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夜空の星

作者:みすず
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ついに対決!

 パパが作業をしている中を見計い、こっそりと自宅を出ると、あたしは堂々とニール家の正門の前に立った。

 デーヴィスさんに気づかれたって構わない。
 もうパパ達に振り回されるのは沢山よ!
「ロビン、出てきて!お願い!」
 あたしは大声で屋敷に向かって叫んだ。

 すると、ロビンではなく、やっぱりデーヴィスさんが出てきた。
 後方にはロビンと一緒に以前助けてくれた、あの執事さんの姿も。
「ミレーヌさん、どうして急に…!」
 執事さんが最初に声を掛けてきたけど、すかさずデーヴィスさんが言葉を覆った。
「サイモン、なぜ君がこの女と顔見知りなんだ!?トーゼフの店の者とは関わらないように伝えてあるはずだが!?」
「それは……。」
「デーヴィスさん、ロビンを出してください。執事さんは関係ありません!」
「私が君の言う事を聞くと思うのか!?冗談じゃない!トムの野郎に文句を言ってやる。一緒に来なさい!」
 デーヴィスさんはあたしの腕を掴み、強引に正門から連れ出そうとしてきた。
「やめてくださいっ!放して!!」
「デーヴィス様、落ち着いてください!」
 執事さんがデーヴィスさんを止めようとしてくれた。
「やかましい!!私に歯向かうのか!?」
「女性への扱いに対してお伝えしているのです!」
 デーヴィスさんが執事さんと言い合いを始めてしまった。
 あたしは腕を掴まれたまま動けない。
 その時。

「何してんだ!!」
 ロビンが屋敷から出てくると、デーヴィスさんがあたしの腕を掴んでいるのに気づいた。
「ミレーヌを放してくれ、親父!」
「何を言ってるロビン!!お前はこの女に誑かされたのか!?」
「そんなんじゃない!俺の方がずっとミレーヌの事を思って…!」
 ロビンがそう言いかけたとき。
「何事だこれは!!ミレーヌ、どういうつもりだ!」
 パパが血相を変えて現れた。
「ごめんなさい、姉さん!パパが、姉さんがいないのに気づいて、すぐここに来てしまって…!」
 後ろにサラが続くも、
「サラ、黙りなさい!!」
 パパが大声で怒鳴る。
「ミレーヌ、こんなところになぜいるんだ!?デーヴィス、娘の腕を放せ!」
「この女が勝手にやってきたんだ!いい迷惑だ!!」
 デーヴィスさんがやっと腕を放してくれた。
「ミレーヌ、帰るぞ!こっちに来なさい!」

 ここでパパの言う事を聞いてしまったら。
 いつまでもこの争いは終わらない。
 そう思うとあたしは、自然とロビンの下へ行った。

「いやよ!あたしはロビンと一緒にいたいの。もうあたし達を振り回さないで!」
すると、ロビンがあたしの両手を握った。
「ミレーヌ…!ちゃんとお前に伝えてなかったけど俺は…。」
「ううん、ちゃんと気持ち伝わったよ。素直になれなくてごめん、あたしもロビンが好きだって気づいたの!」
 ロビンはあたしの言葉を聞くと、安堵しつつも決心した表情でパパ達に呼びかけた。
「親父、トムさん、もうこれ以上、俺たちの邪魔をしないでください!」

「何だと!?」
「ふざけるな!!」
 デーヴィスさんとパパは同時に怒りの表情で叫んだ。
「ふざけてるのはどっちよ!」
 あたしも負けず、堪忍袋の緒が切れてしまった。
「あたしもロビンも、ママの事が理由で仲が悪いのを知っているのよ!こんな状況を見て、誰が一番悲しんでいるか、二人ともわからないの!?」
「誰だっていうんだ、そんなもの!!」
 デーヴィスさんが怒鳴る。
「適当な事をいうんじゃない、ミレーヌ!」
 パパも呆れたように言う。

「本当にわからないの!?悲しんでいるのは、……天国にいるママに決まってるじゃない!!」

 あたしは涙を流しながら訴えた。
 ママの切ない気持ちを思うと、涙が止まらなかった。
 パパとデーヴィスさんは、あたしの言葉にハッとしたように無言になった。

「それだけじゃない。」
 あたしの代わりにロビンが口を開いてくれた。
「親父、お袋だって傷ついているのがわからないのか!?」
「なっ…何を言うっ…!」
 動揺するデーヴィスさんに向けて、執事さんも話しだした。
「失礼ながら私も申し上げます。ロビン様の仰るとおりです。今まで黙っていましたが、奥様は私の妻へ長年、泣きながら相談しておられました。自分の存在はシェリーさんの代わりでしかなかったのかと。デーヴィス様に対しては引け目を感じて何も言えず、ずっと我慢されていらっしゃったのですよ。」
「それとこれとは……。」
 デーヴィスさんは言葉を返せないでいる。

「ミレーヌ、とにかくデーヴィスの息子となんて絶対に許さんからな!帰るぞ!」
「パパもいい加減にして!!」
「何っ!?」
「どうしてわかってくれないの?ママを悲しませた時点で、パパだって同罪よ!ママは言ってたわ。“パパがママを愛してくれたように、あなたも自分の事を愛して大切にしてくれる人を見つけなさい”って。パパのように、ロビンもあたしの事をちゃんと想ってくれてる。ロビンを許さないって事は、ママの事も否定してるのと同じよ!!」
「トムさん、俺は真剣な気持ちです!」
 ロビンがあたしの手を握ったまま、パパに言ってくれた。
「だが……。」
 パパもさすがに動揺し始めた。

 その時、執事さんが口を開いた。
「デーヴィス様、トムさん。もうこの辺にしませんか。きっと御二人とも、心の中では言い争っても虚しい事だと気づいていらっしゃるのでしょう?それとも、こんなに沢山の人が傷ついてもまだ言い足りないのですか?」
 執事さんは丁寧に話しつつも、笑顔で指を鳴らし始めた。
 パパとデーヴィスさんは体格の良い執事さんの動きにたじろぎつつ、もう限界を悟ったのか溜息をついた。
「わかったわかった!ここまで言われてもまだ争うというのは、さすがに愚の骨頂だ…。」
 パパが頭を軽く支えながら言った。
「そう…だな……。私も妻にそこまで思いつめさせていた事にずっと気付いてやれなんだ。」
 デーヴィスさんは、ロビンのママがいるであろう屋敷のとある部屋の方を、申し訳なさそうに見つめていた。

「ロビン君。」
「!……トムさん、初めて名前を呼んでくれましたね。」
 パパがロビンに声を掛けた。
「シェリーとの話はこれっきりにする。だが、ミレーヌの事は別問題だ。交際は認めるが完全に許したわけじゃないからな。クリスティーンやサラの夫達のように何度でも説得に来て誠意を見せろ。」
「パパったらまだそんな…!」
 サラは呆れた様子だ。
「分かっています。何度でも行きますから!」
「デーヴィスさん、あたしの事は認めてくれますか?」
 あたしもすかさずデーヴィスさんに尋ねた。
「……まぁ……。君やそこの妹が、トムの店で看板娘になるほど性格や評判が良いのは、嫌でも噂で耳にしていたからな。交際は認めるが、その先はまた別だ!」
「親父、何だかんだ言いながら、トムさんの店が気になってたんだろ?」
「う、うるさいっ!!」
 デーヴィスさんはロビンの言葉に咳払いをしてごまかした。
「デーヴィス、この際だ、機会をみて奥さんといつでも店にでも来ればいい。」
 パパが言うと、デーヴィスさんはさらに咳払いをしながら小さく頷いた。

 こうしてなんとか、パパ達を仲直りさせることができた。
 自分だけじゃきっと、こんな風に解決する事はできなかったと思う。
 ロビンと執事さんのおかげだわ!

 その後、一度全員それぞれ家に戻り、改めて家族で話をする事になった。
 サラが作った夕食を食べながら、パパに話しかけた。
「パパ、今日は言いすぎたわ。ごめんなさい。」
「いや、パパ達のプライドのせいで、お前たちに長年嫌な思いをさせていたのは事実だ。パパ達の方こそ、すまなかったな。ママの事を言われて思い出したよ。ママがこういう醜い争いを一番嫌っていたのを。」
「パパ…。」
 サラが食事の手を止める。
「シェリー…ママの両親、お前たちのおじいちゃんやおばあちゃんも、パパの若い頃は結婚を反対していたんだよ。」
「! 初めて知ったわ…!あの優しいおじいちゃん達が?」
 あたしとサラは驚いた。
「デーヴィスの方が身分が良かったしな。でもママはパパを選んでくれたからな。必死で説得したもんだ。あれだけ許してもらうまで苦労したのに、いざ自分がその立場になると、その苦労も忘れて、おじいちゃん達と同じ事をしていたと気づいて愕然としたよ。」
「でも、あたしはルイさんとの結婚を最初は反対してきて、あたしを心配しての事だって判ってたから、嬉しかったわよ?パパ。」
 サラはニコッと笑い、自慢げに続ける。
「親が子を心配するのは当たり前だものね。安心させたいから誠意を見せるのは自然な事よ。」
「サラ…。生意気に言うようになったな!」
「伊達に結婚する身じゃありませんからね。ミレーヌ姉さん達も、パパへの説得頑張ってね。」
「勿論よ!パパ、覚悟しててね!」
 パパは苦笑いだ。
 みんなの笑い声が響いた。

 
 

 
後書き
次回へ続く 
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