黒魔術師松本沙耶香 紫蝶篇
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23部分:第二十三章
第二十三章
そのカードが十二枚で円を作りその中央に最後の一枚が舞い降りた。速水はまずは西の方角にあるカードを手に取った。
このホロスコープの占いは一つの決まりがある。一枚目が西にありそこから逆時計回りに一枚ずつ進み西北西のカードを十二枚目とする。そして中央に十三枚目を置きそれが最終的なカードとなるのである。
一枚目は強くなってくる性格的な面や運気を現わす。
二枚目は金運である。
三枚目は兄弟運や周囲の関係である。
四枚目は家族運だ。
五枚目は恋愛運等他人との関係や趣味に関するものだ。
六枚目は健康運やしなければならないことになる。
七枚目は協力者や伴侶である。
八枚目は他の者から貰うものを現わす。
九枚目は学問や知性的な面を示す。
十枚目は仕事運、目上の人物の関係である。
十一枚目は友情運。
十二枚目は本人が気付いていない問題や敵である。
十三枚目が最も重要になる。ここに全体的な最後の判断が委ねられるのである。
こうしたふうにケルト十字とはまた違った占い方である。彼はそれをあえて使ったのである。
「これを使ってみましたが」
「関係なさそうな場所もあるわね」
「ですがこれを使ったのには理由があるのです」
しかし速水はこう述べる。
「おわかりでしょうか」
「ではそれを見せてもらうわ」
沙耶香は彼の言葉を受けて言う。その目に深い知性と洞察を含ませながら。
「どういったものか」
「はい、それでは」
速水はカードを開きはじめた。
一枚目は女帝であった。二人はそれを見てまずは納得したのであった。
「これはわかるわね」
「そうですね。あの方らしいです」
女性的な英知や実りを現わす。これは依子が少なくとも英知を備えており魔力が大きくなろうとしていることであった。体調面でも整ってきており力がみなぎっているということであった。
続いて二枚目。そこにあったのは星であった。輝かしい未来を指し示す。つまり彼女は金銭には困っていないということである。だがこの場合は同時に才能という財産にも困っていないということであった。ここでも彼女も絶大な魔力が現わされている。
「続けてこれが出ましたか」
「私に出ればいいのに」
「何、悲観されることはありません」
速水はそう彼に述べる。
「貴女もこういったものには困っていないではないですか」
「それもそうね。では気にしないでおくわ」
「そういうことで」
すっと目を細めて述べる。それから三枚目を裏返した。
出たのは塔の逆であった。破滅である。これはそもそも彼女が他人を関係ある存在としない為言うまでもないことであった。
四枚目は死神だ。既に家族であり師匠でもあった祖母はいない。これも当然であった。
五枚目。出て来たのは悪魔であった。沙耶香と同じく背徳の罪を楽しむ彼女を示すカードであった。悪魔のカードは誘惑や危険な恋、弄ぶことを現わすのである。
六枚目に出たのは力。あくまで自らの欲望と願望を目指す彼女の心を現わしていると言えた。即ち彼女がしなければならないことはその力で己の欲する全てを掴むということである。
「ああ見えて頑固だからね」
「全くです。しかしこのカードはまた」
「相変わらず見事に現わしているわね」
沙耶香は述べる。
「完璧に彼女よ」
「そうですね。そして七枚目は」
出て来たのは運命の輪の逆であった。不安定に悪い方向、人付き合いなぞ必要としない彼女にとってこれも当然であった。
八枚目は魔術師。そのままであった。ただし彼女にとっては貰うのではなく奪うものである。その為の蝶達であるからだ。
九枚目は女教皇。今彼女は冴え渡り強くなっているということだ。女教皇は包容力や洞察、閃きを現わす。彼女にとっては洞察に閃きであった。あの青い目はまさにそれであるのだ。
十枚目は仕事運、即ち魔術師としての彼女そのものだがこれもまた今の彼女そのものであった。出たのは皇帝であった。絶大な力を持って君臨する皇帝の如き強さを示す、彼女の今であった。
十一枚目は審判の逆であった。簡単に言うならば今までの行いに対しての審判である。それが逆に出たということは彼女にとっては別に関係はない。これも友人というものがない彼女だからである。だからこれは最初からそんなものはないということである。
十二枚目だが面白いものが出た。彼女、即ち依子が気付いていない敵。それに戦車の逆が出たのだ。
このカードはまさに正反対になる。正ならば勝利、逆ならば敗北であった。沙耶香はふとそれを見て気付いたことがあった。
「あの蝶ね」
「蝶?」
「その話しは後でね」
すぐには答えずに今は伏せておいた。
「それでいいわね」
「わかりました。それでは」
「ええ。いよいよ最後ね」
鍵である真ん中のカードだ。今それが開かれた。
出たのは隠者であった。そのカードを見て沙耶香はまずは眉を顰めさせた。
「隠者」
「成程」
しかし速水はそのカードを見てニヤリと笑った。まるで何かを感じたかのようにだ。
「隠れていますか」
「どういうことかしら」
「いえ、今の彼女ですよ」
その隠者のカードを右手に持ちながら沙耶香に述べる。
「隠者なのです」
「隠れているということね」
「はい。今彼女はこのマドリードにいてマドリードにはいません」
「どういうことかしら」
沙耶香はその言葉を受けて考える顔を見せてきた。
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