見ると既に夜の7時を回っていた。


「さてと、そろそろ行くか」
「あれ?秋山さん、どこに行くんですか」
「ミレニアムタワー。堂島さんに呼ばれたから、会いに行ってくるよ」
「これ以上、足突っ込んじゃっていいんですか?本当に、戻ってこれないかもしれませんよ」


秋山は再び煙草の煙を吐きだし、スカイファイナンスの扉を開けながら谷村を見る。
堂々巡りの考えに足を取られるなら、もう何も考えない方がいいと思った。
自分のしたいようにやる、そう考えると自然と前を向ける。
そしてその目は、もう迷いがなかった。


「一度、桐生一馬という男に救われたんだ。絶望の淵から救ってくれた男の、真実が知りたい。遥ちゃんだって、このまま放っておくわけにはいかないしね」
「へぇー、秋山さんらしくない」
「あんたねぇ、俺の事なんだと思ってるんだ」
「……なかなか働かない金貸し、とでも言えば満足ですか?」


意見が図星だったため、思わず動揺する。
零れ落ちそうになった煙草を咥え直し、軽く笑った。


「今度さ、飯でも奢ってよ。人助けしてるんだからさ」
「嫌ですよ。何で俺より金持ってる秋山さんに、飯奢らないといけないんですか」
「はは、それもそうか。花ちゃん、行ってくる」
「えっ、あっ!社長!!」


止めようとする花ちゃんの言葉を無視して、そのままスカイファイナンスを出ていく。
心配そうに扉を見つめる花ちゃんを思ってか、その場に残された谷村がひと言声をかけた。


「秋山さんならきっと大丈夫ですよ。きっとまた、呑気な顔でここへ帰ってきますから」


そう言った谷村の顔も、少し笑っていた。 
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