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宝物とは

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2部分:第二章


第二章

 その宝物庫の中に一つだけであった。何なのかわからない黒い鉄の箱。二人は今それの前にたち箱を見据えていたのである。
「何でしょうね」
「宝石ではないのか?」
 カルロは首を捻りながらジュゼッペの言葉に応えた。
「おそらくは」
「宝石でしょうか」
「当時の資産の半分をかけて手に入れたものだ」
 彼はこう息子に言う。
「それならだ。相当な価値のあるものには間違いない」
「それは確かですね」
「そこまで価値のあるものというと」
「城の五つや六つは平気な顔で買えた当時の我が家からしますと」
「そういったものしか思いつかない」
 こう述べるカルロだった。
「それこそな。それではだ」
「ええ」
「開けるぞ」
 遂にその箱を開けることにしたのであった。そのうえで箱に手を触れる。まさか家の宝物庫にあるのにおかしな罠なぞある筈もないと思っての行動だった。実際に罠はなかった。それどころか鍵さえ為されてはいなかった。手をかければ普通に開いてしまったのだ。
「おやっ!?」
「開いたな」
「はい」
 ジュゼッペは拍子抜けした声をあげたうえで父に対して答えた。
「確かに。簡単に」
「鍵はかけていなかったな」
「幾ら家にあるといってもかなり無用心ですね」
「その通りだ。そこまで無用心だとは」
 カルロの声も拍子抜けしたものだった。少なくとも謎を見つけた時の懐疑とこの箱を見つけ出すまでの大掃除そのものの苦労を考えるとあまりにも呆気ないことであった。そのことに内心残念なものを感じつつも息子に対してまた言うのであった。
「まあそれはいいとしてだ」
「中身ですか」
「そうだ、中身だ」
 中身についての話をするのだった。
「何だ?開けてみろ」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 こうしてその不自然なまでに無用心な箱を開けてみる。そしてその中にあったものは。
 見たところ黄色い細長い束であった。その束が箱の中に敷き詰められていた。一見すると黄金にも見えないこともないがそうではないことはすぐにわかる代物だった。
 一同それを見て目を顰めさせた。だがここで使用人の一人が口を開いたのだった。
「あの、これは」
「言っていいぞ」
 カルロは彼に言うことを許可する。その使用人はそれを受けて言うのであった。
「あれですよね」
「あれというと何だ?」
「パスタですよね」
 彼はこう言った。
「これは」
「やはりそう見えるか」
「はい」
 彼は今度は主であるカルロの言葉に頷いた。
「どう見ましても」
「他の者はどう思うか」
「ええ、まあ」
「私もまた」
「そう思います」
 他の使用人達も答える。皆同じ意見であった。
「これはパスタです」
「どう見ても」
「そうとしか」
「ではジュゼッペ」
 カルロは最後に息子に顔を向けた。そして彼に対しても問うのであった。
「御前はどう思うか」
「皆と同じです」
 彼もまたこう言うのであった。言う間じっとその平べったく細長い黄色い束を見ていた。それから目を離すことは一瞬たりともなかった。
 
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