八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第四十四話 型その十二
「阪神打線ではだ」
「確実じゃないですね」
「そうだ、だからだ」
「ここでバントをしても」
「成功するかどうか」
「不安だな」
こう話していた、試合を観ながら。
そしてだった、その試合はというと。
次のバッターは何とか送りバントを成功させた、これでワンアウト二塁、チャンスになったけれどそれでもだった。
井上さんはまだだ、留美さんに安心していない顔で言った。
「これでいいと思えばだ」
「駄目ですよね」
「ここから点が入らないチームだ」
「それが阪神ですよね」
「チャンスを確実に活かせない」
「まさに阪神ですね」
留美さんも期待していない感じだ、チャンスでも得点が入る可能性は少ない。ダイナマイト打線とはいっても。
「だから今も」
「取って欲しい」
井上さんの偽らざる本音だ。
「しかしだ」
「期待していてもですね」
「同時に覚悟も必要だ」
得点が入らない場合もあるということをだ。
「そうして観るしかない」
「ううん、ここで同点になって」
「さらに逆転すればだな」
「最近中継ぎ、抑えはとりわけ好調ですから」
「勝てる」
「そうですよね」
「二点入ればな」
その時は確実だというのだ。
「それでいける、しかし」
「二点どころか一点も」
「取ることは容易ではない」
「そういうことですね、じゃあ」
「覚悟を決めて観よう」
井上さんは険しい顔になっていた、チャンスになればなるだけそうなっていくのが阪神ファンだろうか。その井上さんが観ている前で。
ヒットが出た、二塁からランナーが帰れば同点だ。けれど。
相手の送球が速くてだ、そのせいで。
二塁ランナーは三塁止まりだった、それを見てだった。
井上さんは歯噛みしてだ、こう言った。
「あそこでホームに帰ってくれば」
「同点でしたね」
「何故突っ込まなかった」
歯噛みしつつの言葉だった。
「あそこで成功していれば」
「そう思うと本当に」
「惜しい」
「相手の捕球と送球が速くて」
「行けなかったか、いや」
「いや?」
「ホームに突っ込んでだ」
井上さんはここでは強硬論を言った。
「そしてキャッチャーを体当たりで吹き飛ばしていれば」
「よかったですか」
「それがない、阪神はな」
ここでもだ、井上さんは阪神のことを話した。その打線のことを。
「だから駄目だ、これが広島ならば」
「突っ込んでましたよね」
「あのチームは一点を必死に取りに来る」
そして一点を必死に守る、そうしたチームだ。
「そこが違う、阪神とな」
「本当に広島みたいにしていたら」
「今も違った、全く以て口惜しい」
苦々しい声でだ、井上さんは言っていた。
「阪神に足りないものは何か」
「その一点ですよね」
「一点を取る気持ちだ」
例えだ、何があろうとも点をもぎ取ろうとする気持ちがないというのだ。言われてみればその通りかも知れない。
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