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ダンジョンに転生者が来るのは間違っているだろうか

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ウダイオス

 
前書き
七月一日の夜中にランキングを見たところ、日間、週間、月間で一位となっておりました。
これも読者の皆様の応援のおかげだと思っております。
あとはニシュラの力かなwww

ともかく、これからも更新を出来るだけ頑張りたいと思っています。

追尾 前にも言いましたが、ニシュラのプロフィールにて、【バルドル・ファミリア】の団員全員のイラストを貼ってあります(ニシュラ作)。下手かもですが、物語を楽しむ上で、少しでもイメージがわけばと思っています。 

 
さぁ着いた、と思った三十七階層。





なんかいた



まぁ正確に言うと、武器を構えて警戒する【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者なんだが……


「ってぇ! なんでいんのぉ!?」

「ちょっと、式! 何を叫んで……ぇえええ!?」

「ろ、【ロキ・ファミリア】!?」

後ろから覗き込んできたリリアさんとハーチェスさんも同じように驚きの声をあげた。

「あ、え? 遠征とか情報入ってたっけ?」

「いや、僕は聞いてないんだけど……」

遠征ならギルドでその情報が出回るはずなのだが、そんなことはいっさい聞いていない。
聞き逃した……て可能性はほとんどないだろう。【ロキ・ファミリア】といえばオラリオの中でも最大派閥の一つ。話題にならないはずがない。
俺は未だに武器を構えている【ロキ・ファミリア】の団員を警戒して、いつでも戦車でGO出来るように手綱を握りなおした。

「……あれぇ? これ、どっかで見たことあるような……なんだったっけ?」

「奇遇ね、ティオナ。私も見たことあるわ」

「……怪物祭(モンスターフィリア)の時の」

「「それだ!」」

アマゾネスの二人が叫んだ。
【剣姫】が周りの仲間達にいろいろと説明し、漸く武器を下ろしてくださった。
……て、【勇者(ブレイバー)】に【九魔姫(ナイン・ヘル)】までいんじゃねぇか!攻撃なんてされたらひとたまりもなかったぞ!?

「すまなかったね。警戒して」

「いや、よく考えたら当然です。気にしてませんよ」

小人族(パルゥム)の男、【ロキ・ファミリア】団長フィン・ディムナ
幼げな容姿であるが、実年齢は四〇を超えると聞いたこともある。
オラリオ内でも一位、二位を争う人気者だ。

「ハーチェスさん、降りましょう」

「……そうだね」

もう心配することもないため、ハーチェスさん達が先に降り、続いて俺も戦車から降りた。
戦車をどうするかどうかで悩んだが、消す必要もないかと思いそのままにしておく。

「【光の守人(ドラウプニル)】、それに【秘剣(トランプ)】……【バルドル・ファミリア】かい?」

「合ってるよ、【勇者(ブレイバー)】。それで? どうしてこんなところにいるのか聞いてもいいかな?」

団長同士が代表して話し合う。
どちらにも敵意はないため、思いの外フレンドリーだ。
まぁ興味深げに戦車を眺めるアマゾネスと【剣姫】の行動には目をつむろう

「僕らはお遊びみたいなものだよ」

「……ハハ、お遊びでこんなところまで来るとは、流石【ロキ・ファミリア】といったところかな?」

まさかの返答に、顔を引きつらせるハーチェスさん。
そりゃそうだ。戦車を使うならともかく、こんなところまでお遊びで来てしまう彼等の実力がおかしいのだ。
はっきり言おう。【ロキ・ファミリア】(最大派閥)スゲェ!?

「それにしても、先を越されていたのには驚いたよ。うちの副団長がかなり飛ばして来たんだけどね……」

「僕も気になるね。あれは何なのか、出来るのなら聞いてみたいところだ」

スッと【勇者(ブレイバー)】ーーディムナさんが目を向けたのは俺達の背後。そこに止められた神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)

「悪いけど、他派閥の君達には教えるわけにはいかないよ。それくらい分かるだろ?」

「まぁね。分かってたことさ」

「ねぇー! これ、乗ってもいいー?」

不意に、後ろから声が上がった。
なんだ?と思い、振り返る。
アマゾネスにしてはスレンダーな体型をした少女……【大切断(アマゾン)】、ティオナ・ヒリュテが戦車を指差していた。

「ダメに決まってるだろうが」

団長達から離れ、一人俺は戦車の方へと戻った。

「ええー!? ちょっとだけならいいでしょ? ねぇ、アイズ。アイズも乗りたいよね?」

「乗せる必要性を感じない」

「こんなに可愛い女の子三人だよ?」

グッと顔を近寄らせ、更には俺の片腕に体を引っ付けてくる。
アマゾネスらしく、えらい大胆な行動をするなこいつ

「そ、そんなことをしても、ぜ、絶体に乗せないからな!」

「……あなた、すっごい動揺してるわよ」

アマゾネスらしく、グラマーな方、【怒蛇(ヨルムガンド)】ーーティオネ・ヒリュテにそう指摘された。
う、嘘だ! 俺はリューさん一筋なんだぞ!

「……ほら、早く離せ」

「ちぇー。つまんないのー」

ぷー、と頬を膨らましながらも俺から離れるヒリュテ(妹)。
なんとか心を落ち着かせようと、一度だけ大きく息をすう。

……よし、大丈夫。俺はリューさん一筋、リューさん一筋。

「……それで? これはあなたのってことでいいのよね?」

俺が落ち着いたところで、ヒリュテ(姉)が確かめるように問う。

「ああ。俺のだ。それがどうかしたか?」

「なら話は早いわ。怪物祭(モンスターフィリア)の時は助かったわ。ありがとう」

「気にすんなよ。あのままだったら確実に周りに被害がでてたんだ。あんたらが苦戦なら尚更にな」

第一級冒険者が三人(あの時は【千の妖精(サウザンドエルフ)】もいたが)でも苦戦するモンスターだ。そこらの冒険者じゃ手に負えないのは確実だったし、手段があるならそれを使わないのは愚の骨頂だ。

「でも凄かったよねー。こう、バァンッ! ていう感じでさ!」

「……ありがとう」

「気にするなよ。それに、【ロキ・ファミリア】の団員に貸しができたと考えるならそれはそれででかいからな」

「抜け目ないのね」

そりゃ冒険者ですからね

「で? そちらさんはこれからどうすんの? もう帰るのか?」

気になったので聞いてみる。『ウダイオス』がもう倒されたのかは分からないが、様子からしてまだ倒していないと見る。まぁ、【ロキ・ファミリア】の団長、副団長にこの三人なら疲労もせずに倒すことも可能かもしれないが。

「私達はもう帰るところよ」

「そうなのか?」

「ええ。……まぁ、アイズの独壇場だったけど」

独壇場、ということは一人で全部やった、と。なら大丈夫だ。『ウダイオス』はまだ倒されていない。
あれの推定Lvは6だ。【剣姫】がLvアップしたという話は聞いていない。
あれをLv5が一人で戦って、疲労が見られないというのは考えられないからな。

「そうだよねー。おまけに、一人で残るとか言っちゃうし。まぁ、リヴェリアが残るから心配はないんだけも」

「……なに?」

ちょっと待て、それは聞き捨てならないぞ。
てことは、こいつ、俺と同じこと考えてたのか?

「式」

「ん? あ、ハーチェスさん。どうしました?」

断りを入れ、三人から離れた俺はハーチェスさんの元へ

「さっき聞いたんだけど、向こうはもう帰るらしいよ。……二人残るみたいだけど」

「らしいですね。俺も聞きました」

「……どうするの? あの【剣姫】も式と同じこと考えてるとしか思えないんだけど……」

「ですね。けど、気を使う必要なんてないでしょ?」

まぁ、そうだけど……と困ったような顔をするハーチェスさん。
別に派閥同士で争うわけではない。
共闘と見せかけて、俺が先行すればいいだけの話だ。
自惚れではないが、俺は【剣姫】よりも『敏捷(あし)』がある自信はある。

やがて、【剣姫】と【九魔姫(ナイン・ヘル)】の二人を残し、【ロキ・ファミリア】の面々が撤収していく。
俺はそれを見計らい、【剣姫】の方に赴いた。
近づいてくる俺に疑問を感じたのか、なんだろうといったようすで首を傾げる【剣姫】

「……なんですか?」

「お前、『ウダイオス』に一人で挑むつもりだろ」

「っ!」

「……なに? 本当か、アイズ」

険しい目付きで、【剣姫】に顔を向けた【九魔姫(ナイン・ヘル)
俺の言葉が予想外、というか図星だったのかその感情の起伏が少ない顔に少しだけ動揺が見てとれた。

「……うん」

「はぁ、お前というやつは……」

「そんなことはいい。それより、俺もそのつもりで来たんだ。邪魔するな、とか言わないよな?」

「……できれば、そうしてほしい」

金眼がこちらを真っ正面から見た。
オラリオ最強の一角で、その容姿でも名高い剣士、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン
その戦闘のようすから【戦姫】とも呼ばれているほどの戦闘狂とも聞いている。

何が彼女をそうさせるのかは俺には分からないし、分かる必要性も感じないし、興味もない。
が、それとこれとは話は別だ。

「断る。俺は勝手にやらせてもらう」

まだ目的のモンスターは姿を現していない。他人の獲物を横取りするのはマナー違反だが、まだ目的のモンスターは姿を現していないのだ。問題はない

それだけ言い残した俺はクルリと身を翻しその場を離れる。
ことの様子を見守っていたリリアさんとハーチェスさんに呆れるような目で見られた。
ちなみに、エイモンドさんは戦車の御者台で光っていた。
……多分言っても無駄だ。諦めよう

「ほんと、式には困ったものだよ。あれじゃ、喧嘩売ってるのとかわりないじゃないか」

「ですわね。【ロキ・ファミリア】の、しかも【剣姫】相手によくやるわ」

「まぁ、あれこれいっても仕方ないんで。それより、二人とも。戦車のとこまで下がっていてください。……来ました」

ダンジョンの地面が揺れ始める。
肩に掛けた袋から【物干し竿】を取りだし、抜刀。
袋の中には【破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)】に【必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)】、それに【アレルヤ】の三本の槍が収められている。
俺はそれをハーチェスさんに渡して一歩前へ。
【剣姫】もサーベルを抜き、ルームの中心を見据えていた。

直後

大地が割れた

視線の先、ルームの中心点が盛り上がる。
大量の土塊を押しのけ、とてつもなく巨大な図体が地面から顔を出す。
ビキッビキッと鳴り響く、地面に亀裂の走る嫌な音。
巻き上げられた土砂はそれの体に持ち上げられ、轟音をたて滝のように床へ叩きつけられていく。

頭蓋、鎖骨、肋骨、骨盤。むき出しになった黒色の骨格が地面から生えて全貌をあらわにしていく。


『ーーオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

そして咆哮。
十Mを越えるかと思われる巨大なモンスターが天に向かって吠えたのだ。
全身を黒く染めた骸骨の巨身。下半身を地面に埋め、スパルトイをそのまま大きくしたようなモンスターの頭には二本の突起が生えていた。
真っ黒な眼窩の奥では、火の粉のような小さな朱色の光が揺らめいている。
そして胸部内部。肋骨と胸骨に守られるように、巨大な魔石が中空に浮いていた。

『ウダイオス』

三十七階層の階層主である。

本来なら、大人数の冒険者が徒党を組み、連携して攻略に乗り出す存在だ。

それを二人……いや、もともとは両者とも一人で相手にするつもりだったのだ。正気の沙汰ではない。

「……まぁ、関係ないけど」

【物干し竿】を肩に担ぎ、獲物を睨む。
戦車で特攻、とかそんな作戦も考えていたが、止めておこう。
俺と同じくこいつに挑もうとしていた年下の少女は己の剣一本で勝つつもりだったのだ。
なら俺も、【物干し竿】(こいつ)一本でやってやろうじゃねぇか。じゃなきゃ、格好悪いしな

先日、クラネル君に言われたことを思い出す。

【剣姫】と並ぶ、とかそんなことを言われたのだ。

これはただの俺の意地。冒険者になって五年経つが、こういう負けず嫌いなところは前世の時と変わらないのかねぇ

「……んじゃ、とっとと終わらせるか」

そう呟いて駆け出したのは、【剣姫】とほぼ同じタイミングだった




ーーーーーーーーーー



「【目覚めよ(テンペスト)】」

俺の背後を駆けていた【剣姫】が何かを呟いた。
振り返ることはしないが……魔法か?

僅かながらにも魔力の気配を感じた俺はそう推測する。
【剣姫】のやつ、魔法が使えたのか。
どんな魔法なのかは知らないが、今の超短文詠唱を聞く限り、それほど威力のあるものではないはずだ。

と、そんなことを考えていると

いつの間にか【剣姫】に先行されていた

「はっ!?」

思わず声が出た。
嘘だろおい、敏捷じゃ、こっちの方が上なはずだろ!?
現に先程までは俺の方が速かったんだ。

クッ、と前をいく【剣姫】を見ると、そこでとある変化に気付いた。
風だ

【剣姫】の体を風が覆っているのだ。

「それが、お前の魔法かっ……!」

返事はない。が、その声に反応したかのようにウダイオスが吠える。

『オオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

「「っ!!」」

【剣姫】は飛び、俺は進行方向を変えることでその場から退く。
所詮、第六感というやつだ。アサシンの力はしっかりと働いてくれているらしい。

あのまま走っていれば、地面から飛び出した逆杭(パイル)にやられてた。


ウダイオスは、下半身を地面に埋めているため、移動ができない。
だが、それを補うためなのか、ある特殊な戦いかたをする。

この三十七階層のルーム、その地面には先程のパイルが大量に埋まっているのだ。
もちろん、タイミングはウダイオスの自由。
ようは、パイルもウダイオスの体の一部のようなものだ。
つまりだ。このルームにウダイオスの死角はない。なんじゃそりゃ

「チッ、身軽だなおい」

魔法の効果なのか、短時間ではあるものの【剣姫】が空を飛んでいる。
俺の飛行手段は神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)のみなため、地を走るしかない。

『オオオオオオオオ!!』

いち早くウダイオスへと接近した【剣姫】に、ウダイオスが手に持った大剣を振り下ろす。
対する【剣姫】はこれをサーベルで受け止め、反撃。
流石というべきなのか、なんというべきか。
見たところ、あの魔法はサーベルに纏って威力の強化や、防御、敏捷にも補助が入るようだ。
なにそれ、超万能

俺は襲いくるパイルを第六感でなんとか避けつつも着実にウダイオスの元へと近づいていた。
悔しいが、ウダイオスは今【剣姫】の相手の真最中。
俺はパイルで十分と思われているのだろうか。

ふざけんじゃねぇぞ

加速

自分が出せる最高速度で一気にウダイオスとの距離を詰める。
ひたすら真っ直ぐに、最短距離で
パイルが突き出る頃には俺はその数歩先を駆けている。

ウダイオスも【剣姫】を相手にしつつもこちらを向いた……ような気もした。
飛び上がる

Lv5のアビリティは伊達ではなく、十Mを越すウダイオスの顔近くまで届いていた。
眼窩の奥、朱色の光が俺を捉えた。

ウダイオスの空いた左手が迫ってくる。

「秘剣ーー燕返し!!」

三太刀の銀の光が走る。

切断とまではいかなかったが、弾くことは出来た。
流石Lv6。簡単には斬らせてはくれないってか。
宙に浮いた体を無理矢理捻って体勢を整える。着地を狙われるのは厄介なため、落ちる際にウダイオスの肋骨部分を蹴って素早く着地、同時に駆ける。

「くっ……!」

大剣で【剣姫】が吹っ飛ばされたのを横目に、俺は入れ替わるようにして前に出る。
そんな俺を視界に入れたウダイオスが先程【剣姫】を振り払った状態から大剣を振り降ろしてくる。

「セァッ!!」

迎え撃つ。
ウダイオスの大剣と【物干し竿】との間で火花が散り、拮抗。
ウダイオスと幾度か打ち合いになり、鍔迫り合いを演じる。


くっそ、やっぱ重い!!


ウダイオスの一撃一撃が相当な力を持っているため、受け止める度に手が痺れるほどの衝撃が体を襲う。
俺の『力』と『耐久』は他の三つに比べると劣っているため、Lv6のウダイオスと真正面からやりあうのは少々力不足だ。

「【騎士は徒手にて死せず】っ!!」

激しい打ち合いの中、魔力の手綱を強引に制御し、詠唱を紡ぐ。

「【ナイト・オブ・オーナー】!!」

魔法名を紡ぐと、俺の体から黒い瘴気が溢れ出した。
瘴気は俺の腕を伝い、今もなお振るわれている【物干し竿】を覆っていく。
瘴気はまるで吸収されたかのように消滅し、代わりにそこに残ったのは赤黒く染まった長刀だった。
そして一閃

今まで拮抗していた鍔迫り合いだったが、今度は俺が大きくウダイオスの大剣を弾いた。
その隙に懐に潜り込む。
いつの間にいたのか、【剣姫】もいたことには驚いたが。

「っらぁぁぁっ!!」

「…っ! シッ!!」

胸骨内部に浮かぶ魔石を狙って同時に飛んだ。

「グゥッ!?」

「っ!?」

が、そう簡単なことではなく、お留守になっていた左腕が飛び上がっていた俺達を捉えて薙ぎ払う。
咄嗟に刀でガードしたが、空中で踏ん張りが効く筈がなく、ルームの壁に向かって容易く吹っ飛ばされる。

背中から着弾

「ガァッ!?」

肺が押し潰される感覚と共に、空気が吐き出された。

一瞬意識が飛びそうになるが、させじと全身に力を込める
一緒に飛ばされた【剣姫】はっ!と思い、俺から少し離れた場所に目をやった。

壁に着地(、、)していた。

軽やかに、まるで飛ばされた勢いなどなかったかのように。
よく見れば、【剣姫】の体には風が纏われている。
どうやら、飛ばされている最中に、あの風を使って攻撃の威力を殺し、体勢を整え、今の状況に至っているようだ。

なにそれずるい

マジでそう思った

ゴウッ、と【剣姫】を纏う風の勢いが増す。
今から何かをするのは明白。【剣姫】は確実に決めにいくつもりだ。

「ぁんやろぅっ……!」

先に越されてたまるか、と壁に叩きつけられた体を無理矢理動かし、駆ける。
俺の出せる最高速度を!
赤黒く染まり、強化された【物干し竿】を担いで、地を駆ける。
【剣姫】よりも早く。あいつは確実に宙を駆ける。
そうなれば、いくら敏捷に自信があっても勝てるわけがない。

パイルが飛び出すが、時に避け、時に斬り倒して一直線に進む。

狙うのはもちろん胸部の魔石!!

飛び上がって刀に両手を添えた。その直後

「アアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

【剣姫】が空を駆けた

真っ直ぐに、風を纏った少女がサーベルを構えた。
俺に意識を割いていたウダイオスはその攻撃に一瞬、反応が遅れた。
叩き落とそうと大剣を振り上げるが遅いとばかりに【剣姫】はそれを掻い潜る。

そして、サーベルの切っ先が魔石に向いた。



やらせてたまるかぁぁぁぁぁぁっ!!!


「燕返しっ!!!」
「リル・ラファーガッ!!」



三太刀の赤黒い斬撃に風の特攻。
同時に放たれた攻撃は、直後、魔石を砕いた。




ウダイオス、撃破完了


ーーーーーーーーーー




「ったく、何故こんなことに……」

「まぁまぁ、同業者だし、乗せるくらいならいいでしょ?」

「すまないな、助かった」

「……ごめんなさい」

ウダイオスが灰となりあの大剣がドロップアイテムとして残った。
こういう場合、俺と【剣姫】どちらかのものとなるのだが、これは【剣姫】のものとして断ることに。
非常に悔しいことなのだが、あの瞬間、魔石に先に刃を当てたのは【剣姫】だったのだ。

で、何故か皆を神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)に乗せて移動中。
皆、ということなので当たり前だが、【剣姫】に【九魔姫(ナイン・ヘル)】を乗せての移動だ。
同業者だからこそ、他派閥の者を乗せるのはどうかと渋ったのだが、自分達はこれで帰るのに、残した二人(どちらも女性)は歩きなのはさすがにかわいそすぎるというハーチェスさんのお人好しな意見のもと、こういう状況になっている。

時折モンスターも出てくるが、雷を発するまでもなく踏み潰していく。

「……本当にすごいな、これは」

リヴェリアさんが御者台の床を撫でながらそう呟いた。
彼女のことだ。これが魔法であると気づいているだろう。
なお、二つ名で呼ぶのは面倒なため、リヴェリアさん、アイズと呼ぶことになった。

「言っときますが、『リヴィアの街』までですからね。これもあんな人がいる場所で晒したくないので」

「分かっている。休める上に時間の短縮もできるんだ。文句はない」

「……♪」

何故嬉しそうなんだアイズ

取り付けられた装飾などを撫でたりして楽しむ様子を見せるアイズを横目にしながら手綱を握りなおす。
リヴェリアさんは王族、ハイエルフと呼ばれる存在らしく、エルフであるリリアさんはかなり畏まった様子で接していた。
同じエルフであるはずのエイモンドさんは普段通りであったが。
もはや、あそこまでいくと尊敬の念すら抱く。


まぁ、そんなわけで


目的地、十八階層に到着である








 
 

 
後書き
今までで一番書いた気ますが、今回で十万文字突破です!

アイズやリヴェリアさんの口調とか違和感がないか心配しております。
あとはウダイオスとの戦闘、これでいいかな、と少し疑問だったり。


感想、待っております 
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