| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

僕のサーヴァントは魔力が「EX」です。

作者:小狗丸
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

平和時行という男

~青野北斗side~

「はぁ!? ダン・ブラックモアのサーヴァントに毒矢で射たれたぁ!?」

 聖杯戦争二回戦、三日目の朝。屋上にいた遠坂凛に昨日の出来事を話したら、目を思いっきり見開いて驚かれた。

「ああ。昨日学園を歩いていたらサーヴァント……多分アーチャーだと思うけど、それに突然襲われたんだ」

 今も驚いている凛に話ながら昨日の出来事を思い出す。

 戦闘訓練でもしようかとアリーナに向かっていた途中で俺とキャスターはダン・ブラックモアのサーヴァント、アーチャーの刺すような殺気を感じてアリーナへと逃げた。しかしそれはアーチャーも予想済みだったらしく、まんまと敵のサーヴァントの罠にはまった俺は二の腕を毒矢で射たれて危うく死にそうになったのだ。

「試合前に対戦相手を殺そうとするだなんて……。まさかあのダン・ブラックモアがそんな事をするだなんて思わなかったわ」

「いや、ダン・ブラックモアもアーチャーの行動は知らなかったみたいなんだ」

「え? どういうこと?」

 何かを考える凛に訂正をいれる。

「昨日の襲撃の後、何とか助かってマイルームに戻ろうとした時にダン・ブラックモアが現れたんだ。彼は『アーチャーの行動は自分も予想外だった』って言って謝ると、令呪を使ってアーチャーに『試合以外での攻撃を禁止する』っていう命令を出したんだ」

 サーヴァントに対する絶対命令権である令呪を使えるのは三回まで。そのうちの一回を自分達の不利にしかならない命令に使ったことから、ダン・ブラックモアは本当にアーチャーの行動を知らなくて、後悔しているのが分かる。

 それは目の前にいる凛も同じで、彼女は少し考えてから口を開く。

「……そう。少しサービスが良すぎる気もするけど元々は自業自得だし、ダン・ブラックモアも自分勝手なサーヴァントと組まされて大変みたいね。……それはそうと青野君? 今更だけど貴方、よく助かったわね? 普通、サーヴァントに毒矢なんかで射たれたら助からないわよ?」

「ああ……、アリーナを出た時に偶然時行が近くを通りがかっていて、助けてくれたんだ」

「平和君が近くにいたの?」

 納得できないという顔で俺を見ていた凛だったが、時行の名前を口にした途端に逆の表情に変わった。

「なるほどね。確かに平和君だったらサーヴァントの毒も解毒できるでしょうし、目の前で死にそうな顔をしているのがいたら、それがいつか敵になるかもしれないマスターでも助けるわね」

 うんうん、と頷きながら言う凛。その彼女の表情と言葉からは明らかな親愛の情のようなものが感じられた。そういえば二人って月に来る前からの知り合いなんだっけ?

 平和時行。

 この聖杯戦争が始まった時から俺の様子を気にかけてくれて、昨日は命を助けてくれた魔術師。……考えてみれば俺は彼のことを何も知らないんだな。

「なあ、凛? 時行って地上にいた頃は一体どんなことをしていたんだ?」

「あら、青野君? 平和君のことが気になるの?」

「ああ、教えてくれないか?」

「……そうね。昨日のような事があったら気にもなるわよね。いいわ、教えてあげる。地上にいた頃の平和君はね、NGO団体に所属していた医師だったの」

「医師!? 時行が!?」

 時行の事が気になって凛に聞いてみた俺は、彼女の口から聞かされた意外な事実に思わず大声を上げた。

(あら~。人って見かけによらないですね)

 耳元で霊体化したキャスターの声が聞こえてきたが俺も同意見だ。医師って時行の奴、俺と同い年くらいだろ?

「正確には医師のスキルを持った魔術師ね。『心霊治療』って言って、平和君はネットワークを介して患者の魂に回復魔術を行うことで病や毒、敵の魔術師によってかけられた悪性プログラム……いわゆる呪いを浄化することを得意とする魔術師なの。実際に彼は今までに何人もの通常の手術では助けられなかった患者達を心霊治療で救ってきたわ」

 病や毒、呪いを浄化することを得意とする魔術師。だからサーヴァントの毒を浄化できたのか。

 思い返してみたら初めて会った時も俺の体調を気遣ってくれていたな。それも時行が医師だったからか。……あれ? だとしたら……。

「なあ、凛? 時行はどうしてこの聖杯戦争に参加したんだ?」

 話を聞く限り、時行はこんな戦いに参加するような人間とは思えない。それは凛も同じようで彼女も首を傾げる。

「……さあ、何故かしら? 正直、ここで平和君を見たときは私も『何で?』と思ったわ。彼ってば魔術師にしては我欲が薄くて、こんな戦いとは無縁だと思っていたからね。まあ、聖杯戦争に参加した以上何か目的があるんでしょうけど、平和君のことだから周りに迷惑のかからない無害な願いなんでしょうね」

 時行の願い事か……。一体何なんだろうな?



~アヴェンジャーside~

「む、ムーンセルの機能を全て自分のものにする……?」

 マイルームで私はマスターである魔術師、平和時行がこの聖杯戦争に参加した理由を聞いて思わず呟いた。

「そうだ。変だと思うか?」

「いや、変っていうか……。その、ええ~?」

 昨日、あのムカつく狐耳のキャスターのマスター、青野北斗を治療した自分のマスター、平和時行の姿を見た私は今日、戦闘訓練をお休みしてマスターの事を色々と教えてもらった。

 そして私はマスターが地上では凄腕の魔術師のお医者さんで、聖杯戦争に参加した理由も聞いたのだが、まさかそんな大それた目的をもっていたとは思わなかった。ムーンセルの力を使って自分の願い事を叶えようとする魔術師はよく知っている……というか聖杯戦争に参加している魔術師は皆そうだけど、ムーンセルの機能を全て自分のものにしようだなんて考える魔術師は私は聞いたことがない。

「僕の目的が変だって顔に書いてあるぞ、アヴェンジャー? ……でも別にいいよ。誰が何と言おうと僕は必ずこの聖杯戦争に勝ってムーンセルの機能を全て自分のものにし『全能の魔術師』になるんだ」

 そう言い切ったマスターの表情は本気で、私は何故マスターがそんな願いを懐いたのか気になった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧