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黒き天使の異邦人

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第6話 裏切った者への接触


 あれから数カ月という時間で、世界というよりも日本周辺の状況が一気に変化した。
 伊号401潜水艦、日本政府の厳重な管理下に置かれていた場所から脱走した霧の潜水艦、これに人員を数名ほど搭乗させると硫黄島から九州(特に鹿児島や大分に宮崎といった県がある付近)の太平洋側で活発に活動を開始したのだ。


「最初は駆逐艦、次に軽巡、そしてこの前の重巡か…… 霧の第二巡航艦隊に被害が出始めたのか」

「えっと、じゃあ、401が霧を裏切ったってこと?」

「恐らくはな、だが…… 日本政府と協力はしていないのか……?」


 初めは誰も気づかれない様に始まった。
 霧の駆逐艦が潜水艦によって撃沈され、更には次から次へと被害に合う艦種が上の物へと昇っていく。
 それも全ての艦が401によって手玉に取られ、翻弄されながら霧の必殺武器と言える【浸蝕弾頭】兵器よる止めが原因だったのだ、ハロからの報告を聞いた時点だと驚愕したのを覚えている。

 人類というよりも日本が401と協力関係を結んだのではないか? と、そう考えた方が自然であるからだ。


「あの動きは人間の物だな」

「そう、だよね…… 明らかに人が乗っているような、そんな動きを401はしていたし」

「ああ前に戦闘をした際の霧の潜水艦の連中は、あそこまで複雑な軌道はしなかったからな」


 協力関係を結んで人が乗っていると思った事には理由がある。
 前にアストラナガンで撃沈、もしくは退却させた潜水艦達の動きとハロに頼んでモニターさせた401が戦闘中にとった動きは、他の霧の艦艇とは全くの別物と言って良い動きをしていたからだ。
 海中に潜ったり時には浮上して相手の意表をついて、駆逐艦と軽巡を手玉に取りここぞという時に確実に決め手となる一撃を決める。
 間違いなく、今の401には人が、それもかなり優秀な艦長とクルーが乗っている。


「だが、人が乗っているのなら、どこで必要物資の補給を行っているのやら」

「この艦のように原料から生産するレベルのプラントを搭載はしていないって、前に聞いた事はあるから、どこかで補給はしていると思うけど……」

「だろうが、かなりの無茶をしているな……」

「うん」


 だが、日本政府と協力していないと思ったのは、一度たりとも401は横須賀の要塞港の中には戻る事がなかったからだ。
 どんなに優れた艦であろうとも、人が乗り更には武装を使用したとなれば弾薬を含めた戦闘の為の物、更には彼らの体調を全てに置いて維持するための食料や衣類を含めた諸々の生活物資が必要となる。
 特に食料品や衣類などは艦長を含めた乗員の健康と士気の維持の為には必要不可欠であり、彼らがどこで補給をしているのかという疑問は尽きる事はない。

 それに浸蝕弾頭兵器の補給は不可能であっても通常弾頭の補給は必須の筈だからな、どうやって各種物資の補給を行っているのやら。
 だけど考えてみたら大きなチャンスかもしれない、ようやく大きく動き出したんだから利用する事の一つと思うべきか。









~黒き天使の異邦人~
~第6話 裏切った者への接触~





 俺は401の行動を確認した数日後には必要な物を持ってアストラナガンに搭乗して、アオガネを後にしていた。
 この間、琴璃には自主練習となってもらう事にはなるけれど俺の思惑と狙いを話す事で、納得はしてもらっている。


「思えば琴璃との生活も一年以上になりそうなんだな」


 広さもそうだけど機材の質に至っても人間が、長期的(具体的にいえば1カ月位か?)に渡ってコックピットの中で過ごしていても何も問題はないくらいに快適と言える空間の中で、俺は色んな経緯を経て不思議と同居人となった少女の事に付いて思考を巡らせていた。
 彼女を保護したのは本当に偶然と言える物ではあった。


「まあ、ヒュッケバインXV、こいつが完全に完成していたらアストラナガンを出す必要もなかったんだけどな……」


 当時というか今現在に至っても試作というか試行錯誤の域を超えない機体、ヒュッケバインXVの起動テストを行っていたら彼女が乗った小型ボートを発見して、顔見知りである上に彼女が殺されそうといえる状況だったために介入してしまった。
 あの時の事を聞かれれば迷いなく後悔なんてしていないって言える。

 顔見知り程度の仲であっても、見捨てるという選択肢をとった瞬間に俺は俺自身を許せなくなるのは間違いないし、彼女を見捨てるなんて選択をとる気もなかった。
 これが俺自身の甘さと言えるもので、後々に俺を殺してしまうようなものであったとしてもだ。


「そのおかげで美少女と同居生活、なんて言う嬉し恥ずかしな状況が出来たんだけどな」


 一応言わせてもらえれば、彼女と俺の浴室やら部屋なんかも全て別々だし手も出してなんていない、前の世界と同じくここでも貫いている童貞なめんな。
 だけどここ最近はやたらTOLOVEる、な(俺にとっては)凄く眼福な事が多い気がする。
 俺の浴室に琴璃が入ってきたりとか、彼女の部屋を訪ねたら着替え中の彼女に遭遇したりとか、ここ2ヶ月前くらいからか急に増えた気がするが、何でだ? ハロに聞いても感情の読めないというか感情を持たないはずの彼らの表情に呆れというものが浮かんだ気がするし、本当に最近は困った事ばかりが私生活でも起きている。

 まあ、それは置いておこう。


「ヒュッケバインXVの完成、これにはやっぱり優れた技術者の存在が不可欠だよな……」


 数年という時間をかけてもヒュッケバインXVが完成しない理由はエンジンにある。
 アストラナガンの操縦に加えて更には様々な実戦と、更には実線とほぼ同じ訓練を詰めるシミュレーターによってかなりの技量となったという自覚は大体ある。
 だから、俺がヒュッケバインXVを設計した時に目指したコンセプトは、小型化したSRX、というべき無茶振りにも程があるものだった。


「流石に艦内に保管されていたトロニウムを二個も使ったツインドライブはやり過ぎたか……」


 今、ヒュッケバインXVの開発が難航している最大の理由がトロニウムエンジンを2つ搭載したツインドライブ方式に置いての出力が安定しないという理由だった。
 基本フレーム自体は艦内にフレームのみの状態で放置されていた、もう一機のヒュッケバインMKⅢをベースにしつつ、T-LINKシステムを搭載して更には様々な念動力を利用した兵装とグラビコンシステムを応用した兵器群の搭載、更にはアストラナガンの兵装の一部再現という無茶振りを行っていたりはする。
 常時数%の低出力で稼働させているために、通常の軽巡や重巡を相手にするというのであれば問題はない、だが相手が大戦艦級や超戦艦級に海域強襲制圧艦が相手となれば、そうは言ってはいられなくなる。


「ゲームの彼らを、俺はバカにしていたんだろうな…… 俺の精神状態だとT-LINKを駆使した所で、通常状態だと5%の稼働状態で動かすのがやっとだ……」


 ハロの話であれば霧の艦艇には外付けではあるが、専用の戦闘用装備がある可能性があると聞かされたし、俺自身も簡易的にではあるけれどリストを確認して最大出力での武装が使えないというのは得体のしれない存在との戦闘を考慮するならば本当に痛手だ。
 T-LINKシステムを介してエンジン出力を無理やりにでも安定、もしくは出力増強を図れば4割を超える物とはなるけれど、それは俺自身の精神的なバイタルが最善の状態に置かれた状況に置いて、だ。
 これを戦闘中に、尚且つ危機的状況と言える事になっても普通に維持して、戦闘が出来るという事の凄さ、その事を俺は自分自身に降りかかってから自覚してしまっていた。


「まあ、それ以外にも理由はありそうだけどな……」


 エンジンの事以外にも、武装自体が俺の手に余るというのも開発が遅れている理由なんだろう。
 前というか、もう前世で良いや、それらから転生した今の俺の頭に知識はあっても自分で学んで手に入れた物ではない事、これが最も大きな阻害というか邪魔されているものだった。

 早く技術者を見つけないといけないかな。
 なんて考えもしていたりはしていたりする。
 出来れば美少女や美女で、具体的にはスパロボに出てきたレモンとかミズホとかみたいな、あんな美少女やら美女が望みだなぁ。


 そう考えた瞬間、俺の背筋に氷柱が差し込まれたような、そんな不思議な感覚を味わった気はする。
 気の所為、気の所為だよな……?








 そうして日本付近に付いた俺は数日の間、九州の太平洋側に置いてアストラナガンの索敵能力を全開にしつつ、霧に発見されないためにステルスであるASRSを展開して様子を窺っていた。
 どうして九州の太平洋側の辺りに張り付いていたのかといえば、401が戦闘を行う時には必ずと言って良いほどに九州付近を舞台にしていることがあげられる。

 目的地に付いて暇になった俺は、連れて来ていたハロに指示を出して日本政府を含めた各国の情報を集めるんだが、やはりというべきか、一つの目立つ情報が俺の目を引く事になった。


「AGX-1ブラックエンジェルって…… もしかしなくてもアストラナガンを人類側から呼称したものかね……?


 まあ簡単に言えばアストラナガンの通称というか、コードネームみたいなものをみつけたからというのが一番の理由だったりする。
 やっぱりこっちの世界というかスパロボの世界じゃなくても、アストラナガンのコードネームはブラックエンジェルというのは確定のようだ。


「まあ、髭男なんて言うコードネームをつけられた某隊長よりはマシか」


 中二っぽいが少なくとも、マスタッシュマン(髭男)なんていうコードネームを付けられた某隊長よりも断然マシだ、これでアストラナガンに琴璃が登場していればエンジェルという部分には賛同できるが、乗っているのがむさ苦しい男というだけで、人類側は知らない方がマシなのかもしれないな。
 だけど、これで今までアストラナガンの性能をある程度絞って運用してきた事は正解だったと言える事でもある、何しろ、全力で戦っていたりしたら霧と人類がこっちに向かってきた可能性もあるんだしな。

 まあ、その場合は恐らくというか大きな確率で人類と霧が互いの足を引っ張り合う可能性が高いけどな。


「琴璃からの定時連絡も受理、いつも通りの日常みたいだな」


 ここら一体の様子を探りつつも琴璃からの提案で、連絡を定期的にやり合う事になっているのだが、要約すればいつもどおりに訓練とか勉強を終わらせてるよ、的な連絡が来ていた。
 まあ、一人で寂しいからなるべく早く帰って来てね、みたいなことが書かれているのは素直に同居人として嬉しいものがある、帰りを待ってくれる人がいる嬉しさをここに来て味わうなんて思いもよらなかったな、本当に。

 そうしている内に周辺の状況が変化していくのを、アストラナガンのセンサーが拾った。


「鹿児島県の坊の岬沖に艦隊が続々と集結している……?」


 それは霧の艦隊が坊の岬沖に集結しつつあるというものだった。
 一瞬だけだが、ここにいる俺が捕捉されたのかとも思ったが、すぐに違うと結論が出る。


「同時に海中を航行中のイ401も捉えた、という事は401と霧の決戦と考えれば良いか」


 同時に海中を30ノット前後の速度で走るイ401の姿も捉えたからだ。
 大胆でありながらそれでいて慎重さも垣間見える動きは、明らかに今の霧では不可能な動きをしているから、イ401に人間が搭乗して操艦しているのは確実とみるべきだろう。

 こうして自分の目で動きを追う事で見えるものがあるもんだな。


「じゃあ、パーティーに乗り遅れないようにしないとな」


 現在地は宮崎県の沖合200km付近、ここから最大速力で急いで行けば間に合う距離でもある。
 そう考えると推進部に出力を伝達させて空中へと飛び出して、現地へと急行していくのだった。

 ここで彼らと接触を持てなかったら、次の機会が何時になるのかも分からないしな。



 そうして現場に付いた俺の眼前には駆逐艦34、軽巡18、重巡10、戦艦4という陣容の大艦隊が存在していた。
 恐らくは現状で集められる巡航艦隊の全戦力なのかもしれん、それに今まで俺が暴れてきたから余計に戦力が強化されているのかもしれないな。
 何しろ集中攻撃を受けている401の周囲には、大量という言葉も生温い魚雷やミサイルが降り注いでいるのだから、これまでの戦闘から単艦ごとであれば戦術の違いで一方的に401に蹂躙されると理解して、物量で押し切る方向に打って出たようだな。


「まあ、これも一つの戦術として正しいな」


 こん無物量の暴力というよりも暴虐というべき状況の中を、401は的確な操艦とクラインフィールドによる防御を利用して掻い潜っていくのを見て、あの艦に乗っている人間というよりも艦長は余程肝っ玉が据わっているのだろうと思う。
 毎秒数百を超える浸蝕弾頭兵器の群れを掻い潜り、更には反撃までしているというのだから、艦長だけじゃなくて乗員の能力も優れているのだと改めて思わされる。


「さてと401に対して短波発信でメッセージを送らないとな」


 これは前から考えていた事でもある。
 人類の封鎖下にあった401に搭乗して霧に反抗する者達に対しての協力、これは俺自身にとっての目的を果たす近道になりそうでもあると、判断していたからでもあることだ。

 俺の最終目的はアオガネを飛翔させて宇宙へと旅立つ事、まだ見た事のない光景を見たい、これが今の俺にとって霧と人類の争いを終わらせる、もしくは両者が拮抗させて地球からの脱出を図る一番の近道となっていると判断できるから。

 そうして、俺は遂にこの世界に生きる人達への本格的な介入を開始したのだった。

 
 

 
後書き
ここでちょろっと出てきたヒュッケバインXVは、現時点での予定では原作コミックで言えば6巻辺りにて本格登場します。
この間に諸々の問題点を克服しての登場となりますが、何気に本末転倒な状況になっている気がしないでもないという状況ですね。

理由は本編でも語っている通り、技術者が居ない事が一番のネックになっております。
エグゼクスバインよりも扱いづらいし、パイロット本人もイングに負けず劣らずと言える凄まじい能力を持ってはいるのですが、一番重要なメンタル面が暫くはアレなので、機体出力も安定しないというオマケ付き。

ここまで来たら、素直に既存のヒュッケバインかグルンガストを運用しろと言われるレベルの完成度の機体です。
一応は、原作コミック7巻の辺りからほぼオリジナルというか、そういう展開がはさんでくる予定ですね。

後、負けちゃった402ですが、近い内に斜め上(斜め下ともいう)な回路を搭載して再登場します。
400がメンタルモデルを構成して、初めて感じた頭痛に胃痛という概念を獲得するという余計なオマケまで付く形ではありますけどねw

だけど、このままだと原作の様な空気が無くなるかもしれません…… 既に琴璃ちゃんとのラブコメ的なもので少し考えさせられる状況ですし。 
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