真田十勇士
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巻ノ八 三好伊佐入道その三
「あそこに伊佐がいるのやも、いや」
「違うな」
「拙僧はともかく伊佐はそうした修行をしませぬ」
「荒行はせぬか」
「いえ、荒行をしてもです」
それでもというのだ。
「ああした場が相当に乱れる修行にはなりませぬ」
「そうなのじゃな」
「何かがまとめて怯えている」
「そうした修行ですな」
「どちらにしても寺の方じゃな」
幸村はここでこう言ったのだった。
「あちらは」
「左様です」
「ではあちらに行こう」
「さすれば」
こうしてだった、一行は清海に案内されてだった。
その気が乱れている方に行った、すると。
そこにはだ、清海程の背丈に体格にだ。猟師の身なりをして髪を短く刈った大きな目を持つ男がいた。その男を囲んでだ。
木々の上の猿達が怯えて近寄らない。望月はその男を見て清海に問うた。
「あの漁師は違うな」
「違うぞ」
すぐにだ、清海も望月に答えた。
「確かにわしとは全く違う外見じゃがな」
「それでもじゃな」
「伊佐は猟師の服なぞ着ぬ」
こう答えたのだった。
「常に法衣じゃ」
「そこは御主と同じじゃな」
「そうじゃ、確かに大柄じゃが」
それでもというのだ。
「漁師ではない」
「ではこの者は何じゃ」
「ははは、わしは別の山の猟師じゃ」
男の方が言って来た。
「留吉という、今日はこの山にたまたま入ってな」
「そしてか」
「猟をしておったのか」
「そうじゃ、たまには別の山に入ろうと思ってな」
「左様か」
「しかし入ればこの通りじゃ」
猿達が怯えたというのである。
「随分怖がりな猿共じゃな」
「いや、猿はそう簡単に怯えぬぞ」
穴山がその留吉に言う。
「嫌になる位ずる賢くもあるしのう」
「しかしこの山の猿達はな」
「御主を見てか」
「この通りじゃ」
「それは御主が怖いからであろう」
穴山は笑って言う男にこう返した。
「だからじゃ」
「わしがか」
「見たところかなり強いな」
穴山は男を見つつ言う。
「背中の鉄砲以外も使うであろう」
「わかるか」
「むしろ鉄砲も使うが」
「わしの真の武器はというのじゃな」
「その力か」
「少なくとも力には自信がある」
留吉自身も言う。
「熊を一撃でのしたこともある」
「それだけ強いとのう」
穴山は留吉に決して近寄ろうとしない猿達も見つつ述べた。
「猿達が近寄らぬのも道理じゃ」
「わしは猿は狩らぬぞ、今はな」
「獣は強いものには近寄らぬものじゃ」
だからとだ、穴山は男に告げた。
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