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僕のサーヴァントは魔力が「EX」です。

作者:小狗丸
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初めて見る表情

「はぁ……。今日はもう夕食を食べて休もう……」

 図書館で調べものをしてバーサーカーの真名が分かったのはいいが、その結果として対戦相手の強さを知って絶望的な気分となった僕は食堂に向かっていた。

 今日はこれ以上考えてもいい考えは浮かびそうもないし、こんな時は早めの夕食を食べて休むことで気分を一新するに限る。

「まだ激辛麻婆豆腐、残っているかな?」

(あれを食べるのはマスターくらいだから残っているんじゃないの? というかいい加減別の料理を食べたらどう?)

 僕の呟きに霊体化しているアヴェンジャーが答えてくれる。

 そうか激辛麻婆豆腐はまだ残っている可能性は高いか。じゃあ早く食堂に行かないとな。……ん?

「……ター! しっかりしてください! マスター!」

 一階の廊下を歩いていると聞き覚えのある声が聞こえてきたのでそちらを見ると、そこにはキャスターが自分のマスターである北斗に肩をかして必死に呼びかけていた。

「うう……」

 キャスターの肩をかりている北斗は今にも死んでしまいそうな青ざめた顔を、僕が今日までの人生で最も多く見ていて同時に最も見たくない顔をしていて、それを見た瞬間僕は……。

「北斗ぉ!?」

 思わず大声で叫んでサーヴァントの肩をかりた瀕死の魔術師の元に駆け出した。



~アヴェンジャーside~

 私は自分のマスターである魔術師、平和時行のことをあまり知らない。

 でもそれは仕方がないことだと思う。何せ私とマスターは出会ってまだ九日しか経っていないし、今は聖杯戦争の最中で互いを知り合うための話し合いをするための時間なんてなかったのだから。

 そのせいか私はあんなマスターの表情を見たのは初めてだった。

「北斗ぉ!?」

 キャスターの肩をかりている青い顔をした北斗を見た途端、必死な表情となって彼の元に駆け出すマスター。その表情は一回戦のランサーとの戦いでも見たことがなかった。

「そいつをかせ!」

「ちょっと! 何なんですか貴方は!? マスターに触らないで……」

「北斗が死んでもいいのか!?」

「………っ!?」

 北斗の体に触れようとするマスターに抗議をしようとするキャスターだったが、マスターの怒声に気圧されてしまう。

「全く……本当に何なんですか、この人は……?」

 マスターに気圧されてしまったキャスターは、渋々と北斗をマスターに渡しながら小声で呟く。うん。その意見は私も同じ意見だ。

「悪いな北斗。上着を脱がせるぞ。……これは」

 ぐったりとした北斗を床に座らせから上着を脱がせたマスターは、彼の左の二の腕にある小さな傷口を見つけて目を細める。

「……アリーナのエネミーの仕業じゃないな。キャスター、北斗はお前達の敵マスターかサーヴァントの攻撃を受けたのか?」

「え? あっ、はい。緑ぃの……じゃなかった、敵のサーヴァントの……」

「毒矢か毒のついた刃物で傷つけられたんだろ? 分かっている……僕の『専門分野』だ」

 さっきのマスターの質問は単なる確認だったのだろう。キャスターの言葉を途中で遮ったマスターは、北斗の傷口についた血を自分の指につけて舐めて……って!?

「マスター!?」

「貴方!? 一体何を!?」

 私とキャスターが驚きの声をあげたのは同時だった。

 マスターは今さっき、北斗は毒に侵されていると自分で言った。それなのに毒に汚染された血を舐めるだなんて何を考えているの!?

「……ぐっ! こ、これは……自然界の毒を魔術で強化したものか……」

 毒に汚染された北斗の血を舐めたせいで自分も毒に侵されたマスターは、顔中に脂汗を浮かべて苦しそうに呼吸を乱しながらも冷静に毒の性質を分析していくんだけど……どうなってるの? 何でサーヴァントの毒を自分から口にしてそんなに冷静でいられるの?

「毒性を強化した魔術はケルト神話系の魔術……ドルイドの神秘で、原型となったのはイチイの毒、か。……よかった。この程度の『凶悪なだけ』の単純な毒だったらすぐに解毒ができる」

 顔色が北斗と同じくらい青くなっていても、それでもマスターは不敵な笑みを浮かべるとその口を高速で動かした。

「ーーー。 ーーー。 ーーー。」

 マスターの口から紡がれるのは、あまりの早さでもはや人間の耳では聞き取れない音となった「呪文」だった。

 コードキャスト。

 今のマスターの体、魔術師がこの電脳空間で活動するための第二の体に記録された、この世界に「奇跡」を顕現させるためのプログラム。

 マスターの体に電気回路のような光の筋道、「魔術回路」が浮かび上がって魔力を産み出し、それとほとんど同時に呪文の詠唱も完了して現代の魔術師の魔術、コードキャストが発動する。

「【recover();】!」

 コードキャストが発動した瞬間、マスターと北斗の体が一瞬光に包まれ、光が収まると二人の顔色は元の血色に戻っていた。……よかった。あの様子を見ると解毒は無事に完了したみたい。それによく見ると北斗の二の腕にあった傷口もなくなっている。

「……あ、あれ? と、時行……?」

「ああ、そうだよ。無事でよかった」

 解毒が完了して意識がはっきりした北斗にマスターは優しい笑顔を浮かべて頷いた。

 その笑顔を見れば北斗が無事に助かったことを心から喜んでいるのが分かり、それは私が初めて見るマスターの表情だった。 
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