八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三十九話 空手の型その五
「そうさせてもらいます」
「それまで勝ち残るわね」
「午前中の試合をですか」
「全部勝ってね」
日菜子さんも約束してくれた、僕に笑顔で。
「待ってるからね」
「あっ、僕をですか」
「そう、待ってるから」
とても明るい笑顔での言葉だった。
「義和君をね」
「それじゃあ」
僕も日菜子さんの言葉、それに笑顔を受けてだった。そうしてだった。日菜子さんにあらためて約束をした。
「絶対に行きます」
「待ってるからね」
「はい、じゃあ」
「それじゃあ今朝はね」
ここでだ、日菜子さんは御飯を食べ終えるとだった、お箸を置いた。
そうしてだった、こう言った。
「これでね」
「御飯一膳ですか」
「お味噌汁は一杯でね。おかずは食べたから」
「それで、ですか」
「試合の時は朝とお昼はあまり食べないの」
日菜子さんはいつも朝御飯を三杯食べる、けれど今日は一杯にしておくというのだ。
「動きが鈍くなるから」
「だからですか」
「そう、これでね」
「終わって、ですか」
「お昼もあまり食べないの」
その時もというのだ。
「食べ過ぎない様にしてるの」
「ううん、真剣勝負ですね」
「ええ、そうよ」
「それはいいことです」
留美さんがここでこうしたことを言った。
「合戦前の武士も戦の前は然程食べなかったそうです」
「動きが鈍くなるから?」
「いえ、戦に負け敵の手にかかるよりはと腹を切ったり死して首を取られた時にですう」
随分とだ、生々しいことだった。留美さんが話したことは。
「胃の中や喉に米粒があってはということで」
「あまり食べなかったとのことです」
「それはまた凄い覚悟ね」
「私もそう思います」
「ええ、けれどね」
「その覚悟はですね」
「見事よ。試合の前にはね」
それこそとだ、日菜子さんは留美さんに話した。
「お腹一杯食べたいわよね」
「はい、感情的に」
「力も出るしね。食べると」
「しかし肝心の動きが」
「そう、鈍くなるから」
「食べなくてはなりませんが」
「それは少しよ」
食べてもだ、肝心の量をというのだ。
「セーブしてね」
「試合に挑まれますね」
「スピードとパワーが命だけれど」
空手の試合、それはというのだ。
「スピードは食べ過ぎると出ない」
「食べないとパワーが出ません」
「だから食べてもね」
「あまり食べないことですね」
「そうしているの、私もね」
「武士の様に」
「小学校までは一杯食べてたの」
試合前にもというのだ、日菜子さんも。
ページ上へ戻る