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宝物とは

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3部分:第三章


第三章

「私もこれは」
「パスタだと思うか」
「フェットチーネですね」
 そのパスタの種類まで述べる。
「これは」
「そうだな。明らかにパスタだ」
 カルロもまたそれにしか見えなかった。やはり箱の中にあるのはパスタであった。
「これはな」
「はい。ですが」
 ここでジュゼッペはさらに言う。
「何故パスタがこのような場所に?」
「全くです」
「どうして」
 彼だけでなく使用人達も口を揃えて言うのだった。
「パスタが宝物庫に」
「どうして」
「それにです」
 若い使用人がここで言った。
「パスタはマルコ=ポーロ以降ですよね」
「そうだったな」
 カルロも彼の言葉に頷く。これは聞いていることだ。
「確か十三世紀だったな」
「ですが何故十一世紀に?おかしいではありませんか」
「しかも宝物になっています」
「これは。一体」
「調べてみよう」
 彼は使用人達の話を受けて述べた。
「これはな。よくな」
「では父上」
 ジュゼッペがここで父に告げてきた。
「すぐに鑑定士を呼んで」
「そうしよう。ではまずはな」
「はい、手配致します」
 こうしてすぐに鑑定士が呼ばれた。彼はすぐにパスタの調査に取り掛かった。その彼の調査と鑑定からあることがわかったのだった。ジュゼッペはそのことを父に対して話した。 
 話す場所は屋敷のあの部屋である。カルロは安楽椅子にあの時と同じ様に身体を起こして座りそのうえで息子の話を聞いていた。彼はこう父に説明するのだった。
「まずあのパスタの製造年代ですが」
「何時だったか」
「十一世紀です」
 年代は宝物庫のそれと一致していた。
「十一世紀のもので間違いありません」
「十一世紀にパスタがか」
「何でも当時からパスタはあったそうです」
 次にこのことを父に話した。
「ですからあっても」
「不思議ではないのだな」
「その通りです。鑑定士はそう言っていました」
「これで謎が一つ解けたな」
「そしてです」
 ジュゼッペはさらに話を続ける。父の側に立ちそのうえで話を続けるのだった。
「パスタが財宝に入っていてもおかしくはないとのことです」
「パスタがか?」
「当時パスタはあまりにも高価だったので」
「ルネサンスでも限られた者達しか食べていなかったな」
「はい」
 長い間ナポリやローマ辺りでしか食べられていなかった。製造技術が伝わっていなかったのだ。十九世紀でもスパゲティは珍しい料理でしかなかった。今のように何処でもおおっぴらに食べられる料理ではなかったのである。
「ですから十一世紀ともなると」
「途方もない価値があったか」
「凶作の時は作ることを許されていなかった程だったとか」
「それも鑑定士の言葉か」
「そうです」
 このことにも答えるジュゼッペであった。
「鑑定士の言葉です」
「随分歴史に詳しい鑑定士だな。本物ということだな」
「そういう人間を探してきましたので」
「それは見事だ。しかしだ」
「ええ。今度は」
「それが財宝になっていたのか」
「高価ですから」
 やはりそれに尽きた。高価だからこそ宝になるのだ。ダイアモンドもそこいらに転がっていれば石と変わりがなくなるし石も滅多にないものなら宝になる。そういうことだ。
「ですから」
「全てわかったな。あれは紛れもなく宝だ」
「その通りです」
「だが役に立たない宝だ」
 カルロは右手で頬杖をついてつまらなさそうな顔で述べた。
「パスタは何の為にある」
「食べる為です」
 答えは決まっていた。誰も観賞用に買ったりはしない。パスタは食べる為にある、それ以外の何者でもないのだ。これは誰に聞いても同じことである。
 
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