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ストライク・ザ・ブラッド~原初の生命体たる吸血王~

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聖者の右腕
  #1

 
 
 日本本土の何処か、深い深い森の中にある神社――獅子王機関が所有する社の拝殿。そこに、中学生くらいの少女と、御簾に遮られて姿が見えない三人の、計四人の人物がいた。


「第四真祖、ですか?」
「一切の血族同胞を持たない、孤高にして最強の吸血鬼と言われています」
「聞いたことはありますか? 姫柊雪菜」
「……噂は」


 御簾の向こうこ三人の内、二人の問いに中学生くらいの少女――名を姫柊雪菜と言う――は神妙に頷いた。


 第四真祖〝焔光の夜伯(カレイドブラッド)
 十二の眷獣を従える孤高の吸血鬼であり、世界最強の肩書きを持つ吸血鬼。

 しかし、それは噂程度で実在しているわけではないと思う人が大多数である。


 存在を知るのは旧き世代の吸血鬼や高名組織の上層部等の限られた者達と、当事者たる暁古城。そして、先代〝焔光の夜伯(カレイドブラッド)〟たるアヴローラ・フロレスティーナと、ソレを筆頭とする眷獣とその器達のみである。


「魔族と混同するこの世界で、人類の最大の敵である吸血鬼が仮初めでも我ら人間と共存出来ているのは何故か?」
「聖域条約が締結された為です」
「そうだ。そしてその条約は欧州の支配者、第一真祖〝忘却の戦王(ロストウォーロード)〟。西アジアの盟主、第二真祖〝滅びの瞳(フォーゲイザー)〟。南北アメリカ大陸を統べる者、第三真祖〝混沌の皇女(ケイオスブライド)〟。三名の真祖が互いを牽制し合うが故の三竦みの賜物でもある」
「ですが、第四真祖が存在するとなればその均衡が崩れ、人類を巻き込んでの戦争になるかもしれません」


「これを受け取りなさい」


 女性の声が響くと同時に、蝶のように折られた紙が姫柊に向かっていき、目の前まで来たら淡く発光して一枚の写真が手元に現れた。写真には三人の男性が写っており、その中心の人物は髪の色素がやや薄く、フードのパーカーを制服の上に着ていた。


「暁古城。件の第四真祖と目されている人物です」
「例のものを此方に」


 部屋に控えていた男性が、姫柊の前に銀色のケースを置いた。御簾の向こう側の三人がケースの封印を解くと、中には一振りの銀の槍。


「七式突撃降魔機槍〝シュネーヴァルツァー〟です。銘は〝雪霞狼〟。貴方のせめてもの餞です」
「姫柊雪菜。獅子王機関三聖の名において命じます。全力を以って第四真祖、暁古城に接近し、その行動を監視すること。そしてもし彼の存在を危険だと判断した場合――此れを抹殺すること」
「……抹殺」


 そう言われた姫柊は、顔には出ていなかったが心の中では結構動揺していた。無理もない事だ。相手は最強の吸血鬼であり、伝説の存在だ。そう易々と殺されるような弱者ではない。下手を打たずとも自分が殺されてしまう。


「そして、もう一つ伝えなければなりません」


 先ほどの声よりは棘が無いように聞こえるのを感じた姫柊雪菜は、動揺を抑えつつ聞く姿勢をとる。


「この第四真祖がいる地――絃神島には最悪にして最狂であり、無敵の吸血鬼。吸血鬼の王、ハジマリにして究極の生命体、第零真祖〝不滅の吸血王(ロード・オブ・ヴァンパイア)〟がいる可能性があります」
「〝不滅の吸血王(ロード・オブ・ヴァンパイア)〟……っ!」


 姫柊雪菜は動揺を抑え切れずに声に漏らしてしまうが、御簾の向こうの三人はそれを注意しない。


 第零真祖〝不滅の吸血王(ロード・オブ・ヴァンパイア)
 有史以前。まだ第一から第三までの三人の真祖も、天部も、咎神(きゅうしん)も、レヴィアタンやナラクヴェーラさえも存在していなかった程昔から存在するとされ、全ての聖殲を生き延びた『原初の化け物』と言われている存在だ。

 他にも、三人の真祖を作り出したとか、天部を生み出したとか、錬金術師の始祖だとか、失われた物を含めて全ての魔導書を作っただとか、咎神(カイン)と無二の友人だったとか、天部を滅ぼしただとか、実は世に知られていない真祖級の眷属が複数人いるとか、闇の軍勢(レギオン)の総数が億を超えているだとか、八軍(少なくとも400000)を越す数のナラクヴェーラを保有しているだとか、敵に回したらほぼ全ての吸血鬼も敵に回るとか、その他幾つもの噂がある。
 何より、〝不滅の吸血王(ロード・オブ・ヴァンパイア)〟に傷を付ける為には、少なくとも真祖の眷獣の一撃クラス以上の攻撃をする必要がある等という噂もある程だ。


「そこまで緊張する必要はありません。彼の者は刺激しなければ温厚そのものです。くれぐれも彼の者を怒らせる様な真似だけはせぬよう。
 剣巫としての役目、見事に果たす事を期待しています」
「……はい」


 姫柊雪菜はその言葉の重みを自覚し、承諾した。








――――――――――――――――――――――――――――








「熱い……焼ける。焦げる。灰になる……」
「腐るな。キャッスルはそこまで頭が悪いわけじゃないんだ。気張れ」


 午後のファミレスの窓際のテーブルにぐったりと突っ伏している色素の薄い少年――第四真祖である暁古城――とドリンクバーで汲んできたジュースを飲んでいる女性の様な少年――フランドール・D・A・B・H・ヴィクトリア――がいた。

 前者の暁古城は白いパーカーを着ている。それなりに顔の造りもいいが、ただ今絶賛不貞腐れている。
 後者は漆黒を思わせる様な黒く長髪に蒼い双眸。髪は膝裏を過ぎるくらい長く伸びている。背が低ければ容姿は彼の同居人とそっくりとは両名を知る人の談。


「今、何時だ?」


 古城が呟いたのを聞き取ったのは、真正面にいるフラン以外の友人だった。


「もうすぐ四時よ。後三分二十二秒」
「……なんで俺はこんな大量に追試受けなきゃならねーんだろうな」


 古城の机の上には山積みになっているのは、多量の教材の数々。古城が追試を命じされたのは、英語と数学二科目ずつを含む合計九科目+体育実技のハーフマラソン。夏休み最後の三日間で処理するという地獄の呵責もドン引きな羽目にあっている。


「――――ってか、この追試の出題範囲ってこれ、広すぎだろ。こんなのまだ授業でやってねーぞ。うちの教師たちは俺に恨みでもあるんか!!」


 古城が課題の多さに嘆きの悲鳴を上げ、それを聞いたフランと古城の友人である男子一名と女子一名は呆れていた。


「いや……そりゃ、あるわな。恨み」


 そう答えたのは短髪をツンツンに逆立てて、ヘッドフォンを首に掛けた男子生徒――名を矢瀬基樹という――だった。


「あんだけ毎日毎日、平然とサボられたらねェ。舐められているって思うわよね、フツー……おまけに夏休み前のテストも無断欠席だしィ?」


 もう一人の女生徒――名を藍羽浅葱という――が笑っていってくる。


「……だから、あれは不可抗力なんだって。いろいろ事情があったんだよ。だいたい今の俺の体質に朝一はつらいって、あれほど言ってんのにあの担任は……」
「フランは必要最低限の出席日数は取ってたし、成績もよかったから問題なかったんだがな」
「ホントよね。でも授業中はあまり寝ない方がよかったんじゃない?」
「フンッ。私の歳は教えてあるだろう?」


 フランも古城と同じくサボリ気味だったが、最低限の出席日数は取っていたし、テストも学年で10位内に入っていたので追試が無かった。歳も歳だけに授業中は寝てばかりだったが、年の功でテストは毎回学年トップ。サボる理由も確りある上に遅れてでも学校には来て受けれる授業は寝てても出ていた為、文句が言えなかった。故にフランは事情を知らぬ一部の教師から敵視されていた。


「……理不尽だ。俺は朝は起きれないっていう体質だって言ったのに……」
「朝起きれない、か……随分自堕落な生活だな」


 古城はフランを睨むが、フラン本人はその視線をスルーして飲み物を飲んでいる。


「体質ってなによ? 古城って花粉症かなんかだっけ?」


 浅葱が不思議そうに古城に訊き、当の古城は唇を歪めた。


「つまり夜型っつうか、朝起きるのが苦手っつうか」
「それって体質の問題? フランみたいに吸血鬼な訳でもあるまいし」
「だよな……はは」


 実を言うと、フランは一部を除いて絃神島に住んでいる者には自身が第零真祖だと教えているが、古城は自身が吸血鬼だという事をのを隠している。故に、安易に言えるものではない。

 とりあえず、古城が第四真祖だと知っているのは絃神島にいる人物では少なくとも12人――その内の一人は古城の妹の無意識に潜む十二番目の眷獣――しかいない。








――――――――――――――――――――








 絃神島
 太平洋のど真ん中、東京の南方海上三百三十キロ付近に浮かぶ人工島だ。ギガフロートと呼ばれる超大型浮体構造物を連結して造られた、完全無欠な人工の都市である。総面積は約八十平方キロメートル。総人口は約五十六万人。
 暖流の影響を受けた気候は穏やかで、冬でも平均二十度を超える熱帯に位置する、いわゆる常にクソアチィ常夏の島だ。
 学究都市でもある絃神市は、製薬、精密機械、ハイテク素材産業などの、大企業や有名大学の研究機関がこの島でひしめき合っている。

 しかしながらこの島、少々特殊なところもある。


 魔族特区。
 それがこの絃神市に与えられたのもう一つの名前である。
 獣人、精霊、半妖半魔、人工生命体、巨人族に龍族、そして吸血鬼――この島では、自然破壊の影響や人類との戦いによって数を減らし、絶滅の危機に瀕していた魔族達の存在が公認され、保護されている。

 絃神島はその為に造られた人工都市である。


「暑い……だるいな。キャッスルじゃないが、焼け焦げそうだ」


 あの後フランは古城達と別れ、ゲーセンに向かって歩いていた。暫く歩いていると、ポケットに入れてたスマホに着信が入る。

 スマホをポケットから取り出し、画面を覗き込むとそこには―――南宮 那月と、顔写真付きで表示されていた。


「もひもひ、どうしたツッキー」
【私をツッキーと呼ぶな……はぁ、まぁいい。それよりフラン、今どこにいる?】
「今か? ○×ゲーセンの前にいるが」
【なら丁度いい。その近くで〝登録魔族(フリークス)〟が暴れているらしくてな。私の名前を使って引き摺って来い】


 その傍若無人な物言いに、フランは軽く苦笑する。昔の様な可愛らしさはどこに消えたのやら。等と思いながら、電話越しで話す。


「はいはい。手荒な真似をしても?」
【構わん。だがやり過ぎるなよ。……ああ、ちなみに相手はD種だ。全く、面倒事を増やしてくれる】


 那月の声色には本当にメンドクサイ、と言った感情が滲み出ていた。その時、フランは近くの場所で魔力が高まっていくのを感じとった。


「ああ、確かに魔力を感じるな。忘却の戦王(あの子)血族(従者)か……ま、行くとしますか」


 那月からの命令が出たので、早速現場に向かって行く。向かっている時に爆発音と火柱が見えた。
 眷獣を使っているらしいので、速く行くべきだろう。と、フランが判断を下すのに一瞬の無駄な時間も無かった。

 現着した時に、炎の馬の眷獣が銀の槍を持った少女と相対していた。


「っ!? おいマジか(あの銀の槍は確か――)」


「――灼蹄(しゃくてい)! その女をやっちまえ!」


 フランは少女の実力が如何程のモノか見てみたかったのだが、那月からの命令が来ている手前、諦めて止めることにした。


「よっと」


 気怠げな声と共に高く飛び上がり、フランは少女の持つ槍の穂先の直上から重力に任せて落下した。


 ――ズガァァァン!!!

 ――スッ


 重力に任せて落下したフランは銀の槍の穂先に着地して穂先をコンクリートの地面に減り込ませ、その状態のまま右掌を燃え盛る馬の眷獣へと向ける。すると、炎馬の眷獣は生まれたての子鹿の様に足を震わせ、平伏するように身を屈めた。


「……え?」
「しゃ、灼蹄!?」


 槍を持った少女とD種の吸血鬼が目の前で起こった現象に唖然とした。

 それもそうだろう。行き成り目の前に人が降ってきたと思ったら槍の穂先が地面に減り込んで轟音が響き、眷獣を掌を向けただけで震えだして平伏したからだ。


「とある降魔師の補佐官だ。聖域条約違反の容疑で公社の保安部まで同行してもらおうか」


 攻魔官補佐と聞いたホスト風の吸血鬼は顔色を変えたが、フランの顔を見て表情を変えた。


「ふ、フランさん!? なんでこんな所に!?」
「む。貴様は確か、ガジュマル・サンセベリアだったな。何があったか知らんが、小娘相手に眷獣を出すな。やり過ぎだ」
「ま、まってくれフランさん! 正当防衛だ! 先に仕掛けたのはそのガキだっ!!」
「んなっ!?」


 フランにガジュマル・サンセベリアと呼ばれた吸血鬼は少女に指を差してそう叫び、少女は自分に罪を擦り付けるような発言に目を見開いた。


「だとしても眷獣まで出されると言い訳は効かん。それに、そのガキは見たところ中坊だ。そんなガキ相手に眷獣を使うのは過剰防衛だ。なんだ、貴様は匈鬼だったのか?」
「っ!? 今の発言は例えフランさんが相手だとしても許容できねぇ! 取り消してくれ!」
「なら少しは考えて行動してくれ。貴様が匈鬼でないのは見ればわかる。だが今の状況を見るとそう思われても仕方あるまい? まあ、取り敢えず事情聴取だけで即釈放出来る位の口添えはしてやる。少し大人しくしていてくれ」
「…………はいッ」


 そう言ってホスト風の吸血鬼――ガジュマル・サンセベリア――は眷獣を消し、姿勢を正してその場で時を止めた様に動かなくなった。


「さて、そこの中学生(ガキ)。矛を収めろ。魔族――特に吸血鬼に対して七式突撃降魔機槍(それ)を使うのはいくらなんでも過剰応対(やり過ぎ)だ。どちらが悪い等関係なく、魔族特区(こんなところ)対魔族戦闘用破魔の槍(そんなもの)振り回して〝登録魔族(バケモノ)〟を殺してみろ。〝登録魔族(フリークス)〟のほぼ全てが貴様を殺しに掛かるぞ」
「うっ……す、すみません」


 槍を持っている少女は申し訳なさそうに頭を下げた。


「わかればよろしい。次からは時と場所と場合と相手と得物を考えて武器を振るうのだな。それと、そこのバカ者。出てこい」
「馬鹿とはひでぇな」


 フランの声と共に、近くで隠れていたいた古城が揉め事のあった中心部に向かって歩いてきた。槍を持っている少女は、出てきた古城を見て顔を強張らせてた。
 フランは古城の顔を見て顔を強張らせているのか疑問だったが、〝七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)〟なんてモノを振り回してるのなら獅子王機関の連中が、第四真祖になった古城の存在に気付いたのだと思い当たり、納得した。


「私はこの子らを連れて行く。そっちの小娘(ガキ)は任せるぞ」
「任されたくないが、分かった」


 古城の返事を聞き、槍を振り回していた少女の対応を古城に任せ、フランは壁に埋まった奴を引き摺り出そうと埋まっている獣人に近付いた。


「…………」


 と、近づいてみて壁に埋まった男の顔を見ると、『我が生涯一片の悔いなし』的な感じの表情をして気を失っていた。


「……この子は痛みが快楽に変わる口か?」
「あ、ハイ。こいつ、見た通り獣人なんですけど、獣人故のタフさを生かして結構、と言うか可也ハードなのが好きなんです。吸血鬼の俺から見てもドン引きな位ハードなのを求めてるんです。もう求めてるモノは傍から見ればハード通り越してルナティック何です。怒首領蜂大往生のクリア難度並にハードでルナティックな死ぬがよいな、何で死なないの? って位にはハード過ぎるモノを求めてるんです」
「……そうか」


 着いて行ったガジュマルがそう説明した。それを聞いたフランは何とも言えない表情をし、獣人の襟を掴んで引っ張り出して背に担ぎ、古城の下に戻る。


「いやらしい」


 古城の下に戻ると、槍を振り回していた少女が古城を冷めた目で一瞥し、背を向けて走り去って行った。


「……貴様は貴様で一体何をした」
「い、いやぁ、その」


 フランが呆れ顔で古城に問い掛けると、ばつ悪そうな表情をする古城。しかし、古城の性格を考え、さしずめデリカシーの無いことでも言ったな。と、思い至ったフランは考えを口にする事無く飲み込んだ。


「まあいい。私はガジュマル・サンセベリア(この子)変態獣人(この子)を公社の保安部まで連れていく。ではな」
「ああ、また明日な」
「うむ。では行くぞ、ガジュマル」
「うっす!」

 ――ぴぽぱぽぺぴぽ
 ――トゥルルルルル。トゥルルルルル。

「――私だ。先ほど南宮降魔官より連絡を受け、魔力暴走を起こした〝登録魔族(フリークス)〟を鎮圧した。特区警備隊(アイランド・ガード)の出動は無用だ。は? 報告書と始末書? ンな物ぁツッキーにでも書かせとけば良いんだよ。私はツッキーに頼まれて手伝ってるだけに過ぎん。私は国家降魔官でなければ特区警備隊でもない。ただの民間協力者なんだからな。……私が折檻されるって、ンな事言われてもなぁ。……よし、例のアレをばら撒くぞと私が言ってたと言えばお前が折檻される事は無いだろ。もう切るぞ。じゃあな」


 古城と別れ、獣人を担いで特区警備隊本社に電話を入れて吸血鬼――ガジュマル・サンセベリアと共に保安部へ歩き出すフランだった。

 
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