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ストライク・ザ・ブラッド~原初の生命体たる吸血王~

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聖者の右腕
  #2

 
 
 ナンパ吸血鬼ことガジュマルと、そのツレの変態獣人を特区警備隊(アイランド・ガード)の保安部に引き渡してそれなりに庇い立てした後、帰宅したフランはソファーに座り、同居人の帰宅をテレビを見つつ待っていた。


 ――グォン! ジャララララララ!!


 突如としてフランの周りに魔法陣が多数展開され、その中心から鎖が飛び出し、フランを雁字搦めに拘束した。


「おぉう。今夜はまた過激だねぇツッキー。何かあったの?」

「『何かあったの?』ではない! 報告書と始末書を私に丸投げしておいてよくそんなセリフが言えるものだな! それと例のアレはバラ撒いていないだろうな!?」


 怒りと焦りの混じった表情でリビング内に転移してきたのは、フランと同じ家に住んでいる、ツッキーこと南宮那月だ。


「そないに怒らんでも。第一私は国家降魔官じゃないし、一応立ち位置としては民間協力者ってだけで〝登録魔族(フリークス)〟登録もしてないし」
「そうだとしてもお前から直接私に連絡の一つも入れてくれたって良いじゃないか!?」


 ってな感じに、まるで駄々っ子の様に怒鳴り散らす南宮那月。それを見たフランは、ヤレヤレ。っと言った感じの表情をした。


「私から直接連絡が行かなかったのが不満なのか? 全く、幾つになってもカワユイなツッキーは」


 と、おどけた声で那月を誡めるフラン。そして、その言葉を聞いて顔を真っ赤に染め、表情を引き攣らせて肩をワナワナと震わせる那月。


 そして―――

「い、いいい何時までも私をこ、子供扱いしないでくださいフランさんのバカぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ブケショハットッ!?」

 ―――なんか色々と噴火し、鎖でグルグル巻にされたフランはその状態のまま床に叩きつけられた。無数の鎖による追撃があったのは言うまでもない。








――――――――――――――――――――――――――――








「獅子王機関の剣巫、か」
「ああ。キャッスルの監視らしい」


 あの後フランは那月の御機嫌取りに奔走し、夕飯を那月の好物のオムライスにしてグズる那月に食べさせて、夕食を終えたところで正気に戻った那月が又しても顔を真っ赤に染め、ソファに寝転がってクッションに顔を埋めて暫く悶絶し、漸く那月が落ち着きを取り戻したところである。

 フランはテーブル付属の椅子に腰かけ、那月は未だほんのりと頬を染めながらソファで寛いでいる。


「確かに獅子王機関の〝秘奥武装〟なら真祖に対しても有功ではあるが…。しかし、お前が手傷を負うとはな」
「ふむ。この程度の傷ならすぐ治るはずなんだがなぁ。というより、あんな程度で傷を負うとは。歳かねぇ?」
「吸血鬼――それも〝旧き世代〟の眷獣を威圧するだけで怯えさせる者の台詞ではないな」


 そう言いつ言われつつ、フランはスリッパを脱いで自身の両足の裏を見る。実は先程、槍を踏みつけた際に刃を踏んだ事もあってか、靴と靴下ごと斬れて足の裏の中央に一筋の赤い線が入っていた。
 塞がり始めてはいるものの、その時履いていた靴と靴下は目出度くゴミ箱に没シュートされる事に相成った訳だが。

 吸血鬼――それも真祖の治癒力を以てすれば、掠り傷程度は瞬きの速度より速く治るのだが、今回は大分と遅い。一般人の治癒速度(ソレ)と比べても遅すぎである。ガジュマルと変態獣人と槍を振り回すストーカー少女が揉め事を起こしたのが――ひいてはフランが傷を負ったのが真昼間の13:30。現在の時刻は19:00。四時間半も経っているのに傷が痂にすらなっていないあたり、流石は獅子王機関の〝秘奥武装〟と言ったところであろうか。と、言うか、真祖の眷獣並の一撃を与えないと傷を負わないと言われている第零真祖にコラテラル・ダメージ(致し方なし)として放置できる程度とは言え、傷を負わせる辺り、流石は七式突撃降魔機槍〝シュネーヴァルツァー〟(対吸血鬼戦闘に特化した世界に三本しか存在しないと言われる破魔の槍)である


 七式突撃降魔機槍〝シュネーヴァルツァー〟
 件の尾行少女(ストーキングガール)使用し(振り回してい)武器()の総称であり、〝神格振動波駆動術式〟と呼ばれる、魔力無効化術式を組み込まれた世界に三本しかないと言われる武装である。人間が魔族に対抗するために生み出したのだが、古代の宝槍を核とし、超絶高度な金属精練技術を用いて錬成する必要がある故に、数は少ない。と言うか、世界中探しても三本しか無いらしい。


「全く。下着を見られた程度で殺人――(いや)、魔族殺し未遂をやらかすとはな」
「何だかんだ、女の子なんだろうよ」


 何時もより辛辣だねぇ、商売敵だからって。等と考えながら、暖かい目を那月に向けるフラン。無論、那月に気付かれる様なヘマはしていない。


「と言うか、ツッキーも昔は(つむじかぜ)でスカート捲れ上がって下着見られたっつって、クラスメイトの男子数人半殺しにしてなかったか?」
「む、昔の事を掘り返すな! って、例のアレはバラ撒いていないだろうな!?」
「安心しろ。例のアレはツッキーとアヤヤと私、あと私の従者達と眷獣達だけの秘密だ」
「おいッ! 最後のなんだ!? 途轍も無く不安なんだが!?」
「安心しろ。私はばら撒く気は無いし、眷獣達は私以外と意思疎通無理だし、従者達とアヤヤは――な?」
「………そうだったな。阿夜とお前の従者達は――」
「おっと、そこまでだ那月(・・)。〝    (あの牢獄)〟の事は言うな。私もそれなりに気にしてるんだよ。あの子等を止めれなかった事とかな」


 那月の事を〝ツッキー〟ではなく、〝那月〟と呼ぶフランに萎縮して口を噤む那月。


 フランが言葉を紡ぐ度に高まる魔力。そしてそれに呼応するかの如く、蒼の瞳はみるみる赤く、紅くなっていく。

 フランの従える無数の眷獣達もそれに同調したのか、フランの体から炎の様な、氷の様な、雷の様な、水の様な、毒の様な、光の様な、闇の様な、様々な気質を持つ魔力が漏れ出し、その魔力がそのまま放たれるかと思われた。


 しかし―――

「…………わかりました。わかりましたから、瞳を紅くしないで下さい、フランさん。お願いします」

 ―――那月の、消え入りそうな泣き声により、その魔力は霧散し、眷獣達も鎮まり、フランの瞳も元の全てを包み込むような鮮やかな蒼に戻った。


「…………スマンな、ツッキー。どうにも、な」
「いえ。気持ちはわかりますから」


 互いに謝罪をする2人。そして訪れる気まずい沈黙空間。

 数分そんな時間が続き、そんな雰囲気をどうにかしようと、フランが昼間の話題を振った。


「そう言えば、ガジュマルと変態獣人(あの子)はどうなった?」
「……罰金払わせて釈放だ。セクハラで起訴しました、なんて事になったら面倒しかないからな」
「ふむ。獅子王機関の剣巫(世間知らず)が相手なら尚更、か」


 獅子王機関の剣巫がセクハラ(半分逆恨みによる魔族殺し未遂)で魔族二人を起訴なんて、それこそ条約締結を承認した三人の真祖(フランの子等)に対する冒涜である。それ以上に、安易に実力行使に走ったことで、獅子王機関の組織としての倫理観も関ってくる。故に穏便に済ませたのだろう。


「とにかく。余計な事をしないように見張っておけよ」
「監視者を監視、ねぇ。柄じゃ無いんだがなぁ。そんなのはモッキーにでもやらせておけばいいのに」


 暴れ回る方が得意なんだけどなぁ。唯でさえモッキーの手伝いメンドイし。と、フランが言おうとすると、『お湯張りが、終了しました』と機械音声がリビングに響いた。


「っと、風呂が湧いたか。どうするツッキー、昔みたいに一緒に入るか?」
「――――ッ!?」


 フランが笑いながら那月にそう言うと、那月は顔をこれ以上無いくらいに真っ赤にし、転移してリビングから消えた。


「――まあ冗談だが。……ってツッキー? ドコ行った? ツッキー?」


 那月が転移してリビングから居なくなっているのに気付かなかったフランは、頭の上に?を五つ程作り、首を傾げていた。

 
 

 
後書き
 
 
 自分で書いといてアレですが、誰ですかこれ。羽黒の満面の笑みや響のケッコンボイス並に破壊力バツ牛ンじゃないですかこれ。こんなの那月ちゃんじゃないや。タグ追加しなきゃ。


 内心ツッキー可愛く書こうとしてこうなった。反省も後悔もしてない。 
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