ゲリラ
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1部分:第一章
第一章
ゲリラ
ナポレオンの勢いは止まるところを知らなかった。
オーストリアもプロイセンも破り遂にはスペインにまで攻め込んだ。それを聞いてだった。
ナポレオンと敵対し続けるイギリスは狼狽した。慌てふためいていたと言っても過言ではない。
「このままジブラルタルまで取られてはだ」
「地中海を失う」
「それだけではないぞ」
「スペインまであの男の手に入れば」
どうなるか。想像するまでもなかった。
「只でさえ破竹の勢いだというのに」
「ネーデルラントはもう奴の手に落ちた」
「スウェーデンにはフランスの将軍が王として入るらしい」
「神聖ローマ帝国も解体された」
「プロイセンもかなり痛めつけられた」
そしてここでスペインまでというとだ。最早フランス、そしてナポレオンを抑えることなぞできないようになってしまうのではないかと危惧しだしたのだ。
それでだ。彼等はあることに目をつけたのだった。
「そういえばスペインでは保守派が強かったな」
「そうだ、カトリックがな」
「ナポレオンはジャコバンの男だな」
「ローマ教会とは和解したが基本的に仲が悪い」
「となるとだ」
その彼等を支援してナポレオンに対抗しようと考えたのである。それによってだった。
彼等はすぐにその保守派やナポレオンに敵対する勢力の援助をはじめた。制海権が彼等の手にあるのを利用してイギリスからスペインの港に物資を次々と運び込んでだ。彼等に武器や弾薬を手渡したのである。
その指揮にあたっている一人の将校がいた。赤いイギリス軍の軍服がよく似合っている。爽やかで落ち着いた顔は軍人というよりは聖職者のものだ。見事なブロンドに栗色の目の若い少尉だった。
コーネル=オーグル。彼は今スペインのその保守派に武器を渡していた。そのうえで彼等に対してスペイン語でこう話すのだった。
「それではです」
「はい」
「フランスに対してですね」
「思う存分戦って下さい」
こう彼等に話す。
「御願いしますね」
「わかっています。それではです」
「フランス軍を倒してそうして」
「スペインを取り戻します」
「そして我がイギリスは」
オーグルの言葉は切実なものだった。そこには曇ったものはなかった。
「貴方達を最後の最後まで援助しますので」
「はい、それではです」
「これからも武器と弾薬を御願いします」
ゲリラの指導者達もこう返す。
「その二つがあれば幾らでも戦えます」
「例え何があろうとも」
「しかし。貴方達は」
ここでだった。オーグルは話すのだった。
「戦場で戦われるのではないですね」
「はい、そうです」
「それはしません」
「私達はです」
彼等もそのことを否定した。
「戦場ではフランス軍には勝てませんから」
「彼等は戦場では無敵です」
「ですから村や町で、です」
「彼等に襲い掛かります」
「戦場で戦われない」
このことがだ。オーグルにとってはわからないものだった。それでいぶかしむ顔になってだ。そうして彼等に問うのであった。
「そうした戦いもあるのですか」
「私達も考えました」
「戦場では勝てないからです」
「ですから村や町で」
「彼等に攻撃を仕掛けます」
「それで戦争になるのですか」
まだわからないオーグルだった。
「そうした戦争が成り立ちますか」
生粋の軍人である彼にとっては戦場以外で戦うことは考えられなかった。だがそれでもゲリラ達に武器と弾薬を渡した。するとだった。
彼等はそれを使いだ。町に詰めていたり村を歩いているフランス軍に対して横から、そして後ろから攻撃を仕掛けた。そして攻撃を仕掛ければ地の利を活かしてすぐに消える。そうしたことを繰り返したのだ。
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