戦国村正遊憂記
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第壱章
壱……妖孽血刀
辺りを見回すと、そこはどうやら戦の陣中らしかった。
どういう事なのかを家康に聞くと「戦いの最中に刃が折れ、陣中に持ち帰り、陣に入ると同時に妖術師風の男が現れて人の形にして消える様に去って行った」らしい。全くもって理解不能だ。
僕は自らの両の手のひらを見た。柔らかそうな、白い人間の手だった。爪は紫に染められ、とても綺麗だ。
「ところで、僕の刃は? 僕の血吸い刃は何処に行ったんだ?」
血吸い刃とは、僕の刀身の呼び名。僕が勝手にそう名付けた。
「それだが……『妖孽血刀(ヨウゲツケットウ)』と言ってみてくれ」
「妖孽血刀」……その言葉に、どういう訳か僕の心臓を鷲掴みにされる様な感覚を覚えた。
言われた通り、言ってみることにした。
「……『妖孽血刀』」
それは、一瞬の事だった。
僕は左手に違和感を感じ、目の前にかざしてみた。すると。
「……うわっ!?」
淡い紫に光ったと思えば、そこには白い人の手はなく、僅かに血に染まった刃があった。見まごうはずもない。これは、僕の刀身。何人もの心臓を抉り、その血を吸ってきた刀身。
「えっ、これは……」
「妖術師がそう言い残して去って行ったんだ。『妖孽血刀が、その者を目覚めさせる』と」
「妖孽血刀……あっ」
また、刀身が人の手に戻った。
何かの呪文なのだろうか? そして……僕を人間にした妖術師は何者なのだろう。
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