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黒魔術師松本沙耶香 仮面篇

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15部分:第十五章


第十五章

「こうして作るんだよ」
「ナイフで?」
「そうさ」
 笑ったまま沙耶香に答える。
「こうしてね。ほら」
 ナイフを投げた。下から上へ、一斉に投げる。
 それが沙耶香を狙っているのは言うまでもない。彼女は宙に浮かんだまま霧の様に静かに動きそのナイフ達をかわす。だがそれが本題でないことはもうわかっていた。
「さて、かわしたけれど」
「次はこうするのさ」
 道化師は今度は木の葉を一枚出す。それを上に投げた。
 木の葉はヒラヒラと上に舞う。道化師はそれを見つつ跳んだ。
「!?」
「こういうやり方もあるのさ」
 何と木の葉を踏み台にしたのだ。そうして跳んで次はまだ空を舞っているナイフ達を踏み台にする。そうして跳躍しながら沙耶香に襲い掛かってきたのだ。
「やるわね。いえ」
 沙耶香は咄嗟に言葉を変えた。攻撃をかわしながら。
「そう来るとはね」
「意外なんでものじゃないよね」
 ナイフを投げさらに跳ぶ。空中において無数のナイフが舞うがそこを跳び回るのだった。闇の中に無数の白銀が舞う。それはまさに死の舞であった。
 当然そのナイフ達は沙耶香を襲う。そしてそれがかわされても道化師がそのナイフを踏み台にして沙耶香を襲うのだ。思いも寄らない攻撃であった。
「こう来るなんて」
「確かにね」
 沙耶香は空中で防戦一方であった。かわすのが精一杯であるように見えた。
「こんなのは流石にはじめてよ」
「じゃあもらうよ」
 道化師は声で笑いながら言ってきた。
「そのお面。これでコレクションがまた一つだね」
「残念だけれどそれはならないの」
 それをまた彼に告げる。
「何度やってもね」
「嫌だなあ、強がりは」
 道化師は沙耶香のその言葉をこうとらえた。
「そんなこと言っても実際に」
「それに私は押されてはいないわ」
 次にこう述べた。
「それもね。悪いけれど」
「じゃあ。今の状態は何なんだい?」
「簡単よ、遊んでいるの」
 それが沙耶香の答えであった。
「わからないのかしら」
「うん、そうは見えないね」
 またナイフを投げる。沙耶香の顔を狙っていたが彼女は首を右に捻ってそれをかわすのだった。
「今のだって」
「じゃあ。仕掛けてきて」
 沙耶香はそう挑発してみせた。
「そんなに気になるのなら。どう?」
「だからさ。言われなくたってそうするよ」
 声の笑みをさらに楽しそうにさせて述べてきた。
「その為に今ここにいるんだし」
「そうね。それじゃあ」
 不意に沙耶香の身体が動いた。すると。
「んっ!?」
「これならどうかしら」
 沙耶香の身体が宙に浮かんだまま幾つにもなった。分け身であった。
「分身、かな」
「そうよ」
 悠然とした笑みで言葉を返す。
「こうしたらどうかしら。といっても」
「そうさ、答えは決まっているよ」
 道化師も言う。そうしてさらに激しい攻撃を仕掛けるのであった。
「要はさ、全部狙えばいいんだよ」
 これが彼の答えであった。
「そうだよね。いる分だけね」
「そうよ」
 沙耶香自身もその言葉には頷く。
「その通りよ。けれど」
「それでもまだ余裕があるんだね」
「ええ。だって」
 闇の中で笑う。楽しげな笑みで。
「当たる筈がないから」
「それはどういうことかな」
「言ったままよ」
 道化師のナイフがここで襲う。しかし全てすり抜けてしまう。全員の沙耶香に当たったというのにその船員の沙耶香の身体をすり抜けてしまったのだ。
「んっ!?」
「これでわかったかしら」
 別の方から声がした。
「何故私に当たらないのか」
「おかしいけれど。トリックがあるね」
「ええ」
 また別の方から声がする。
「そうよ。さて、問題よ」
「問題?」
「私は何処にいるのかしら」
 道化師に対して問うた。
「果たして本当の私は。わかるかしら」
「そこにいるお姉さんは全部偽者」
 そうとしか思えなかった。なぜなら全てナイフをすり抜けたからだ。道化師は落ちるナイフとナイフを踏み台にして宙を舞う。時には木の葉を投げてそれも踏み台にしていた。この世の者とは到底思えない不可思議な動きを見せていた。
 
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