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バフォメット

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4部分:第四章


第四章

「その通りです、教皇様」
「フランス王もそう言われるか」
「はい」 
 敬虔なふりをして教皇の言葉に頷く。
「やはり噂にあった通りですな」
「全く以って」
「噂!?一体何の」
「何が何なのか我等には」
「惚けても無駄だ。全てはわかっているのだ」
 しかし教皇は彼等の言葉を遮るようにして告げる。
「神の代理人である余の目は誤魔化せはせぬ」
「その通り。教皇様の御前にて虚言を並べ立てるとは許し難い」
「教皇様も陛下も」
「何を仰るのか」
 やはり彼等にはわかっていないのだった。何もかも。向こう側の悪意に。
「我等は神に仕えるテンプル騎士団」
「嘘も偽りも」
「では聞こう。山羊を知っておるか」
「山羊!?」
「そうだ」
 教皇は険しい顔を作って彼等に問うのだった。またしても。
「山羊を知っておろうな」
「無論です」
「山羊ならば」
 彼等は何が何なのかわからないままそれに応える。
「山羊の乳を飲みますし」
「その肉も食しますが」
「それこそが何よりの証拠だ」
「何を証拠だと」
「山羊の乳も肉も誰もが食べるものでは」
「宴の場で食べるな」
 また彼等に問うてきた。
「そうだな。嘘偽りのわきように述べよ」
「それは確かに」
「その通りです」
 素直にそれを認める。宴の場において肉が出るのは普通である。だから彼等もそれに頷くのだ。しかしであった。教皇はその彼等に対してまだ言うのだ。
「宴で山羊を食べるのが何よりの証拠」
「やはり間違いはありませんでしたな」
 また教皇と王は言い合うのだった。
「異教徒共と付き合いその異端の教えに身を浸した」
「恐ろしい堕落と背徳の者達」
「我等が!?まさか」
「その様なことは」
 彼等はまだ何もわからないまま反論する。あまりにも話がわからず呆然とさえしている。
「ただ神の教えを守り」
「そうして生きていますが」
「嘘を申せ」
 教皇はまた己の言葉を険しいものにさせた。
「その様なことはない」
「そうは申されましても」
「我等は」
「黙れ!」
 王が彼等を一喝した。
「教皇の御前だぞ。控えよ」
「はっ、はい」
「これは失礼よ」
「やはりこれもまた異端の証拠ですな」
「全くです」
 今の反論もまた強引にそう決められてしまった。最早何でも言い掛かりでありそれをダシに彼等を追い詰めていた。だが彼等は気が動転しそれに気付かないのだ。
「異教徒の教えに染まり背徳を極めた者達」
「そして教皇様の御前に平然と姿を現わすその破廉恥さ」
 教皇と王は一方的に彼等を断罪する言葉を述べ続ける。
「その罪、許せぬ」
「兵達よ」
「ははっ」
 何処からか兵士達が姿を現わしてきた。騎士団の者達はこれを見てこれまでのやり取りに察しをつけた。そのうえで王と教皇に対して叫んだ。
「はかったか!」
「まさかとは思ったが」
「何のことか」
 だが王は白を切った。口の端を禍々しく歪めての笑みと共に。
「異端の者の言葉なぞ聞くに値せぬ」
「フランス王の言われる通り」
「黙れ、王の傀儡が!」
「貴様には言われたくはない!」
「言ったな」
 今の教皇への侮辱に応えたのは本人ではなかった。フランス王だった。彼はその禍々しい笑みをそのままにまた言う。騎士団の者達に対して。
「教皇様を罵倒するなぞ異端の証拠」
「やはり許してはおけぬ」
「許さぬとすれば何なのだ」
「言ってみよ」
「捕らえよ」
 王が悪魔の顔で兵士達に指示を出した。
「そのまま連れて行け。よいな」
「はっ、それでは」
「その様に」
「おのれ、フィリップよ!」
「クレメンスよ!」
 激昂した騎士団の者達は左右から掴まれ動けなくなりながらも彼等の名を叫ぶ。
「例え我等に何をしようとも!」
「我等は何も言わぬぞ!」
「そうか。ならば無理にでも言わせるまで」
 地獄の底から出て来たような顔だった。陰惨な顔色になり悪魔の笑みはそのままで。目は赤く輝いている。王も教皇も同じ顔になっていた。
 
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