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黒魔術師松本沙耶香 天使篇

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17部分:第十七章


第十七章

「その相手はああした存在の中ではとりあえず上の方ね」
「上の方というと」
「魔神達かしら」
「彼等のうちの誰か」
「だとするとそれは」
 若しそうであった場合についても話されるのだった。彼女達の中で。
「確かにその時になればわかることだけれど」
「となると将校でも尉官や佐官ではなく」
 将校と一口に言ってもその階級は多く高い。少尉やそういった存在に留まらないのだ。
「将軍やそういった存在になるわね」
「それが出て来るというのかしら」
「若しくは」
 さらに話されるのだった。
「かなりの力を持つ人間か」
「その可能性もあるわね」
「ああした存在を充分に操れるまでの力の持ち主がね」
 あるというのである。その可能性も考えられる。
「だとすればかなり限られてくるけれど」
「今この国にいる中では」
「それは誰かしらね」
「果たして」
 それぞれ話す。そうしてだった。
「ではあと三日ね」
「三日でわかるわね」
「その最後の一日でね」
「まずは二日護ることね」
 忍をである。それは絶対だというのである。
「そして護ってそのうえで」
「最後の一日に見る」
「そういうことね」
「じゃあ今は」
 沙耶香達がまた言った。
「ここに来ているわね」
「そうね。またね」
「ではそれをね」
「倒しましょう」
 こう言ってであった。その周りに黒い吹雪を出す。それで集まろうとしてきた餓鬼を思わせる無数の小人達を凍らせ砕いてしまったのだった。
 それでこの日も終わった。次の日はである。休日であった。忍は公園でボートを漕いでいた。彼女の向かい側には母親がいる。亜由美と二人でボートを楽しんでいるのである。
 水面は穏やかで静かだ。公園の中の湖には幾つかボートがある。そのどれも穏やかに漕ぎ続けている。今の忍と同じようにである。
 二人共服はスラックスにセーターという質素な格好だ。その格好でボートの中にいる。
 そしてここで。亜由美が娘に声をかけてきた。
「ねえ忍」
「何、お母さん」
 ボートを漕ぎながら母の言葉に応える。
「何かあったの?」
「もうすぐ誕生日ね」
 微笑を作って娘に告げたのだった。腰はボートの席のところにあり足は静かに寝かせている。
「十六歳のね」
「そうね」
 母の今の言葉に頷く。そのボートの中で。
「あと三日ね」
「今日を入れたらね」
「そう、あと三日よ」
 ここで亜由美の言葉が強いものになった。
「今日を入れてあと三日ね」
「三日。何かあったの?」
「その三日だけれど」
 その切実な顔での言葉であった。
「絶対に無事に過ごしてね」
「?何言ってるのよ」
 母が何を言いたいのか全くわからずきょとんとした顔になる。
「一体何を」
「何をじゃないわ。あのね」
「ええ」
「貴女が十六になるまではね」
 危うくあのことを話してしまいそうになっていた。
「それこそ物凄くね」
「ああ、そうね」
 しかしであった。忍は母の言葉を完全に取り違えていた。そうして笑顔になってそれからこんなことを言って返してみせたのである。
 
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