アヒルの旅
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3部分:第三章
第三章
「卵を産んでもらうようにするのがクワちゃんのこれからの仕事だよ」
「それが僕のお仕事なんですか」
「そうだよ。だからクワちゃんはそれをすればいいんだ」
またこう話すのでした。
「それをね」
「わかりました。それじゃあ」
「うん。それでね」
おじさんはここで話を変えてきました。クワちゃんを見ながら。
「クワちゃんはこれから何処に行くんだい?」
「何処にですか」
「ここからお池はかなり離れているけれど」
もうかなり歩いています。クワちゃんはひたすらてくてくと歩いています。まだ小さいクワちゃんにとってはかなりの距離を歩いているのです。
「何処に行くのかな」
「畑です」
鶏のお爺さんに勧められたことをそのまま話しました。
「これから畑に行きます」
「そうかい、畑にかい」
「畑は何処ですか?」
道も尋ねるのでした。
「今まで行ったことがないんでよくわからないんですけれど」
「ああ、畑ならこっちだよ」
右の前足で右手を指し示して教えるのでした。
「こっちに。ほら、あそこに青い大きな葉っぱが一杯見えるだろ」
「はい」
「あれが畑なんだよ」
穏やかな声でクワちゃんに教えてあげるのでした。
「あそこには猫がいるけれどね」
「それは聞いています」
「少し意地悪なところはあるけれどね」
おじさんはこうお話しながら少し苦笑いを浮かべていました。どうやらおじさんもその猫とは何かとあるようです。それで苦笑いを浮かべるのでした。
「それでも行きたいのなら行くといいよ」
「はい」
「意地悪だけれどクワちゃん達を食べるようなことはしないからね」
こう言って安心させもしました。
「だから安心していいよ」
「僕を食べるんですか?」
この言葉には少し怖くなるクワちゃんでした。
「まさか」
「まあそれを言ったら僕も同じだけれどね」
おじさんは自分のことも言うのでした。
「肉。食べるから」
「お肉をですか」
「けれど僕もあの猫もクワちゃんを食べたりはしないよ」
それは保障するのでした。強い言葉で。
「絶対にね」
「絶対にですか」
「だってクワちゃんはこのお家にいるからね」
だからだというのです。
「家族だからね」
「家族ですか」
「そうさ。御主人様も奥様も坊ちゃんもお嬢様達も」
まずは人間のことを言いますがクワちゃんにはまだあまり馴染みのない人達でした。時々男の子や女の子達がお池にやって来て一緒に遊ぶことはありますが。
「それに牛さんや豚さん達も」
「牛さんや豚さん達も家族なんですね」
「当然クワちゃん達や鶏さん達もだよ」
クワちゃん達もだというのでした。おじさんは舌をへっへっ、と出しながら楽しそうな笑顔でクワちゃんに対して話すのでした。
「あとはあまり好きになれないけれど猫達もね」
「猫さん達も」
「皆家族なんだよ」
またこうクワちゃんにお話するのでした。
「皆ね」
「家族ですか」
「まさか家族を食べたりなんかしないよね」
「そんなの絶対にないですよ」
クワちゃんにとって食べるものはいつも木の実や稗や粟です。そういったものしか食べないので家族を食べるなんてとても思いも寄らないものでした。
それで首を傾げさえしているのですが。おじさんはさらに言うでした。
「だから僕もあの猫もクワちゃんは絶対に食べないよ」
「絶対にですか」
「そう、絶対にね」
とにかく強い言葉でした。
「だから安心してね」
「わかりました」
「さて、もう着いたね」
お話をしているうちにでした。おじさんと一緒に歩いているクワちゃんは畑に着きました。黒い土の中に緑の葉っぱが一杯あります。
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