ダンジョンに転生者が来るのは間違っているだろうか
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オリヴァス・アクト
前書き
うまく書けてたらいあなぁ…。もしかしたら、無理矢理感あるかも。
「あれは……冒険者か? アイズはどうした」
「俺が知るかよ。けど、【万能者】がいるってことは【ヘルメス・ファミリア】ってことだろうよ」
「昨日お前が見たというのは、あいつらであっているのか?」
フィルヴィスさんが見据える先にいるのは白ずくめのカラカラと、例のローブの集団だ。昨日よりも数が減っているように見えるのは怪魔にでも殺られたのだろうか。
「あってるよ。それより、あそこの冒険者と合流しようぜ」
早速戦車を冒険者の方へ寄せると、ローガが先に降り、続いてフィルヴィスさんとレフィーヤが降りる。
先に降りていたローガは犬人の少女に詰め寄っていた。
「おいっ、アイズはここにいねえのか。答えろ」
「け、【剣姫】はさっきまで私達と一緒にいたんだけど……分断させられて」
「あぁ? 分断?」
話によると、ここに来る前の分かれ道の通路であの植物のモンスターから多方からの襲撃を受け、アイズが他の通路を対処している際に植物の壁によって分断させられたのだとか。
「って、お前……確か、レフィーヤ!?」
「えっ、ルルネさん!?」
どうやら、二人は面識があるようだ。
レフィーヤがルルネと呼ばれた犬人の少女のもとへ駆け寄った。
俺はその様子を横目に、パーティのリーダーである【万能者】、アスフィ・アル・アンドロメダのもとに歩み寄る。オラリオでは有名な『神秘』の発展アビリティをもつ魔道具製作者だ。
「【秘剣】……それに【凶狼】まで……いったいどうして」
「いやまぁ、目的としてはアイズを追ってここまで来たんだが……」
そう言って俺はチラリと殺気丸出しの相手を見る。
「なんか、バトるんだろうなぁ……」
あいつらと植物のモンスターなら問題ないが、厄介なのはもしあの寄生しているでっかいのが動き出したときだ。残念ながら、俺にあれを始末するだけの火力はない。
「侵入者どもを生きて帰すなァ!!」
向こうから怒声が飛んできた。ローブの色が一人だけ違うが、あれが頭目なのだろう。その声に大空洞にいるローブの集団が呼応した。獲物を掲げ、押し寄せてくる。
「おお、ヤル気満々だねぇ……」
「応戦します。こちらとしても彼等がここで何をしているのか、聞き出さなくてはいけませんからね。……【秘剣】、それで先行してもらっても構いませんか?」
「あんま二つ名で呼んでほしくないんだけどな。……任せろ。あいつら全員、蹴散らしてやらぁ!」
手綱を振るえば、二頭の神牛が雄叫びをあげて雷を纏って走り出す。
「景気よくいくぜぇ! 遥かなる蹂躙制覇ォォオオオ!!」
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオ!!!』
こちらへ突っ込んでくる集団に真正面から突進。雷をも纏う巨大な戦車は、文字通りローブの集団を蹂躙していく。
吹っ飛ばし、踏み潰し、焼いて、引き殺す。
「フハハハハハハハハハ!!」
武器を構えようがこの神威の車輪の前には無力! 槍だろうが剣だろうが関係ないとばかりに破壊し、突き進む。
雷や戦車の餌食になったものは片っ端から燃えているが、まぁいい。俺には関係ない!
「ALaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLa!!!」
集団を抜けた頃には生き残った奴は半数にまで減っていた。
だが、俺が目指すのはその先、カラカラ野郎!
「チッ、面倒な! やれ!」
突き進む戦車の前の地面が裂け、夥しい緑槍が打ち出される。
「無駄無駄ぁ!!」
だがそれも発せられた雷が焼き払う。
男は舌打ちと共にその場を離脱。間一髪といったところで戦車の突撃を避けた。やはり、一対一での使用は当てにくい。
男が避けた際に後ろを見れば、残った集団に【ヘルメス・ファミリア】の面々が応戦。そこから抜け出して、ローガとアンドロメダがこちらへと向かってきていた。どうやら、俺が突破した道を追走してきたようだった。
「こいつは任せるぞ!」
「はっ! わかってらぁ!!」
「任せてくださいっ!!」
戦車を旋回させ、男を二人に任せた俺は後方の交戦に合流すべく戦車を進ませた。
どうやら、【ヘルメス・ファミリア】の方が押しているようで、先程ルルネと呼ばれた少女が一人のローブを組伏せていた。
手に持った薬品か何かを使用しようとしているようだ。
こりゃ、俺要らんかもな。
戦車を進ませながら、そう考えたときだった。
「この命、イリスのもとにぃーーー!!」
何かに気づいたのかルルネという少女が後ろにとんだ。その直後、ローブの奴が爆砕した。
わけがわからない。
「自爆だと!?」
まさか、こいつら全員……!?
「ーー愚かなるこの身に祝福をぉ!!」
嫌な予感というのはよく当たるのか、周囲でも次々とローブの者達が自爆を行う。
どうやら、戦闘不能となった奴等が最後の手段として自爆しているようだった。
「こいつら、死兵か!?」
誰かが叫び声をあげる。
死兵。使命のために全てをなげうった者達。
最も性質の悪い、死を覚悟した一団。
「くそったれめ! 焼けぇ!!」
『ヴオオオオオ!!』
雷を放ち、【ヘルメス・ファミリア】の連中が犠牲になる前に焼いて自爆させる。負傷はするが、これで致命傷には至らないはずだ。
さっき俺が突っ込んだときに燃えたのはこれの発火装置が起動したからなのだろう。
「大丈夫か!?」
「ああ、助かった! こっちはもう大丈夫!」
虎人の青年がお礼の返事を返してくる。腕を少し焼かれたようだが、問題は無さそうだ。
その声を聞いた俺は直ぐ様戦車を動かし、ローガとアンドロメダの元に向かう。が、そこであの白ずくめの男の声が響いた。
「クッ!! 食人花!!」
その瞬間、大空洞のモンスターが一斉に首をもたげた。
統率されたように、沈黙を破って凄まじい勢いで行動を開始する。
見ていなかったが、この食料庫に続く通路口に黒檻が置かれていたようで、そこからモンスターの大群が蛇行して襲いかかる。
モンスターは先程の【ヘルメス・ファミリア】のもと、そして現在交戦中のローガとアンドロメダのもとまで向かっているようだ。
戦車の突進じゃ対応できないっ!!
そう判断した俺は素早く詠唱を紡ぎ、手元に一冊の本を召喚した。
「お前らぁ!! モンスターは全部まかせろぉ!!」
雄叫びとともに本を開く
「怪魔召喚っ!!」
魔力を消費し、魔法を行使する。
呼び出されたのは数えるのがバカらしくなるほどの怪魔の群れ。だが、昨日のよりも圧倒的に多い。呼び出した俺でさえゾッとするほどだ。
この場にいる全員が突然現れた怪魔に警戒の声をあげた。見た目モンスターだから仕方ない。
が、それらが植物モンスターを相手に動きだすと、【ヘルメス・ファミリア】の団員とローガ、アンドロメダはこちらを一瞥してから、再び戦闘に入った。
「レフィーヤ!! こっちは抑える! 一発でかいの頼んだぞ!!」
「は、はいっ!!」
奥で応戦していたレフィーヤが魔法の行使の準備に入った。
「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ】」
怪魔が食人花と呼ばれたモンスターの触手に触手で応戦し、俺の前方で戦う三者への介入を決して許さない。
個としての力は向こうにあるが、数とそして何より再生と増殖という能力を持った怪魔が有利だ。
「食人花!!」
戦況を覆そうとしたのか、男が更にモンスターを呼ぶ。
俺たちの遥か頭上、緑肉の天井に無数に存在する蕾が複数開花した。怪魔に負けず劣らずの醜悪な牙と口。真下に晒し、次々と落下してくる。
場所はローガの上!
「やらせるかぁ!」
怪魔に指示を出し、落下してくる食人花のモンスターを触手で縛り上げる。
身動きの取れない空中で体を拘束されたモンスターは怪魔によって別の場所へ投げ飛ばされた。
「冒険者めぇ!!!」
白ずくめの男の憎しみに満ちた声が響く。
「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】!!」
そして、レフィーヤの詠唱が完成した。
「ローガ! アンドロメダ! 退けぇ!!」
俺の声に反応した二人が白ずくめの男から一気に距離をとってレフィーヤのもとまで下がってきた。かくいう俺も本を消し、怪魔を消滅させると直ぐに引いた。
「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」
火炎の豪雨が降りそそぐ。
弧を描く大量の魔法弾は大空洞の五割もの空間を覆い、モンスター達をまとめて撃滅してのける。
「おお……ずっげぇなこれ…」
思わず声が漏れた。
広域攻撃魔法。俺の魔法とはことごとく相性の悪い魔法だ。戦車でも怪魔でも、下手すれば王の軍勢でもやられかねない。唯一の救いは、ランサーの対魔力Bのお陰で俺自身には効果が薄いということか
「【秘剣】、先程は足止め、助かりました。……それにしても、変わった魔法でしたね」
「教えねえよ? 君のとこの主神様にはなかなか油断ならないからな」
殲滅されていくモンスター達を見る。だが、話は続けられそうにない。
俺の視線の先、そこには無傷で立つ白ずくめの男。どうやら、ローブの集団は全員消えたようだった。
「俺とローガが出る。アンドロメダは自分のパーティに戻っといてくれ」
「では頼みます」
レフィーヤの魔法が終わる。俺はそのタイミングを見計らって、男の元に飛び出した。ローガも並走している。
「ローガ、あいつ、どうだった?」
「くっそ硬ぇ。俺の蹴りを生身で受けても効いちゃいねえ。それに、力だけなら癪だが、あっちが上だ」
なるほど、と俺は駆けながら肩の袋へと手を伸ばす。
取り出したのは二本の槍。破魔の紅薔薇と必滅の黄薔薇だ。今回は本気で殺しにかかる。
「……お前、刀じゃねえのか」
「生憎、これはちょいと特別でな。殺すとかはこのスタイルだ」
右手に紅槍、左手に黄槍。
ランサーであるディルムッド・オディナのバトルスタイルだ。
「おのれぇ……!! 冒険者めぇ……!!」
怒りでわなわなと震える男を前に武器を構える。初めに飛び出したのはローガだった。
「オラァッ!!」
「チィッ!!」
鎌のように放たれる上段蹴りを避ける男だったが、そこへ俺が紅槍をつき出した。
「なっ!?」
辛うじてそれもかわすがその間にローガが軸足を変えて回し蹴りを放つ。
「グゥッ!?」
しかし男はそれ。右腕でガード。
なるほど、ローガが硬いといったのは本当だったか。
第一級冒険者の攻撃は普通なら脅威とも言える一撃だ。俺だって生身で受けたくない。
それを防ぐその硬さはかなりのものか。
「どらっ!!」
ローガが飛び退いたのと同時に、大上段からの紅槍の降り下ろし。男めがけて放ったそれは腕を浅く斬るだけに終わり、地面を砕いた。
「しっかり狙え!」
「言われずともなぁ!」
だが、これは単なる囮。本命は俺の左手。
紅槍を避けたことで少し体勢の崩れていた男の胸に必滅の一撃を繰り出した。
男の目が見開かれ、防御のために、間に腕が入ってくる。
だが、それでも構わない。
先程までローガの蹴りを防いでいた腕を黄槍は容易く貫通。俺はそのまま槍を振り、男の腕を斬り落とした。
「グアッ!? 貴様ぁ!!」
「余所見すんじゃねぇぞ!!」
腕を斬り落とされたことで、怒りの目をこちらに向けた男。その隙にローガが男の背を蹴り飛ばす。
「がぁっ!?」
「フハハハ! いい様だぁ!!」
背を蹴られたことで退け反った男の体に槍の連撃を叩き込む。
「来いっ、撃て!!」
ローガが何か叫ぶ。一瞬後方に目を向けると、そこには魔法は放つ寸前のレフィーヤ。
何をする気だ?
疑問に思いつつも、攻撃は止めない。紅槍が腕を斬りつけ、黄槍が右足を貫く。
「【アルクス・レイ】!!」
光が弾け、大光閃が放たれた。
一直線に伸びる光の柱は男を狙うかのように思えた。
だが、直後。それは直角に折れ曲がった。
これには、男も、さすがの俺も驚いた。自動追尾の効果があるのか!?
そしてそれはローガのもとへ。
飛来してくる光の巨矢に、メタルブーツを叩きつけた。
「上出来だ」
メタルブーツが光を放つ。
一瞬で理解した。あれは、魔法を吸収して威力をあげる武器なのだと。
ローガの口端が吊り上がるのと同時に、俺も笑みを浮かべた。
「持ってけぇ!! 【凶狼】!!」
男に黄槍をぶっ刺し、遠心力を使ってローガの元に投げ飛ばした。
「死ね」
「っっ!?」
狙いすました最高速度の肉薄。
投げ飛ばされている男に回避する余地はなく、ローガは閃光の一撃を叩き込んだ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?」
魔法の威力とブーツの攻撃力の合わさった蹴撃が男に炸裂した。
防御もままならぬまま、男は巨星のごとき大光華に包み込まれ、凄まじい勢いで後方へと吹き飛んだ。
背中で緑肉の地面を削り取りながら勢いは止まらず、モンスターの死灰を巻き込み、巨大花寄生する大主柱の前で漸く止まった。
「やったのか……?」
「フィルヴィスさん、あかん。それ生存フラグや」
「お前が何言ってるのかわかんねえが、殺すつもりでブチ抜いてやったぞ」
今の一撃で効果をなくしたのか、ローガのブーツは元に戻っていた。
レフィーヤもあの男がどうなったのか気になるのか、視界を遮る灰の霧に視線を向けていた。
「ーーっ」
灰煙が途切れだす頃。
固唾を呑んで見守っていた者達の体が、揺れた。
煙の奥で影が浮かび上がり、ゆっくりと這い出てくる。
「化け物ですか……」
アンドロメダが目を眇めた。
白ずくめの男は全身をボロボロにしながらもちゃんと生きていた。
ローガの蹴りを受けた体の損傷は激しく、右腕は切り落とされ、その断面には焼き焦げた出血の跡が残っている。
戦闘服も破け、血肉を晒していた。
「……惜しかったが」
男の口が動いた
「『彼女』に愛された体が、この程度で朽ちるわけがない」
唇が避けんばかりに吊り上がった、その時。
男の傷口がゆっくりと塞がっていく。
「えーー」
レフィーヤの声が漏れた。
回復魔法が発動しているわけでもない。ということは、あれは自己再生か何かなのだろう。
体中からうっすらと立ち上る蒸気のようなものは『魔力』なのだろうか。
一同が声を失うなか、男が顔をあげた。
「なっ……」
フィルヴィスさんが声をあげた。みると、彼女は驚いたようにして、男の顔を見ていた。
「フィ、フィルヴィス、さん?」
「……どうして」
愕然と立ち尽くすフィルヴィスさんの雰囲気にレフィーヤが戸惑いの声を発した。
レフィーヤが見つめるなか、フィルヴィスさんの唇が動いた。
「オリヴァス・アクト……」
それが男の名前なのだろうか。ということは知り合いなのか?
俺が疑問を浮かべる中、その名を聞いた者達は目の色を変えた。
混乱がざわめきとなる。
「オリヴァス・アクトって……【白髪鬼】か!? 嘘だろう!?」
ルルネが悲鳴に近い声をあげて男の顔を何度も見た。
残念ながら、俺はその名前を知らない。聞いたことがない。俺が転生する前の人なのだろうか。
「だって、だって【白髪鬼】は……!?」
どうやら、状況に追い付いていないのは俺だけではないらしく、レフィーヤもまた挙動不審になりながらも周囲の者達の顔を見回していた。
そして、茫然自失だったアンドロメダが、耐えきれないように歓呼した。
「馬鹿な、何故死者がここにいる!?」
張り裂けるような声が響いた。
思わず、俺もぎょっとしてオリヴァス・アクトと呼ばれた男に視線を送った。
「し、死者って……?」
「オリヴァス・アクト……推定Lv3、【白髪鬼】の二つ名を付けられた賞金首。既に主神は天界に送還され、所属【ファミリア】も消滅しています」
レフィーヤの問いに答えたのはアンドロメダだった。男の情報が語られる。
「悪名高きあの闇派閥の使徒……そして、『二十七階層の悪夢』の首謀者」
「ーーっ!?」
レフィーヤがフィルヴィスさんの方に振り返った。
『二十七階層の悪夢』。フィルヴィスさんから仲間とエルフの誇りを奪った、直接の原因。
チラリと視線をやれば、フィルヴィスさんは顔の色をなくし、立ち尽くしたままだった。
「彼自身、あの事件の中でギルド傘下の【ファミリア】に追い詰められ、最後はモンスターの餌食に……食い千切られた無残な下半身だけが残り、死亡が確認されたはず」
そう語るアンドロメダは男をまじまじと見つめた。
「生きていたのですか……」
「いや、死んだ。だが死の淵から、私は蘇った」
アンドロメダの問いにオリヴァスは誇らしげに答えた。
そして、俺はその体を見て、気づく。
破けた服の中、その下半身。足はまるで食人花のように黄緑色に染まり、その抉れた胸部には極彩色に輝く結晶が埋め込まれていた。
「私は二つ目の命を授かったのだ! 他ならない、『彼女』に!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
嬉々とした表情なオリヴァスを俺は一人、睨んでいた。
まさか、俺と同じ転生……いや、あいつは『彼女』と言ったか。
視線を移すとそこにあるのは石英の大主柱に寄生する雌の胎児。オリヴァスが彼女と呼ぶのは多分あれのことだ。
「一体、何の冗談ですか……」
アンドロメダが言葉をこぼした。
人なのか、あるいはモンスターなのか。俺的には多分後者。
「私は、人と、モンスターの力を兼ね備えた至上の存在だ!」
オリヴァスは俺達を見下すようにして高言を吐いた。が、次の瞬間
「ゴホアッ!?」
口から血を吐き出した。
「な、何故だ!? 傷はもう塞がったはず……!?」
そしてオリヴァスは気付く。
己の体の右手、腹部、右足。その他にも様々な部位。その傷が癒えていないことに。
「な、なんだこれは……!?」
「至上の存在? 俺から言わせてみればプギャーwwwな話だぜ」
オリヴァスを含めた一同の視線が一斉にこちらに向いた。
俺はせせら笑って集団の中から歩み出る。
「どうだい? 癒えない傷ってのはなかなか効くもんだろ?」
「き、貴様かぁ……!?」
忌々しげに叫ぶオリヴァスを他所に、俺は黄槍、必滅の黄薔薇の切っ先を向ける。
フィオナ騎士団最強と言われた騎士、ディルムッド・オディナ。そのディルムッドが使用していた二振りの槍のうちの一つ。それがこの必滅の黄薔薇だ。その効果は、どんな手段を用いても決して癒えることのない傷を負わせる呪いの槍。
この槍で付けられた傷を癒すには俺を殺すか、槍を壊すしか方法はない。
下手に使うことができないこの槍は、本気で、情け容赦なく人を殺す時にしか俺は使っていない。
「悪いが、お前がどんなけすごい体を持っていても、この槍で傷をつけられる限り意味はない。残念だったな」
「【秘剣】、あとは私が」
どうやら、情報収集はアンドロメダがやってくれるようだ。正直、俺だと逆上させるばかりでろくに聞けやしないから、助かるっちゃたすかるが。
歩み出てきたアンドロメダとバトンタッチして俺は後ろに下がる。
「……貴方は、闇派閥の残党なのですか?」
それを皮切りとした質問に、オリヴァスはこちらを睨みながらも憎々しげに答えていた。
曰く、自分は闇派閥などという残り滓ではないと
曰く、ここは深層のモンスターを増殖させ、地上へ運ぶための中継地点であり、モンスターを産む苗花だと
そして曰く、その目的は迷宮都市を滅ぼすことだと。
『彼女』のためならば、『彼女』の願いであるならば、私はそれを叶えようと。
狂ったように語る男はまるでその『彼女』とやらの狂信者のようだ。
「『彼女』が私の全てだ! ゴハッ!?」
吐血しながらも断言するオリヴァス。
「御託はいい」
不意にローガが唾を吐いた。
「とにかくてめえは大人しくくたばれ。……もう碌に動けねえはずだ」
心底くだらなそうに、不遜に告げると、獣のような眼光を向けた。
そう、今のはただの時間稼ぎだ。
必滅の黄薔薇でつけた傷の他にも、ローガ達が負わせた傷の治癒に多大な生命力を使ったのだろう。
もはや、もう元のようには動けない。
「確かに」
だが、そんな指摘をされたにも関わらず、オリヴァスは不適な笑みを作った。
「この傷もある。貴様の言う通り、今の私は碌に動けん」
ーー私はな、とオリヴァスは笑みを深めた。
「やれーー巨大花」
直後、背後の石英から赤光が揺らめいた。柱に寄生していた三体のうち、一輪の巨花が咲いた。毒々しい花弁を向け、その体を柱からベリベリと引き剥がす。
「うっわ、臭っ!?」
そさて、とてつもない死臭
頭上から巨大な体が重力に従って降ってきた。
「ーー散れっ!!」
ローガの激声が響く。
その声に動かされた誰もがその場から駆け出した。俺も距離をとる。
黒影から逃れ、オリヴァスもまた横にとんで範囲外へと脱出。
間もなく、恐ろしいほどの質量を持ったものが地面へと叩きつけられた。
発生する衝撃波に、顔を覆う。
舞い上がる灰煙の奥で、そのモンスターは傲然と存在していた。
階層主以上の大きさを誇る巨大花のモンスターに、俺たちは戦慄した。
「……ついに出てきちまったよ……」
二本の槍を担いだ俺は小さく悪態をついた
後書き
結論言うと、オリヴァス・アクトに必滅の黄薔薇を使ってみたかったってのが本音。本を読んだときから考えてたねこれは。
感想まってます!
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