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第四話 チーム中等科
前書き
ギリギリの三日以内投稿
三日間に渡る試験が終わった。 最初の二日間で筆記を終わらせ、最終日に実技試験を実施し、その日のうちに成績表を出すのが学院の方針だ。 結果が直ぐ出るので成績のよろしくない生徒達には不評である。
成績表の中身を見て飛び上がったり膝をつく生徒達がいる中、僕とアインハルトは校門前で向き合い、互いの成績表を出す。
「いいかアインハルト、いっせーのーせで開くよ」
「いっせーのーせ、ですね。 分かりました」
「よし。 それじゃ......いっ——」
「オープン」
「早いよアインハルト人の話聞いてたの!? いっせーのーせで開くって言ったよね!?」
「あ、オールA評価。 しかも学年一位です」
分かったと言いながら先に成績を晒してきた。 しかもオールA評価の学年主席。 そしてこのドヤ顔がまた怒りを煽ってくる。
ん? アインハルトが学年主席ってことは僕の成績はどう転んでもアインハルト勝てないんじゃ......。
恐る恐る成績表を開いてみる。 書かれていた評価は、
「が、学年二位。 実技試験の評価だけ、Bだと......!?」
「おめでとうございます。 学年”次席”ですよ。 ほら、もっと喜んで......ぷふっ」
「おい、アインハルト今笑っただろ」
「笑ってませんよ? ただあの天下の聖王様がこんな可憐な少女に遅れを取るなんて不思議なことだなーと思っただけですから」
「可憐な......少女......?」
「ちょっとツラ貸しなさい」
アインハルトの怒りのツボが分からない。
割とマジでガン飛ばしてくるの負けじとガンを飛ばし返す。 覇王と聖王のガンの飛ばし合いなんて古代ベルカじゃ戦争準備を始めてもおかしくないが、ここは平和なミッドチルダなので子供の喧嘩程度にしか思われない。 それに本気なら決闘を申し込んでくるはずだ。 つまりはセーフ。
十秒ほど続いたガンの飛ばし合いもアインハルトが飽きて直ぐに終わる。 一時のテンションに身を任せるのが多いだけに飽きっぽくもあるのだ。
普段ならここでテンションも元に戻るんだけど......、
「明日の模擬戦は何しましょうか。 私の誘導からの斉射? それともピンポイント砲撃支援を受けたインファイト? 空破断とのコンビネーション砲撃も捨てがたいですよね......」
昨日からテンションがフルドライブしてらっしゃるんだよ。
「合宿の模擬戦どんだけ楽しみなのさ......。 女の子ならこう、異性の話でキャッキャウフフと盛り上がるものじゃない?」
「同じ部屋に異性であるあなたがいるのに恋バナとかしませんよ、たぶん」
「え、僕またみんなと一緒の部屋?」
「まだ十二歳なんですからいいんですよ。 男性が細かい事を気にしない」
言ってる事が全く細かくないのに気付いて欲しい。 中学生にもなって同年代や近い年代の異性と夜を共に過ごすのは色々と厳しいものがある。 聖人や賢者でもあるまいし、健全な思春期男子がそんな状況置かれたら間違いを起こしかねない。 ご先祖様の記憶を引っ張って耐える荒技もあるが、やると非常に疲れるのでやりたくない。 あれは最後切り札ってやつ。
———合宿。 アインハルトのハイテンション、異性との同室などの原因になっている連休恒例の大イベントだ。
高町家を中心に関係の深い家庭や個人が集い、合宿の名も元に二泊三日の家族旅行を楽しむなんとも微笑ましいイベント。
だったらどれ程良かったろうか。
このイベント最大の目的は家族旅行ではない。 宿泊先の次元世界カルナージの最大の利点、”無人世界”である事を活用した本格的トレーニングが目的なのだ。
大魔法、大出力砲撃、召喚獣......周りに迷惑がかかり、普段は使えない技術を惜しみなく発揮出来る貴重な機会にオーバーS、ニアSランクの騎士や魔導師は心躍らせる。
去年の旧機動六課の全員集合には流石に緊張したが、世界を救うにも過剰な戦力が一つに集まったのは壮観だった。 なお模擬戦で八神司令とその守護騎士のチームにボコボコされた模様。
SSランクは次元が違うという理由を理解できる良い経験でした、はい。
「今回はどうなるのやら」
「どうと言われましても何を期待して......あ、コロナさんとなら愛を育むことも可能では?」
「どうしてそこでコロナと愛を育むなんて発想が......ああ、すまない。 話を急に変えたボクが悪かった」
話を急に変えたせいでアインハルトの中で変な誤解が生まれている。 誤解を解かなきゃ後々の人生も響くような内容なので十五分かけてじっくりと誤解を解く説明をした。 が、終始生温かい笑みを浮かべていたあたり全然を誤解を解けてないのは明白だった。 人の話を聞いてくれ。
「しかし来ませんね、ヴィヴィオさんたち」
「ねえ誤解だって分かってくれた? 分かった上で別の話をしてるんだよね?」
「あ、そうだヴィヴィオさんとのコンビネーションも重要ですね。 コンビネーションの必殺技の名前も決めないと......ディバイン空破断、アクセル断空拳。 いいですねぇ」
陛下とのコンビネーション技を想像して自分の世界に閉じこもったよこの覇王様。 しかも技名が酷い。 何故そのままくっ付けたし。 誤解は......無理だハイテンション過ぎて今は解ける気がしないよ。 待ち合わせしてる陛下たちも来ないし、これは完全にベルカ聖書の迷える子羊だ。 聖書によれば迷える子羊は聖王女オリヴィエ・ゼーゲブレヒト陛下に救われるらしい。 つまり、
「イゼットく〜ん! アインハルトさ〜ん!」
絶望の淵にいる子羊を救うのは陛下。 ハッキリ分かるね。
「ヴィヴィオ待って〜......は、早いってばぁ」
「アインハルトさん、ラスボス先輩、お待たせでーす!」
急ぎ足の二人を置いてきぼりにして猛ダッシュで迫る陛下に鎧を解き突進に身構えたが、予想に反して陛下は一メートル手前でピタリと停止した。 周りをキョロキョロと見回し、一言。
「......わたし、空気の読める子」
ちゃんと周りの状況を把握して行動する陛下は空気を読める良い子の鏡。 テンションが空回り、いつものようにいかなくてちょっと照れて顔を赤くしてる。 照れると口数が少なくなる陛下も素敵です。
「コンビネーションも確かにいいんですが、こう......私も純粋に専用の横文字技が欲しいんですよ。ディバインバスターとかカイゼルブリンガーとか。 別に覇王流の技のネーミングセンスはいいと思いますよ? 大好きです。 でもどんな事にもちょっとしたスパイスが必要なんです。 ですから皆さんの意見をプリーズ」
「春光拳に横文字の技はありませんから難しいですねぇ......あ、コロナならいい意見持ってますよ! たぶん」
「わ、わたし!?......えっと、うーんと......無難にエクスカリバー、とか?」
「それはミウラさんの技で———あいたっ」
「ミウラのアレはエクスカリバーじゃなくて”抜剣”だって言ってるでしょうが」
陛下を愛でいたところ、アインハルトがまたミウラの技名を間違えていたので軽くチョップを入れる。 かれこれ半年ほどこの名前で固定されてしまっている。 何度訂正しても直す気配も見せないのは何か意地でもあるのか。
先ほどから名前の出るエクスカリバー......ではなく正式名称”抜剣”の使い手ミウラ・リナルディはボクらと同級生女の子。 ザンクトヒルデとは別の私立学校に通う八神司令の守護騎士メンバーが指導する格闘教室、通称、八神道場の門下生だ。
その小さな身体からは想像もつかない重爆のあるインファイトを得意とし、切り札の打撃系集束魔法”抜剣”はあのアインハルトを四十メートルほどノーバウンドで吹き飛ばす威力を持つ。 凄い女の子だ。 馬力が違いますよ。
そのミウラも今回の合宿参加するから一旦初等科チームと合流して、次元港への集合時間を決めて僕とアインハルトの中等科チームはミウラを迎えに行くという予定になっている。 宿泊分の荷物も早々に八神家へポイしたままだ。 早く取りに行かないと八神司令が変な物を荷物に混入しかねない。
出来るだけ大きな音を出すよう手を叩きメンバーの注目を集める。 時間をかけると話の脱線が無限ループするので要点だけを纏め話し合う。
真面目にすれば優秀な人間の集まり。 一分も経たないうちに集合時間は一時、オヤツは飴のみと話が纏まった。
「それじゃ、僕らはミウラを迎えに行くからまた後で合流ね」
「うん、ばいばーい!」
「また後で〜!」
「......」
元気にブンブン手を振る陛下とリオの横でコロナがこちらを見ている。 目を凝らしてみれば手に何か持っているのが分かった。
......もしかして成績表?
成績表を持つ手の人差し指がある一点を指していた。 中等科とは科目数が違うため何の科目を指しているのかハッキリと判断出来ない。 だが、たぶんあの科目だろう。
「ぶいっ!」
実技試験。 どうやら納得いく結果だったらしい。
◆
学院からほど近い駅から下校する生徒たちで混雑するレールウェイに十五分ほど押し込められ、降りた駅から徒歩で約十分。 海沿いに一際目立つ家屋が見えた。 八神家だ。
海上警備部捜査司令官の住む家には相応しいビックサイズ。 家族の多さを考慮しても過剰な大きさと思える八神家はしばしば同僚たちとのパーティ会場になってるとか。
八神家の前の砂浜にはちらほらと歳の近そうな子供たちがいた。 八神道場の門下生だろう。 長剣片手に指導しているピンク髪のポニーテルと側で腕を組みジッと門下生を見ている白髪のゴツい男性の二人が主な指導者だ。
「シグナムさん、ザフィーラさん、こんにちは」
「むっ......おお、シルトにストラトスか。 久しぶりだな」
「ザフィーラさん、組手しましょう組手」
「......お前は相変わらずだな」
烈火の将シグナム、盾の守護獣ザフィーラ。 二人は守護騎士と呼ばれる人はまた違った一風変わった存在だ。 まあそこを気にする人はあまりいないので説明は省く。 敢えて言うなら夜天の魔導書の優秀さに脱帽。
「荷物とミウラを取りに来たんですけど、ミウラの姿が......」
「ミウラならさっきシャワーを借りると家の中に入って行ったぞ。 汗臭い状態でお前たちに会いたくなとな」
「わざわざマメな人ですねぇ......」
「女は身嗜みに気をつかうものだ。 ......どれ、ミウラが来るまで私たちも一つ手合わせをしようか」
爽やかな笑顔、キラリと太陽の光で輝く白い歯、ギラリと鈍い銀色に輝く魔剣レヴァンティン。
......レヴァンティン......?
「僕は八神司令に近いタイプの魔導師ですよ! 近接戦闘なんて基本想定してませんからね!?」
「なあに、アインハルトとよく拳を交えているなら私との手合わせなど容易いだろう......ほら、アレとやっているのだろ?」
シグナムの向ける視線の先には、衝撃波で砂塵を巻き上げながらザフィーラと組手をしているアインハルトの姿があった。 一発の攻撃毎に金属同士を叩きつけているかのような轟音が鳴り響いている。 剛の盾と剛の拳。 互いに一歩も引かず一心不乱に拳を振るう様はまさに武人と呼ぶに相応しい。
シグナムはこれに耐えれるなら私の剣にも耐えれる、とでも言いたそうにこちらを凝視してくる。
その瞳に宿るのは闘志、闘志、闘志、闘志、闘志......、
「お断りしますッ!!」
何で闘志しかないんだこの人。
「むぅ......そんなに嫌なら仕方ないな。 よし、ならばストラトスに」
「す、すみませ〜ん!!」
八神家から聞こえてきた明るくよく通る声にみんなの視線が声の主に集まる。 余所見をしたアインハルトがザフィーラの拳をモロに喰らい宙を舞ったが、あの程度ではダメージにもならないのでまずは声の主の正体を確かめる......までも無いかな。
足の長さを強調するデニムにミッド語がプリントされた水色のシャツの上に羽織っているのは白いカーディガン。 癖っ毛のある鮮やかなピンク色の髪をピンで留め、吹けば飛んで行きそうな雰囲気を漂わせる少女——ミウラ・リナルディは危なっかしいスピードで砂浜への階段を駆け降りる。
あ、転けた。
「......ミウラ大丈夫?」
「ふぁ、ふぁいっ! 大丈夫れすよっ!!」
全然大丈夫そうじゃない。 額と鼻頭が擦り剥けて赤くなってて今にも涙が溢れそうになってる。
見てて痛々しいので簡単な治癒魔法を発動させて痛み止めの処置を施す。 あまり使う機会に恵まれない魔法でも、いざとなったら使えた方が便利なので習得はしておいた。 そして今役に立った。
「あ、ありがとうございますイゼットさん。 ボク、ほんとおっちょこちょいでみなさんに迷惑ばかりかけてますよね......」
「気にしないでよ。 アインハルトの暴走に比べたらミウラのおっちょこちょいなんて可愛いものだよ」
「失礼な。 私は暴走してもイゼットにしか迷惑をかけない仕組みになるよう努力というのに」
「のわっ!?」
「うひゃぁっ! あ、アインハルトさん!? 何で砂の中から!?」
突如、僕とミウラの中間に位置する砂の中からアインハルトが上半身だけを出して反論した。 反論内容より砂の中から飛び出てきたインパクト強すぎて内容が全く頭に入らない。
「ザフィーラさんの拳を受けて頭から砂に突っ込んだ時にピンと来たんですよ。 もしかしてやられたフリして地面を潜って背後から奇襲したら強いのでは? とね」
「で、強そうなの?」
「弱いでしょうね。 身体が抜けなくなったのが何よりの証拠です」
遠回しに助けろ、と言うので両腕を掴んで思い切り引き上げる。 外部から力を加えると案外簡単に抜けた。
砂の中から抜け出したアインハルトは無言で服に付いた砂を払い、こほん、と一つ咳払いをして、
「メンバーも揃いました。 次元港に参りましょうか」
何事も無かった事にした。
後書き
合宿メンバー(子供)はこんな感じでオリジナルなメンバーでいきます。 模擬戦は気合い入れて書かないといけないね!
次回→たぶん遅い
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