アヒルの旅
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2部分:第二章
第二章
「そこに行けば今だったら猫がいるね」
「猫のおばさんですね」
「そうだよ。あの猫はわし等には意地悪はするけれど食べたりはしないから」
「えっ、僕達を食べるんですか?」
「そういう猫もいるんだよ」
怖がる素振りを見せたクワちゃんにこのことも教えるのでした。
「怖い猫がね」
「けれどあのおばさんは」
「あの猫は普段から餌を貰ってるからね。それはしないよ」
けれどこう言って安心させるのでした。
「大丈夫だよ。本当にね」
「そうですか」
「まあ畑に行って御覧」
また勧めるお爺さんでした。
「あの猫とも話してみるといいよ」
「わかりました」
クワちゃんはお爺さんの言葉に素直に頷くのでした。
「それじゃあ今から行きます」
「ちょっと遠いから気をつけてな」
注意しておくのも忘れないお爺さんでした。
「それはわかったね」
「はい、それもわかりました」
この言葉にも素直に頷くクワちゃんでした。
「それじゃあ」
こうしてクワちゃんは畑に向かいました。畑までの道はかなり遠いものでした。クワちゃんはずっと一人で歩いていますが左に木の小屋が幾つも見えます。そのうちの一つから少し歳を取ったコリーが出て来てそれでクワちゃんに声をかけるのでした。
「おや、君は確か」
「はい、アヒルです」
クワちゃんはそのコリーににこりと笑って挨拶をしました。
「犬のおじさんですよね」
「うん、そうだよ」
コリーのおじさんは穏やかな笑みを浮かべてクワちゃんに答えました。
「おはよう」
「はい、おはようございます」
クワちゃんはおじさんに元気よく挨拶を返しました。
「うん。確か」
おじさんはクワちゃんの顔を見ながら考える顔になりました。そうしてそのうえでまたクワちゃんに対して声をかけてきたのでした。
「アヒルのクワちゃんだったかな」
「はい、そうです」
クワちゃんはまたおじさんに言葉を返しました。
「僕のこと覚えてくれてるんですね」
「まあ僕の仕事はあれだからね」
おじさんはクワちゃんの傍に来て言ってきました。
「この家の皆を守ることが仕事だからね」
「それがおじさんのお仕事なんですね」
「そうさ。それがこの家の犬の仕事なんだよ」
こうクワちゃんに教えてあげるのでした。
「だからなんだよ」
「そうなんですか。凄いですね」
「ははは、仕事だから当然だよ」
おじさんはそれを当然だというのでした。
「そんなことはね。例えばクワちゃん達アヒルの仕事はね」
「僕達のお仕事は?」
「あれじゃないか。卵を産むことじゃないか」
それだというのでした。
「鶏さん達と一緒にね。それが仕事だろう?」
「それが僕達の仕事ですか」
「わし等犬は家の皆を守る」
またこのことを話すおじさんでした。
「それをしないと何にもならないんだよ」
「じゃあ僕も卵を産まないといけないんですか?」
クワちゃんはおじさんの言葉を聞いてこう考えはじめました。
「やっぱり。お母さんみたいに」
「ははは、クワちゃんは男だから卵は産めないよ」
おじさんはそれは笑って否定するのでした。
「男はね。子供を産めないんだよ」
「じゃあ僕の仕事は一体」
何なのかな、と思ったところで。おじさんはクワちゃんに答えてあげました。
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