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戦国村正遊憂記

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序章
  世ニ現ルハ妖孽血刀

そっと、目を開く。人の形をとって「生きる」のは初めての事なので、僕は少しだけ不安だった。
でも、そんな不安より、早く人の血が欲しい。
試しに自分の右手をかじり、滲んできた血を舐めてみる。……が、まずい。「生」の味がせず、まるで、鉄の匂いのどろりとした液体でも飲み下した様な気分。

「村正?」

誰かが、僕の名を呼ぶ。
何回も、何回も、まるで友の様に。

「何、だ」
「おお、目覚めたか!」

気だるさを前面に押し出した様な返事だったが、その親しげな声は嬉々として弾む。
それは、徳川家康の声。聞きなれた声だ。
僕は家康の所有物だった。「妖刀」という大層な肩書きを貰い、沢山の人を斬り、その血を吸ってきた。

それが何故人となったのか……僕は何一つとして、覚えていなかった。 
 

 
後書き
妖孽血刀(ヨウゲツケットウ)は、「妖孽(ヨウゲツ)」と「血刀(チガタナ)」を組み合わせた創作四字熟語です。
「妖孽」はあやしい災い不吉なことが起こる前ぶれを意味しています。

災いの前ぶれを告げる血刀……妖孽血刀にはそんな意味を込めました。 
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